スーパーロボット大戦パーフェクト 第三次篇
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第九十五話 神人、目覚める
第九十五話 神人、目覚める
「それではです」
整備と補給を終えたロンド=ベル。彼等にテッサが告げる。
「これより東京ジュピターに入ります」
「ああ」
「いよいよですね」
この世界にいる面々にとっては遂にという感じであった。
「あそこにな」
「解放できます」
「はい。それでです」
テッサは彼等の言葉を受けたうえでこちらに来た面々にも声をかける。
「宜しく御願いします」
「ああ、わかってるさ」
「それじゃあな」
そして彼等もテッサの言葉に対して頷くのだった。
「はい。では今より」
ここで白い制服の面々が出て来た。
「!?彼等は」
「一体」
「連邦から派遣されてきました」
その中の若い青年が彼等に告げてきた。
「八雲総一といいます」
「キム=ホタルです」
「紫東恵です」
「紫東!?」
「というと」
「ええ。妹なのよ」
遥が一同に述べた。
「まあね。色々とあってね」
「っていうか何か私と似てる?」
ルナマリアがその恵を見て言う。
「気のせいかしら」
「気のせいじゃなくて御前等クローンじゃないのか?」
シンはあからさかにこう言っていた。
「外見も似てるし声なんてよ」
「確かに」
「初対面なのに他人の気がしないわ」
ルナマリアも恵もお互いに言い合う。
「何でなんだろう」
「まあとにかく気が合いそうで何よりだけれど」
「僕達が協力させて頂きます」
その八雲があらためて一同に告げる。
「そういうことで。今後共宜しく御願いします」
「こちらこそな」
火麻が彼の挨拶に対して返した。
「宜しく頼むぜ。派手にな!」
「確か貴方が火麻参謀ですか」
「おう、データはもういってるのか」
「はい。というか」
「というか?何だ?」
八雲の言葉の調子が変わったので問い返す。
「何かあるのか?」
「随分豪快な方がおられると御聞きしていましたので」
「豪快!?ははは、そりゃいい」
その言葉を聞いて上機嫌になる火麻だった。
「こっちだってな。やわなことはしないんでな」
「だからですか」
「ああ。今回も派手にやるぜ」
「一応言うけれどこの人参謀だから」
ミサトが八雲に対して述べた。
「そういうことで宜しくね」
「それもわかってるつもりですけれど」
どう見ても参謀に見えないのは事実であった。火麻に関しては。
「まあとにかくですね」
「ええ。こちらこそ宜しくね」
「はい。今後も」
「ただしですね」
ミサトと八雲が握手したところでキムがすっと出て来て言うのだった。
「あくまでこれは任務ですので」
「任務って?」
「馴れ合いは謹んでいくべきだと思います」
何故か生真面目に言うのであった。
「その辺りは宜しく御願いしますね。葛城三佐」
「ええ。それはわかっているけれど」
しかしであった。どうにも引っ掛かるミサトであった。
「この娘ってひょっとして」
「あら、ミサトもわかったのね」
ここで遥がくすりと笑ってミサトに囁いてきた。
「キム少尉のことが」
「というとやっぱり?」
「そうなのよ。八雲司令のことがね」
「成程。だからなのね」
「そういうことよ。そこは気をつけてね」
「ええ」
遥の言葉にこっそりと頷くのだった。
「わかったわ。そういうことならね」
「宜しくね」
「わかったわ。それでは」
ミサトは真面目な軍人の顔になって敬礼してから八雲達に対して述べた。
「オーバーロード作戦、成功させましょう」
「はい、是非共」
八雲もそれに返礼する。こうして彼等の作戦ははじまるのだった。
その頃東京ジュピターでは。一人の少年が電車に乗ろうとしていた。
灰色の髪の線の細い少年だった。繊細な外見の彼は物憂げな顔をしておりその顔でふと呟くのだった。
「はあ・・・・・・」
まず溜息をついてから。
「世はこともなし、か」
退屈に飽いている顔であった。それは声にも出ていた。
その顔と声で定期を改札口に通した。するとそこで。
「よお綾人」
「おはよう」
少年と少女の声が聞こえてきた。
「どうしたんだよ、今日は」
「何かあったの?」
「別に」
綾人と呼ばれた彼、神名綾人はその憂いの漂う顔で二人に返すのだった。
「何もないけれど」
「じゃあ何でだ?」
「そんなに元気がないの?」
「別に」
俯いた調子でまた二人に返した。
「何もないからね」
「また随分と変な言葉だな」
「何もなくていいじゃない」
少女が少年に声をかける。
「平和が一番ってね」
「そういうことかよ」
「そうそう。それで神名君」
「うん」
綾人は少女の言葉に応えた。6
なおこの少女は彼のクラスメイトでその名を朝比奈浩子という。少年は鳥飼守という。
「どうなの?」
「どうなのって?」
「だから。絵の方よ」
「今日も朝まで描いてたよ」
こう浩子に答えるのだった。既に改札口を通ってそのままプラットフォームに入る。そのまま静かに電車に乗るのであった。それに浩子と鳥飼も続く。
「朝までね」
「一睡もしていないの?」
「うん」
また浩子に答える。
「そうなんだよ。けれど疲れていないしね」
「徹夜でかよ」
鳥飼はそのことに驚いていた。
「またそりゃ凄いな」
「自分でもそう思うよ。とにかく全然疲れていないんだ」
また答える綾人だった。
「全然ね」
「じゃあ学校でも平気ね」
「いけるよ。今日は何があったっけ」
「数学と化学と古文と世界史で?」
「午後は英語のグラマーと体育だったよな」
「そうなんだ。体育があったんだ」
「そうよ。まあいつも通りね」
「本当に事もなしなんだ」
それに納得しようとしたその時だった。不意に電車が止まった。
「!?」
「何が・・・・・・うわっ!」
電車を衝撃が襲う。それで皆倒れる。浩子も鳥飼も。
「朝比奈!鳥飼!」
「痛つつ・・・・・・」
「参ったな、何なんだよ」
「よくわからないけれど事故!?」
綾人はまずそう考えた。周りは皆倒れ電車は脱線しているようだった。
「参ったな、どうなったんだよ」
「ううう・・・・・・」
見れば浩子と鳥飼は倒れたままだ。危ないのは明らかだった。
「こうなったら・・・・・・」
綾人はとりあえず外に出た。外に出るのも一苦労だった。やはり電車は脱線し倒れていた。その倒れた電車の上から出て外に出る。すると上空では戦闘になっていた。
「何なんだよ、一体・・・・・・」
上空ではロンド=ベルとドーレムが戦闘を繰り広げているのだった。
「別次元になってるんだな、ここは」
「ええ、そうよ」
キャシーがマイヨに答える。
「だからね。ここに入るのは相当なエネルギーが必要なのよ」
「だがそれが可能になった」
「そういうこと。けれど戦力がなくてね」
「今まで攻め入ることはできなかったのか」
「あんた達が来るまでね」
そういうことだったのだ。
「できなかったのよ。けれどおかげでね」
「そういうことか」
「そうよ。ところでさ」
「何だ?」
「あんた達パラダイムシティは知ってるかしら」
「パラダイムシティ!?」
その名を聞いていぶかしむマイヨだった。
「何だそれは」
「やっぱり知らないんだね」
「街の名前だな」
マイヨもそれはわかった。
「それはわかるが」
「この世界の何処かにある街なのよ」
こう答えるキャシーだった。
「誰でも知っている名前なんだけれどね」
「誰でもか」
「けれど何処にあるかはわからないのよ」
キャシーは今度はこう言った。
「何処にあるかはね。わからないのよ」
「妙な話だな」
「まあね。ところで」
「何だ?」
キャシーは話を変えてきた。マイヨもそれに応える。
「紫東大尉だけれど」
「うむ」
「潜入は成功しているかしら」
「それか」
「上手くいってればいいけれどね」
こう言うキャシーだった。
「予定通りね」
「そうだな。それはな」
マイヨも彼女のその言葉には頷いた。
「潜入操作がな」
「正直東京ジュピターのことはよくわからないのよ」
「よくはか」
「ここがムーリアンの支配する場所って以外はね」
それ以外は結局わかっていないのであった。
「わからないから」
「そうなのか。何もか」
「そうなのよ。だから大尉には期待ね」
「そうだな」
マイヨはキャシーの言葉に頷く。
「果たして何がわかるのか」
「楽しみね」
彼等はそんな話をしながらドーレム達と戦っていた。その中で綾人は東京の中を必死に走り回る。だが人は誰もおらず戦闘だけが行われていた。
「何なんだよ、一体」
たまりかねた顔で上空を見上げて言う。
「この戦闘は。映画じゃないよな」
違った。自分で言ってそれがわかる。
「じゃあ。どうして」
彼は駆けながら考えた。
「東京以外にはもう世界は消えたのに。どうしてなんだ」
言いながら駆ける。やがて彼は地下鉄の駅に入った。そこで二人の不審な男達に囲まれたのであった。
「!?貴方達は」
「神名綾人君だね」
「間違いないね」
「どうして僕の名前を」
自分から言ってしまった。
「知ってるんですか!?どうして」
「詳しい話は後だ」
「それよりもだ」
彼等は綾人の言葉に構わず彼との間合いを狭めてきた。
「一緒に来てくれ」
「君に頼みがある」
「頼み!?何が何だか」
「詳しい話は後だ」
「さあ」
「さあって・・・・・・」
「やっと追いついたわね」
しかしここで。遥が出て来手二人を瞬く間に倒してしまったのだった。見事な格闘術であった。
「間に合ってよかったわ」
「!?お姉さん一体」
「正義の味方ってところかしら」
サングラスを外して綾人に対してにこりと笑ってみせての言葉だった。
「さしづめね」
「正義の味方って」134
「とにかくね」
話が読めなくなっている綾人に対して告げる。
「お姉さんと一緒に来てくれるかしら」
「貴女と!?」
「そうよ」
こう彼に言うのだった。
「今からね。いいかしら」
「今からって」
結局綾人にとってはわからないことであった。
「待って下さい、何が何だか」
「嫌なのかしら。お姉さんと一緒に来るのが」
「歳上は趣味じゃないんで」
「あら」
今の言葉には不機嫌になる遥だった。
「言うわね、随分と」
「助けてくれて有り難うございました」
一応は深々と頭を下げて礼を述べる綾人だった。
「それじゃあ」
「それでもよ。とにかくね」
「まだ何かあるんですか?」
「とにかく。一緒に来て」
こう彼にまた言うのだった。
「お姉さんとね。いいかしら」
「まだ何かあるんですか」
「少なくとも貴方の安全は護るわよ」
これは保障するのだった。
「絶対にね」
「絶対って言われても」
「とにかくよ。来てもらわないと困るのよ」
また言う遥だった。
「君のお母さんの関係でね」
「!?母さんのことが」
「そうよ。ムーリアンのね」
「ムーリアン・・・・・・」
これは綾人にはわからない言葉だった。話を聞いてもいぶかしさを増すだけだった。
「何が何なのか」
「とりあえずここから出ましょう」
このことは言う遥だった。
「いいわね、またこういう手合いが来るわよ」
「・・・・・・わかりました」
釈然としないまま頷く綾人だった。
「それじゃあ」
「ええ。こっちよ」
綾人をここで誘導して駅から出る。だが駅から出ると彼は目の前にある少女が出て来たのだった。茶色の長い髪に黄色のワンピースの少女だった。
「美嶋玲香・・・・・・」
「えっ!?」
綾人が今言った名を聞いて声をあげる遥だった。
「今何て」
「美嶋、どうしてここに」
だがその少女はすぐに彼の目の前から消えた。それだけだった。
「消えた・・・・・・何なんだよ」
「とにかく、こっちよ」
慌てて綾人を側に置いていた車に乗せる。
「こっちから。行きましょう」
「う、うん」
車に乗ってそのまま街を走る。しかしそれも目の前にあった破損したコンクリートのバリケードに止められてしまったのだった。
「全く。うちの部隊の暴れっぷりにも困ったものね」
「うちの部隊って?」
「その話も後よ。長くなるから」
それについても今は言えないのだった。
「参ったわね。どうしようかしら」
「ここの道だったら」
ここで綾人は言うのだった。
「こっちです」
「こっち!?」
「そう、こっちです」
右手を指差して言うのであった。
「こっちに行けば開けていますから」
「わかったわ。それじゃあそっちね」
「はい、行きましょう」
綾人の言葉を聞いたうえで右手に向かった。だがここで。突如として異変が起こるのだった。
「あ・・・・・・」
また彼の目の前に。あの少女が出て来たのであった。
「美嶋・・・・・・また」
「!?見えてるの!?」
「どうしたんだ、一体」
遥には答えずに彼女を見ていた。だが見えているのは彼だけだった。
自然に足を踏み出す。そうしてそのまま向かう。遥を置いてそのまま向かう。
「待って、綾人君!」
「美嶋!」
「あっ!」
綾人はそのまま何処かへ行ってしまった。遥はそれを見て歯噛みしたがそれでもだった。すぐに車の方を振り向いて携帯を取り出してそれのスイッチを押した。すると車はそれで戦闘機になるのだった。
「これで!」
それに乗り飛び立った。そのまま綾人を探すのだった。
綾人はその時美嶋という少女を追っていた。しかし彼女の姿は出たり消えたりで何時しか彼は不思議な場所に来ていた。そこは神殿を思わせる幻想的な場所であった。
空中に浮かぶその階段を進み何故か巨大な、耳が翼になっている異様な白いマシンのところに来ていた。それに導かれるようにして中に入ると。
「ここは・・・・・・」
何かと思った時だった。ドーレムが来た。
「うわっ!」
驚いて動きを見せる。そうしてそのマシンを動かした。すると。
「なっ、動いた!」
「おい、何だよあのマシン!」
「ライディーン!?いや、違う」
ロンド=ベルの中で洸が声をあげた。
「あのマシンは。一体」
「ライディーンに似ている!?けれど」
「ああ、違うな」
神宮寺が驚く声をあげるマリに述べる。
「あれはな。何かが違うな」
「そうよね。じゃああれは」
「不思議な力を感じます」
麗が言った。
「あのマシンから」
「だとすれば何なんでしょうか」
猿丸はそのマシンが何なのかを考えた。
「あのマシンは。一体」
「わからないな。だがとりあえずは」
「はい」
猿丸は今度は神宮寺の言葉に応えた。
「敵か味方かわからない。様子を見るか」
「そうですね。そうしましょう」
とりあえずは今はそうするしかなかった。様子を見つつドーレム達との戦いを進める。綾人はまずは空にあがった。そこにドーレム達が来る。
「何かしらないが狙っている!?」
それは彼にもわかった。
「なら!」
急いで拳を繰り出しドーレム達に対抗する。そのマシンの攻撃力も性能もかなりのものでドーレム達を次々と倒していく。だがそこで彼の目に入ったのは。
「母さん!?」
側の指揮所を思わせる場所に母がいたのだ。それに気付き動きが止まる。
「どうしてここに!?」
「綾人!?」
そして彼女もそれに気付いたのだった。
「早い。まだ」
「早い!?」
今の母の言葉を聞いて声をあげた。
「何が早いんだよ、母さん!」
「それは・・・・・・」
言おうとした。しかしここでドーレムの攻撃による破片が来た。綾人はそれを見て慌てて母を庇おうと手を出したのだった。
「いけないっ!」
「あっ!」
防ぎはした。しかしその欠片が彼女を襲った。それで顔を傷つけられた。その傷口から流れる血は。
「なっ・・・・・・」
綾人はその血を見て絶句した。青かったのだ。
その青い血が何なのかはわからなかった。しかしそこに。またドーレムが来て今度は綾人を襲うのだった。備えはできなかった。
攻撃を受け吹き飛ばされる。それで彼もダメージを受ける。そして彼の身体から流れるものは。
「そんな・・・・・・」
同じものだった。完全に。それを見て愕然となる。しかしそれに心を留めらせている暇はなかったのだった。
「綾人君!」
「貴女は」
遥だった。その青い戦闘機で彼のところに来たのであった。
「あれは・・・・・・」
「遥さん!?」
ロンド=ベルの面々はその戦闘機を見て声をあげた。
「馬鹿な、どうしてここに」
「戦闘機に乗れることができたの!?」
「ええ、そうよ」
エルフィが驚く彼等に答えた。
「実はね。そうなのよ」
「戦闘機にも乗れるなんて」
「そうだったの」
向こうの世界から来た面々はそれに驚くのだった。
「遥さんって色々できるんだな」
「かなりびっくり」
「それでもよ」
エルフィはここでさらに一同に話した。
「実戦経験はないわ。大丈夫かしら」
「ってそれやばいじゃねえかよ!」
それを聞いて驚きの声をあげたのはジュドーだった。
「すぐに助けに行かねえと!」
「俺が行く!」
「俺もだ!」
「よし!」
ビルギットとアポリー、ロベルトがすぐに向かう。しかしそれよりも先に。
「ああっ!」
「遥さん!」
ドーレムの攻撃を受けて遥の戦闘機が撃墜された。脱出はするがそこにまた戦闘により破片が迫るのだった。
「間に合わない!」
「やばいぞ!」
皆それを見て絶望の声をあげる。しかしそこに綾人のマシンの手が来て彼女を護るのだった。
「大丈夫ですか!?」
「綾人君・・・・・・」
「よかった、無事みたいですね」
「え、ええ」
何とか言葉を返す遥だった。
「有り難う」
「けれど。一体」
「まずはドーレム達を全部倒して」
「ドーレム!?」
「今戦闘を行っているその相手よ」
「今僕達に攻撃をかけているその相手ですね」
「そうよ。だから」
「わかりました」
遥のその言葉に頷きそこに来たドーレムに攻撃を浴びせる。それでまた一機倒すのだった。
「けれど」
「ええ、わかってるわ」
遥は綾人の言葉に頷いた。
「まずはね。彼等を倒しましょう」
「はい」
確かに今はそれしかなかった。彼もまた戦いを続ける。しかしそれを見ている彼の母がここでまたある言葉を呟くのだった。
「ラーゼフォン」
「ラーゼフォン!?」
その言葉が耳に残る。しかし今はそれよりも戦闘の方が重要だった。とりあえずはロンド=ベルの活躍もありドーレムは退けたのだった。
「終わったな」
「はい」
トーレスがブライトに対して答える。
「とりあえずはそうですね」
「だがそれでもな」
「ええ」
彼等はあらためてそのマシンを見るのだった。
「あれは何なんでしょうかね」
今度はサエグサが言った。
「ライディーンみたいな感じもしますけれどね」
「ええ、確かに」
洸が彼等に対して答える。
「けれど。明らかに違います」
「そうだな。何なのかわかりはしない」
「そもそもあれは敵でしょうか味方でしょうか」
サエグサはいぶかしむ声でブライトに尋ねた。
「それすらもわかりませんけれど」
「それも調べる必要があるな」
「そうですね。ですが今は」
「そうだ。東京ジュピターの制圧だ」
まずはそれであった。
「予定通りな」
「わかりました。それでは」
それに取り掛かろうとしたその時だった。不意に。
「待って下さい」
「むっ!?」
テッサだった。彼女が通信を入れてきたのだ。モニターにもその姿が出ていた。
「残念ですが作戦は中止です」
「異変ですか!?」
「そうです」
そう答えるのだった。
「ガルラ帝国が東京方面に進出してきました。ですから」
「くっ、こんな時にか」
それを聞いて歯噛みするアムロだった。
「だが仕方ないな」
「そうだ。今はな」
ブライトがすぐに冷静さを取り戻したアムロに対して告げる。
「仕方がない。撤収するぞ」
「わかった」
「そしてだ」
ブライトはアムロにそう述べたうえで綾人を見た。
「あのマシンだが」
「そうだな。紫東大尉」
「はい」
遥がアムロの言葉に応えた。
「それじゃあ。綾人君」
「ええ」
綾人が彼女の言葉に応えた。
「来て色々と教えてあげるわ」
「色々とですか」
「青い血のこともね」
「えっ・・・・・・」
遥の今の言葉を聞いてまた愕然とした顔になった。
「どうしてそれを」
「ダメージを受けたからまさかと思ったけれど」
実は今のは遥の言葉の駆け引きだったのだ。
「その通りだったみたいね」
「うう・・・・・・」
「さあ、行くわよ」
だがこれで話の主導権を握った遥はまた綾人に言うのだった。
「いいわね」
「わかりました」
「私の名は紫東」
「紫東さん?」
「そうよ。それで」
ここで戸惑いを見せる。だがそれでも意を決してまた言うのであった。
「紫東遥。地球連邦軍特務大尉よ」
「特務大尉!?」
「本来は軍属じゃなくてね」
少し笑って綾人に述べた。
「それでね。そうなってるのよ」
「そうだったんですか」
「ええ。今はロンド=ベルに所属しているわ」
「ロンド=ベル!?」
「詳しい話は後よ」
とりあえずは、であった。
「行きましょう。一緒にね」
「わかりました」
何はともあれ綾人は彼女と共に行くのだった。そして撤収し東京ジュピターの外で話を聞く。それは彼にとっては驚くべきことであった。
「六十億人ですか」
「その通りです」
テッサが驚きを隠せない綾人に対して告げていた。遥も一緒である。
「二三〇〇万ではなく」
「人類は東京以外は滅亡したんじゃなかったんですか」
「多くの人が死んだわ」
遥はこう述べた。
「けれどそれと同じだけ多くの人が生きているわ」
「同じだけですか」
「そして多くの戦いがあったわ」
「戦いがですか」
「四年前にもあったし」
「四年前!?」
綾人は今の遥の言葉に思わず顔を顰めさせてしまった。
「四年前って。その時はまだ」
「時間の流れが違うんだよ」
彼に説明したのは闘志也であった。
「東京ジュピターとこちらじゃな」
「時間の流れまで違うんですか」
「そうなのよ。東京ジュピターが出来た時にね」
「はい」
遥の話を聞く。
「私はまだ学生だったけれど今じゃお姉さんになってるじゃない」
「もう二十九歳だからな」
シンが真面目に説明する遥の横で言う。
「つまりもうすぐ大年増なんだぜ。すげえだろ」
「こらっ」
遥は今のシンの暴言にすぐに鉄拳で反応した。その頭を思いきり殴る。
「誰が大年増よ。私はまだ二十九よ」
「もうすぐ三十じゃねえかよ」
まだ言うシンだった。殴られた部分をさすりながらも相変わらずの態度である。
「それでどうやっておばさんじゃないなんて言えるんだよ。二十超えりゃもうよ」
「こいつを一度しめておいていいか?」
「ええ、御願い」
ミサトが怒った声でエルフィに答える。
「念入りにね」
こう言うミサトであった。
「好きなようにしていいわ」
「わかった。それではな」
「御願いね」
こうしてエルフィ達に占められるシンだった。遥はとりあえず彼をスルーしてそのうえでまた綾人に対して説明するのであった。
「とにかくね」
「ええ」
「そういうことだから。時間の流れも全然違っているのよ」
「そうなんですか」
「そういうことよ。それはわかっていてね」
そしてこう綾人に話すのだった。
「こういうことはね」
「わかりました」
「宜しい。それでね」
さらに言う遥であった。
「今後のことだけれど」
「はい」
「今はね」
っこで微妙な微笑を彼に見せる遥だった。
「私達も迂闊に動けないのよ」
「動けないって!?」
遥は今の言葉に即座に問うた。
「何かあるんですか」
「それでね」
「ええ」
「貴方のその青い血のこともね」
「今は赤いですけれど」
検査の後だからこう言えた。これは間違いがなかった。
「けれど。なんですね」
「そうよ。とりあえず私達の作戦は中止よ」
これは仕方のないことだった。ガルラ帝国が出てはどうしようもない。
「それでね」
「ええ」
「君はとりあえず私達とは離れてもらうわ」
「離れる!?」
「色々とね。あるから」
この辺りは誤魔化した。
「とりあえずは私達TERRAの人間もね」
「TERRA!?」
「対ドーレムの組織です」
今度はテッサが彼に説明した。
「連邦政府の中にある組織の一つです」
「連邦政府のですか」
「それはわかるわよね」
「ええ、それは」
また遥に対して答える。
「わかりますけれど」
「それなら話が早いわ。そういうことだからね」
「とにかく。僕は色々と調べられるんですね」
「あの不思議なマシンのこともね」
「ラーゼフォン」
綾人は母の言葉をここで呟いた。
「そう言われました」
「ラーゼフォン!?」
「そうです」
遥に対して答える。
「そう言われました」
「そうなの。あのマシンはラーゼフォンというのね」
「それが名前ですか」
「まだ全然わからないですけれど」
綾人は困惑しきった顔で一同に述べた。
「とりあえずは。それしかないですね」
「そういうこと。結局はね」
「決して。悪いようにはしませんから」
遥とテッサが彼に告げる。こうして彼はまずはその身柄を確保されるのであった。
「そうか。遂に奏者がか」
「はい」
老人は自身の後ろに控える眼鏡の青年の言葉に満足気に頷いていた。
「いよいよだな。わかった」
「そうです。時が動こうとしております」
「それでは。彼女を目覚めさせよう。ヘレナ」
「はい」
眼鏡の青年とは別に老人の後ろに控えていた金髪の美女が応える。
「久遠のところへ行こう」
「わかりました。それでは」
「如月君」
老人は眼鏡の青年にも声をかけた。
「君もだ。来るといい」
「私もですか」
「そうだよ」
穏やかだが有無を言わせない口調であった。
「君もだ。よいな」
「わかりました」
感情を押し殺したような声で答える青年だった。
「それでは。私も」
「うむ」
こうして一行はある部屋に来た。そこには棺に似た場所に一人の赤紫の長い髪を持つ美少女が横たえられていた。老人は彼女の姿を見つつ恍惚とした声をあげる。
「美しい」
「・・・・・・・・・」
如月は老人がこう言いつつ少女に近寄るのを歯噛みしつつ見ていた。拳を固く握り締めて身体を震わさえしている。感情を必死に押し殺していた。
「もうすぐ目覚めるのだな。この美しい少女が」
老人はその少女の美しい身体をまさぐっていた。如月は背を向けている。だが彼はそれを見ることなく少女を愛で続けるのであった。まるで自分のものであるかのように。
第九十五話完
2008・11・29
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