| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

スーパーロボット大戦パーフェクト 第三次篇

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

第百七話 綾人の選択

              第百七話 綾人の選択
「そうか、遂に来たか」
「はい」
八雲が功刀に対して述べていた。
「遂にです」
「ロンド=ベルがか」
「言うまでもなく今回の作戦の主力です」
「そしてそれだけではない」
彼はさらに言うのだった。
「それだけではな」
「といいますと?」
「八雲君」
彼はここで八雲に対して声をかけた。
「今回の作戦が終わればだ」
「TERRAはその任務を終えますね」
「そうだ」
まずはこの話が為された。
「しかしだ」
「しかし?」
「君達の任務が終わったわけではない」
「といいますと?」
「この作戦が終われば君達はロンド=ベルに出向してもらう」
こう言うのだった。
「この作戦が終わればな」
「ドーレム、ムーリアンとの戦いが終わってもですか」
「今地球は未曾有の危機にある」
この世界でもなのだった。
「だからだ。まだ天使達やガルラ帝国の存在がある」
「彼等に対する為に」
「その前に。一つ終わらせておきたいが」
不意に功刀の目が光った。
「ここでな」
「何か?」
「いや、こちらの都合だ」
彼はここでは話を止めた。
「こちらのな」
「はあ」
「とにかくだ」
また八雲に対して話すのだった。
「今は紫東大尉に出向してもらっているが」
「彼女と共にですか」
「そうだ。TERRAの主要メンバーには皆行ってもらう」
「長官は?」
「私はいい」
だが彼はここでこう言うのだった。
「私はな」
「何故ですか?」
「やるべきことがある」
何故かこんなことを言う功刀だった。
「だからだ。私はいい」
「どういうことですか?」
「すぐにわかる」
ここでも話をぼかす功刀だった。
「だが。出向はだ」
「これは絶対ですか」
「そうだ。頼むぞ」
あらためて彼に話すのだった。
「それではな」
「わかりました。それでは」
「そしてだ」
功刀の話は続く。
「今回作戦に参加するのはロンド=ベルだけではないな」
「連邦軍の主力も参加します」
彼等もであった。
「太平洋地区の主力だ」
「そうか。太平洋のか」
この世界でも太平洋地区には連邦軍の地球における最大規模の軍が置かれている。
「数は申し分ないな」
「彼等はロンド=ベルの後方支援になります」
「やはり主力は彼等だな」
「そうなります」
これはロンド=ベルの圧倒的な戦力故であった。
「ですからこれは」
「そうしよう。それに」
「はい、彼等はもう来ています」
八雲はすぐに答えた。
「ガンダムマイスター達も」
「彼等も来たか」
「あの三機のガンダムは来ていませんが」
「彼等は今は来なくていい」
功刀の言葉が不意に邪険なものになった。
「彼等はな」
「一般市民に対しても攻撃を躊躇しませんしね」
「例え味方でも必要ならば撃つ」
言葉の邪険さがさらに増す。
「そうした連中はいらん」
「確かに。では司令」
「うむ、次は一色君のところに向かおう」
「既にあちらの準備もできているようですね」
「そうだな。ところでだ」
「はい?」
また功刀の言葉に顔を向ける。
「何か」
「君は彼についてどう思うか」
「一色さんについてですか」
「そうだ。どう思うか?」
「どうと言われましても」
「どうも最近性格が変わってきているような気がする」
功刀はこう言うのだった。
「以前に比べてな」
「どういうことですか?」
「以前の彼はかなり嫌味な性格だった」
これまたかなりはっきりと言った。
「ところが最近はな」
「任務に忠実なだけですね」
「今回の作戦に専念している」
「はい」
「何かあったのだろうか」
「というよりは作戦に専念しているだけだと思われます」
八雲はそう読んでいた。
「どうも。ロンド=ベルの登場以降この世界の何かが変わってきていますが」
「それはあるな」
「はい。そのせいかと」
「変わるのも当然だ」
功刀はこんなことも言った。
「それもな」
「当然ですか」
「他の世界から来た」
まずはこれだった。
「それだけでもな」
「かなりのインパクトがありましたね」
「そして複数の世界が崩壊に瀕している」
「・・・・・・・・・」
「この世界もだ」
「何かがあって当然だと」
「彼も感じているのだろう」
功刀は一色に対してこう考えていた。
「だからだ。今は」
「任務に専念しているのですか」
「意識しているかどうかはわからない」
それはわからないと言う。
「しかしだ」
「影響を受けてはいますね」
「ガンダムマイスター達もな」
「以前はここまで協力的ではなかったですね」
「完全にイレギュラーの存在だった」
彼等にしろそうだったのである。
「我々の敵ではないにしろな」
「その彼等まで積極的に協力してくれる」
「何かがだ」
功刀はまた言った。
「大きく。動こうとしているな」
「そうですね。やはり」
八雲は彼の言葉に頷いた。作戦開始を前に彼等も何かを感じていた。
そして一色は。作戦の最終段階の打ち合わせに余念がなかった。
「いいか、ロンド=ベルはだ」
「はい」
「前線に出てもらう」
こう周りのスタッフ達に述べていた。
「彼等を作戦の主力とする」
「主力ですか」
「今正面からドーレムに対抗できるのは彼等しかいない」
だからだというのだ。
「連邦軍は作戦には参加してもだ」
「あくまで後方支援ですか」
「連邦軍では無駄に損害を出すだけだ」
このことも冷静に見極めていた。
「彼等にとっては無念だろうが。今は」
「そうしますか」
「そうだ。そして」
話を続ける。
「ラーゼフォンだが」
「復帰しました」
「神名綾人の処分は後だ」
それは後回しにするのだった。
「今はそれよりもだ」
「ラーゼフォンの戦力をですね」
「それは必要だ」
冷静な分析であった。
「だからだ。ここは」
「とりあえずは後回しですか」
「脱走は重罪だがな」
「ですがTERRAの内部のことでもありますので」
「一応功刀司令には話をしておく」
この辺りは実に複雑だった。
「しかしだ。とりあえずはだ」
「わかりました。それでは」
「ラーゼフォンはそのように」
「そして」
さらに言葉を続ける。
「青い血の少女だが」
「ムーリアンのあの彼女ですね」
「彼女は今どうしている?」
スタッフの一人に顔を向けて問う。
「彼女は。どうなっているのか」
「命には別状はありません」
この報告が述べられる。
「とりあえずは」
「そうか。生きているのか」
「そのうえでロンド=ベルで調査が進められています」
「彼等でか」
「その結果待ちです」
「今のところは」
「わかった」
そのことについてもよしとした。
「それもな」
「はい」
「それではだ」
一色はさらに言う。
「今わかっているだけでも今回の作戦に使う」
「今回のですか」
「使えるものは全て使う」
その言葉は強いものだった。
「だからだ。いいな」
「はっ、それでは」
「そのように」
周りのスタッフも彼の言葉に頷くのだった。
「ロンド=ベルからデータを受けます」
「今すぐにでも」
「ロンド=ベルとも連絡を緊密にしていく」
一色はこうも言った。
「そうしてだ。今回の作戦を何としても」
「はい、成功させましょう」
「必ず」
彼等も彼等でこの作戦に賭けていた。そしてこれはロンド=ベルも同じであった。
彼等は今遂に東京ジュピターの前に到着した。そこには既に連邦軍の主力が展開していた。夥しい数の艦艇に航空機、それにモビルスーツがある。
「おいおい、すげえな」
「そうだな」
闘志也の言葉にジュリイが頷く。
「まさに決戦といったところだ」
「ああ」
今度は謙作が頷いた。
「ムーリアンとのな」
「まずは連中か」
闘志也は不敵な笑みを浮かべて述べた。
「ムーリアンが」
「今回の作戦はメインは私達です」
テッサが一同に告げる。既に彼女もトゥアハー=デ=ダナンで出撃している。
「連邦軍はフォローにあたります」
「その方が有り難いね」
アレックスは楽しげに笑って述べた。
「正直なところね」
「そうですね」
彼の言葉にシンルーが頷く。
「その方が私達も満足に戦えます」
「前線の方が思う存分やれる」
ジュゼが言った。
「だから」
「いつも通りにやれるなら」
今度はイワンが口を開いた。
「それに越したことはないです」
「じゃあそういうことで」
最後に言うのはハンスだった。
「やりますか」
「僕達も協力させてもらう」
「おっ、あんた達もか」
パトリックは今の通信の声に喜びの声をあげた。
「あんた達も来てくれたのかよ」
「今回は一つの節目だ」
その彼、ティエリアは話を続ける。
「だからだ。僕達も参加させてもらう」
「それでいいか?」
ロックオンがロンド=ベルの面々に問う。
「俺達も加わって」
「ああ、是非頼む」
シーブックが彼等に答える。
「今は少しでも戦力が欲しい状況だからな」
「そうか」
アレルヤは彼等の言葉に頷いた。
「ではそうさせてもらう」
「行くぞ」
刹那が前に出た。もうだった。
「それではな」
「よし、それでは」
「行くぜ!」
ロンド=ベルも彼等の言葉を受けて前に出た。前線に出たのだった。
「それならな。一気にやるか」
「全軍攻撃準備に入って下さい」
テッサが全軍に命令を出す。
「前方からかなりのエネルギー反応があります」
「来たわね」
エルフィがそれを聞いて顔を真剣なものにさせる。
「いよいよってわけね」
「さて、それじゃあ」
「やりますか」
ここで皆戦闘態勢に入った。
「それじゃあやるか」
「来た!」
その前方からだった。
「ドーレムが!」
「来たわね!」
「よし!」
今まさに戦いの幕が開いたのだった。こうして東京ジュピター攻略作戦の幕が開けた。
戦いの幕が開きまずはロンド=ベルが攻撃を開始した。その中には洸もいた。
「ゴオオォォォォォォォド、ゴオオォォォォォォォガン!!」
洸がゴッドゴーガンを放つ。それでまずは数機のドーレムを倒す。
「よし、やった!」
「洸、油断するな!」
歓声をあげる彼に神宮寺が言う。
「また来たぞ!」
「東京ジュピターから!」
マリも言うのだった。
「どんどん来るわ。今回は特に」
「敵も本気だってことか」
洸はその次から次に出て来るドーレム達を見て言う。
「だからこその決戦だな」
「はい、そうです」
麗が洸の今の言葉に応えた。
「ですから。油断してはなりません」
「そうですね。ムーリアンは今回の戦いに全てを賭けています」
猿丸は冷静に戦局を見据えていた。
「それはもう」
「わかっていたことか」
「そうです」
また洸に答えたのだった。
「ですから今は」
「よし、それなら」
「サポートは俺達が引き受ける」
「だからね、洸は」
「ああ」
光はここでは神宮寺とマリの言葉に頷いた。ブルーガーに乗る彼等に対して。
「わかったよ。じゃあ」
「全体への攻撃を続けて下さい」
猿丸は洸に言う。
「そうしてドーレムの数を少しでも」
「それは全体に言えますね」
テッサは猿丸の言葉を受けて呟いた。
「今回のドーレムの数は尋常ではありませんから」
「そうだな」
彼女の言葉に頷いたのは宗介だった。
「まずは敵の数を減らすことだ」
「そうね」
彼の言葉にマリッサが応える。
「それなら。ここは」
「今回もだけれど派手にやるぜ!」
クルツはそのマリッサの機の横で攻撃を仕掛ける。
「数を減らしてくぜ!」
「だが。それでもだ」
ベルファルガンはその中でも戦局を冷静に見ていた。
「これだけではない」
「そうだな」
グラハムが彼の言葉に応えた。
「大佐」
「はい」
グラハムはここでテッサに問うた。
「エネルギー反応はまだありますか?」
「東京ジュピターにかなり」
「やはり」
グラハムは彼女の言葉を聞いて納得した顔になった。
「そうか」
「それだけではありません」
テッサはさらに言う。
「数だけではなく」
「数だけではない?」
「要塞、いえ」
テッサの声がいぶかしむものになっていた。
「これは城でしょうか」
「城!?」
「空に浮かぶ城です」
テッサは言う。
「この反応は」
「!?まさか」
ここで声をあげたのは綾人だった。
「それは」
「どうしたの?綾人君」
「ムーリアンの本拠地」
綾人は遥に応えて述べた。
「それが。遂に」
「本当にやる気なのね」
ルナはそれを聞いて呟いた。
「ムーリアンも」
「じゃあよ、その城を叩き潰すだけだぜ!」
だがこの中でもエイジは強気だった。
「俺達の手でな!」
「エイジ、そう簡単にいくの?」
「やってやる!」
斗牙に対してもいつもの調子である。
「敵は叩き潰す。それだけだぜ!」
「じゃあそうしようか」
「ちょっと斗牙」
ルナはエイジの話に乗る斗牙を見て呆れたような声を出した。
「それでいいの?」
「いいんじゃないの?」
「いいんじゃないのって」
やはり呆れるルナだった。
「そんな簡単で」
「簡単でいいのよ」
しかしここでミヅキが言うのだった。
「それでね」
「いいの?本当に」
「そうよ。特にこうした決戦の時はね」
「出て来た敵を叩き潰す!」
エイジはまた言った。
「それだけだぜ!」
「よし、それで行く」
サンドマンまでエイジの言葉に賛同した。
「城が出て来たならばそれを叩く。諸君、今はただ戦え!」
「また滅茶苦茶言うわね、あの人も」
今度はファがサンドマンに呆れていた。
「出て来た敵を倒すだけって」
「けれど不思議ね」
しかしエマはここで言うのだった。
「あの人が言うと何でも説得力があるのよね」
「そういえば」
ファもこれには頷くのだった。
「あの人の言葉って。そういえば」
「そうでしょ?何故かしら」
エマは言いながら首を傾げさせた。
「どういうわけか」
「重みがあるんですよね」
「ええ」
だからなのだった。
「あの人の言葉は」
「そうですね、それは確かに」
カミーユもエマの言葉に頷く。頷きながらゼータツーのメガランチャーを放ちそれでドーレム達をまとめて薙ぎ払い戦場から消していた。
「まるで。ずっと生きているような」
「ずっと。そうね」
今度はフォウが応えた。
「あの人は確かに」
「クワトロ大尉に似ていて何かが違って」
「いや、私とは違うな」
クワトロ本人も言う。
「彼はな」
「違いますか」
「近いものはあるかも知れない」
これは自分でも感じていた。
「だが」
「だが?」
「決定的なものが違う」
だがこうも言うのだった。
「それが彼にはあるな」
「それは何ですか?」
「時間か?」
カミーユの問いに疑問符で返した。
「はっきりとはわからないがな」
「時間?」
「そうだ」
やはり返答は曖昧なものが残っていた。
「それかも知れない」
「どういうことですか?」
「何か。長く生きている感じがするのだ」
「サンドマンさんはですか」
「妙だがな」
自分でも言っていてそれは奇妙に感じていた。
「あの外見でそれはな」
「三十代?」
ファはふとした感じで言った。
「どう年取って見ても」
「そうね」
彼女の言葉にエマが応える。
「普通に見て二十代後半ね」
「そうですよね。そんなところですよね」
「それで時間を感じるって」
カミーユはあらためて疑問に思う。
「それはちょっと」
「私の考え違いか」
クワトロは今度はこう言った。
「これは。やはり」
「流石に今度ばかりは」
カミーユもこう言う。
「そう思います」
「そうだろうな。それではだ」
「はい」
「また来たな」
見れば東京ジュピターからまたドーレムが出て来ていた。
「今度の数は」
「千です」
エマが答える。
「そしてまた出て来ることが予想されます」
「わかった」
クワトロはその数を聞いても冷静だった。
「それではだ。彼等にも向かおう」
「わかりました」
「それじゃあ」
「来たか」
早速そのドーレム達がクワトロ達の前に出て来た。
「それではだ」
クワトロは早速攻撃態勢に入った。そして放つのは。
「ファンネル!」
ナイチンゲールのファンネルが一斉に動く。そうして迫るドーレム達をあらゆる方向から射抜き撃墜していく。彼の腕はここでも発揮されていた。
ロンド=ベルとドーレムの攻防が続く。その頃東京ジュピターでは。
「いよいよですね」
「ええ」
綾人の母がいた。
「そうね。いよいよ」
「では俺も」
「出撃しなさい」
隣にいる若者に対して告げるのだった。
「そして貴女も」
「はい」
もう一人傍らにいる少女にも声をかけた。
「遂に貴女の時が来たのだから」
「わかりました」
「時ですか」
若者はこの言葉に反応した。
「その時が来たんですね」
「貴方はどうするの?」
「俺は行きます」
この言葉に揺らいだものはなかった。
「あいつを倒す」
「そう」
彼女はその言葉を聞いて少し微妙な顔になった。
「わかったわ」
「それでいいですよね」
「ええ、いいわ」
だがそれでも若者の言葉に頷くのだった。
「それが運命なら」
「運命ですか」
「あの子の運命なら」
また運命と言うのだった。
「それでいいわ」
「じゃあそういうことで」
「わかったわ。それでね」
「まだ何か?」
「あの娘だけれど」
「むっ!?」
若者は今の言葉に目を止めた。
「生きているそうよ」
「そうですか」
「ええ、命に別状はないそうよ」
こう若者に語るのだった。
「傷は受けているけれど」
「わかりました」
「安心したかしら」
「ええ、まあ」
感情は殺していた。
「少しは、ですが」
「そう。ならよかったわ」
「ところで」
彼はここでまた言った。
「九鬼さんの姿が見えませんけれど」
「彼はもう出撃したわ」
彼女はこう語った。
「もうね」
「早いと思いますが?」
「焦っているのよ」
この言葉は冷徹なものがあった。
「彼はね」
「焦っても何にもならないんですがね」
「彼にはわからないのよ」
やはり今の言葉は冷徹であった。
「だから。出撃したのよ」
「そうですか」
「ドーレム達もあるだけ出して」
それは今も行っていた。
「そして自分もね」
「勝てますかね、ラーゼフォンに」
若者はこんなことも言った。
「果たして」
「無理だと思うわ」
最早全てを見透かした言葉であった。
「それはね。彼では」
「そうですね。やはり」
「けれど。彼はわかっていないから」
これもわかっていないのだった。
「だから」
「わかりました。じゃあ俺はその後で」
ここまで話を聞いて言うのだった。
「出撃します」
「そう、わかったわ」
「私は」
少女も口を開いた。
「その後?」
「好きな時に出るといいわ」
彼女は少女に顔を向けて告げたのだった。
「貴女はね」
「好きな時に?」
「ええ」
また述べる。
「出なさい。貴女の望むままに」
「はい」
少女はその言葉に静かに頷いた。
「それじゃあ」
「今、ここで動くわ」
彼女は顔を正面に戻して呟いた。
「一つのものが。大きく」
今彼女がいる城が大きく動いた。それは天空に浮かぶ巨大な空中庭園だった。今それが東京ジュピターから出ようとしていた。
東京ジュピター前でのロンド=ベルとドーレムの戦いは激しさを増していた。そこにまた新たなドーレムが姿を現わしたのであった。
「むっ!?また」
「出て来た」
「ひゃははははははははは」
狂気じみた笑い声が聞こえてくる。
「私はやる。私はやるぞ」
「あの声は」
ここで綾人が気付いた。
「九鬼さん!?」
「九鬼さん!?」
「誰、それ」
「東京ジュピターの高官です」
綾人はこう皆に答えた。
「母さんと一緒の写真にもいました」
「それじゃああの人も」
「ムーリアンなのね」
「はい、間違いありません」
綾人はまた皆に答える。
「それがどうして」
「ムーリアンだからでしょうね」
遥はいぶかしむ綾人に答えた。
「だからよ」
「だからですか」
「生き残る為に出て来た」
まずは生物の生存本能を語った。
「それか」
「それか?」
「焦ってるわね」
この読みは東京ジュピターの彼等と同じであった。
「功績をね」
「功績をですか」
「この戦いはムーリアンにとっても大きな戦いよ」
決戦なのだからこれは当然だった。
「だから。出て来たのよ」
「そうなんですか」
「多分ね。けれど」
「けれど?」
「危険ね」
遥の目が光った。
「何か。狂気じみたものを感じるわ」
「そうね」
彼女の言葉にミサトが頷く。
「あの笑い方はまさにそれね」
「綾人君」
遥は綾人に声をかける。
「気をつけて」
「警戒ですか」
「そうよ。何をしてくるかわからないから」
こう彼に言うのだった。
「だから。いいわね」
「わかりました」
彼も遥の言葉に頷いた。
「それじゃあ慎重に」
「ええ、戦いはまだ続くから」
これはもう充分に予想されることだった。
「それも考えてね」
「了解です。それじゃあ」
「a小隊は」
遥は彼等にも声をかけた。
「ラーゼフォンの援護に回って」
「わかったわ」
隊長のエルフィがそれに応える。
「そういうことでね」
「御願い。戦いはまだこれからだからね」
遥は言いながら顔を引き締めさせた。
「何が出て来るかわからないわよ」
「ええ、わかってます」
今度彼女に答えたのは綾人だった。
「そのことは」
「わかっていればいいわ。ただ」
「ただ?」
「覚悟はしていてもね」
遥は言いながら顔を引き締めさせていった。10
「それでもその覚悟を裏切るものは出て来るわよ」
「その覚悟を、ですか」
「生きていればわかるわ」
言いながらその顔を少し寂しげなものにさせる遥だった。
「生きていればね。さて、と」
ここで一呼吸置いてきた。
「綾人君」
「はい」
「気をつけて」
真剣な目で綾人に告げた。
「狂気を孕んだ相手は何をしてくるかわからないわよ」
「何をしてくるか、ですか」
「ええ」
また真剣な目で語った。
「その通りよ。だからね」
「じゃあ僕が今することは」
「彼の相手だけれど」
これは変わらなかった。
「けれど」
「けれど?」
「迂闊に前には出ないで」
こうも告げた。
「迂闊にはね。いいわね」
「はあ」
「a小隊と連動して」
「そうしないと危険なんですね」
「今君を失うわけにはいかないのよ」
強い言葉であった。
「絶対にね」
「絶対に、ですか」
「この作戦の鍵だからね」
こうも言ってみせた。
「だからよ。絶対にね」
「わかりました。僕も死ぬ気はありません」
これは生物としての本能からの言葉であった。
「それじゃあ絶対に」
「正面から来るわ」
遥は告げた。
「a小隊は周りに展開して」
「了解」
「じゃあすぐに」
彼等はそれに応えてすぐに動いた。
「動きます」
「すぐにでも」
「それで彼を牽制して」
言わずと知れた九鬼のことである。
「牽制に気付くかどうかは疑問だけれどね」
「疑問なのね」
「狂った人間は周りが見えなくなるわ」
そこまで冷静に分析している遥であった。
「だからね。それを考えればね」
「そういうことね」
「ええ。だからよ」
また言うのだった。
「警戒はしておいてね。そのうえでね」
「わかったわ。じゃあ」
またエルフィが最初に応えた。
「そういうことでね」
「御願いするわ。それで他の機体は」
無論ラーゼフォンだけを見ているのではなかった。
「ドーレムに当たって下さい」
「ああ、わかってるさ」
最初にそれに応えたのはエイジだった。
「こいつ等一匹残らずぶっ潰してやるぜ」
「ふふふ、頼むわよ」
遥は今の彼の威勢のいい言葉を微笑んで受けた。
「それじゃあ。どんどんね」
「ああ、任せておきなって」
「じゃあエイジ」
斗牙がそのエイジに声をかける。
「このまま敵の中に突っ込むんだね」
「それで次から次に潰していくんだよ」
「あんたの考える作戦ってそんなのばかりじゃない」
ルナはエイジの言葉にかなり呆れていた。
「全く。単細胞なんだから」
「おい、そりゃどういう意味だ」
「言ったままよ」
ルナも負けてはいない。
「単細胞ってそれ以外の意味なんてないでしょ」
「手前!まだ言うのかよ!」
「ええ、何度でも言ってあげるわよ!」
まさに売り言葉に買い言葉であった。
「この単細胞!単純!お馬鹿!」
「何ィ!?このチビ!」
エイジも負けてはいない。
「この戦いが終わったらな!覚えてろよ!」
「忘れてあげるわよ!」
「二人共いい加減にしろ」
ここでレイヴンから言葉が入った。
「これ以上戦闘の妨げになる行動には私から処罰を下すぞ」
「うっ・・・・・・」
「くっ・・・・・・」
こうレイヴンに言われては二人も黙るしかなかった。
「ちっ、わかったよ」
「わかりました」
憮然とだが大人しくするのだった。
「じゃあよ。ちゃんと戦闘によ」
「加わります」
「では斗牙よ」
「はい」
今度斗牙に声をかけたのはサンドマンであった。
「このまま敵の中に進むのだ」
「突撃ですね」
「そうだ」
何とエイジの言った作戦そのままであった。
「敵の中に入りそのうえで次々に倒す」
彼はさらに言う。
「今必要なのはそれだ」
「サンドマン様、それは」
「虎穴に入らずば虎子を得ず」
止めようとするレイヴンに対しても告げる。
「そういうことだ」
「ですか」
「だからだ」
彼の言葉は続く。
「ここは飛び込むのだ」
「はい」
「グラヴィオン突撃せよ!」
あらためて彼の命令が告げられる。
「そして勝利を我等の手に!」
「よし!じゃあ行くぜ!」
自分の案が受け入れられたエイジは躍起になっていた。
「どんどんよ!敵を倒していくぜ!」
「よし!俺も行くぞ!」
彼に続いたのは一矢だった。
「このダイモスの拳!ここでも見せてやる!」
こうして接近戦を得意とするマシンが突き進みその後ろから援護する機体が続く。こうして彼等の東京ジュピターでの戦いは本格化するのだった。
ロンド=ベルはラーゼフォンを中心としつつ戦いに入った。しかしここであることに気付いた者がいた。
「おかしいわね」
「おかしい!?」
「どうしたんですか?」
アラドとゼオラはふと出て来たオウカの言葉に目を向けた。
「姉さん、おかしいって」
「何かあったんですか?」
「遥さんだけれど」
彼女が言うのは遥についてであった。
「妙なのよ」
「妙って!?」
「そうですか?」
「ええ。何故か綾人君をよく知ってるわね」
「当たり前じゃないんですか?」
「ねえ」
ところが二人はこう言うのだった。
「だってTERRAですし」
「ラーゼフォンは専門ですから」
「それはわかってるわ」
これはもう言うまでもないことであった。
「けれど。それでも」
「それでも?」
「一体何が」
「それ以上によ」
さらに言うのであった。
「感じるのよ。深いものを」
「深いものですね」
今度言葉を出したのはラトゥーニであった。
「遥さんに」
「ラトゥーニ、貴女は感じるかしら」
「いえ」
だがラトゥーニは遥の言葉に首を横に振った。
「私には」
「そう、わからないのね」
「遥さんは繊細です」
しかしこう言うのだった。
「それはわかりますけれど」
「それで充分よ」
「繊細!?」
「遥さんが」
「そうよ、繊細よ」
オウカはまたアラドとゼオラに対して述べた。
「その繊細さはね」
「はい」
「そこに何が?」
「綾人君を深く知っていて」
さらに言う。
「思っているような、そうした」
「思っている、ですか」
「綾人君を」
「同じ年代のようなね」
「同じ!?まさか」
「それは」
二人はすぐにそれは否定した。
「幾ら何でもそれはないですよ」
「そうですよ」
そして必死な調子で言うのだった。
「だって遥さんは二十九歳で」
「綾人君は」
「いえ、東京ジュピターと外の世界の時間の流れは違います」
ここでラトゥーニはこのことについて言及したのだった。
「それは」
「それじゃあまさか」
「遥さんは」
「有り得るわね」
オウカも言った。
「若しかしたら、だけれど」
「そんな・・・・・・」
「遥さんと綾人君が」
「それだと納得できるものがあるのよ」
オウカの言葉は続く。
「遥さんの目の動きにも」
「そうですか」
「遥さんの動きが」
「少なくとも」
オウカはまた言った。
「同じ年代のそれに見えるわね」
「同じ年代って」
「まさか」
「いえ、そうです」
アラドとゼオラはそれを否定したがラトゥーニは違っていた。
「言われてみれば確かに」
「おいラトゥーニ」
「それってまさか」
「可能性はゼロではないわ」
オウカの言葉は続く。
「何度も言うけれどね」
「そうか。若しかしたら」
「本当になんですね」
「だからこそね」
オウカはここでちらりと遥のいる方を見たのだった。
「ああして。懸命になって」
「じゃあオウカさん」
「私達は何をすれば」
「援護するしかありません」
ラトゥーニが二人に答える。
「今は」
「つまり戦うしかないということよ」
オウカの返答はさらに明確なものであった。
「それしかね」
「そうですか。やっぱり」
「じゃあオウカさん、ラトゥーニ」
二人はそれぞれ応えた。
「やりますよ、俺!」
「私も!」
「来たわよ」
話をしたその時だった。彼等の目の前にドーレム達が多量に現われた。
「今は戦って」
「はい、綾人さんと遥さんをまた」
「幸せに」
二人はオウカの言葉に頷き戦いに向かうのだった。戦いはさらに激しさを増していくのであった。
そしてその中でロンド=ベルはジリジリとであるが先に進んできていた。その中で彼等はまたあることに気付いたのであった。ふとしたことではあるが。
「むっ!?おかしいな」
「おかしい!?」
「ああ、数だけじゃない」
アムロがケーラに対して述べたのだった。
「これは」
「数だけじゃないっていうと?」
「どうしたんですか?」
「ドーレムの中に手強いのが入ってきている」
今度はカツに対して述べるアムロだった。
「その外見も」
「そういえば」
「違ったものも」
二人もこのことに気付いたのだった。
「それじゃあこの戦いはやっぱり」
「ムーリアンにとっても」
「やはり決戦だ」
アムロは応えながらファンネルをそのドーレムに放った。
それでそのドーレムは倒れた。アムロはここでまた別のものも感じ取った。
「むっ!?」
「どうしたんですか、中佐」
「今度は」
「このドーレムは」
その気配を感じ取りつつの言葉であった。
「やはり。何か」
「何か!?」
「どうしたんですか」
「人がいる」
こう言うのであった。
「人が操っているな、間違いない」
「人がって」
「ドーレムは」
「中にはいないようだ」
アムロはこのことも感じ取っていた。
「だが。それでもだ」
「遠隔操作ですね」
「脳波で操って」
「おそらくな。そして」
アムロはさらに言う。
「操っているドーレムが倒れればそれと共に操っているムーリアンも倒れるな」
「それじゃあ僕達が撃墜すれば」
「そうだ。死ぬ」
今度はよりはっきりとした言葉であった。
「間違いなくな」
「戦争で人が死ぬのは当然ですけれど」
カツはその死という言葉に敏感に反応した。
「それでも」
「怖気付いたら駄目だよ、カツ」
ケーラがそのカツに対して告げる。
「戦争で死ぬのは当たり前って今言ったじゃないか」
「はあ」
「そういうことなのよ。撃墜されたら私達だってね」
「そうですね。下手をすれば」
「わかったわね。それじゃあ」
「ええ。わかりました」
ここでようやくケーラの言葉に頷くことができたのであった。
「それなら。僕も」
「怖気付くのは後でいい」
アムロはさらに前に出ていた。
「わかったな。それなら」
「行きます!」
カツが最初にそのアムロに続いた。
「僕も。戦争ですから!」
「そうよ。戦争だからね」
そしてケーラもそれに続く。
「行くわよ」
「よし、俺も」
ハリソンは最後だった。
「行くか」
「このまま前方の敵を倒していく」
アムロはここでまた自分の小隊に命令を出した。
「それでいいな」
「はい!」
「了解です!」
こうして彼等もまた戦いに向かう。そのムーリアン達を倒しつつ。
ムーリアン達を倒しながら前に進んでいくロンド=ベル。綾人はその中でa小隊の援護を受けつつ九鬼と対峙を続けていた。
「九鬼さん・・・・・・」
「きひひひひひひひ・・・・・・」
綾人は悲しい目をしていた。だが九鬼は。
「貴方は確か」
「綾人君。私は戦うのだよ」
その狂気に満ちた声で言うのであった。
「この戦いに勝てば!私は!」
「母さんの部下でしたよね」
「この地球を任せられるのだよ!」
権力に狂った言葉であった。
「だからこそ!今ここで!」
「止めて下さい!」
綾人はその九鬼に対して叫んだ。
「もう。こんなことは!」
「止める!?どうしてかね」
その狂った声で返してきた。
「私がどうして止めなければならないんだね?」
「ムーリアンも何も関係ありません!」
綾人の声はさらに強いものになっていた。
「血の色なんて。そんなものは」
「何故そう言えるのかね?」
九鬼は今の綾人の言葉を嘲笑してかかった。
「君が。ムーリアンの君が」
「それは・・・・・・」
「君もまたムーリアンだ」
これはどうしても否定できない現実であった。
「それなら。わかると思うがね」
「くっ・・・・・・」
「だからだよ」
また言うのであった。
「我等ムーリアンは人間とは違うのだよ」
「うう・・・・・・」
「だからこそ彼等と戦う」
あくまでムーリアンの論理を主張するのだった。
「そして!地球を我等ムーリアンのものに!」
「僕もムーリアン・・・・・・」
綾人はそのことを強く思わずにはいられなかった。
「それは。確かにそうだけれど」
「そうだ。だからこそ」
九鬼はまた言う。
「今からでも遅くはない。お母さんの場所に帰るのだよ」
「母さんの・・・・・・」
ラーゼフォンの動きが止まってしまった。
「僕は・・・・・・母さんの」
「引けば何もしない」
この言葉には狂気はなかった。
「さあ。それなら」
「僕は・・・・・・ムーリアンとして」
「いけませんね」
それを見て危惧の声を出したのは八雲だった。
「このままでは綾人君は」
「向こうに寝返りますか?」
「はい」
その危惧の声でキムにも答えた。
「危険です。そうなれば」
「そうなれば取る手段は一つしかない」
戸惑いを見せる二人に対して一色は至って冷静であった。冷徹と言ってもいい。
「撃墜する」
「ラーゼフォンをですか?」
「その通りだ」
こう恵にも答えた。
「その時はな」
「そんな、綾人君・・・・・・」
「ですがこのままでは」
八雲も今はどうしようもなかった。
「そうするしか」
「説得は!?」
「おい、誰かいないのか!?」
京四郎が言った。
「a小隊は時間を稼いでくれ。その間に誰か」
「いえ、その必要はないわ」
ここで出て来た女がいた。
「えっ!?」
「そんな・・・・・・」
「綾人君!」
それは遥だった。何と彼は青い戦闘機に乗って出撃したのである。これには誰もが驚いた。
「馬鹿な、ここで!」
「遥さんが!?」
「っていうか遥さん戦闘機操縦できたのかよ!」
こう言って驚くのはディアッカだった。
「初耳っていうか今はじめて見たぜおい!」
「私もはじめて知ったわ」
親友のエルフィもそうであった。
「まさか。遥が」
「しかもかなりの腕ですね」
八雲は彼等の中ではかなり冷静であった。
「遥さん、何時の間に」
「お姉ちゃん・・・・・・」
「私だってただ戦闘を見ていただけじゃないのよ」
遥はその青い戦闘機を操縦しながら答えた。
「このアリエルでね」
「それで大尉」
キムがその遥に対して問う。
「まさかそのアリエルで」
「ええ、そうよ」
彼女ははっきりとした声でキムに答えた。
「私が綾人君を」
「間違いないわね」
ここでオウカは全てを察したのだった。
「やっぱり遥さんは」
「ええ、そうですね」
「わかりました」
アラドとゼオラにもこのことがわかったのだった。
「本当にそうだったんですか」
「遥さんは綾人君と」
「綾人君は助かるわ」
オウカにはこのこともわかった。
「必ずね」
「じゃあ俺達はやっぱり」
「二人の為に」
「はい、今丁度私達の周りの敵は全て倒しました」
ラトゥーニが絶好のタイミングで述べた。
「今から援護に向かいましょう」
「よし、待ってろよ綾人さん!」
「遥さんも!」
最初に動いたのはアラドとゼオラだった。
「絶対にその迷い払えるからよ!」
「もう少しの辛抱です!」
「綾人君!」
遥はもうラーゼフォンのすぐ側まで来ていた。
「貴方は!」
「僕は」
「人間なのよ!」
今ここで叫ぶのだった。
「貴方は人間よ」
「けれど僕は」
綾人はその遥の言葉に対して虚ろに返した。表情もそうなっている。
「青い血の」
「そんなの関係ないわ」
「関係ない?」
「どんな血が流れていても」
遥は言う。
「そしてどんな姿でも」
「どんな姿でも」
「貴方は貴方よ」
強い声であった。
「それ以外の何でもないわ」
「僕は僕」
「そうよ」
さらに言葉を続ける。
「貴方はね」
「僕は僕・・・・・・」
「そうだ!」
今叫んだのは大介だった。
「綾人君、知っている筈だ。僕もフリード星人だ」
「大介さん・・・・・・」
「他の星から来ている人間も多い。その他にも」
「そうだ!俺だってサイボーグだ!」
今度叫んだのは宙である。
「俺達だって人間だ!青い血が何だ!」
「青い血が」
「そんなのどうだってな!」
宙も言葉を続けるのだった。
「いいんだよ!綾人!御前はちゃんとした人間だ!」
「そうなんですか」
「そうよ、だから」
遥もまた言葉を続ける。
「貴方は。これからもずっと」
「それでいいんですね?」
綾人はここで問うた。
「僕は。ここに」
「ええ、御願い」
今度は頼み込んだ。
「私と。ずっと一緒に」
「遥さん・・・・・・」
「綾人君」
何時の間にかその名を呼んでいた。
「ずっと一緒にいて。ずっとね」
「ずっと・・・・・・」
「馬鹿な、青い血は絶対のもの!」
一人だけわかっていない者がいた。
「それを否定するというのか!」
「否定はしません」
今の言葉は綾人のものである。
「ですが」
「ですが?」
「僕は人間だ!」
彼もまた叫んだのだった。
「人間だ!だからロンド=ベルの一員として戦うんだ!」
「馬鹿な、青い血の運命を拒むだと!?」
「運命は自分で切り開くもの!」
ロンド=ベルの言葉だった。
「だから!今ここで!」
「なっ!?」
「終わらせる!」
叫びながら攻撃に入った。
「このラーゼフォンの力で!」
叫びつつ弓矢を続けざまに放つ。それは九鬼のドーレムを貫いていった。そうして彼のドーレムを海に叩き落したのであった。
「馬鹿な、私を倒して・・・・・・」
「九鬼さん・・・・・・」
「青い血の運命を拒むとは」
「言った筈です。僕は母さんにも貴方にもついて行きません」
「では何を」
「運命は自分で切り開きます」
この言葉は変わらなかった。
「ですから。もう」
「無駄なことを・・・・・・」
彼はやはりわかってはいなかった。
「君の青い血の運命から離れることはできない。決して」
「・・・・・・・・・」
九鬼の最期の時が近付いていた。その口から流れるものはやはり青いものだった。
その青い血に染まりながら今倒れた。綾人は今彼を倒したのだった。
「ドーレムの第一次攻撃が終わりました」
「そう」
ミサトはマヤの言葉を聞いて頷いた。
「まずは第一次はね」
「では次は」
「ええ。包囲の輪を狭めるわ」
戦術として当然の流れであった。
「そして来るべき第二次攻撃に備えて」
「わかりました」
シゲルが頷いた。
「それが終わったらいよいよね」
「はい、そうです」
今のミサトの言葉には八雲が応えた。
「東京ジュピターに侵入します」
「いよいよですね」
キムはこのことに少し興奮しているようだった。
「我々の目的の一つがこれで」
「ただ。気になることはまだあります」
「気になることって?」
それは恵にはわからないものだった。
「それって一体?」
「青い血には何の意味があるか」
彼が考えているのはこのことだった。
「それです」
「それはもうすぐわかります」
ここで言ったのは如月だった。
「そう、すぐに」
「すぐに?」
「はい、そうです」
如月はそう一同に答えた。
「少なくとも。無数の因果のうちこれでまた一つが終わります」
「因果が」
「そうです。ですから私はこれで」
「えっ、ちょっと」
「何処に!?」
ロンド=ベルの面々は席を外そうとする彼に対して声をかけた。
「何処に行くんですか?一体」
「これからが正念場なのに」
「それは私もわかっています」
だが九鬼はあくまで冷静だった。
「だからこそです」
「だからこそって」
「何言ってるの?」
「いや、頼む」
しかし功刀はここでその彼を擁護したのだった。
「如月君、では私もまた」
「馬鹿な、司令まで」
「何故!?」
「八雲君」
彼は驚く周りの面々をよそに側にいた八雲に声をかけた。
「後は頼むぞ」
「は、はい」
八雲にも事情はわからなかったがそれでも彼は頷いた。
「わかりました。それでは」
「因果が一つ終わる」
彼もまた因果という言葉を口にした。
「これでな」
「因果が終わる」
万丈は考える顔で呟いた。
「どうやら。この世界もまた無数の因果に絡め取られているようだけれど」
「それが何かあるというのですね」
「僕の予想ではね」
万丈はこうギャリソンに返した。
「そして」
「そして?」
「僕達の世界にもね」
「我々の世界にもですか」
「さて。どうなるかな」
万丈はまた呟いた。
「この因果も一つで終わるわけではないようだね」
「左様ですか」
「まあまずは一つ終わらせようか」
東京ジュピターの最初の攻防は終わった。だがそれでもまだ終わりではなかった。今ロンド=ベルは東京ジュピターをさらに取り囲みそのうえで攻撃に入ろうとしていた。
だがその東京ジュピターは。まだ戦意を衰えさせてはいなかった。
「九鬼は倒れたようね」
「はい」
神名麻弥の横にいる青年が頷いていた。彼等はあの宮中庭園にいる。青年はギリシアの神々を思わせる服に身を包んでいた。
「それなりに頼りになる部下だったけれど」
「あくまでそれなりですか」
「失いたくはなかったわ」
彼女の言葉は残念そうであった。
「やはりね」
「だが。器ではなかった」
彼はまた言った。
「しかし俺は違う」
「出撃するのね」
「宜しいですか?」
神名に顔を向けて問うのだった。
「それで」
「綾人と闘うつもりね」
「その通りです」
このことを隠しもしなかった。
「是非。御願いします」
「綾人・・・・・・」
神名は前に顔を向けた。そうして辛そうな顔になった。
「綾人はムーリアンの運命を拒むようね」
「間違いありません」
「馬鹿な子」
やはりその声は寂しいものだった。
「そんなことができる筈がないのに」
「青い血の運命は絶対です」
「ニライカナイ」
彼女は今度はこう呟いた。
「そして彼女もまた」
そのうえで後ろに顔を向けた。
「逃れることはできないのに」
「いえ、俺が出撃すれば」
ここで青年はまた言った。
「神名を倒します。それで終わりです」
「そう。倒すのね」
「なりませんか」
「ムーリアンの運命から逃れることはできはしないわ」
彼女はこのことをまた言った。
「そしてそれから逃れようとすれば」
「では。俺は」
「ええ。御願い」
顔は正面に戻し声だけをかけていた。
「出撃して」
「有り難き御言葉。それでは」
「そして貴女も」
神名はまた後ろに顔をやった。
「いいわね」
「音が聴こえる」
声が出された。
「声が。音に満ちている」
戦いは終わらない。東京ジュピターでの戦いはさらに続く。ムーリアンはまた戦力を出すのだった。

第百七話完

2009・2・17
 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧