スーパーロボット大戦パーフェクト 第三次篇
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第百十二話 赤い果実
前書き
第百十二話 赤い果実
第百十二話 赤い果実
ロンド=ベルの面々に礼を述べたロジャーは次の日は街の郊外に出ていた。そしてそこで農園を見回りとりわけトマトを見ているのだった。
「ロジャーさんではないですか」
「はい」
彼の前に出て来たのはゴードン=ローズウォーターだった。
「そうですが」
「今日はどうしてこちらに」
「少し気になることがありまして」
彼は謎については話さなかった。
「だからこちらに」
「気になることとは?」
「トマトですが」
このことは問題ないだろうと思い話に出した。
「見たいと思いまして」
「トマトをですか」
「どれも見事ですね」
ロジャーはそのトマト達を見て言った。
「赤々としていて熟れています。どれも」
「どれもですか」
「違いますか?」
「そうしたトマトだけを残しているのです」
彼はロジャーの言葉にこう返すのだった。
「だからです」
「そうしたトマトだけを?」
「はい。優れたトマトだけではありません」
彼は言う。
「中には劣ったトマトもあります」
「ではそういうものは全て取り除いて」
「その通りです」
彼が言うにはそうであった。
「ですから。ここにあるのは全て熟れたトマトなのです」
「左様ですか」
「何でしたらお一つ如何でしょうか」
「トマトをですか」
「はい。宜しければ」
こうロジャーに対して勧めるのだった。
「どうでしょうか」
「いえ、遠慮しておきます」
だがロジャーは今はそれを断った。
「折角ですが」
「宜しいのですか」
「はい、お気持ちだけ受け取らせて頂きます」
礼儀正しくこう返す。
「今は」
「わかりました。それでですね」
「はい」
ここで話が変わった。
「貴方に御願いしたことですが」
「御願いしたこと?」
「どうやらされはじめたようですね」
こう彼に対して言ってきた。
「ようやく」
「!?」
「お忘れですか?」
ロジャーが今の言葉に目を止めたのに対してまた言ってきた。
「このことを」
「私は貴方と御会いしたのははじめてですが」
怪訝な声をゴードンに返した。
「記憶にある限りは」
「そう、記憶です」
ゴードンは記憶という言葉を強調させてきた。
「記憶なのですよ」
「記憶・・・・・・」
「全ては記憶の中にあります」
ゴードンは今度はこう言った。
「貴方と私のことも」
「私のことが」
「そう。貴方のこともです」
ロジャーを見つつ言うのだった。
「全てはそこにあります」
「私のこともまた」
「では貴方にあらためて御願いしたいのですが」
「仕事の依頼ですか?」
「そうなるでしょうか」
ゴードンもそれを否定しない。
「やはりこれは」
「否定されませんか」
「それでです」
ゴードンはさらに言葉を続けてきた。
「宜しいでしょうか」
「今私は仕事の依頼を調査中です」
ロジャーはまず彼にこう述べた。
「ですから」
「お受けできないと」
「申し訳ありません」
そしてここで断った。
「今の仕事が終わってから引き受けさせて頂きます」
「ですがおそらく同じでしょう」
「同じ?」
仕事は断ったが彼の話は聞くことになった。
「同じとは一体」
「私が頼む仕事の内容です」
ゴードンの顔は微笑んでいたが目は笑ってはいなかった。
「それはおそらく同じでしょう」
「同じというのですね」
「この街の記憶」
彼は言う。
「それを調べてもらいたかったのですが」
「この街の記憶を」
「そうではないのですか?貴方が今引き受けている仕事は」
「お答えすることはできません」
ネゴシエイターとしての倫理を口に出すのだった。
「それは」
「左様ですか。それは」
「はい。できません」
また言うロジャーだった。
「何があろうとも」
「それはわかっているつもりです。まあこれは憶測です」
「憶測、ですか」
「それ以上、それ以外の何でもありません」
一応こうは言いはする。
「ですから御安心を。忘れて下さっても結構です」
「わかりました。それでは」
「ただ。貴方に以前頼んだ依頼ですが」
しかしこの話はするのだった。
「それは思い出しては頂けませんか」
「申し訳ありませんが」
それはどうしても答えられないのだった。
「それは」
「左様ですか。では仕方がありませんね」
「そうですか」
「それでです」
ゴードンはここでまた言ってきた。
「まだお時間はおありですか?」
「時間ですか」
「はい。それはどうでしょうか」
こう彼に問うてきたのであった。
「宜しければコーヒーでも」
「コーヒーを」
「お話では黒い色のものがお好きだそうですが」
「それは否定しません」
はっきりとは言わないがその通りであった。
「黒はいい色です」
「では一杯宜しいでしょうか」
あらためてロジャーに勧めるのだった。
「コーヒーを。どうぞ」
「はい、それでは」
話は終わりロジャーは彼のコーヒーを受けた。こうしてここでの話は終わった。だが結局謎はここでも何も解決しないのであった。
「ロジャー、ここでの話は」
「同じだな」
車を運転しながら隣のドロシーに答える。
「ここでもな」
「そう。同じなの」
「むしろ謎は深まったと言うべきか」
彼は言う。
「農園に行ったことで」
「そう。さらになのね」
「ああ。記憶か」
まずそのことについて言った。
「それにトマトか。一体何なのだ」
「何もかもがわからないのね」
「さらにわからなくなった」
それを否定しない。
「だが。あの場所での話は終わった」
それもまた言う。
「一旦家に戻るか」
「わかったわ。それじゃあ」
こうして彼は一旦自分の家に戻った。彼が家に戻った時ロンド=ベルの面々は家にはいなかった。家にいるのは執事の彼だけであった。
「彼等はまた出たのか」
「はい」
その執事のノーマンが彼に答えた。
「皆様もう」
「そうか。相変わらず動くのは速いな」
既にそのことを把握しているのだった。
「では旦那様も」
「そうだな。まずは昼食を採ってから」
「はい」
そのうえでまた調べる為に街に出ようと思っていた。しかしだった。
「昼食は一人でより二人でだったかしら」
「むっ!?」
「私もご一緒させてもらっていいかしら」
金髪の妖艶な女がロジャーの前に姿を現わした。
「どうかしら。ロジャー=スミス」
「君か」
ロジャーはその金髪の美女を見て目を少し強いものにさせた。
「一体どういった用件だ?」
「少し興味があって」
女はまずはロジャーの問いに答えなかった。
「それで来たのだけれど」
「ここにか」
「ええ。それでまずは昼食だけれど」
「わかった、エンジェル」
ロジャーはまず彼女の名を呼んだ。
「君も一緒に食事をだな」
「ええ、御願い」
こうしてロジャーはまずはそのエンジェルという美女と共に昼食を採った。その場で彼女は同席させてもらっているロジャーに対して問うてきたのであった。
「また依頼を受けたそうね」
「答えるつもりはない」
ゴードンとのやり取りの時と同じであった。
「そのことについてはな」
「相変わらずね」
エンジェルは彼のその言葉を受けて微笑んだ。
「けれど」
「何だ?」
しかしまだ言うのだった。
「アレックスのところにも行っていたわね」
「何故君がそれを知っている」
「言わなかったかしら。私は彼の秘書でもあるのよ」
「それは初耳だな」
エンジェルの話を聞いて内心警戒はした。
「今はじめて聞いたことだ」
「あらっ、隠してはいなかったけれど」
「しかし言いはしなかった」
言わなければわかることではないということだ。
「そうだな」
「随分意地の悪い見方ね」
「事実を述べたまでだ」
ロジャーはステーキの肉をナイフで切りながら述べた。
「私にとってはな」
「そう。貴方にとっては」
「そういうことだ。それでエンジェル」
「ええ」
「君がここに来た理由は私と食事を採る為だけではないな」
かなりストレートに彼女に問うた。
「そうだな。それは」
「わかっているのね」
「君が来る時はいつも何かが起こる」
ロジャーの言葉は普段より真剣なものになった。
「そう。今はその最中だがな」
「当たりよ。理由があって来たのよ」
彼女もここでは隠さなかった。
「貴方の前にね。ロジャー」
「それで何の理由なのだ」
「怒らなくてもいいじゃない。記憶のことだけれど」
「記憶・・・・・・」
己の中に芽生えたエンジェルへの疑念をここでは見せなかった。
「そう。記憶だけれど」
「何のことだ?」
「貴方今度の依頼は記憶に関することね」
疑念を出すまいとするロジャーに対してまた言ってきた。
「そうね。間違いないわね」
「何度も言うが仕事のことについて言うつもりはない」
このことは何としても引くつもりはなかった。
「これはネゴシエイターとしての最低の責務の」
「わかっているわ。けれど記憶といえばこの街の記憶は」
「・・・・・・・・・」
「随分と短いわね」
実に思わせぶりな言葉であった。
「そう。四十年程度しかないわね」
「一体何が言いたいのだ?」
何故彼女が知っているのかと思いながらもやはりそれも隠して問うた。
「君は。昼食にアルコールを出した覚えはないが」
「安心して。酔ってはいないわ」
エンジェルはそれは否定した。
「ただ。聞いた話よ」
「うむ」
「私の聞いた話だけれど」
隠す気もないカモフラージュであったがロジャーはあえてそれに乗り話を聞いた。
「シュバルツは過去を知っているようね」
「この前私はまたあの男と闘った」
こう答えるだけだった。
「ジェイソン=ベックともだが」
「私は一人知り合いがいるの」
エンジェルはさらに言うのだった。
「彼女から聞いたのだけれど」
「どういった話をだ?」
「外から来た人間がいるわね」
「ふむ」
内心でそれはロンド=ベルのことだと確信していた。
「そして彼等は今この街の謎を解こうとしている」
「そうなのか」
「ええ。彼等は既に何かを感じているわ」
このことも言うのだった。
「そう、街の何かをね」
「奇妙な話だ」
ロジャーはエンジェルの話をここまで聞き終えたうえで述べた。
「まるでこの街がイミテーションみたいな。そう」
「そう?」
「作り物であるかのような話だ」
この時の言葉は考えて出してみたものではない。ただエンジェルを煙に捲く為の目くらましの言葉であった。
「そんなことは考えたこともなかったが」
「そうなの」
「そうだ。ない」
これはあえて出した嘘であった。
「それはな」
「なかったのかしら」
しかしエンジェルの言葉はわざと出した懐疑的なものであった。
「本当に?」
「疑うのか」
「少なくともあまり信じないわ」
このことをはっきりと告げてきた。
「私はね」8
「信じる信じないは自由だ」
「けれど。あれね」
ここでまた言ってきた。
「最近結構物騒になってきたわね」
「それは否定しない」
彼が最もよくわかっていることだった。
「ベックも脱獄したしシュバルツも生きていた」
「ダストン大佐も大忙しよ」
「大佐もか」
その名前を聞いたロジャーの目が少し止まった。
「お忙しいか」
「結構以上にね。そして私も」
「君のことは聞いてはいないが」
「聞かせたいのよ」
くすりと笑って彼に言ってきた。
「レディーの日常をね。それでなのよ」
「どうしても聞いてもらいたいのか」
「そういうこと」
また笑って言うのだった。
「それでね。この前だけれど」
「どうかしたのか」
「この街を色々と見ることになったけれど」
「この街をか」
「ええ。やっぱり変わった街ね」
あらためてこの街のことを話すエンジェルだった。
「一つの街で完全に成り立っているわね」
「そうだな」
「そして外の世界のことは一切わからない」
このこともロジャーに告げてきた。
「外から来ている人もいるのに」
「その話はしないと言った筈だが」
「出入りしているのは一人とは限らないわよ」
エンジェルはロジャーの言葉をまずは無視した。
「そして一つとも限らないわよ」
「一つともだと」
「そして」
「そして?」
無意識のうちにエンジェルの話を聞いていた。
「夢と現実は同じものでもあるわ」
「話がわからないのだが」
「いえ、同じなのよ」
彼女はそこを強調するのだった。
「それもまた同じなのよ」
「同じだというのか」
「ええ。外から出入りしてるのは複数かも知れないしそして夢と現実は同じもの」
また話すのだった。
「そのことを覚えておいて」
「覚えておけというのか。私に」
「よかったらね。さて、と」
ここでエンジェルは自分の食事を終えた。ロジャーは既にであった。
「これからどうするつもりかしら」
「とりあえずは家を出る」
このことは話した。
「とりあえずはな」
「そう。だったら注意した方がいいわよ」
「何故だ?」
「ベックだけれど」
そん脱獄し再びロジャーに敗れた彼だ。
「また脱獄したそうよ」
「何っ、またか」
「そう。またよ」
こう彼に話してきた。
「それで誰かと接触してるそうだから」
「あの男が。何故だ」
「私もそこまではわからないわ」
くすりと笑ってロジャーに告げてきた。
「御免なさいね」
「別に君が謝ることはない」
それはいいとした。
「だが」
「だが?」
「あの男も懲りないものだ」
ベックについてである。
「あれだけ捕まってもまだ脱獄するか」
「それが彼の美学なんでしょうね」
「美学か」
「貴方には貴方の美学があるように」
楽しそうに笑いつつロジャーの顔を見ていた。
「彼には彼の美学があるのよ」
「そういうことか」
「ええ、そういうこと」
またロジャーに話してきた。
「そして脱獄してきたからには」
「私への復讐か」
伊達に何度も捕まえ刑務所に送っているわけではなかった。
「それだな」
「そうね。ただ」
「それだけではないか」
「これは私が聞いた話だけれど」
こう前置きしてきた。
「どうやた脱獄した彼はすぐに何処かに潜伏したわけではないわ」
「潜伏したわけではない」
「そう。密かに誰かと会っていたわ」
「誰かと?」
ロジャーの眉がここでまた動いた。
「接触しているというのか」
「誰だかわかるかしら」
「わかれば苦労はしない」
エンジェルを探るようにして述べた。
「そういう話だな」
「そうね。それを言うことはできないけれど」
知ってはいるのだった。
「けれど面白い人よ」
「面白いか」
「そう。貴方も知ってる人よ」
ここではこう話してきた。
「貴方も。ただし」
「ただし?」
「貴方はその人のことは好きではないわね」
ロジャーの顔を見ながら話す。
「多分だけれど」
「私が好きとは思っていないのか」
「そうね。知ってはいるけれど好きではないわね」
またロジャーに話した。
「そういう人よ」
「ふむ」
ロジャーはエンジェルの話を聞きながら考える顔になった。
「そうか」
「お昼に行く場所は決まったみたいね」
「何度も言うが答えるつもりはない」
この場合の返答はもう決まっていた。
「それだけだ」
「あら、つれないわね」
「とりあえずだ」
ここまで話したうえでまた言ってきた。
「食事は終わった」
「御馳走様」
「私はすぐに仕事に向かわせてもらう」
「私もね」
とは言っても随分と余裕がある顔だった。
「やらなきゃいけないことがあるのよ」
「君もか」
「じゃあ。ステーキ美味しかったわ」
こう言って席を立つのだった。
「また。お邪魔させてもらうわ」
「食事なら好きな時に好きなだけ食べるといい」
ロジャーはそれはいいと言うのだった。
「私は他人に御馳走するのは嫌いではない」
「そうなの。気前がいいのね」
「私も必ず同席させてもらうが」
この前提があるにはあった。
「一人で食べるより二人で食べた方がいい」
「そうね」
「大勢ならさらにいい」
こうも言うのだった。
「飲むのなら一人だがな」
「相変わらず凝り性ね」
「私は私の主義に忠実なだけだ」
それだけだというのである。
「ただ。それだけだ」
「それが相変わらずなのよ。まあいいわ」
既に席を立っているエンジェルはそのまま扉に向かいそうして。
「また。お邪魔させてもらうわ」
こう言ってロジャーの部屋を後にするのだった。彼女を見送ったロジャーはまたドロシーを連れてグリフォンである場所に向かうのだった。
その車中でドロシーは。ロジャーに対して声をかけてきた。
「ねえロジャー」
「何だ?」
「これから何処に行くの?」
このことを彼に尋ねてきた。
「これから。何処に?」
「気になる場所ができた」
こうドロシーに返してきた。
「そこに行く」
「この道だと」
「そう、あの屋敷だ」
またドロシーに答える。
「あの屋敷に向かう」
「そうなの」
「特に何も思わないようだな」
「別に」
感情のない声をロジャーに返してきた。
「私は特に何も思わないから」
「そうか」
「ただ」
だがここでドロシーは不意に言って来た。
「あそこに行くのは少し危ないと思うわ」
「危ないか」
「貴方はあの人を好きではないわ」
エンジェルと同じような話になっていた。
「そしてあの人も貴方を」
「それは否定しない」
はっきりと言うロジャーだった。
「私は権力者というものはあまり好きではない」
「そうなの」
「しかも彼は白を好む」
どちらかというとそちらに重点を置いている会話であった。
「白は。好きではない」
「黒がいいのね」
「そうだ。私の色は黒だ」
ここでもこだわりを見せる。
「黒と白とは決して相容れないものだからだ」
「だから向こうも貴方を嫌っている」
ドロシーは言った。
「そうなのね」
「それだけではないがな」
言いながらさらに車を進めていく。
「お互い。気付いているのだ」
「気付いている?」
「私はこの街の謎を知ろうとしている」
だから今こうして動いているのである。
「そして彼はその謎を知られまいとしている」
「反対なのね」
「そう、彼は知っている」
ロジャーはそう見ているのだった。
「かなりのことをな」
「では今からあの人のところに言って何としても聞き出すのね」
「そのつもりだ」
ロジャーはドロシーの問いに対して答えた。
「謎を解くには核心を突かなくてはな」
「だからなのね」
「そうだ。だからまずはあの白い屋敷に向かう」
また述べた。
「核心にな」
「わかったわ。それじゃあ」
そのままアレックスの屋敷に向かった。そしてまた彼と話し合いの場を持つことにしたがそこでのアレックスの態度はロジャーにとってはどうも腑に落ちないものがあった。
「農園に行ったのかね」
「そうですが」
このこともアレックスに話したのだった。
「それが何か」
「いや」
一応表情には出してはこなかった。
「そうか」
「はい。それでです」
そして彼はさらに述べた。
「これからのことですが」
「うむ。何かね」
「貴方に御聞きしたくてここに来ました」
そしてこのことも彼にそのまま話した。
「貴方は実質的にパラダイムシティを支配しておられます」
「・・・・・・・・・」
「公にはどう仰っていてもです」
かなりずけずけと言うことにしたのだった。
「貴方はそういう立場におられます。つまり」
「つまり。何だね?」
「貴方はこの街の多くのことを知っています」
アレックスの目を見たうえで問うのだった。
「そう、多くのことを」
「ふむ。つまりだ」
アレックスはロジャーの問いにも表情を崩さずに述べてきた。
「僕が君が今調べていることについて知っているというのだね」
「そうです」
ここでもはっきりと答えてみせるロジャーだった。
「違いますか?具体的に言えば」
「四十年前の記憶」
アレックスの方から言ってきた。
「そして外の世界のことかな」
「察していたのですね」
「いや、確信だった」
ロジャーの言葉に切り返してきた。
「これは確信していたよ。君がこの二つのことについて調べているということをね」
「ではやはり貴方は」
「しかし僕も多くは知らない」
だが彼はこうロジャーに言ったのだった。
「どちらのことも。よくは知らないのだな」
「ご冗談を」
ロジャーは最初その言葉を信じなかった。
「貴方が知らずして誰が知っているというのですか」
「農園に言った筈だ」
だがアレックスは答えなかった。
「農園に。そこにまた言ってはどうかな」
「農園に!?」
「僕が言えるのはそれだけだ。もっとも外の世界のことは知っているがね」
アレックスはそれは知っていると言うのだった。
「そうした世界があるということはね」
「それ以上は御存知ないのですか」
「その外の世界の住人が今街に入ってきているのも知っている」
アレックスはそれも知っていた。しかし街の謎については知らないのだった。
「だが。それ以上は知らない」
「それもですか」
「もっと言えば君が何者かも知らない」
「!?」
ロジャーは今のアレックスの言葉に思わず目を顰めさせた。
「私が何者かだと」
「そうだ。君は一体何者だ?」
何時の間にかロジャーに対して問うてきていた。
「君は。何者なのだ?果たして」
「私はロジャー=スミス」
彼はこう答えるだけだった。
「このパラダイムシティのネゴシエイターだ」
「そしてかつては軍にいた」
アレックスもそれは知っていた。
「中尉だったな」
「その通りですが」
「そして退役し今の仕事に就いた」
このことも知ってはいた。
「しかしだ」
「それ以上のことは御存知ないというのですね」
「君の両親のことも家族のことも」
そうしたことも知らないのだった。
「何もわかってはいないのだよ。君だけではない」
「私だけではない」
「この街の全ての人間がそうだ。四十年前のことだけではなく今ある状況以外のことは何一つわかってはいないのだよ。全くな」
「私だけではなく」
「そう。例えばそこのドロシー嬢」
今度はドロシーに顔を向けての言葉だった。
「彼女はアンドロイドだがね。開発者も知っているがその彼の過去の経歴もわかってはいないのだ」
「誰のこともわかってはいない」
「君が言うこの街の支配者である僕にもね。わかっていないのだよ」
またロジャーに対して語った。
「全くね」
「つまりこの街の人間の本当の素性は不明だと」
「誰もがだ。まるで機械のようにね」
「機械ですか」
「全ての人間が駒のようにね。そこにいるだけだ」
こうも表現するのだった。やはり不思議にもドモンやアポロが感じたものと同じだった。
「誰もが。外の世界からの住人以外はだ」
「外の世界からは特別ですか」
「彼等のことの方がよくわかる」
また言うアレックスだった。
「この街の人間達よりずっとな」
「おかしな話が続きますね」
ロジャーは表情を変えずに述べた。
「それはまた」
「しかし僕は嘘は言っていない」
アレックスはそれは保障してきた。
「全くな。そしてここまで話してもだ」
「話しても?」
「君に今ここで何かをするつもりはない」
このことも保障してきたのだった。
「少なくとも今はね」
「そうですか。今はですか」
「僕も知らないし君は知ってはいけないことを知ってもいない」
こう言うのである。
「話している僕が知らないのだから」
「だからですか」
「しかし。農園には行かないでくれ」
不意にそちらには行かないように忠告してきた。
「くれぐれもね」
「それは何故ですか?」
「こちらの事情だよ。謎を解く為にはおそらくそこに行くだろうが」
読んではいた。
「しかし。あそこに行くのは止めて欲しいのだよ」
「若し行けばどうなるというのですか?」
「今は何もしないがそうなるとわからない」
これが彼の答えであった。
「それだけだよ。いいね」
「わかりました。それでは」
「ああ、お茶は飲まないのかい?」
ふとロジャーが茶を飲んでいないことに気付いたのだった。
「このロイヤルミルクティーは。絶品なのだがね」
「私はコーヒー派ですので」
ここでも彼は黒であった。
「ですから」
「君が黒を好むことも知っている」
このことも知ってはいた。
「しかしどうにも」
「また何か」
「インプットされているような気がする」
こう彼に話した。話はこれで終わりロジャーは『今は』身の安全を保障されアレックスの屋敷を後にした。そうして彼は今度はあの郊外の農場に向かうのだった。
「ロジャー」
「いいのだ」
ドロシーが何を言いたいのかはもうわかっていた。
「私は依頼に際しては身の危険はあえて考慮しない」
「だからいいのね」
「そうだ。だからだ」
グリフォンを農場に進ませていく。
「向かう。それだけだ」
「そうなの」
「だが。備えはしておいてある」
こうも言うのだった。
「それもな」
「仕掛けてくると思っていたのね」
ドロシーは彼の言葉からそのことも感じ取った。
「彼が。そうするって」
「あの屋敷で仕掛けてくると思っていた」
ロジャーはそう呼んでいたのである。
「しかし彼はあの時それをしなかった」
「そうね」
「彼は何も知らなかったのだ」
このことも言った。
「全くな」
「それがおかしいというのね」
「そうだ。理由はあの屋敷でもう述べたな」
「ええ」
ロジャーの今の言葉に頷いた。
「街を支配しているのに」
「まるで駒だな」
ロジャーはまた言った。
「彼もまた」
「駒!?」
「そうだ。言われてみれば確かにこの街は何処かイミテーションだ」
彼は言うのだった。
「謎に満ちそのうえ何もかもが知られていない」
「謎がなのね」
「そして外の世界とは隔絶されている」
次に言ったのはこのことだった。
「しかも市民達は決まった動きをする。ベックやシュバルツですらだ」
「そういえばベックは」
ドロシーは彼の言葉を受けてそのベックについて考えたのだった。
「そうね。明らかに同じパターンで動いてるわ」
「派手に出て来て策を弄する」
それがベックだった。
「その身だしなりもだ。全て同じだ」
「そしてシュバルツも」
「彼もまた包帯に身を包み私の前に立ちはだかり続ける」
彼にしろそうした意味でベックと同じであるというのだ。
「やはり。おかしい」
「そうね。誰もが同じ」
「しかしエンジェルは」
ロジャーはここでエンジェルに気付いた。
「彼女は違うな」
「違う!?」
「動きは一つではない」
彼は言うのだった。
「どういうことだ?一体」
「何かあるのね」
「ある。彼女の感覚は」
今度はエンジェルから受ける印象について考えた。
「むしろロンド=ベルの彼等に似ている」
「外から来た彼等に?」
「似ている。まさか」
こう考えだした矢先だった。不意に目の前に。
「マシン!?」
「やはり。仕掛けてきたか」
ドロシーとロジャーは突如目の前に現われたマシンを見て同時に声をあげた。それと共にグリフォンを急停車させそこから飛び出た。
「ビッグオー、ショータイム!」
すぐにビッグオーを呼びそれに乗る。そのうえで見たマシンは彼が今まで見たことのないものだった。
「ベックでもない。シュバルツでもない」
「あれは誰なの?」
「アラン=ゲイブリエル」
ロジャーはその名を呼んだ。
「確か。ローズウォーター家にいた人間だ」
「ハハハハハハハ、その通り!」
仮面の男がそれに応えてきた。見れば全身にコードを付けそれでマシンと一体化している。
「その通りだロジャー=スミス!」
「やはり私の名前を知っているか」
「如何にも。君を農場まで行かすことはできない」
彼は言うのだった。
「残念だがな」
「それは彼の命令か?」
ロジャーはそのアランの言葉に対して冷静に返した。既にビッグオーに乗っている。
「あの彼の」
「さて」
しかしアランはその問いには答えはしなかった。
「それはどうかな」
「答えるつもりはないか」
彼はそれを聞いても特に驚かなかった。
「やはりな」
「読んでいたのか」
「こうした時に話す人間はいない」
ロジャーはまた冷静に言葉を返した。
「それは常だからな」
「そうか。だからか」
「その通りだ。では私をどうしても農場には行かせないのか」
「帰ればそれでいい」
アランは言う。
「だが。進むのなら」
「わかった。それではだ」
「どうするの、ロジャー」
ドロシーはここでロジャーに対して問うてきた。
「帰るの?どうするの?」
「これは私に依頼された仕事だ」
ロジャーはまずドロシーにこう返した。
「私は依頼を引き受けた仕事は途中では絶対に投げ出さない」
「それじゃあ」
「そうだ。逃げるつもりはない」
彼は言い切った。
「決してな」
「それじゃあ闘うのね」
「そうだ」
そして完全に答えた。
「ここで。やらせてもらう」
「わかったわ。それじゃあ」
ドロシーは彼のその言葉に無表情で返すだけだった。
「そうしたらいいわ」
「君は安全な場所に掴まっていることだ」
こうドロシーに忠告した。
「揺れ動くと大変なことになるからな」
「その心配はないわ」
しかしドロシーはロジャーのその言葉に落ち着いたものだった。
「私はもうバランスを取ってるから」
「だからか」
「ええ。だから安心して」
またこう言うのだった。
「私のことはね」
「わかった。それではだ」
「おい、ロジャーさんよ!」
「無事か」
ここでロンド=ベルの面々が戦場に到着した。まずデュオとウーヒェイの声がした。
続いて彼等のガンダムが姿を現わす。他のガンダム達もいた。
「ロジャーさん、僕達も参戦します」
カトルが言う。マグアナック隊も一緒だ。他にはトロワとヒイロもいる。この五人が今戦場に出て来たのだった。
「さて。後はだ」
「そのマシンを倒すだけだな」
トロワとヒイロが述べる。彼等はそのままロジャーに合流しそのうえでアランのマシンを取り囲んだ。しかしそれでもアランは動じていなかった。
「数で来れば私を倒せると思っているのか?」
そのアランが彼等に対して言う。
「果たして」
「戦争は数だ」
ヒイロがその彼に告げた。
「そして質だ。御前はその二つで既に敗れている」
「私が敗れているというのか」
「何なら身体で教えてやろうか?」
既にデュオはデスサイズヘルカスタムのサイズを構えている。
「一撃でよ」
「いや、俺がやる」
ウーヒェイも前に出て来た。
「この男、剣呑な気配がする」
「そうですね。只者ではありませんね」
カトルもそれは感じ取っていた。
「何か。異様な」
「ここは五人でかかるか」
トロワは決して一人ではかかろうとしなかった。
「油断はしないことだ」
「いや、それは待ってくれ」
しかしここでロジャーが彼等に対して言ってきた。
「これは私への依頼だ」
「へっ、ロジャーさん」
「一人でやるというのか」
「そうだ」
デュオとウーヒェイに対しても答える。
「この男は私を阻もうとしている」
「だからか」
「その通りだ。だからここは私に任せてくれ」
ヒイロにも述べた。
「それで。頼む」
「ロジャーさん、ですが」
「いや、ここはそうしよう」
カトルは前に出ようとしたがトロワは動かなかった。
「ここはな。ロジャーさんに任せるべきだ」
「トロワ・・・・・・」
「そうです、カトル様」
「ここはトロワさんの言う通りにしましょう」
「ロジャーさんにお任せするべきです」
マグアナック隊もここでカトルを止めに来た。
「ですからここは」
「控えておきましょう」
「ではここはロジャーさんを見守って」
「そういうことです」
彼等は既にそれで腹を決めていた。
「ですからここは」
「何かあればそこで動けばいいです」
「ロジャーさんに何かあればその時にですか」
「身体を張って救い出しましょう」
「それまでは」
そう言って主を止めた。彼等は今は動かずロジャーの闘いを見守ることにした。
ロジャーはアランと対峙する。ここでまた彼は気付いたのだった。
「そのマシンは」
「気付いたか」
「ビッグオーと同じか」
こう言うのだった。
「ここでも。出て来たのか」
「あのシュバルツの時と同じ」
ドロシーもそのことに気付いた。
「また。出て来た」
「これについても謎があるようだな」
ロジャーは目を強くさせて述べた。
「このマシンにも。ビッグオーにも」
「さて。どうしても引かないというのなら」
「そのことについては交渉決裂だ」
ロジャーももう退くつもりはなかった。
「では。進ませてもらうぞ」
「止めさせてもらう」
彼等は同時に前に出てそのうえで激突した。拳と拳が撃ち合う。彼等の闘いがはじまった。
二人の闘いがはじまったその時。パラダイムシティのある場所でエンジェルはある女と会っていた。その女は。
「久し振りね」
「そうね」
ミヅキだった。二人で地下の酒場にいてそこで飲んでいるのだった。
「元気そうで何よりだわ」
「お互いにね。変わりないわね」
「ええ」
ミヅキはエンジェルのその言葉に頷いていた。
「それでそちらはどうなのかしら」
「また動きがあったわ」
エンジェルはミヅキに対して告げた。その手にはバーボンがある。
「アランが向こう側についたわ」
「向こう側に?」
「そう。アレックス社長の方にね」
こうミヅキに話すのだった。
「ついてしまったわ」
「そうなの。かつては彼と敵対していたのにね」
「思うところがあったみたいね」
エンジェルはそう見ていた。
「どうやらね」
「それで彼は今どうしているのかしら」
「ロジャー=スミスと闘っていると思うわ」
冷静にミヅキに述べた。
「今丁度ね」
「そうなの。彼と」
ミヅキもまたバーボンをその手に持って話をしている。
「闘っているのね」
「ロジャーは今本当にこの街の謎を解こうとしているわ」
エンジェルはまたミヅキに告げた。
「本気でね」
「そう。本気になったの」
「そうよ。ただ」
「ただ?」
「今それに辿り着けるかどうかは疑問だけれど」
考える目で述べた。
「けれどね。それでも」
「それでも?」
「彼は諦めないわ」
確かな声での言葉だった。
「絶対にね。例えここで謎が解けなくても」
「何時かは必ず解くというのね」
「そういう人よ。それでミヅキ」
ここまで話してあらためてミヅキに顔を向けてきた。
「そっちはどうなのかしら」
「私の方?」
「そうよ。あんたの方はどうかしら」
少しだけ楽しそうに笑いながらミヅキに問うのだった。
「そっちの方は」
「まだよくわかっていないわ」
こうエンジェルに返した。
「今はね。何も」
「そうなの」
「あの人は確かに多くの謎があって」
彼女もまた謎という言葉を出した。
「そしておかしな人だけれど」
「ええ」
「それは仮面に過ぎないわ」
こう言うのだった。
「その真の謎は仮面の下にあるわね」
「そう。仮面の下にね」
「私はそう見ているわ」
ミヅキはこう考えていた。
「まだ確証はないけれど」
「そうなの」
「この街にも多くの謎があって私達の方にも多くの謎がある」
ミヅキは言う。
「この世界。どうなっているのかしら」
「さて。それを確かなものにするのが私達の仕事だけれど」
エンジェルはここでは言葉をぼやかせていた。
「順調にはいかないわね」
「そうね。予想以上にね」
「ええ。じゃあそっちはそっちでね」
エンジェルは今度はこうミヅキに告げた。
「頑張ってね。私も暫く調査を続けるから」
「わかったわ。じゃあまたね」
「それじゃあね」
こう言い合って二人は別れた。その間にもロジャーとアランの闘いは続き拳やミサイルを派手に撃ち合っている。だがそれも次第にロジャーに優勢となってきていた。
「やはり噂だけのことはあるな」
「私としては不本意だ」
彼はこうアランに返した。
「私の仕事はネゴシエイターだ」
「それは知っているぞ」
「ネゴシエイターは交渉で解決するもの」
これはもう言うまでもない。
「だからこそこうして闘いで解決するのは本意ではない」
「そうなのか」
「そうだ。不本意なことではある」
そしてこう言った。
「だが」
「だが?」
「戦わなければならない時は戦う」
その声がさらにはっきりとしたものになった。
「それが今ならば。戦う・・・・・・!」
「どうしても謎を解き明かすつもりか」
「御前もまた知っているのか」
ロジャーは今のアランの言葉からそのことを察した。
「この街の秘密を」
「知りはしない」
アランはそれは否定した。
「しかし知る者を排除するのが私の仕事か」
「そういうことか」
「そうだ。だからこそロジャー=スミス、御前にはここで退場してもらう」
「生憎だが私の舞台はこれで終わりではない」
アランのマシンが動きロジャーもそれに対する。
「ここで退場するつもりはない」
「ならばこちらで幕を引かせてもらう」
アランは今度はこう言いながら攻撃を仕掛けてきた。
「これでな」
「むう・・・・・・」
ロジャーは攻撃を受け思わず呻き声をあげた、ビッグオーもダメージで一歩退いた。
「ロジャー」
「心配することはない」
だが彼はこう隣のドロシーに返すのだった。
「今こそ好機が」
「この状態で?」
「チャンスは時として危機にこそ訪れる」
ロジャーは今度はこうドロシーに返した。
「それが今なのだ」
「それじゃあ」
「そうだ。アラン」
ビッグオーはここで立ち上がった。
「私の出演はまだ続く。そうさせてもらおう」
「既に幕は私の手にあるのにか?」
「幕を下ろすのは一人とは限らない」
しかし彼はアランにはこう返した。
「そう。引き上げることも可能なのだ」
「では私に勝利を収めるつもりか」
「その通りだ。それではだ」
立ち上がっていたビッグオーはここで思いきり前に出た。
「やらせてもらう。行くぞ!」
「むっ!?」
「ビッグオー、ショータイム!」
ここでこの言葉を叫んだ。そして。
その腕で思いきりアランとそのマシンを打った。しかも一撃だけではない。
二撃目も入った。この二撃によりアランのマシンは動きを止めてしまったのだった。
「ぐっ・・・・・・」
「まだ生きてはいるか」
ロジャーはアランの声を聞いてそのことは悟った。
「だが。今はもう闘えない筈だ」
「くっ、確かに」
忌々しいことだがそれはアラン自身が最もよくわかることだった。
「残念だが、ロジャー=スミス」
そして彼に対して言う。
「私の負けだ。先に行くといい」
「ではそうさせてもらおう」
「しかしだ」
だが彼はここでまたロジャーに言ってきた。
「貴様は知らなくていいことを知っていくことになるかも知れない」
こう言うのである。
「若しかしたら。それでもいいのだな」
「人は知っていいことと知らなくていいことがある」
ロジャーは彼のそうした言葉に応えて言ってきた。
「しかし。知ればそれだけ得られるものがある」
「得られるというのか」
「そうだ。そしてこれは依頼だ」
あくまでそれを優先させる彼だった。
「それを果たさせてもらう。それだけだ」
こうアランに言い切ったのだった。アランはそれを聞くと何時の間にか姿を消していた。後に残ったのは彼の他にはドロシーとヒイロだけであった。
その中でヒイロが彼に問うてきた。
「では行くのだな」
「先に話した通りだ」
これがヒイロへの返答だった。
「依頼だ。行かせてもらう」
「わかった」
ヒイロはその言葉を受けて静かに頷いた。
「なら。行くといい」
「それでは」
「とりあえず俺達はこれで交代だしな」
「後は別のメンバーが来る」
デュオとウーヒェイがこう彼に話す。
「悪いがここでお別れだ」
「申し継ぎはしておく」
「そして貴方は農場に、ですね」
カトルはヒイロと同じくロジャーに対して問うた。
「健闘を祈ります」
「有り難う」
「何が起こるかわからないが」
トロワはそのことを警戒していた。
「謎を解き明かすことを祈っている」
ロジャーは彼等と別れドロシーと共にグリフォンに移り農場に向かう。その謎を全て解き明かす為に。今そこに向かうのだった。
第百十二話完
2009・3・7
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