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SAO─戦士達の物語

作者:鳩麦
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GGO編
  百十一話 消えない叫び

 
前書き
はい、どうもです!

さて、今回は……アイリさんの過去編!

では、どうぞ!! 

 
「んじゃまぁ、ちょっち行ってくらぁ」
洞窟の入口の方へと歩き出したリョウがそんなことを言った。同時に三人から声が返ってくる。

「頼んだ」
「頑張ってね!」
「……気を付けて」
「お~う」
のんびりとした声で返し、リョウは洞窟の外へと出て行く。アイリには何となく、その背中が頼もしく見えていた。

あの後、とりあえず今後どうするか、と言う話が第一の話題になった。結論から言うと、シノンやアイリを撃たせないためには死銃を倒すしかない。と言う事になり、なので、四人は二人二人の組で行動することにしたのだ。
先ず、車に乗ってこの砂漠から脱出、離脱するのは、当然死銃に狙われている二人だ。運転はアイリがする事になった。どういう訳か覚えの良い彼女は、一応基本的な事だけならば車の運転だろうと即座に覚えてしまった。残る二人、死銃に撃たれても死ぬ心配の無い二人は、無論死銃の相手だ。その場に置いて彼を見つけ出し、無力化。即ち撃破する。そうすれば、現実世界に居るであろう二人の殺人者も、
さて、しかしその離脱が成功するのには、一つ条件が有る。即ち、死銃本人がこの砂漠に居てくれなければ意味が無いのだ。と言う訳で、四人の内一人がいったん九時半のサテライトスキャンにわざと身を晒し、死銃に位置を伝える事で彼をおびき出しつつ、ついでにBob自体の現在状況も確認すると言う事になった。で、その担当になったのがリョウと言うわけである。そんなこんなで、リョウはしっかりとした足取りで、洞窟を出て行った。

リョウが居なくなると、再び洞窟は沈黙に包まれた。キリト、アイリ、シノンの三人は互いの顔を見合うと、何となく溜息を吐く。
別に互いが互いを頼りないと思っていたりするわけではない。唯なんとなくここ数十分緊張しっぱなしなので、三人とも疲れているのだ。

「なーんか、疲れちゃうね」
「ここ十数分の間に三日分くらいのストレス受けてるような感覚だよ」
「そうかも……」
三者三様に言葉を紡ぐ。と、アイリはそんな中で、キリトが妙に真剣な顔で何かを考えているのに気が付いた。

「どうしたの?キリト君」
「え?あ、あぁ、いやその……」
首をかしげて尋ねる。と、キリトは焦ったように頭を掻いた。

「アイリさんは……兄貴と知りあいだったりするのか?」
「え?どうして……ってあぁ、さっきの事?」
先程派手に言い争いかけてしまった事を思い出して、アイリは苦笑しながら尋ねる。と、キリトは言いずらそうに返した。

「いや、その……その後も結構知り合いっぽい感じだったし……」
「あー、あはは。そう言えばそうだねぇ」
なんだかんだで、言い争いかけてからは互いのリアルが言わずとも知れてしまったので、そんな風になってしまったかもしれない。
と、キリトの言葉は続いた。

「それにその、兄貴の言ってた、“仇”……って?」
「…………」
キリトは、それを聞いた途端に、アイリの表情や雰囲気に、何かしらの変化が有ると予想していた為、それを聞いてもアイリが何のアクションも起こさなかった事に、内心少なからず驚いた。相変わらずアイリは少しだけ微笑み、キリトに返す。

「キリト君は、それを聞いても良いのかな?」
「え……?」
「キリト君、キミならこの意味分かると思うけど……知らなかった方が良かったって、後で後悔する事って、きっとあると思うな」
そう言ったアイリの顔は、相変わらずの微笑みだった。しかし、此処に来てキリトは先程の印象の間違いを知る。アクションが無い等ととんでもない。その瞳の奥に、深い影のような物が宿っているのが、キリトにもようやく分かった。同時に、アイリの言葉の裏側も、キリトは理解する。

「聞かない方が良い」と言う優しい言葉では無い。おそらく、内心ではこう言いたいはずだ「聞くな」と……しかし……

「……それでも、聞いておきたい」
「……どうして?」
「……知らなかったら、後で後悔する事だって、きっと有ると思うからさ」
「…………」
真顔で言った言葉に、アイリは一瞬だけポカンとした表情になった。と、それに続くようにシノンが言う。

「私は別にかまわないわ、もう何言われたってリョウ兄……リョウに態度変えたりしないって決めてるから」
「そ、そうなんだ……」
聞こうと思っていたアイリは逃げ道をふさがれたからか苦笑気味に笑うと、少し溜息を吐いた。

「あぁ、もう……困っちゃうなぁ……」
「……頼む」
アイリに向かって、深々と頭を下げる。彼女は慌てたように両手を振った。

「わわわわ……!そんな頭下げないで!」
パニクったように言って、その後うなだれるようにアイリは首を垂れる。

「わかった。話すよ……でも、これで後でリョウに怒られたりしたらキリト君のせいにするからね!?」
「う……は、はい……」
若干怒ったように言うアイリに、キリトはおとなしく頭を下げる。若干恐ろしかったが、四の五言っても仕方がない。
キリトが頷いたのを確認して、アイリは再びその顔に微笑を浮かべる。顔そのものは幾らか幼げなのに、その表情の方はどこか大人びていて不思議な魅力が有った。

「じゃあ、先ずは問題出そうかな」
「え?」
「問題。私は、だれでしょう?」
「は、え?誰って……」
キリトが上向いたのを見て、付け加えるようにアイリは言う。

「あぁ、「アイリさんじゃ」とかそう言うのじゃないよ?私の、リアルは誰でしょう。って事」
「え、えぇ?」
「私は、キリト君のリアルが誰だか、知ってるよ♪」
「なっ……」
ふふふ~とからかうように楽しげな含み笑いをして、アイリはニコニコとキリトを見る。キリトは戸惑ったように考えだした。とはいってもアイリの名前に会いそうな知り合いに心当たりはないし、そもそも情報が少なすぎる。手掛かりが無いのでは辿り着きようも無い訳で……

「わ、分かりません……」
「だよね~」
あはははと笑いながら言ったアイリに、ようやく自分がからかわれたのだと言う事に気付く。この人、見た目はともかく、自分より年上のようだ。

「私は、キミの学校の生徒会の副会長だよ」
「え……って、天松先輩!?」
「正解!」
そうなのだ。GGOに置いてキリトと同じく非常にまれな事に光剣使いであり、シノンの数少ない友人(?)でもある彼女、アイリ。本名は天松美雨、即ち、リョウの所属する、生徒会の副会長である彼女なのである。

「それは……え、ホントにですか?」
「あ、信じられない?なんなら君の恋人さんの名前行ってあげよっか?」
「いや!良いです。はい」
アイリが悪戯っぽく言うと、キリトは即座にもろ手を挙げた。シノンはと言うと、目をぱちぱちと開いたり閉じたりしている。

「同じ学校……?」
「あ、うん!キリト君とはね、ちなみに彼が言った通り、私は先輩でーす!」
「……中学校?」
「高校だよ!?」
アイリがずっこけつつ言うと、シノンは思わず、と言ったように苦笑した。

「アイリが先輩って、なんかちょっと想像つかないわね」
「あ、ひどい!それどういう意味!?」
「そのままの意味」
「えぇー!?私そんなに子供っぽいかなぁ……あ、若いッって意味!?」
「子供っぽいで合ってるわよ」
「さいですか……」
カクン、と項垂れたアイリを見て、今度はキリトが苦笑した。

「へぇ……せんぱ……アイリさん、シノンと話してるときはいつもこんな感じなのか……なんですか?」
「敬語じゃなくていいよ~。うん、何時もはもうちょっと棘々しいけどね。今日は丸いみたい」
くすくす笑いながら言ったアイリに、シノンが突っ込む。若干頬が赤い。

「誰がよ、アンタ達に丸くなった覚えは無いわよ」
「えー?でも可愛かったよ、さっきのシノンとか……」
「忘れなさい」
「ぶー……」
苦笑しながら眺めつつ、何となくキリトはこのそっけない少女と人懐っこい少女の組み合わせに、デジャヴを感じたりしていた。今頃何をしているやら……

「っと、で、そのアイリさん、本題を……」
「あ、忘れてなかった?」
「あの……」
「あははっ、冗談冗談」
愉快そうに笑うアイリにキリトは内心押され気味だったが……しかし彼女の瞳がすっと元の微笑みに戻り、軽く地面を見つめたのをみて、その表情を引き締めた。
その横顔はどこか悲しげで、これからの話が、消して愉快な話では無い事をありありと示していたからだ。

「キリト君は分かると思うけど……私もね、去年まではSAOに居たの」
「……」
「えっ……」
シノンが驚いたように声を上げたが、キリトは当然ながら驚きはしない。自分の通うあの学校に居ると言う事自体、つまりはそう言う事だからだ。

「私は、中層の、それも下の方で、絶対に大丈夫なレベル帯の所だけで狩りをして生活してる、そんなプレイヤーだった。何時もね、友達と二人だったんだ」
「友達……?」
「うん。リアルでも友達で、私よりもネットゲームが好きだった。ちょっと人見知りだけど、優しくて、私とは前衛と後衛でコンビ組んで、一緒に頑張ろうって、ゲームを始める前から話してた」
「…………」
キリトは既に、この時点で、アイリの語る物語の行きつく先が見え始める。それはそうだ。何故なら……

「でも、突然あんなことになって、家に帰れなくなって、あの子も私も、パニックになっちゃった。始まってからしばらくは、ずっと二人で始まりの街にこもってて、泣いてない日は、無かったかもしれないなぁ……」
「…………」
「でも、二か月半位経って、だんだん私は落ち着いて来てた。あの子も、まだそれでも不安定で、外の世界を怖がってたけど、でも、一緒に行くって言ってくれた。そうやって、私達は外に出たの」
何故ならそれを語るアイリのだんだんと、悲しみの色を増していたからだ。

────

私達の冒険は、始めはそんなに問題なく進んでた。下層とは言え、モンスターたちは怖かったし、あの子は何度も悲鳴あげたりしてたけど、前衛で盾剣士だった私が押さえて、あの子が後ろから槍で突く。そうやって、一体一体モンスターを倒して行って、だんだん心を慣らして、レベルを上げていった。

私が、しっかりしなくちゃいけないって思った。あの子はずっと少しだけ不安定で、おびえ易くなっちゃってたのに、それでも私と一緒に来てくれたから。
私だって少しは怖かったけど……でも、そんなのなんともなかった。私が、あの子を守らなくちゃいけないんだって、ずっとそう思ってたから。
いつか、ゲームがクリアされるその日まで。攻略なんか出来なくたっていい。でも、生きることをやめたくは無くて、少しでも人間らしい暮らしがしたかったから。私達はその思い一つで、未知の世界をゆっくり、ゆっくりと進んで行った。

いや、今思えば、そう思っていたのは私だけだったのだろう。彼女を守るなんて言うのは、私の、思いあがりだったのだろう。

あの日……アインクラッド、第14層夕方のフィールドで、私とあの子はオレンジプレイヤー数人に襲われた。
初めに、私の肩に行き成りダガーが刺さった、麻痺毒それで麻痺った私の前で、あの子もそれを喰らって、倒れた。私達を襲ったそいつらは、もう少し上の層に居られるレベルに達しているにも関わらず、わざわざ下層に降りて来て人を襲うって言う、最低な連中だった。

レベル自体は低めの麻痺毒で私達を麻痺させたアイツらは、慣れた様子で私達を脅した。初め、私は強気になって拒否した。アイツらがもし私達の体に触れたら、その時点でハラスメントコールで牢獄に送ってやれる。そう思ったからだ。
でも……武器を突きつけても、多少HPを減らしても折れない私に業を煮やしたアイツらは、あの子の方を痛めつけ出した。

『ギアッ!?あぁ……あぁぁぁぁ!!?』
『■■■!?』
『あぁぁあぁぁ……ぁぁぁぁぁぁあああああ!!!?』
私は、剣を刺されたりしてもまだ耐えられたけど、元々気の弱いあの子は、そうじゃなかった。その悲鳴をきいて、すぐに私はそいつらの要求をのんだ。ストレージを開いて、アイテムを全てそいつらに渡した、でも……

そいつらは、その悲鳴が気に行ったとか言う理由で、私をその場にほったらかし、アイリを痛めつけ始めた。
仰向けにされ、剣をお腹に刺されたあの子は、悲鳴を上げて逃れようとした。でも、その手もダガーで串刺しにされて、動くことも出来ずにただ喚かされる。

『いや、いや!嫌ぁ!止めて!止めてぇ!止めっギァッ!?アァァァァ!!?』
『おい、見ろよ此奴、スゲェ良く鳴くぜ』
『うほっ、いいねぇ……もっと鳴け、鳴けよほらぁ』
『やめて!止めろぉぉ!!!!』
こんなことを言ったって、私はその場でもがくしか出来なかった。

『はぁ?やめろってお前……おい』
『あいよぉ』
『ひっ、ギァァァァァッ!!?!?』
『■■■■!!!!』
何を言ったって無駄。ただただ、アイツらは自分達の歪んだ欲望の向くままにアイリを痛めつけた。そうして、そのHPが遂に尽きそうになると、流石に不味いと思ったのか、あの子を解放……しようとはしなかった。

『ゴッ!?う、く……』
『ほら、死にたくねぇンだろ?飲めよ。飲めよほらっ!』
『う……か……』
仰向けのあの子の口に無理矢理ポーションの瓶を咥えさせると、その中身を無理矢理飲ませ、“敢えて”HPを回復させたのだ。そうして彼女のHPが有る程度回復すると……

『はい、もっかーい♪』
『ゥアッ!?ガッ!?ゲホッ、ギッ!?』
『このッ、このォォォっ!!』
『うっは。なんか壊れたラジオ聞いてるみたいだな。うるっせー!』
『言えてんな。が、これがウケるんだから不思議なもんだぜ』
『人間ってそう言うもんだったりしてな。人類皆ドS。的な!?』
『ギャハハハハハハハハ!!!!!』
再びリンチ。殴る、蹴る、体中にダガーを刺したり、色々な所切り裂いて遊んだり、ゆっくりと体を切られたり刺されたり、毒で徐々にHPが減って行くのを眺めたり、とにかくあらゆる方法で、あの子は痛めつけられ、何度も何度も、死の恐怖を味わわされ続けた。
あの子が泣きながら悲鳴を上げるのを見て、アイツらはますますヒートアップしたように、下品な笑い声を上げてあの子を痛めつける。
私は麻痺毒から逃れようとして暴れまわったけど、そんなことで毒が消える訳も無く、動けないまま唯芋虫みたいにのたうち周るだけ。あんな連中でも、私の麻痺毒が消えるタイミングと、あの子のHPが消えそうになるタイミングだけは見逃さなかった。
一度だけ……あの子と目が合った。

『助けてよ……スィぃ……』
必死に、その手をこっちに伸ばそうとしたあの子の手を、私は体を引きずって掴もうとして、でも、掴む前に、その手も、姿も、オレンジ達の鎧の向こう側に見えなくなった。

そんな悪夢は、二時間近く続いて、やがてアイツらは、私のアイテム全てを奪って、あの子のアイテムは奪わずに、その姿を消した。同時に、私より遥かに速くその毒が切れていたあの子は……そのまま、何処かにその姿を消した。
何重にもなった毒が十分たってようやく消えてから、私はその層で私達が止まっていた宿、フィールド、あらゆる場所を探したけれど、結局、あの子は見つからなかった。

次にその子の行方を掴めたのは、四か月も後。私たちが襲われた14層より遥かに上。28層での話しだった。
その層に居るとされていたオレンジギルドが、何者かに壊滅させられた。と言う噂を聞いたのは、ソロになって少しずつ上層に向かって進んでいる中で、手に入れたドロップ品を売ろうとプレイヤーショップに入った時。それが、私達を襲ったギルドの話だと言うのは、活動しているギルドの特徴や、襲われてからずっと追い続けてきた情報で分かった。
壊滅したことは素直に喜べたけど、その時同時にもう一つ私の耳に入った話しが、何となく心の何処かに引っかかって仕方なかった。

曰く、それを引き継ぐように、女性のオレンジプレイヤー一人が。その層で出るようになったって話。その女は男性プレイヤーばかりを襲っては、HPをギリギリまで減らし無理矢理ポーションを飲ませて回復させ、いたぶる。最近では一人が犠牲になったと言う話を聞いた時には、私はその人達に駆け寄って話を聞いて居た。

それから三日後。もう一人が犠牲になったって話を聞いた時点で、私はその犠牲が出たっていうダンジョンに走った。何人かできた友達には止められたけど、そんなのは耳に入らなかった。
夜まで掛かってその岩山系のダンジョンを探し回り、そうして月が高く上り、アインクラッドの内部を照らす頃になってようやく、私は目的の人を見つけた。
あの子は、岩壁に両手をダガーで刺して固定した男性プレイヤーと向き合って、銀色の月に照らされながらそこに居た。

『■■■ッ!!』
『?』
私が名前を叫ぶと、あの子はこっちを向いてくれた。でも、私の瞳には同時に、一番見たくないものが見えてしまっていた。
あの子のカーソルは既に、毒々しいオレンジ色に染まっていたのだ。

『あれー?スィだ、どうしたのー?』
『■、■■■こそ……一体、何してるの?』
『あはっ、何って……』
言葉が震えているのが自分でも分かった。そんな言葉に、あの子はとても、それこそ、いっそ不自然なほどにとても明るい声で返してくる。そうして、手に持った銀色の槍を……

『っ!?やめっ──』
『遊んでるんだよ♪』
銀閃と共に、振り下ろした。悲鳴を上げながら、男性プレイヤーがとても不快な音と共に爆散した。

『な、なんで……』
『?どうしたの?顔色悪いよ?』
彼女の言葉を遮るように、私は叫んでいた。

『なんで、そんな……殺し……殺すなんて……!!!?』
『わっ……』
『なんで!?その人を、今、どうして殺したり……』
混乱しながら言う私に、彼女は首をかしげて答える。

『どうして……?うーん、正当防衛……かなぁ?』
『せ、せいとう……』
『うんっ♪』
オウム返しに返した私に、あの子は相変わらず笑いながら言った。

『私ね、教えてもらったの!!あのね、スィ。この世界では、力が全部を決めちゃうんだよっ!レベル、数、武器、防具、情報!そう言う力が何もかも全部を決めちゃうの!それを持ってない人は、奪い取られるか、苛められるしかないんだよ!』
『え……?え……?』
『だから、私は苛められないようにもっともっと強くならなくちゃ!今の人も、いつか力を手に入れたら私の事をいじめに来るかもしれない!それなら、今ここで遊びながら殺しておいた方が良いかなって思って!!それにほら!』
続く言葉が、親友の口から出た物だと、私はしばらく信じることが出来なかった。

『“楽しいから!!”』
その言葉はまるで槌のように、私の頭を揺らした。

『たの……しぃ……?』
『うん!楽しいよ!みんな私を怖がった目で見るの!誰も私をいじめたりなんてしない!私今、とっても楽しいよ!』
そんな言葉を、彼女はとびっきりの笑顔で語った。そんな笑顔を見て、私は確信する。

──違う──

この子は、私の知っているあの子じゃない。
考えるよりも先に、口が動いて居た。

『そ、そんな……そんなの駄目!人を殺して楽しいなんて……お願い!元に戻って!!』
『?どうしたの?突然、』
『だ、だって、人を殺して楽しいなんて……そんな事、貴女は言う人じゃ無かったよ!お願いだから、元に『煩いなぁ、もう』え?きゃあっ!!?』
言葉を途中で遮られた、次の瞬間に、右肩に強烈な衝撃が来たと思ったら、私は尻もちをついて居た。
いつの間にか間合いまで入っていた彼女の槍に右肩を突かれたのだと理解するのに数秒を要し、後から自分のHPがガクンと減っている事に気が付いた。目の前に立った彼女を見上げるように見る。月明かりで、顔の片方が影になり、真っ黒に見え、左眼だけが私を見降ろしていた。

『なんでそんな事言うの?前の私に戻ったら、また苛められちゃうよ。今はとっても幸せなんだよ?なのにスィは私の邪魔するの?怒るよ?邪魔するなら……』
言いながら、彼女は持っていた槍の穂先を私の目に付きつけた。

『スィも殺しちゃうよ?』
私を見降ろすその笑顔は、余りにも明るくて、屈託がなくて……だからこそ、私には今の彼女がもう完全に私の知っている彼女では無いことが確信できてしまった。
彼女は、もっと小さくはにかむように、可愛らしく笑う子だった。優しく、モンスターを殺すことにすら罪悪感を感じるような……そんな子だったのだ。
だから私は、最後の望みを掛けて、言った。

『お願い……“アイリ”……』
だけどその言葉はあまりにも小さくて、

『……そっか♪』
結局のところ、もう壊れてしまった何かを……取り戻してはくれなかった。

『残念♪』
一片の迷いも無く振り下ろされる銀色の槍。それを見ながら、私は思った。

彼女に、フィールドに連れ出したのも、自分の攻略に付き合わせたのも、オレンジから守りきれなかったのも、私だ。彼女がこうなってしまった原因が私だと言うのなら……彼女が私に刃を振り下ろすのは、当然なのかもしれない。
彼女を守る責任も果たせないなら……初めから、この子を始まりの街から連れ出したりなんか……

『ごめんね……』
小さく呟いて……

『おーっと、なにしちゃってんの?お嬢さんよ』
『っ!?』
『え?』
突如として割り込んできた、別の槍が彼女の槍を受け止めていた。後ろを振り向くと、重そうな金属製の鎧に身を包んだ、しかしヘルメットと手鋼だけを付けていないと言う妙な格好の男が、そこに立っていた。

『あー、なる。もしかして、最近この層に居るって言う女オレンジってお前さん?』
『……あんた、何?』
『俺?俺ぁあれだ。しがないソロプレイヤーだな。うん』
『死ね』
最後まできいて即座に、アイリは自分の槍を男に突き出した。それを……

『ふっ』
男は絡めるように槍の柄で受けると、アイリの槍を軽々と跳ね上げ……吹っ飛ばした。そして……

『……あれ?』
『やだね』
ドズっ!!と、気持ちの悪い音がした。重厚な男の槍が、アイリの胸の中心に突き刺さり、そこから真っ赤なポリゴンが弾けていた。

『あ……あ……?』
『そっくりそのまま返すぜ』
凄まじいスピードで、アイリのHPが減って行った。グリーンを振り切り、イエロー、レッド……

『待っ……アイリ……!』
『ス、ィ……』
思わず伸ばした手に答えるように、アイリが私に手を伸ばす。でもその手が触れ合うより前に……

『死ね』
ズボッ!と男が槍を引き抜き、その瞬間、アイリは、私の親友は、私の目の前で爆散した。

『ぁ……』
小さな枯れた声が漏れ、即座に……

『ウワアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッッ!!!!!!!』
それが、絶叫に変わった。

──────

『なんで……』
『ん?』
ひとしきり絶叫し終えて、後ろに尚も立っていた男に、私は投げかけた。

『なんで、あの子を殺したの!!?』
凄まじい剣幕だったのだろう私の声に慌てたように、男は返した。

『お、おいおい、勘弁してくれよ。普通攻撃されたら反撃するだろ?』
『だからって、殺す事……!』
『いや、そりゃしょうがねぇだろ?俺のビルドは一撃特化なんだよ』
『そんな……そんな理由……』
詰め寄りながら、私は涙を流して男を睨んだ。
でも男は面倒臭そうに、頭を掻くと……

『あのよぉ……』
こう言った。

『“自分の命を守るために、他人の命を奪う事の一体何が悪いってんだ?”』
『な……』
『抵抗せずに殺されるなんざ、俺はまっぴらごめんなんだよ』
そう言って、男は振り向き、歩きだした。一瞬その背中に持っていた剣を刺したくなる衝動にかられたけど、やった瞬間私も殺される気がして、怖くて出来なかった。その代わり、精いっぱいの思いで、言葉を投げつけた。

『許さない……』
本当に、精いっぱいの思いで。

『絶対に……私は貴方を許さない……!!いつか、いつか絶対、アイリの仇……!!』
『……好きにしろよ』
ぷらぷらと後ろ手に手を振ってその男は去って行った。

装備の特徴から、その男が「ジン」呼ばれるトッププレイヤーだと知ったのは、それから数週間が経ってからの事だった。

────

「……これで、私の話はおしまい」
「…………」
「…………」
アイリの話しを聞き終わったキリトとシノンは、ただ、無言でそこに居た。言葉を紡ぐことすら、出来ない。それほどに、アイリの過去は凄惨過ぎた。
今も、アイリの、美雨の耳の奥深くには、あの日聞いた彼女の絶叫と、助けを求める懇願の声が消えない叫びとなって残っていた。
キリトが問うた。

「兄貴が……そんな事を……?」
「そ、私の親友を殺したのは……リョウだよ」
「…………」
シノンも、キリトも、完全にだまりこっくってしまった。苦笑しながら、アイリは問う。

「ちょっと意地悪かもしれないけど……どうかな?まだ、リョウを信用してあげられる?」
「…………」
すぐには、答えは返ってこなかった。アイリは少し複雑な気持ちで地面を見る。そうして、どうフォローした物かを考えだす。だが……

「出来る……」
「…………!」
シノンの小さな声が、その思考を遮った。顔を上げると。思案顔の、しかし何かを決意したような顔で、シノンはそこに居た。

「たとえ過去がどうでも……私は、今のリョウ兄ちゃんを信じる」
「あぁ……そうだな」
続くように、キリトが言った。

「昔の兄貴と、今の兄貴が、違うのか同じなのかなんて分からない。けど……俺はそれでも、今まで見て来た兄貴の優しさが、嘘だったなんて思わない……今もまだ、俺は兄貴を信じてる」
「…………」
少しだけ、驚いた。
しかし心の何処かで予想していたその答えは、アイリの心中に少しずつ染み込んで。

「そっか…………」
やがて彼女の顔を、

「良かった!!」
とびきりの、本当の意味の、笑顔で染めた。
 
 

 
後書き
はい!いかがでしたか!?
あ、言い忘れてました。今回ちょっとエグいです。

はい、というわけでALO編以来の外道チックで書いてみました、今回のアイリさんの過去編。いかがでしたでしょうか?

今更ながら言ってしまいますが、アイリさんはなろう時代に募集した、読者投稿キャラの方です。
なので過去話は要求通りそこまで重くないもので、投稿していただき、性格そのほか設定の細かさなどから採用してから、過去話は調整いたしました。
初めはもうちょいアレだったのですが、投稿者の方にご意見をいただいたりして、こんな感じの過去になりました。はい。

ちなみに、実はもっと過激な描写を入れようか迷ってR18表記しなきゃいけなくなる気がしてやめたという話が有ったり無かったりw

ここで小話。

アイリさんの初めの暗黙の「聞くな」。あれはむろん、キリトなら理解出来ると分かっていてやってます。というかむしろキリトがあそこまで踏み込んできたこと自体彼女には予想外だったのです。

アイリさん、過去ではスィと呼ばれていましたが彼女のSAO時代のHNはスイカといいます。これは投稿された当初のアイリさんのHNで、どこかで使えないかと思って此処で使いましたw

SAOの親友さんことアイリさん。あの人のどちらが結局本当の彼女だったのかは、読者の皆さんのご想像にお任せしますw

ではっ!!

あ、活動報告にちょっとしたお知らせございます!よろしければ覘いてやってくださいw 
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