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IS《インフィニット・ストラトス》~星を見ぬ者~

作者:白さん
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第十二話『モンド・グロッソscene1』

「“モンド・グロッソ”?」


スウェンはクラリッサにそう聞き返す。


「はい」

「上の方の話で何度かは出たが……どういうものかは知らないな」

「隊長でも知らない事が? モンド・グロッソとは簡単に言えば21の国と地域が参加して行われるIS同士での対戦の世界大会で、様々な部門の競技があるみたいです。今年から開催されたらしくて、一週間前から既に始まっていますよ」

「前者の言葉が気になるところだが、成る程。ISは兵器として運用されるはずが、何時の間にかスポーツの一環のようになっているな」


モニターの傍にあるコンソールをうつ手を止め、スウェンは傍らにあるコーヒーを一口飲むと、クラリッサの方を向き


「ところで、そのモンド・グロッソが何か?」

「シュハイク責任官がドイツ代表として出場なされるらしいです」

「ほう、ここ最近姿を見ないと思っていたが……」

「それで、今日の12時の試合で総合優勝者が決まるのですが……あと数分程度で始まりますね」

「それに責任官が出ると?」

「はい」

「……責任官も一言言ってくれればな」


するとクラリッサは口元に手を沿え、小さい声で


「あの人、ああ見えて結構恥ずかしがり屋なんですよ? 応援されるとかえって恥ずかしくなってそれどころじゃないですから」

「意外な一面もあるんだな……12時だな」

「恐らく中継で放映してるかと」


スウェンは傍のモニターの表示を変える。そこに映るのはシュバルツェア・ヴォルケを展開するシュハイクと、白を基調としたカラーリングの装甲を身に纏う女性が居た。


「シュハイク責任官の相手は『織斑 千冬』……日本の代表ですね」

「日本か……外装からみても、武装らしい武装はあの剣だけか」


そして開始の合図と共に両者は動き出す。シュハイクはクロコディールを用い、千冬へと切り掛かるが手にしている剣で防がれる。

レールカノンの砲身を千冬に向けるが、上体を反らしレールカノンを蹴り上げる。その後隙のできたシュハイクに、千冬は剣で切り裂こうとするが、左腕で手元を押さえられ攻撃は失敗に。

シュハイクと千冬は距離をとると、レールカノンの砲身を再度向けるシュハイク。放たれる弾は千冬にかわされるが、それでも尚撃ち続ける。


「良い性能だな、あのIS」

「確かあのISは“暮桜”日本が開発したものですね。見る限り、機動性はヴォルケよりも上ですね……」

「ああ、あの人がどう出るか……」


モニターの向こうでは激戦が続く。互いに攻撃を受け合い、徐々にシールドゲージが減少していく。その中、動き出したのはシュハイク。クロコディールの刀身を回転させ、千冬に迫る。

振り下ろされたその斬撃は防がれる事なく避けられ、逆にシュハイクに千冬の攻撃が。だが、直ぐさまクロコディールの刀身を分裂させ、右手のクロコディールで防いだ。

シュハイクの剣と千冬の剣がせめぎ合い、左手のクロコディールで一撃を狙うが、シュハイク自身も思わぬ事が起きた。先程まで目の前に居た千冬は姿を消していた。辺りを見渡すが、何処にも居ない。

すると、シュハイクの身体を影が覆う。上空を見るとそこには形状が変化し、エネルギーの刃を形成した剣を握った千冬が居た。

そして――




/※/





「……」


スウェンは自室のベッドの上で天井を眺めていた。シュハイクはあの日本代表の織斑 千冬に敗北した。あの戦闘は正直凄まじいものであった。シュハイクは恐らく、スウェンが戦ったときは手加減をしていたのでは?と思うほどの強さを出していた。それ自体にはスウェンは何も言わない。寧ろ、本気を出させるほど強くは無い自分が悪い。スウェンはシュハイクと連絡をとったが


『私の実力不足だ、逆に負けて清々しい気分だよ』

と言っていた。彼女がそこまで言うのだから、織斑 千冬という女性は相当の実力の持ち主だろう。だが、スウェンが気になったのはそれだけではない。織斑 千冬が使用していたあの武装だ。

あの武装がエネルギーの刃を形成している時、彼女のシールドゲージも減少していた。そして一瞬の隙を突かれ、あの刃に切り裂かれたシュハイクのシールドゲージは70%もあったのにも関わらず、一瞬にして減少してしまった。


「あの武装……気になるな」


そう言い、スウェンは携帯端末に番号を入れる。プルルと数秒間なった後、出てきたのは


『ハロハロばんばんわ~♪ やっほ~! 皆の天使、篠ノ之 たば――』


ぶつんと携帯端末の通話を切るスウェン。枕元にそれを置き


「寝るとするか……」


『今にも~飛びぬk――』


「何だ」


着信音の後に、スウェンは通話ボタンを押す。相手は案の定、束だ。


『うぇ~ん、ヒドイよ~スーくん~』

「いや、すまない。妙な挨拶が聞こえたものでな。それで、束、あんたに聞きたい事がある」

『なにかな、なにかな! スーくんの為なら何でも言っちゃうよ?』

「あんたなら知っているだろう? 暮桜というISの武装を」

『勿論しってるよ~! あの刀は“雪片”。暮桜の唯一の武器で現存在するISの武装の中じゃトップクラスの武器だよ!』

「ほう……それで? あのシールドエネルギーを一瞬にして減少させるあの刃は?」

『スーくん、単一仕様(ワンオフ)能力(アビリティー)って知ってるよね?』

「ああ、ISが操縦者と最高状態の相性になったときに自然発生する能力のことだろう?」

『そそ。暮桜の単一仕様能力は“零落白夜(れいらくびゃくや)”。切り裂いた対象のエネルギー全てを消滅させるというスバらしい能力なのだよ! 詰まり、ISのシールドバリアーを斬り裂いて相手のシールドエネルギーに直接ダメージを与えられる事が出来るのだ!』

「……だが、自身のシールドゲージも消費するため、日本の言葉でまさに“諸刃の剣”といったところか」

『スーくん良くそんな言葉知ってるね~! エライ、エライ!』

「からかうな……だが感謝する。それではな」

『えー! もう切っちゃうの? もっと聞きたい事ないかな、ないかな! 例えばこの束さんのスリーサイズとか――』

「切るぞ」


そうして通話が終了した。呆れた顔をしながら、スウェンは再び天井を眺める。


「……悪い奴ではないのだがな、あいつも」




/※/




「全員整列したな」


翌日の早朝“シュバルツェ・ハーゼ”の隊員達が、スウェンの前で一寸の乱れも無く整列している。


「今日の訓練は……まあ、昨日と同じだ。気楽とは言えないし、気を抜けとも言えない。だが、いつもどおりにやってくれれば構わん」

「けど向上心忘れる事無かれ、ですね! 隊長」


隊員の一人が笑みを浮かべて言うので、スウェンも思わず口元が綻ぶ。


「ふっ……ああ、皆頑張ってくれ。それでは始めてくれ」

「「「はっ!」」」


隊員達が後ろを向き、訓練に向かおうとしたとき


「この訓練で成績が一番よかった者が隊長の個人訓練を受けれるというのはどうだ!」

「「「賛成!」」」

「ちょ! 待て! 今日は午後から私が……」


ラウラが焦りながら異を唱えるが


「却下! それでは始めるぞ!」




「人を賭けの対象にするな……」

「良いではないですか、これで隊の向上に繋がるなら」

「そうは言ってもだな……」

「ふふっ、けどスウェン中尉が隊長になってから、前よりも隊が良くなってきてますからね。シュハイク責任官の思惑通りです」

「……それを聞くと何故か気に入らないが……まあ、こういうのも悪くは無いな」

「あれ!? 今、隊長笑いましたか!?」

「どうかな……」


スウェンは振り向く。


(この隊ならずっと居ても良いな。願う事なら、これがずっと続けば良い……)


そう願い、歩いていく。




だが、3年後に開催される第二回モンド・グロッソで起こるとある事件によって、その儚い願いは崩れさるのであった……。


 
 

 
後書き
次回、原作にぐっと近づきます。

この作品における、オリジナル設定があございます。今明らかにしているのは以下です。


ツヴァイクはレーゲンの姉妹機ではなく、ヴォルケの姉妹機である

イグニッション・プランより先にツヴァイクは独自開発、採用。レーゲンは試作機として配備されている


となっています。読者の方々には本当にわかりにくい描写となってしまって申し訳ありません。今後も精進して執筆していこうと思います。 
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