戦国異伝
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第百十三話 評定その五
「出したら終わりじゃ」
「はい、織田家は我等とその者の石高で占められてしまいます」
「残っただけのもので殿が動けるかどうか」
「やはり無理ですな」
「うむ、無理じゃ」
森は確かな声で述べる。
「だから殿もそれだけは出せん。しかしじゃ」
「それでもですか」
「殿はあの者を欲しいと思われておる」
人材を求める信長ならではだった。彼はそうしたことに対してはあくまで貪欲だ、それ故のことであるのだ。
だがそれはどうか。森は難しい貌をしてまた述べる。
「やはりのう」
「三百八十万石出せぬとあらば」
「やはり無理じゃ。幾ら殿でもな」
「あの者ばかりは駄目でございますな」
「そうなると思うが」
「ではあの者の分は」
例え島が入らなくともだと。池田はここで言った。
「我等で」
「そうじゃ、わし等が存分に働きじゃ」
そうしてだというのだ。
「島がおらずとも充分にやれるということを天下に見せようぞ」
「左様ですな」
「三百八十万石の働きなぞ出来る筈がない」
「権六殿達でようやく二十万石ですから」
だからこれもだった。
「夢物語ではあるまいし」
「それだけ出来る者がおれば天下はとっくの昔のその者の手になっておるわ」
「ですな。それで大谷についてですが」
「うむ、どうなっておる」
「既に呼んでおります」
彼等、そして信長がいる岐阜にだというのだ。
「後はここに来て殿と会うだけです」
「それでよいな」
「噂ではかなりの者だとか」
「戦が強いのか」
「それだけでなく見識もかなりだとか」
それも備わっているというのだ。
「戦だけではなく政も出来るとのことです」
「ううむ、ではかなりの者か」
「そう考えられてよいかと」
「では楽しみにしよう。さて」
「さて、とは」
「これから家に帰ると大変じゃ」
森は話題を変えてその口を大きく開いて笑って述べた。
「子等の相手をせねばならんからのう」
「そういえばご子息で蘭丸殿がおられますが」
「あ奴がどうした」
「またえらく顔立ちが整っておりますな」
「おお、御主もそう思うか」
「あれだけ整った顔立ちは見たことがありませぬ」
そこまでだというのだ。
「男では」
「よく女と間違えられるぞ」
「それも当然ですな」
「顔がよいだけでなく頭も切れる」
森は親として笑いながらこうも言った。
「我が子ながら先が楽しみじゃ」
「ですな。あのままいけば」
「きっと大きくなるぞ」
「大器の者になれますな」
「その通りじゃ。では万石取りになった祝いに」
「飲まれますか」
「付き合ってくれるか」
その酒にだというのだ。
「そうしてくれるか」
「はい、是非共」
池田は森の今の言葉に頷いて答えた。
「そうさせてもらいます」
「では話は決まりじゃな」
「はい、さすれば今より」
「わしの屋敷に来てな」
そうしてだというのだ。
「飲むとしよう」
「それでどの国の酒でしょうか」
「摂津じゃ」
そこの国のものだというのだ。
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