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スーパーロボット大戦パーフェクト 第三次篇

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第百四十話 斗牙の判断

               第百四十話 斗牙の判断
「まあ何にせよね」
「よけったですよね」
マクロス7市街にあるプールにおいてスメラギと留美がにこやかに話をしていた。二人はそれぞれプールの中で戯れあいながら話に興じている。スメラギは白いワンピース、留美は黒いビキニである。
「シリウス君が復帰してね」
「それに天使達と和解もできて」
「まずはよしだわ」
そのことを素直に喜ぶスメラギだった。
「これで敵がまた一つ消えたし」
「残るはゼラバイアだけでしょうか」
「いえ、あの三つの光」
ここでスメラギの目が光った。
「あの光が気になるわ」
「あの光達がですか」
「それにパラダイムシティね」
スメラギはこの街のことも忘れてはいなかった。
「あの街の謎も全てわかってはいないし」
「その通りよ」
ここでドロシーの声がしてきた。
「あの街の最後の謎のことは何もわかってはいないわ」
「その通りです」
黄色いワンピースのルリが彼女の言葉に頷く。
「どうもこの世界とシンクロしているようですが」
「シンクロか」
「はい」
ルリは今度は刹那の言葉に頷いてみせた。
「一万二千年と四十年の違いこそありますが」
「その通りだ」
今のルリの言葉に頷いたのは他ならぬロジャーだった。
「私もこの世界に来てそれを実感している」
「ロジャーさんもですか」
「確かに何かがある」
彼もまた言った。
「この世界とパラダイムシティには何かしらの関係がな。丁度」
「丁度?」
テセラが彼の言葉に問う。メイド達もそれぞれ水着を着ている。
「鏡合わせの様にだ」
「鏡、ね」
それを聞いて反応を見せたのはドロシーだった。
「確かにね。まるで鏡だわ」
「そうなのよね」
スメラギは彼等の言葉にここで頷いてみせた。
「何でかわからないけれど。パラダイムシティと鏡合わせに感じるわ」
「どうしてでしょうか」
疑問を呈してきたのは紅龍だった。いつも通り留美の側にいる。
「それは」
「それをはっきりさせるのがこれからじゃないでしょうか」
こう言ったのはミレイナだった。彼女は青い奇麗なビキニである。
「これからの戦いで」
「そうね。どちらにしろパラダイムシティのこともはっきりさせないといけないわ」
スメラギは断言さえしてみせた。
「それと帝国軍の残党もいるし」
「イノベイター達だ」
ティエリアの顔がここで歪んだ。
「彼等もまたな」
「折角帝国は滅んだってのにな」
ロックオンは忌々しげに語ってみせた。
「それでもあんな連中が残っているのかよ」
「地球人でありながら地球人に反旗を翻る」
アレルヤも言う。
「僕にはそれがわからない」
「神だからだ」
こう言ったのはティエリアだった。
「彼等は神だからなんだ」
「神!?」
「それってどういうこと!?」
「自分達だけが高みにいると思い込んでいる」
ティエリアの言葉は実に忌々しげなものであった。
「だからなんだ。彼等は帝国に与したんだ」
「成程。それならあれだな」
宙はティエリアの忌々しげな言葉からあることを察した。
「あいつ等は帝国を利用するつもりだったんだな」
「そうだ」
ティエリアもまたその通りだと答える。
「そして帝国を乗っ取りやがては宇宙の神になるつもりだったんだ」
「へっ、よくある話だぜ」
宙はそこまで聞いて彼もまた忌々しげに言ってみせた。
「そんなことはよ。しょっちゅうだな」
「そうね」
彼のその言葉に頷いたのは美和だった。
「私達の世界でも」
「何か。デュミナスとは全然違うんだね」
「そうね。むしろ」
ラリアーはティスの言葉に応えて述べた。
「それとは正反対に」
「デュミナスは最後まで私達を大切にしてくれたけれど」
「彼等にはそれがない」
ラリアーもまたその『彼等』を見抜いていた。
「むしろデュミナスが彼等と同じだったら」
「私達はやっぱり」
「そう、駒にされていた」
今度はデスピニスに答えるラリアーだった。
「完全にね」
「そう。やっぱり」
「デュミナスは自分が何なのかわからなかった」
ラリアーはさらにデュミナスのことを思い出していく。
「人間だと。最後までわからなかった」
「しかし奴等は違う」
今度言ったのはフォルカだった。
「人でありながら神であると勝手に思い込んでいるだけだ」
「下らん奴等だな」
それを聞いて言い捨てたのはアルティスだった。
「その程度か」
「人は神になることができる」
フォルカはまた言った。
「しかし。心は人のままだ。神もまたその心は人でしかない」
「!?じゃああれだよな」
ケーンは彼等の話を聞きながらあることに気付いた。
「神様ってのはただちょっとばかし力を持ってるだけだよな」
「ああ。ガンエデンだってそうだったよな」
タップもここで気付いた。
「イルイちゃんも心はちゃんとした人間だったからな」
「そうだよな。そして神様でもだ」
今度言ったのはライトだった。
「倒せるんだ。人間でもな」
「神を断つ剣」
その神を断ったゼンガーの言葉である。
「人はそれをおのずから持っているのだ」
「人は神でありかつ人である」
ククルも言う。
「そういうことだな」
「そうだ。心が人ならばそれで人なのだ」
ゼンガーの言葉だ。
「ただ。それだけだ」
「奴等はそれに気付いていないだけか」
刹那はゼンガーの言葉でわかったのだった。
「では所詮は」
「敵ではない」
こう言い切るゼンガーだった。
「対峙すればそれで終わる。それだけだ」
「そうか」
「それよりもまずは目の前にいる敵を倒す」
ゼンガーはまた言った。
「よいな」
「おうよ。じゃああれだよな」
今度言ったのはエイジであった。
「あの連中だろ?ゼラバイアな」
「その通りだ」
彼の言葉にも答えるゼンガーだった。
「まずはあの者達を倒す」
「それからね。イノベイターは」
ピンクのかなり派手なワンピースのルナが言ってきた。
「宇宙かしら。戦場は」
「宇宙でも何処でも問題はない」
グラハムが応える。
「戦い倒せばそれでいい」
「その通りだね。ところで」
ここで応えたのはビリーだった。
「一つ気になることがあるけれど」
「それは何だ?」
「まずはククルさん」
声をかけてきたククルに言葉を返す形になった。
「貴女水着は持っておられないんですか」
「その通りだ」
見ればいつもの白い服でビーチサイドにたたずんでいる。泳ぐこともしようとはしない。
「それがどうかしたか」
「いえ、それならそれでいいんですが」
暑い中で汗一つかかない彼女にまだ言いたかったがどうしても言えないのであった。だがそれはとりあえずは置かざるを得なかった。
「それにロジャーさんとドロシーさん」
「今度は私か」
「私なのね」
「貴方達もいつもの服装ですが」
それを指摘するのだった。
「水の中には入られないのですか?」
「私はアンドロイドだから」
まずドロシーがその問いに答えた。
「泳ぐことはないわ」
「アンドロイドだからですか」
「泳ぐとそのまま沈むわ」
こうも言うドロシーだった。
「そのままね」
「ああ、そうですね」
これでビリーも納得した。
「だったら仕方ありませんね」
「そう。だから」
「ドロシーさんはわかりましたが」
「私は泳がない」
ロジャーはこう答えるのだった。
「だから気にしないでもらいたい」
「そうですか」
「服もだ」
見ればいつもの黒いスーツにコートである。この格好は普段通りである。
「いつも通りでいさせてもらう」
「はい。ではそれでわかりました」
ビリーはロジャーについても納得した。それでこの話は終わった。
するとプールサイドで今度は。誰かがバーベキューをしだしていた。
「さあ、焼け焼け」
「肉どんどん焼こうぜ」
「バーベキュー?」
「はい」
クスハがにこりと笑ってビリーに答える。彼女は白と青のストライブのビキニである。大きな胸がとても目立っていた。
「もうお昼ですから」
「そうですか。もうそんな時間ですか」
ビリーはクスハの言葉を聞いて頷いた。
「じゃあ僕も頂いていいですね」
「それでどの肉がいいですか?」
「どの肉?」
「色々用意してあります」
またにこりと笑って話すクスハだった。
「牛も豚も鶏もあります」
「結構ありますね」
「あと羊も」
それもあるというのだった。
「お野菜もあります」
「お豆腐あるかしら」
こう問うたのはレイだった。彼女は白いワンピースだった。
「お豆腐のバーベキュー」
「お豆腐のバーベキュー!?」
アラドはそれを聞いて思わず目をしばかたかせた。
「そんなのあるのかよ」
「あるみたいね」
クリムゾンレッドのワンピースの水着のオウカが応える。
「そういうのも」
「豆腐なんかでバーベキューできるのかよ」
「できるわよ」
答えたのはリオだった。彼女は青いビキニである。やはり胸の大きさが目立つ。
「使うお水によってね」
「そうなんだ」
リョウトがそれを聞いて意外といった顔になる。
「お水によってお豆腐が変わるんだ」
「そうよ。お水によってね」
リオはまたリョウトに話した。
「固くなったりするのよ」
「固い豆腐ねえ」
アラドはそれを聞いてまたいぶかしむ顔になった。
「そんなのが本当にあるんだな」
「実際に今焼いてるわよ」
ゼオラが彼に言ってきた。黒のビキニである。
「よかったらあんたも食べる?」
「ああ、何か美味そうだな」
大食漢のアラドらしい言葉であった。
「豆腐のバーベキューってのもな」
「僕は羊がいいかな」
シンジはそちらを欲しがった。
「最近あれだよね。皆で羊食べるし」
「羊はいい」
ブンドルがそのシンジに応える。
「あの味がわかってはじめて真の美食家となるのだ」
「真のですか」
「そして生の魚もだ」
所謂刺身であるらしい。
「どちらもいいものだ」
「僕もお刺身は好きですけれど」
「ならば食べよう」
また言うブンドルだった。
「バーベキューを優雅に食べる。それこそが」
「それこそが?」
「美しい・・・・・・」
何処からか取り出したワイングラスを掲げてさえいる。その酒を飲みながらの言葉だった。
見ればカットナルはもうその豆腐のバーベキューを食べていた。それもかなり美味そうに。
「ふむ、美味いな」
「美味いのか」
「実にな」
こうケルナグールに返す。ケルナグールは鶏を丸ごと食べていた。
「野菜もいい。豆腐は何にでも合うからな」
「肉の方がいいがな。わしは」
「貴様はそれを食っておれ」
その鶏の肉を見ながらネルナグールに告げる。
「好きなだけな」
「うむ、ではそうさせてもらう」
ケルナグールはこう言って鶏をバリバリと食べていた。
「しかしカットナルよ」
「何だ?」
「このソースだが」
見れば二人が使っているソースは全く同じものだった。赤いソースだ。
「これを作ったのは誰だ?」
「そういえば誰だ?」
カットナルもそれは知らないのだった。
「バーベキューはソースが第一だがな」
「そうだな。これだけの見事なソース」
ケルナグールは鶏につけられているそのソースをよく味わっていた。
「果たして誰が作ったのかだな」
「はい、私です」
黒のワンピースの水着のレオナが出て来た。
「私が作りました」
「むっ、御主がか」
「このソースを作ったのか」
「いやあ、大変だったよ」
ここでタスクも出て来た。
「何せよ。レオナの好みの味だったらよ」
「まずいからな」
「それが問題だからな」
カットナルもケルナグールもこのことはよくわかっていた。レオナは彼女が美味いと思う味付けをすると他の者にとっては逆になってしまうのである。
「しかしこのバーベキューのソースはな」
「実に見事だ」
「有り難うございます」
そう言われてまんざらでもないレオナだった。
「他にもソースは色々作ってますから楽しんで下さい」
「もう楽しんでるわよ」
レモンイエローのビキニのカーラが笑顔で応える。
「豚肉もいいわね」
「そうだな」
ユウキも彼女と同じ豚のスペアリブを食べていた。
「このスペアリブのソースもな」
「オニオンソースね」
見れば黒いソースの中に摩られた玉葱があった。
「これがいい味出してるわよね」
「ああ。レオナの料理はいい」
「使い方次第ってことか」
ブリットはこう評するのだった。
「逆に考えてか」
「そうよね。それでブリット君」
クスハはここでにこやかに笑ってブリットに声をかけてきた。
「ジュース欲しくない?」
「えっ!?」
ブリットはクスハの口からジュースと聞いて顔を真っ青にさせた。
「ジュースっていうと」
「はい、これ」
青緑色でボコボコと泡まで出ているジュースが出て来た。
「健康を考えて作ってみたの。どうかしら」
「け、健康をなんだ」
「そうよ。大蒜に卵にスッポンに蝮にセロリに韮に山芋に」
素材の紹介が続く。
「林檎に納豆にチーズに葱とか色々入れてミキサーにしてみたものなのよ」
「凄いね。それはまた」
「これを一杯飲めば健康になれるわ」
とりあえず味覚は全く考慮していないのだった。
「だから。早く飲んで」
「いや、俺はさ」
その蒼白になった顔で答えるブリットだった。
「何ていうかな」
「何ていうか?」
「喉が渇いてないから」
こう言うのだった。
「喉がね。だからいいよ」
「大丈夫よ。飲んだら大丈夫だから」
しかしクスハはなおも彼にその青緑色のジュースを勧めるのだった。
「だから早く。飲んで」
「そのジュースを」
あらためて見るとやはり恐ろしいジュースだった。少なくともそれはいつものクスハのジュースだった。つまりまともな代物ではなかった。
「大丈夫かな、ブリット」
「大丈夫じゃないでしょ」
皆二人のやり取りを見てひそひそと話をする。
「あんなのを飲んだらそれこそ」
「一撃で昇天ね」
それは間違いないというのだった。
「ゼラバイアとの戦いの前に貴重な戦力が一人」
「困ったわね」
皆そのことを心配していた。しかしだった。ここであの彼等が出て来たのだった。
「おっ、美味そうなジュースだな」
「貰うよ、これ」
「飲む」
オルガ、クロト、シャニであった。彼等はクスハの手から無断でそのジュースを受け取るとそのまま飲んでしまった。それも一瞬であった。
「うめえ、このジュース」
「何か生き返るって感じ?」
「力がみなぎるな」
クスハのジュースを飲んでも全く平気なのだった。
そしてさらに。彼等はクスハに対して言うのだった。
「クスハ、もう一杯ねえか?」
「この最高に美味しいジュース」
「欲しい」
「あるにはあるけれど」
クスハは無断で飲まれたのでそれがいささか不満であった。
「それでもよ。折角ブリット君にあげようと思ったのに」
「いやあ、俺はいいから」
三人に任せて撤退に入るブリットだった。
「その三人が飲みたいならさ」
「飲みたいなら?」
「喜んで譲るよ」
こう言って撤退するのだった。
「三人共それでいいよね」
「おうよ、こんな美味いジュースが好きなだけ飲めるんならな」
「サンキュー、ブリット」
「感謝する」
これで話は決まりだった。三人はクスハのジュースを心ゆくまで飲むことになった。それと同時にミナキとラスクの料理も堪能した。三人にとってはどれも最高の御馳走だった。
「おいおい、最高だよな」
「そうだよね、ラクスの料理って本当に」
「美味い」
三人はラクスの作った得体の知れない何かを手づかみでそれぞれの口の中に放り込んでいた。
「これを食って精をつけてな」
「戦争に行こうか」
「戦う」
三人はそれぞれ言う。
「それでラクス」
「はい?」
ラクスはピンクのビキニである。その格好で隣に来たアズラエルに応えるのだった。
「貴方のこの御馳走ですがね」
「私の料理ですか?」
「まだありますか?」
見れば彼もラクスのその料理を美味そうに食べているのであった。
「宜しければ」
「はい、あります」
「そうですか。それでは」
「どうぞ」
彼もまたラクスの料理を食べていた。しかも全く動じたところはない。
皆それを見て唖然とするが。ここでナタルが言うのだった。いつもの大人しい黒のワンピースの水着である。
「アズラエル氏もアズラエル氏で怪物だからな」
「というか変態?」
「だよなあ」
これが皆のアズラエルへの評価であった。
「どっからどう見ても」
「そうよね」
やはり変態というのである。
「紫のビキニといい」
「普段も紫のトランクスだし」
彼の水着、そして下着の趣味である。
「もう完全にね」
「服装からして」
「これが僕のスタイルなんですよ」
しかし本人は至って気にしていないのだった。
「ですからお気遣いなく」
「気は使っていないけれどな」
その彼にシローが言ってきた。
「あんたがそうした奇行を続けているとな」
「何かありますか?」
「俺としてはどうも複雑な気分なんだ」
顔を顰めさせてアズラエルに言うのだった。
「どうしてかはわからないけれどな」
「声そっくりだからじゃないかな」
「絶対そうよね」
皆この辺りの事情はすぐに察してしまった。
「凱さんともそっくりだし」
「もう他人に見えないし」
「だからもう少し普通にして欲しいんだがな」
「まあ気はつけていますよ」
あまり実のないアズラエルの返答だった。
「ですから中尉もこの料理をどうぞ」
「いや、俺はいい」
シローは普通人だった。
「アイナの焼いてくれたバーベキューがあるしな」
「だからですか」
「ああ。それにしても何かな」
ここでシローは周囲を見回すのだった。皆それぞれ好き勝手に飲んで食べている。シンに至っては今度はルナとプールの中で喧嘩をしている。
「このアバズレ!言いやがったな!」
「何よ!あんたが先に言ったんじゃない!」
プールの中で取っ組み合いの喧嘩だ。シンにとってはいつものことだった。
そうした光景を見ながらシローはアズラエルに対して言うのだった。こう。
「のどかなものだな」
「そうですね。平和ですね」
アズラエルもそれには同意して頷いた。
「本当に至って」
「今まで色々あったけれどな」
ガルラ帝国、そして天使達との戦いのことだ。
「久し振りの息抜きだな、本当に」
「そうですね。英気を養うには丁度いいでしょうね」
「ああ。じゃあ俺もそうさせてもらうか」
「ではこのお料理を」
「だからそれはいいからな」
ラクスの料理は頑として拒むのだった。
「バーベキューがあるからな」
「おやおや、つれないですねえ」
「あんたとあの三人だけだ、それを食って平気なのはな」
ラクスに聞こえないようにこっそりと告げる。
「全く。まあ今は休ませてもらうさ」
「ええ。次の戦いに備えて」
「今度の相手はゼラバイアか」
シローもまたそのゼラバイアに対して考えを及ばせるのだった。
「さて、どんな戦いになるかな」
「彼等とも決戦の時ですしねえ」
アズラエルもそれははっきりとわかっているのだった。
「また派手な戦いになりますね」
「派手か」
「はい、それは間違いありません」
それは逃れられないというのだった。
「ですから中尉も気をつけて下さい」
「わかってるさ、それはな」
シローは笑顔でアズラエルの言葉に応えた。
「まだまだ戦いは続くしな」
「誰も死なないことを祈っていますよ」
「その通りです」
ここでノリスが二人のところにやって来て話に入って来た。
「誰も死んではなりません」
「そうだな。じゃあ今回もな」
「命を粗末にせず戦いましょう」
そのことを誓うのだった。そうして今は穏やかな時を過ごすのだった。
プールでの保養の次の日。ロンド=ベルはシドニーに向かった。そこでゼラバイアが出没したと聞いたからである。
「そういえばこっちの世界のオーストラリアって」
「そうよね」
あちらの世界のメンバーがここで話をした。
「来たのはじめてよね」
「そうよね」
「そう思うとここで戦うのも新鮮だな」
カガリが言った。
「はじめての場所で戦うのもな」
「そういえばカガリってさ」
フレイがふとそのカガリに尋ねた。
「あんたキスとかもしたことないわよね」
「ば、馬鹿」
それを言われると急に真っ赤な顔になるカガリだった。
「そんなことこんな場所で言うなっ」
「けれど事実でしょ?」
「事実だったらどうなんだ?」
居直る始末だった。
「大体そんなことは本当に好きになった相手とだな」
「つまり完全な処女ってわけですね、カガリさんって」
シホも彼女のことがわかってしまった。
「私もそうですけれど」
「まあシホは奥手だけれど」
フレイはそんなシホの言葉を聞いて言った。
「カガリの場合はね。本当に男の子みたいだから」
「それがどうかしたのか?」
「あんたそのままじゃ貰い手ないわよ」
フレイが言う言葉はかなり厳しいものだった。
「お嫁さんに貰い手が」
「そんな筈がないっ」
カガリはあくまでこう反論する。
「私の素晴らしさがわかる男がいる、絶対にだ」
「お婿さん募集中だから」
ユウナがここでその文字を実際に書いた看板を持って出て来た。
「オーブの国家元首になれるよ。誰か来てくれないかな」
「あの、ユウナさん」
フレイもユウナのこの行動には呆れてしまった。
「貴方、オーブの首相ですよね」
「他にも色々とやってるけれどね」
「宮内相でもあったんですよね」
「ついでに言えば秘書室長もやってるよ」
また仕事が増えていた。
「もう何でもね」
「そんな人がこんな募集の仕方するなんて」
「いやあ、本当に人がいないんだよ」
腕を組んでしみじみと言うユウナだった。
「だってこんなんだよ?とにかく婿の来てがなくてねえ」
「それでこんな募集をですか」
「インターネットでも募集しているけれどね」
実に涙ぐましい努力である。
「それでも。来てくれないんだよねえ」
「カガリだからですか」
「そうなんだよ。カガリだよ」
カガリだからこそ問題があるというのだ。
「誰も来てくれないんだよ、本当に」
「困ったことにですね」
「せめて男だったらね」
これまた無茶を言うユウナだった。
「女の子だからねえ。こんなのでも」
「おい、ちょっと待て」
いつも通り言われっぱなしなので抗議に出たカガリだった。
「そんなに私には結婚相手がいないのか!?」
「いないんだよ、これが」
ユウナは本人に対してもはっきりと言い切る。
「何処かに物好きいないかな、本当に」
「そこまで言うか」
「さもないとねえ。オーブ王家にとってまずい事態だし」
君主に伴侶がいないということはそれだけで血が途絶えるということである。だからこそどの君主も結婚を至上命題にするのである。
「というわけで誰かいてくれないかな」
「どっかにいるんじゃないですか?」
フレイはこれまたかなり適当に言った。
「やっぱり。何処かに」
「何だったらフレイが紹介してくれないから」
ユウナは今度はフレイに対して頼み込むのだった。
「アルスター家の人脈でさ。どうかな」
「多分無理だと思います」
今度は真面目に考えたうえで答えたフレイだった。
「だって。カガリですから」
「私だからか、おい」
「そうよ。あんたとにかくガサツだから」
それが問題だというのである。
「しかも戦うこと以外は完全に不向きだし」
「それが悪いかっ」
「悪いよ」
ユウナの困り果てた言葉が出て来た。
「国家元首としての仕事は完全に駄目だからねえ」
「それでそういったことは全てユウナ様が代理を務めておられます」
「私共もお手伝いをして」
キサカにトダカも出て来た。
「どなたか。本当に来て頂かないと」
「オーブの将来は暗いものになります」
「どうかな、それで」
ユウナは不意にアスランに声をかけた。
「君なら大丈夫だと思うけれど」
「何で俺なんですか?」
アスランはユウナに腕を掴まれ戸惑っていた。
「どうしてですか?」
「いやあ、君しかいないよ」
ユウナは早速褒め殺しにかかってきた。
「ザフトのエースの一人で将来の最高幹部候補生」
「はあ」
「君ならできるよ」
強引にそういうことにしてしまうのだった。
「だからその才能を是非オーブでね」
「活かして欲しいってことですか」
「その通り、君が次のオーブの国家元首だ」
勝手に決めてしまいそうな勢いだった。
「これでオーブも安泰だよ」
「あの、俺まだいいとも何とも言っていないですけれど」
「いやいや、もうサインは貰ったよ」
ここでとんでもないことを言うユウナだった。
「もうね」
「サイン!?」
「ほら、これだよ」
ユウナは一枚の婚約証明書を出してみせてきた。そこにはちゃんとアスランのサインがあった。
「ここにちゃんとあるじゃないか」
「何時の間にそんなサインが!?」
アスランには全く身に覚えのないことであった。
「俺サインした記憶ないですよ!?」
「うん、実はね」
ユウナはここでその種明かしをするのだった。
「昨日のプールでね」
「ええ、プールで」
「君がビールを飲み過ぎてへべれけになっている時にね」
「あの時ですか」
「サインしてもらったんだよ」
その時にだというのだ。
「いやあ、有り難う」
「有り難うって」
ユウナのあまりもの非道な行いに絶句するアスランだった。
「それって詐欺じゃないですか、俺酔ってたのに」
「これはあれなんだよ」
しかしユウナは悪びれず平然と言うのだった。
「あるパイロットに外人部隊に行ってもらう時の方法でね」
「あれだってとんでもない話じゃないですか」
「そうかな。ちょっと参考にさせてもらっただけだよ」
やはりユウナは悪びれずにこやかでさえある。
「まあ国家元首になれるんだし。悪い話じゃないと思うけれどね」
「おい、幾ら何でも待て」
カガリがそんなユウナにクレームをつけた。
「私は一体何なんだ?」
「何なんだって?」
「そこまで露骨に売り出さないと駄目なのか」
「うん、そうだよ」
実に素っ気無いユウナの返答だった。
「だからこんなに苦労してるんだけれど」
「私にとって結婚はそれだけ難しいことなのか」
「難しいです」
「不可能なまでに」
ここでまたキサカとトダカが言う。
「カガリ様がもう少しお姫様らしければ」
「もう少し頭がよろしければ」
「ここまで言われるか」
流石にもう何も言い返せないカガリだった。
「私は」
「とりあえず自覚しないと駄目なんじゃないの?」
フレイも実に容赦がない。
「そりゃ私だってね」
「あれっ、サイとよりを戻したんじゃなかったの?」
ミリアリアがさりげなく突っ込みを入れる。
「確か」
「それはそうだけれど」
少しバツが悪そうにその突っ込みに答えるフレイだった。
「サイには酷いことしたし」
「そこは反省してね」
「ええ。してるわ」
フレイも随分変わったといえる。
「あんなことしたらね。もう絶対にね」
「駄目よ。本当にね」
「わかってるわ。それでも私もね」
「もう十六だから結婚意識してるっていうのね」
「その通りよ」
同じ年代のミリアリアに対して答える。
「まあサイといずれは、かしら」
「応援してるわ。私もトールとね」
「私はイザークさんと」
「何でここで俺の名前が出て来るんだ?」
イザークが横から言ってきた。
「訳がわからないが」
「はいはい、あんたは気にしなくていいから」
フレイはそんなイザークに素っ気無く返す。
「ただね。一つ言っておくわ」
「何だ?」
「シホちゃんには優しくね」
このことを言うのだった。
「それだけよ。あとついでによ」
「ああ。何だ?」
「おかしな仮面被っての嫉妬に狂った儀式は止めることね」
このことも言うのだった。
「最近メンバーが増えてる感じだけれど」
「な、何故それを知っている!?」
実に見事な自爆であった。
「嫉妬団のことは絶対に秘密の筈だ!それを何故御前が!」
「おい、自分から言うな」
横からディアッカがバツの悪い顔で制止する。
「ばれるだろうがよ、本当によ」
「っていうかもうばれてるわよ」
フレイの言葉は醒めていた。
「あんなに馬鹿な組織目立たない筈ないでしょ」
「おのれ、それを知られてしまったからには!」
「何だっていうのよ」
「忘れろ!」
実に強引なイザークの言葉であった。
「御前の記憶から抹消しろ!いいな!」
「なかったことにしろっていうのね」
フレイはイザークが大体何を言いたいのかわかった。
「つまりは」
「そうだ。御前は何も見なかった」
強引な展開が続く。
「そして何も聞いていない。いいな」
「はいはい、とりあえずはそうしてあげるわ」
「わかればいい」
「ただし。わかってると思うけれど」
ここで言葉も表情もきついものにさせるフレイだった。
「一矢さんとエリカさんには何もしない。いいわね」
「あの二人は何もできねえよ」
ディアッカがこの言葉に答える。
「あんまりにもな。立派過ぎてな」
「あんた達でもそうなの」
「あそこまでいけば凄いぜ」
素直に賞賛する程だった。
「思わずな。応援したくなるぜ」
「一矢さんは立派な人です」
ルリがそれを保障した。
「そしてその一矢さんに一途に思われているエリカさんも」
「幸せですよね」
シホの言葉には憧れまで入っていた。
「本当に。あそこまで想って頂けるなんて」
「御二人がああなるまで本当に色々ありました」
全てを見ているからこそ言えるルリの言葉だった。
「私も。見ているだけで」
「応援したくなったのね」
「本当に一矢さんは素晴らしい方です」
ルリはあくまで一矢を褒め称えるのだった。
「勇敢で一途で。決して諦めないで」
「凄かったんだよ、一矢さんは」
シンジも話に加わってきた。
「人間ってあそこまで一途になれるんだって。本当に凄い人なんだよ」
「そうよね。一矢さんはね」
アスカまでが一矢は素直に褒めるのだった。
「タケルさんも立派だけれど」
「そういえばアスカってタケルさんは絶対にけなさないよね」
シンジはこのことをアスカに言った。
「一矢さんもだけれど」
「けなせる筈ないじゃない」
アスカにしては珍しい言葉だった。
「あそこまで一途で純粋な人達」
「そうなんだよな。あとはな」
ディアッカはここで話題の人物を変えてきた。
「豹馬さんだけれどなあ」
「あの人はねえ」
アスカも豹馬についてはバツの悪い顔になった。
「何ていうかね」
「ちずるさんも必死に頑張ってるんだけれどな」
「普通は気付くわよ」
アスカも当然気付いている。
「っていうか気付いていないのってね」
「本人だけじゃねえのか?」
当然皆も気付いている。
「あれはな。本当にな」
「ちずるさんが可哀想よ」
そのちずるには皆同情的だった。
「あんなにアプローチしてるのね」
「直接言わないと駄目でしょう」
ルリが言う。
「豹馬さんには」
「直接ねえ」
フレイがそれを聞いて難しい顔を見せた。
「ねえユウナさん、何かいい考えない?」
「えっ、僕?」
話を振られたユウナはこの時アスランの手から婚約証明書を必死に守っていた。彼がその証明書を何とかして破こうとしていたからだ。
「僕にあるのかって?」
「そうですよ。例えばその婚約証明書を使ってですね」
「ああ、それはいいね」
アスランを必死に振りほどきながら応えるユウナだった。
「これは本当に究極の手段だしね」
「何時の間にこんなサインが!」
「だから酔っている間になんだよ」
アスランに対しても言うユウナだった。
「まあ酔っている時こそ用心することだね」
「貴方それでも一国の首相ですか!」
「首相・・・・・・だから何だよ」
ユウナはここでわざと遠い目をしてみせた。
「時として。非道をしなければならない」
「国家元首の結婚でですか!」
「それこそが国家の一大事だからね」
ユウナの言うことにも一理はあった。
「だとすれば僕はあえてどんな汚いことでもするよ」
「こんなもの!」
その間にもアスランは証明書を奪おうとする。
「早く返して下さい!」
「それはできない相談だよ」
当然ながらユウナも引こうとはしない。
「折角カガリのお婿さんが見つかったんだ。もうね」
「だから俺は納得していません!」
「サインしたじゃないか」
「だからそれは寄って!」
「酔ってもサインはサインだよ」
ユウナの詭弁は続く。
「さあ、諦めてオーブの次期国家元首にだね」
「嫌です!」
これまたはっきりとした返答だった。
「せめて素面の時に話して下さい!」
「じゃあ今だよね、それって」
「ですからもう一度サインの話を!」
アスランを左右からキサカとトダカが押さえ何とかユウナの思うようにしようとする。ところがその肝心の婚約証明書が。何処からか出て来たミグカリパー達に食べられてしまったのだった。
「あれっ、巨大雀達が」
「食べてしまいましたな」
「何と」
ユウナ達はこの思わぬ事態にまずは目が点になってしまった。
「雀って紙も食べるんだ」
「初耳ですな」
「巨大雀だからでしょうか」
「とにかくこれで話は振り出しね」
ここでも冷静というか醒めているフレイだった。
「アスラン、よかったじゃない」
「助かった・・・・・・」
実際に冷や汗をかいた顔でほっとしているアスランだった。
「本当に」
「けれどあんたカガリじゃ嫌なの?」
不意にこんなことを尋ねるフレイだった。
「カガリは。どうなのよ」
「えっ、カガリがかい?」
「そうよ。別に嫌じゃないでしょ」
実に率直に尋ねるフレイだった。
「そうでしょ?別にね」
「まあそれは」
こう言われると少しずつだが答えるアスランだった。
「俺もまあカガリは」
「じゃあまあゆっくりと考えるといいわ」
穏やかにアスランに告げるのだった。
「ゆっくりとね」
「そうだな。そうさせてもらうか」
「あの人達は放っておいて」
言いながらユウナ達に顔を向けもする。
「いいわね」
「全く。何時の間にあんなサインを」
「折角もう少しで結婚相手が見つかったのに・・・・・・」
「ユウナ様、次があります」
「そう、次です」
キサカとトダカは必死に落ち込むユウナを慰めていた。
「ですから今度こそは」
「相手を見つけましょう」
「あんなのだけれどね」
フレイはこんな三人を見ながらまたアスランに告げた。
「気をつけながらね」
「この戦いが全部終わってからかな」
アスランも言う。
「結論を出すのは」
「楽しみにしてるわ」
微笑んでアスランに言うフレイだった。
「その結論ね」
「ああ。期待していて欲しいな」
「そうさせてもらうわ。それじゃあね」
そんな話をしているうちにオーストラリアに辿り着いた。だがまだ何も見えなかった。
「あれっ!?」
「戦闘も起こっていない?」
「ゼラバイアもいないけれど」
皆何も見えないのでまずは面食らった。
「それで何でここに来たんだ?」
「さあ」
「確かに今彼等はいない」
サンドマンがここで皆に告げた。
「しかしだ。彼等はここに現われる」
「このオーストラリアに」
「そう、確実にだ」
こう断言するのだった。
「姿を現わす。必ずな」
「何か断言できるものがあるのか?」
「あるんじゃないの?」
ルナマリアがシンに答える。
「サンドマンさんだし」
「私にはわかる」
サンドマンがここで言うのだった。
「彼等は既にここに潜んでいる」
「このオーストラリアに」
「シドニーに向かおう」
今度はその進むべき街を指し示した。
「そこで彼等と戦うのだ」
「どうやら感じ取ったらしいな」
アムロはニュータイプとしての立場からサンドマンが何を根拠にシドニーに向かうのかわかった。それでわかるというのだ。
「サンドマンさんも」
「そうみたいですね」
カミーユもアムロのその言葉に頷く。
「サンドマンさんはゼラバイアの気配を感じ取ることができます」
「しかしそれ程強くはないようだな」
クワトロはこうしたことまで見抜いていた。
「どうやらな」
「そうみたいだな。だがシドニーだ」
「ああ」
ジュドーがアムロのその言葉に応えて頷く。
「行くか。それじゃあな」
「そうしよう」
こうしてロンド=ベルはシドニーに入った。そこには国連の重要機関が集まっていた。皆そうした機関のビルを見て言うのだった。
「まあこういうのを見ていたらな」
「そうね」
「絶対にゼラバイアが狙いそう」
それはよくわかる。彼等は既にシドニーで戦闘態勢に入っていた。そのうえでゼラバイアが来るのを待ち構えているのであった。
「さて、どう出て来るかしら」
「果たして」
待ち構える。だが一時間経ってもまだ出て来なかった。
「あれっ、まだ?」
「来ないってわけないよね」
皆少し不安にもなりだしていた。
「まさかと思うけれど」
「出て来ないって」
「それはない」
ここでまたサンドマンが言うのだった。
「それは。絶対にない」
「ないんですか」
「絶対に」
「そうだ」
サンドマンはメイド達に対しても答えた。彼が乗るグラヴィゴラスも当然のように出撃している。そしてその巨体をシドニーに見せていた。
「彼等は間も無く来る」
「そうだね」
彼の言葉に最初に応えたのは斗牙だった。
「その通りだね。絶対にね」
「斗牙にはわかるの」
「うん、何となくだけれど」
ルナの問いにも答える斗牙だった。
「サンドマンは嘘は言わないしそれに」
「それに?」
「僕も何となく感じるから」
彼もだというのだ。
「気配をね」
「そういえば俺もよ」
今度出て来たのはエイジだった。
「感じるな。殺気ってやつか?」
「エイジさんもですか?」
「少しだけれどな」
エイジはエイナの問いに答えた。
「感じるぜ。もうすぐ来るぜ」
「!?レーダーに反応」
ここでミドリが言った。
「海から来るわ」
「どんぴしゃってわけね」
ミヅキの目が光った。
「本当に」
「さてと、それじゃあよ」
エイジはもう己のその指をボキボキと鳴らしていた。
「派手にやらせてもらうぜ」
「グランナイツの諸君」
サンドマンもここで言う。
「総員戦闘を開始せよ」
「了解!」
グランナイツだけでなくロンド=ベル全軍が戦闘に入った。海から来るゼラバイアの大軍を海岸で迎え撃つ。こうして戦いがはじまった。
戦いは上陸しようとするゼラバイア達をロンド=ベルが迎撃する形になっていた。圧倒的な数のゼラバイアを水際で食い止めていた。
「数は多いな」
「それはいつも通りね」
バーニィとクリスが迎撃しながら話をしていた。
「何かこうした水際での迎撃も多いけれど」
「飽きた?」
「いや、別に」
クリスの今の問いにはくすりと笑って返すバーニィだった。
「あれこれと色々な場所で戦ってるからね」
「こうした水際での戦いだけじゃないからね」
「だから飽きることはないね」
こう答えるのだった。
「ただ」
「ただ?」
「この世界でもシドニーはいい街だね」
戦いながらシドニーの街を見ているバーニィだった。
「こっちの世界での戦いを終わらせて」
「ええ」
「それで向こうの世界も平和になったら」
バーニィは言うのだった。
「シドニーで暮らすのも悪くないかな」
「この街で暮らすのね」
「それで。探偵でもやろうかな」
こんなことを考えて言葉にも出すのだった。
「それで気楽に暮らそうかな」
「一人でなの?」
クリスはそんなバーニィに対して尋ねた。
「それは一人でなの?」
「一人でって?」
「一人より二人の方がいいわよ」
クリスもまたくすりと笑っていた。
「そう思わないかしら」
「そうだね」
バーニィはまたくすりと笑った。
「それもいいね。二人でね」
「じゃあその二人でのシドニーでの生活の前に」
「うん」
話しながら前を見据える。128
「こっちのシドニーでの戦いはね」
「終わらせておくか」
こんな話をしながら前方のゼラバイア達にビームを放つ。ゼラバイア達は次々に撃ち抜かれ海に落ちその中で爆発する。戦いはロンド=ベルに優勢だった。
ゼラバイア達は次第にその数を減らしていく。勝利は目前に思われた。
「勝てるか?」
「そうみたいですね」
輝にマックスが応えていた。
「このままですと」
「何か今回はあっさり終わりますね」
柿崎も言う。
「随分と」
「だとしたらおかしいな」
フォッカーがここで眉を顰めさせた。
「ゼラバイアの連中も必死の筈だからな」
「っていうと」
柿崎はフォッカーのその言葉を聞いて目を丸くさせて言った。
「何かあるっていうんですか?」
「あると考える方が自然だな」
これがフォッカーの返答だった。
「ゼラバイアの連中にしろ必死なんだからな」
「じゃあ一体何が」
輝はフォッカーのその言葉を聞いて考える顔になった。
「仕掛けられているんでしょうか」
「伏兵ですかね」
マックスはその可能性を危惧した。
「よくあることですからね」
「レーダーには今のところ反応はないですね」
霧生は自機のレーダーを見ながら答えた。
「あくまで今のところですけれど」
「けれど油断はできないわね」
ミスティは冷静だった。
「そう思っても、っていうのが常だし」
「そうですよね。例えば」
レトラーデは勘から語っていた。
「後ろからとか」
「後ろか」
「ええ。それも特定の機体を狙うとか」
そういった事態も想定するのだった。
「そんなことが考えられません?」
「言われてみればそうだな」
輝はレトラーデのその言葉に頷いた。
「今まで色々な組織がそうしたことをしてきたし」
「それにゼラバイアっていったら」
今度言ったのはシルビーだった。
「どうやらサンドマンさんと浅からぬ因縁があるみたいだし」
「!?だとすると」
ヒビキはそれを聞いてすぐに血相を変えた。
「前方のゼラバイアは囮で本当の狙いは」
「おい、サンドマンさんだっていうのかよ」
ネックスもここでわかった。
「まずいぜ、そりゃよ」
「グラヴィゴラスの護衛は!?」
バルキリー組はすぐにグラヴィゴラスに目をやった。するとそこにいたのは。
「グラヴィオンがいる」
「あとはグラントルーパー隊がいるけれど」
彼等だけだった。前線に出ているグラヴィゴラスの護衛と前面の敵の迎撃も兼ねていた。しかしいるのは彼等だけなのだった。
「まずい、この状態で敵の大軍が来たら」
「グラヴィゴラスでも」
「手の空いている者は俺に続け!」
金竜がすぐに判断を下した。
「グラヴィゴラスの護衛に向かう!」
「はい!」
「了解です!」
ガムリンとフィジカが最初に応えた。
「私が行きます!」
「私もです!」
「俺も行きますよ」
続いてダッカーも名乗りをあげた。
「急ぎましょう、とにかく」
「僅か四機か?」
「援軍が出て来たわ」
輝が焦りはじめたところでミリアが言った。
「彼等の相手もしないと」
「くっ、こんな時に」
「だが仕方がない」
フォッカーがここで輝に告げた。
「まずは金竜達に行ってもらう」
「了解です」
金竜は真剣な面持ちでフォッカーに応えた。
「じゃあまず俺達が」
「頼んだぞ。俺達もすぐに向かう」
フォッカーもまた真剣そのものだった。
「前の敵を倒したらな」
「それで頼みます。よしガムリン、フィジカ、ダッカー!」
共に行く者達の名を呼ぶ金竜だった。
「行くぞ!」
「はい!」
こうしてまず四機が向かう。だが他の機体はどれも正面の敵に攻撃を集中させざるを得ず援軍には迎えなかった。そしてであった。
「敵の伏兵です!」
「やはり!」
皆命のその報告を聞いて頷いた。
「グラヴィゴラスにか!」
「そうです!」
残念なことにこの予想は当たってしまったのだった。
「左側面からです!」
「援軍を向かわせることは」
「無理だ」
大河が難しい顔で答えた。
「今全員それぞれの敵に向かっている」
「はい」
「金竜大尉達に向かってもらったのもな」
その四人のことも言う大河だった。
「それで精一杯だ」
「そうですか」
「敵の数は」
その伏兵の数である。
「どれだけだ」
「五百です」
命がまた報告した。
「一直線にグラヴィゴラスに向かっています」
「それに対してグラヴィオンとグラントルーパー隊」
「それに金竜大尉達です」
今度はスタリオンが答える。
「合わせて十機です」
「十機で五百機の相手をする」
スワンはそのことを述べた。
「それはかなり」
「無理がある。しかしだ」
「しかし?」
「今はその無理をしなければならない時だ」
その時だというのだった。
「だからだ」
「わかってるさ!」
エイジが威勢よく大河に答えた。
「だからよ。こっちの心配は無用だぜ!」
「五百であろうが千であろうが」
グラヴィゴラスから指揮を執るサンドマンも言う。
「退けてみせる。それではだ」
「はい!」
「大丈夫です!」
メイド達が一斉に彼の言葉に応える。
「やってみせます!」
「ガルラ帝国との戦いのことを思えば!」
そのあまりにも圧倒的な数を前にした時のことである。
「これ位!」
「五百なんて!」
「その通りよ!」
ルナも言う。
「こんなことでやられないわよ!」
「そういうことね。十機もいれば充分よ」
ミヅキも余裕を見せてきていた。
「じゃあ。それでいいわね」
「そういうこと。じゃあ軽く」
「軽くは駄目よ」
シンルーはアレックスに突っ込みを入れた。
「真面目にしなさい」
「ちぇっ、隊長は相変わらず厳しいな」
アレックスはシンルーのその言葉を受けて苦笑いで返した。
「まあそこがまたいいんだけれどな」
「まさかと思うけれど」
「アレックスさんって」
皆今のアレックスを見てひそひそと話す。
「マゾ?」
「っぽいよな」
「それではだ」
金竜も言う。
「五百機、相手をさせてもらう」
「はい!」
「やってやりましょう!」
この十機で五百機の相手をはじめた。グラヴィゴラスの援護射撃を受けながらその五百を倒していく。戦いは数をものともせずグラヴィオン達に優勢となっていた。
「よし!」
「いけます!」
エイジとエイナがそれを見て同時に声をあげた。
「このままならな!」
「防げます!」
「だが油断はするな」
レイヴンがここで彼等に釘を刺す。
「それはいいな」
「ああ、わかってるぜ」
「勿論です」
それがわかっていない二人ではなかった。エイジは幾分か怪しいが。
「けれど今はな」
「このまま防がせてもらいます」
「それは頼む」
レイヴンはこのことには素直に応えた。
「諸君等の活躍にかかっているからな」
「グラヴィゴラスはこのまま主砲を放ち続けるのだ」
サンドマンはグラヴィゴラスの指示を続けていた。
「いいな」
「はい、わかっています」
「このままですね」
またメイド達が彼の言葉に応える。
「主砲一斉射撃です!」
「撃ち続けて下さい!」
このまま凌げると誰もが思った。しかしであった。この激戦の中でゼラバイアの一機が放った流れ弾が。偶然グラヴィオンに当たったのだった。
「きゃあっ!」
「あっ!」
「リィル!」
リィルのコクピットの辺りに当たった。皆それを見て思わず声をあげた。
「どうなった!?」
「大丈夫か!」
「リィル!」
とりわけ血相を変えていたのはサンドマンだった。
「無事か!どうなのだ!」
「!?サンドマンさん」
「一体」
皆その血相を変えたサンドマンを見て怪訝な顔になった。
「どうしたんですか?」
「急に」
「リィルは無事か」
だがサンドマンの普段とは全く違う態度が続いていた。
「それで。どうなのだ」
「・・・・・・・・・」
返答はなかった。無事かどうかはわからない。サンドマンはそれを見て驚くべき判断を下すのだった。
「グラヴィオンを収容する」
「えっ!?」
「ここでですか!?」
「その前に敵を一掃する!」
これまで以上に攻撃を繰り出すというのだ。
「いいな。一気にだ!」
「は、はい!」
「わかりました!」
まずはメイド達がそれに応える。
「主砲だけでなく全ての武器を使います!」
「総攻撃です!」
「グラントルーパー隊総攻撃」
シンルーもここでこの指示をメンバーに出した。
「いいわね」
「ええ」
「了解です」
グラントルーパーの面々もそれに応える。四機のバルキリーもそれに続き敵を一気に倒しにかかった。反応弾を放ったのである。
「よし、ここだ!」
「ここで反応弾をですね」
「今ここで敵を一掃する」
金竜はガムリンの問いに応えていた。
「いいな」
「了解です」
「それじゃあ」
「やってやりましょう」
ガムリンだけでなくフィジカとドッカーも応える。それぞれの翼からミサイルが放たれ敵の中で大爆発を起こした。それと共にグラヴィゴラスの側面の敵は一掃された。
それと共に正面の大軍も消えていた。戦いはロンド=ベルの勝利だった。
だが問題はリィルだった。彼女はすぐに救出され彼女の部屋に送られた。そして。
「命に別状はありませんでした」
「そうか」
サンドマンはレイヴンの報告を聞いてまずは安堵していた。
「それは何よりだ」
「はい。ですが」
だがここでレイヴンはサンドマンに問うのだった。
「どうされたのですか?」
「何がだ?」
「御言葉ですが」
こう前置きしたうえでまた言うレイヴンだった。
「サンドマン様の先程の取り乱しようは」
「無様な姿を見せたな」
「いえ」
それはいいというのだった。
「それよりもです」
「リィルと私のことだな」
サンドマンはすぐにそのことに察しをつけたのだった。
「それだな」
「そうです。サンドマン様とリィルはどういった御関係なのですか?」
「あっ、そういえばそうだよな」
「そうよね」
その場に居合わせたエイジとルナが言った。皆グラヴィゴラスの大広間に集まっていた。そこでサンドマンの話を聞いているのだ。
「リィルって急に出て来たって感じだけれどよ」
「どういった娘なのかしら」
二人は今度は首を傾げさせていた。
「今のサンドマン見たら何かありそうだけれどよ」
「それは何なんですか?」
「何なんだろうな」
甲児もここで首を捻らせた。
「ひょっとして」
「ひょっとして?」
「分身かもな」
またこんなことを言う甲児だった。
「分身じゃねえのか?サンドマンのよ」
「あんたそれどういう意味なのよ」
アスカは今の甲児の言葉にいぶかしむ顔で返した。
「分身って」
「だからよ。リィルはあれなんだよ」
甲児はさらに言うのだった。
「もう一人のサンドマンなんだよ」
「全然意味わからないけれど」
アスカは甲児の言っている意味がさっぱりわからなかった。
「だから何なのよ」
「クローンなんだよ」
またこんなことを言うのだった。
「クローンなんだよ。サンドマンとリィルはよ」
「・・・・・・あんた何処まで馬鹿なのよ」
ここまで聞いて完全に呆れるアスカだった。
「全然似てないじゃない。それで何でクローンなのよ」
「けれど可能性としちゃありだろ」
「ないわよ」
頭からその可能性を全否定するアスカだった。
「そんなの。あるわけないでしょ」
「そうか?」
「そうよ」
アスカはとにかく否定していた。
「そんなことあるわけがないでしょ」
「いや」
ところがであった。
「では話そう」
「えっ!?」
「サンドマンさん!?」
そのサンドマンがここで口を開いたのだった。
「まさかと思うけれど」
「リィルが分身だったのか?」
「だからあんたは黙ってなさい」
アスカはここでも甲児を黙らせる。
「話がややこしくなるから」
「ちっ、何だよ」
「見てもらいたい」
ここで映像が映し出された。
「過去のことをな」
「過去っていうと」
「まさか」
皆ここでおおよその察しをつけた。
「サンドマンさんの」
「そういえばサンドマンさんって」
皆ここでサンドマンについて思うのだった。
「一切が謎で」
「っていうかその素性は誰も知らないっていう」
そうだったのだ。彼はその全てが謎だったのだ。そのありとあらゆることに関して謎であるのが彼、サンドマンという男なのである。
「それがまさか今」
「はっきりするのかしら」
「その通りだ」
サンドマン自身の言葉であった。
「私のことを。見てもらいたい」
「わかりました。それじゃあ」
「今から」
こうして彼等はサンドマンのことを見るのだった。また一つ大きな謎がはっきりとするのだった。

第百四十話完

2009・8・5  
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