| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

スーパーロボット大戦パーフェクト 第三次篇

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

第八十五話 神北

             第八十五話 神北

「それではミザル様」
「そうだ」
紫の玄室の中で。ミザルはアルコ、そしてマグナスと話をしていた。
「あの男を使う」
「左様ですか」
「やはり」
「実におあつらえ向きではないか」
楽しそうに笑っての言葉であった。
「あの男を倒すのにはな。それに」
「それに?」
「あのビレフォールの力を解放すればだ」
笑いつつ彼のマシンについても語る。
「神化するやもな」
「神化ですか」
「そうだ。だからこそだ」
邪悪な笑みと共に言葉を続ける。
「あの男を向かわせる」
「わかりました」
「ですがミザル様」
ここでアルコがミザルに対して言う。
「一つ気になることがあります」
「何だ?」
「裏切り者フォルカ=アルバークのことです」
「あの男がどうかしたか」
「あの男もまた神化するのでは?」
彼が言うのはこのことだった。
「まさかとは思いますが」
「それはない」
しかしミザルはアルコに対して断言した。
「神化になれるのは何だ」
「修羅でございます」
アルコは厳かにミザルに答えた。
「それ以外の何者もなることは」
「そうだ、なれはしない」
ミザルはこのことをまた断言する。
「修羅でなくなったあの男はな」
「そうですね。それは」
マグナスが今のミザルの言葉に頷く。
「ありませんな」
「それでは心おきなく」
「侵入者を撃退する」
今度は表情を消した事務的な言葉になっていた。
「それでよいな」
「はい、それでは」
「我等もまた」
「二人が潰し合ってくれればそれでよい」
ミザルはここでまた不敵な笑みを見せてきた。
「わしの野心にあの二人は不要」
「はい」
「確かに」
「わしがあらたな修羅王になる為にはな」
「そして最後にです」
「うむ」
またアルコの言葉を聞く。
「アルティスですが」
「あの男も時期を見てだ」
「それではその時は」
「殺れ」
アルコに対して命じる。
「よいな」
「御意」
ミザルの言葉に静かに頭を垂れる。彼等は一つのものを見ていた。
ロンド=ベルは東に進み続ける。その中でアリオンはバサラの音楽を聴いていた。
「やっぱりいいものだぜ」
スコッチを片手に楽しげに聴いている。
「酒もいいがやっぱりな。音楽が一番だぜ」
「音楽がかよ」
「歌もな」
バサラの歌も聴いていた。
「どっちが上かなんてねえ。俺にとっちゃ両方だ」
「どっちにしろあんたは好きなんだな」
「ああ」
バサラに対して答える。
「あのお嬢ちゃんの曲もいいがな」
「私?」
丁度ここでミレーヌも出て来た。
「私もなの」
「あんたの曲も抜群のセンスだぜ」
笑顔でミレーヌに告げる。
「運動神経もいいしな。超人的だな」
「こいつが戦闘要員じゃねえのが残念だぜ」
「その通りだ」
イサムとガルドがここで言う。
「音楽だけじゃねえからな、才能は」
「まるでゼントラーディかメルトランディだ」
「けれど純粋な地球人よ」
ミレーヌはこのことを二人に対して話す。
「ミリアおばさんとは血のつながりないわよ」
「その割にあれだよな」
「似ている部分もある」
しかし二人はこう言われてもまだ続ける。
「動きもマックスみたいな時もあるしな」
「これはわかるが」
「よくミリアおばさんに似てるって言われるわ」
ミレーヌ自身もそれは認める。
「けれどね。それでも」
「純粋に地球人なんだよな」
「ではただ運動神経が突出しているだけか」
「多分ね」
自分ではこう考えているミレーヌだった。
「だから普通よ。私はね」
「普通ねえ」
しかしアリオンはそれには少し懐疑的であった。
「あまりそうは思えねえけれどな」
「バサラとは違うわよ」
「あんたも大概なものだぜ」
悪意ではないがこうミレーヌに話すのだった。
「無鉄砲なところもあるしな」
「流石修羅の将軍だな」
「もう見抜いたのか」
イサムとガルドは長い付き合いなのでもうわかっていた。
「鋭いねえ」
「わかっているとはな」
「音楽もいいしな」
「それは素直に嬉しいわ」
今のアリオンの言葉は素直に受け取るミレーヌだった。
「さてと、それじゃあ」
「何だ?新曲かい?」
「あんた達もこっちに来たら?」
不意に部屋の入り口の方に声をかけるミレーヌだった。
「そんなところにいないでさ」
「その通りだぜ」
バサラもここで言う。
「いるのはわかってるんだよ、だからな」
「こっち来なさいよ」
「わかっていたんですか」
「本当に鋭いわね」
言いながら出て来たのはデュミナスの子供達だった。
「まさかとは思っていたけれど」
「わかるのね」
「簡単にわかるぜ」
「私も」
バサラとミレーヌは三人にこう述べる。
「音楽を聴きたい奴はな、気配でわかるんだよ」
「気配って」
デスピニスは今のバサラの言葉に戸惑っていた。
「凄いんですね、バサラさん」
「聴きたい奴は聴かせる。聴きたくねえ奴には聴かせる」
「同じじゃない、それって」
ティスがバサラに突っ込みを入れる。
「どうあっても聴かせるのね」
「俺はこれで戦いを終わらせるんだよ」
「はぁ!?」
今のバサラの言葉を聞いてティスは思わず声をあげた。
「あんた正気!?」
「俺は何時でも正気なんだよ」
一見して話が噛み合っていない。
「本気だぜ、俺はな」
「ロンド=ベルの中でも一番馬鹿じゃないの?こいつ」
「そんなことは不可能です」
ラリアーも言う。
「音楽で戦争を止めさせるなんて」
「そうよ、無理に決まってるわ」
「私もそう思います」
ティスにデスピニスも続く。
「音楽で戦争を終わらせるなんて」
「出来る筈がありません」
「それがやれるんだよ」
しかしこう言われても弱くなるバサラではなかった。
「あのリン=ミンメイがやったんだ。俺だってな」
「じゃあ見せてもらうわ。あんたのその本気」
「できるとはとても思えませんが」
「それでも」
「じゃあじっくり見ておきな」
バサラは自信満々なままだった。
「俺の歌の凄さってやつをな」
「中々面白いな」
三人とは違いアリオンは楽しそうに笑っている。
「どうやらここに来て正解だったな。いいものが見れそうだ」
「それはそうとよ、アリオンさんよ」
「何だ?」
スレッガーの言葉に顔を向ける。
「そろそろじゃないのか?敵が」
「ああ、そうだろうな」
スレッガーに対して軽く返す。
「そろそろ出て来る頃だな。今どの辺りだ?」
「草原よ」
チャムがアリオンに述べる。
「草原に来ているわ」
「じゃあすぐにでも来るぜ」
「すぐになの」
「ああ。戦うには絶好の場所だ」
これまで軽い調子だったアリオンの目が光った。
「来るな。絶対にな」
「そう。やっぱり」
「総員戦闘配置」
ここで美穂の通信が入った。
「前方に敵です」
「ドンピシャってわけだな」
その放送を聴いたトッドが言う。
「あんたの勘、尋常じゃねえな」
「褒めてくれて有り難うよ」
「ではすぐに出よう」
ショウが皆に告げる。
「戦いだ。また」
「そうね」
マーベルがショウのその言葉に頷く。
「ここでまた修羅を退けてね」
「あんた達は安全な場所にいて」
キーンがデュミナスの三人に声をかける。
「危ないからね。いつもみたいにね」
「は、はい」
デスピニスは戸惑ったような声でキーンに答える。
「わかりました」
「それではだ」
ニーが動く。
「周囲に警戒しつつだな」
「また囲もうとしてくるかしら」
リムルはこのことを警戒していた。
「前の戦いみたいに」
「いや、それはないな」
アリオンがそれを否定した。
「前にも言ったよな。ミザルは狡賢いんだよ」
「ああ、それだな」
「言ったな、確かに」
アレンとフェイが彼のその言葉に頷く。
「前にやったことはしねえ。それが癖なんだよ」
「じゃあ次は何をするんだ?」
シオンが彼に問う。
「今度は」
「それが一番問題だけれど」
「そこまでは俺にもわからないさ」
そのシオンとトクマクに言葉を返す。
「けれどな。汚い策なのは間違いないな」
「謀略か」
「用心しておきなよ」
楽しそうな笑みだがその目は鋭い。
「何してくるかわからない奴だな」
「そうか。じゃあとりあえずは」
「迂闊な動きは避けておくか」
イサムとガルドはとりあえずそうすることにした。
「じゃあよ、フォルカ」
「ああ」
フォルカはアリオンの言葉に応えた。
「行くぜ。いいよな」
「俺が行かないと話にならないか」
「そこはもうわかってると思うんだがな」
アリオンはあの楽しそうな笑みでフォルカに応えた。
「そうじゃねえのか?」8
「その通りだ」
フォルカもそれは認める。
「あいつが来る」
「まあそれは確実だな」
「何度でも来るというのなら」
「どうするんだい?」
「既に答えは決まっている」
こう言って静かに立ち上がった。
「もうな」
「じゃあ行くんだな」
「行くから立った」
「そうか。それじゃあ俺も」
「御前は御前の好きにすればいい」
「ああ、そうさせてもらうさ」
アリオンもまた答えは決まっているのだった。
「風が呼んでるからな」
「総員出撃して下さい」
今度はサリーが通信を入れてきた。
「至急です」
「よし!」
こうしてロンド=ベルは再び出撃した。するともう前には修羅達がいた。
「やっぱりいたか」
「しかも相変わらずの数ねえ」
レッシィとアムがまず言う。
「指揮官は?」
「あいつね、あのデブ」
「誰がデブだってえ!?」
そのマグナスが彼等に応える。
「お嬢さん方、それはねえんじゃねえのか?」
「じゃあ何て言えばいいんだ?」
「チョウチンアンコウ?」
「何という口の悪い奴等だ」
さしものマグナスも二人の毒舌には閉口した。
「あちらの世界の女は皆こうか」
「どうやらそうらしいな」
アルコが彼に応える。
「それでだ、マグナスよ」
「わかっている」
アルコに対して応える。
「では行くぞ」
「うむ」
「暫くすれば軍師殿も来られる」
こう言って不敵な笑みを浮かべる。
「それからが本番だがな」
「本番前に倒してしまうのも一興」
アルコはこう言ってまた笑う。
「それを目指してみるか?」
「それも悪くないか」
「そうだ。それではな」
「行こう」
修羅達は前進をはじめた。ロンド=ベルの先頭にはダバとギャブレーがいた。
「それではだ、ダバ=マイロードよ」
「ああ」
「久し振りにあれをやるか」
「あれか」
「そうだ、あれだ」
ギャブレーは言う。
「あれを仕掛ける絶好の時だと思うが」
「確かに。今なら」
「よし、ならばだ」
「やるぞ、ギャブレー君」
「望むところだ。受けよ!」
二人はそれぞれのマシンに巨大な銃を構えた。バスターランチャーである。
「まずは先んじる!」
「このバスターランチャーで!」
「いって、ダバ!」
リリスがダバに声をかける。
「一気にね!」
「わかってる!」
「受けよ!」
二人は同時にバスターランチャーを放った。これが合図になった。
二条の光が突き進む修羅の軍勢に二つの穴を開けた。しかもそれは二つではなかった。
「今度はあたし達よ!」
「喰らえ!」
アムとレッシィも続く。またしてもバスターランチャーが放たれ穴が四つになった。しかしそれを受けても修羅達の動きは全く止まらない。
「これだけの攻撃を受けてもまだ」
「止まらぬというのか!」
「ふはははははははははは、笑止よ!」
マグナスは大笑してダバとギャブレーに返す。
「この程度で修羅は止まらん!修羅は戦場で死ぬものよ!」
「くっ、だからか」
「死ぬことが恐ろしくないというのか」
「その通りよ!」
またここで笑うマグナスだった。
「だからこそだ。行け修羅達よ!」
さらに進撃命令を出す。
「このまま押し潰してしまえ!」
「いけませんな」
それを見たエキセドルが呟く。
「全軍弾幕を張りましょう」
「よし、それなら!」
「これでどうだ!」
向かって来る修羅達の前に弾幕を張る。そこに入った修羅達が次々と撃墜される。しかしまだそれでも彼等の進撃は続く。
「何て奴等なの」
「あそこまで痛めつけられてるのに」
フォウとロザミアが思わず呻く。
「あれだけのものを受けてまだ」
「進むつもり?」
「それならそれで!」
カミーユはそれを見て己の闘争心が高まるのを感じ取った。
「これでどうだ!喰らえーーーーーーーーーーっ!」
ゼータツーのメガランチャーを放つ。それでまた修羅達を貫く。
しかも一撃ではない。次々と放つ。彼も渾身の力で攻撃を続けている。
それを見てまずは。ロザミアが動いた。
「そうね。止まらないならそれで!」
「仕掛けるのね、ロザミア」
「ええ!行けっ、ファンネル!」
ゲーマルクのマザーファンネルを放つ。続いてチルドファンネルも。
「これなら!」
「私も!」
フォウはリ=ガズィの機動力を活してビームを連射する。これで攻撃を続ける。
「これでどう?」
「進ませないわよ!」
二人も踏み止まった。そこにエマも来た。
「行くわ、私も」
「エマさん!」
「ファ、フォローは御願いね」
後ろにいるファのメタスに通信を入れる。
「色々とあるでしょうから」
「わかりました」
「これなら!」
拡散バズーカを放った。
「戦い方は幾らでもあるのよ」
「さらに近付いた相手には接近戦を挑め!」
ダイテツが叫ぶ。
「よいな!」
「了解!」
今度はオーラバトラーが剣を抜く。そして。
「やらせるかよっ!」
「させん!」
トッドとニーが目の前の敵をまとめて横薙ぎにする。爆発が次々と起こる。
「数で来てもな!」
「質では負けてはいない!」
「ショウ!」
「わかってる!」
ショウはチャムの言葉に応える。応えながら前の敵を見据えている。
「この程度の数で!」
「やっちゃええええーーーーーーーーーーーーっ!」
彼もまた横薙ぎにオーラ斬りを放つ。真っ二つにされた修羅のマシンが次々と爆発していく。
ロンド=ベルは正面からマグナスの軍を止めていた。しかしここで。また新たな軍勢が戦場に姿を現わしたのであった。彼等こそは。
「遅れたか?」
「おお、軍師殿!」
「来られましたか!」
マグナスとアルコがミザルの姿を認めて声をあげる。
「お待ちしておりましたぞ」
「それでは」
「ふふふ、そう焦ることはない」
邪悪な笑みで二人に応えるミザルであった。
「既に準備は整っている」
「それではやはり」
「もう」
「そうだ。まずはだ」
見れば多くの軍が彼の周りに展開している。
「この者達を持って来た」
「有り難き幸せ」
「行け」
すぐにその軍勢に進撃を命じてきた。
「そのまま押し潰せ。よいな」
「はっ」
「それでは」
その修羅達が早速動く。そうして再びロンド=ベルを押し潰そうとしてきた。
「それならな!」
「またやってやるだけなんだよ!」
「そういうこと」
ケーン、タップ、ライトが果敢に前に出た。
「おらおらあっ!」
「喰らいやがれっ!」
「マギーちゃん、頑張ってね」
光子バズーカを放つ。三人もまた次々に敵を撃墜している。
それを受けてか修羅の動きが突然止まったように見えた。
「!?止まった?」
「まさか」
「いや、そのまさかだね」
万丈が一同に応える。
「これはね。何を考えているのかな」
「来たな」
ここでアリオンが言った。
「激震のミザル、何をしてくるか」
「むっ!?」
ここで宙が声をあげた。
「おいミッチー」
「どうしたの?宙さん」
「あれを見るんだ」
ここでこう言う宙だった。
「あの青いマシンは。まさか」
「ビレフォールね」
「ああ、間違いない」
彼等ももうビレフォールの姿は完全に認識していた。
「前に出る?ここで」
「何を考えてやがるんだ」
「来たか」
フォルカは鋭い目でそのビレフォールを見ていた。
「やはりな」
「おい、フォルカ」
アリオンがここで彼に声をかける。
「どうするんだ?」
「どうするかとは?」
「だからな。行くのかよ」
彼が問うのはこのことだった。
「あいつに。どうするんだ?」
「既に言った」
こう返すフォルカだった。
「闘う。それだけだ」
「模範解答ってやつか?」
「いや、違う」
今の楽しそうなアリオンの問いは否定する。
「俺の決意だ」
「そうか。じゃあ俺は遠慮なく他の奴等に行かせてもらうぜ」
「そうすればいい」
今度の返答は素っ気無いものだった。
「どちらにしろ俺は」
「ふふふふふ、フェルナンドよ」
ミザルが笑みを浮かべてフェルナンドに声をかけていた。
「わかるな」
「ああ」
そのフェルナンドが血走った目で答える。
「わかっている。俺は」
「そうだ、行くのだ」
邪悪な笑みと共にまた声をかける。
「あの男の下へ」
「うおおおおおおっ!」
今度は応えることなくマシンを前に動かしはじめた。恐ろしい速さである。
「上手くいきそうですな」
「失敗する筈がない」
ミザルはその突き進むフェルナンドのビレフォールを見つつアルコに言葉を返す。
「このわしの洗脳がな」
「とはいってもそれ程強い洗脳ではなかったのでは?」
「確かにな」
これもまた事実であった。不敵に応える。
「それだけでよいのだ、この度はな」
「左様ですか」
「そうだ。ではわし等もだ」
「どうされますか?」
「攻撃用意だ」
今度はこのことを命じる。
「あの男との決着がつき次第だ。ロンド=ベルを叩く」
「その場合ですが」
今度はマグナスがミザルに問う。
「どちらが勝ってもですか」
「うむ、そのつもりだ」
前を見据えつつマグナスの問いに答えた。
「どちらが勝ったとしても深く傷を受けるのは間違いない」
「確かに」
「だからだ。今送り込んでいる攻撃隊の他は兵を送るな」
こうも命じた。
「それが終わってからだ。行くぞ」
「はっ」
こうして修羅達は進撃を停止した。少なくとも今攻撃を仕掛けている修羅達の他は。そしてその修羅達を倒し終えた丁度その時に彼が来た。
「!?あいつは!」
「来たか!」
「フォルカ!」
ロンド=ベルの面々が一斉に彼に声をかける。
「来たぜ、奴が!」
「用意はいいですか!?」
「無論だ」
フォルカは陣の先頭にいた。既に構えを取っている。
「来い、フェルナンド」
「言われずとも・・・・・・!」
ビレフォールはそのまま正面に突き進んで来る。フォルカに向かって。
「うおおおおおおおおおおっ!」
「!?まさか」
雄叫びをあげるフェルナンドを見てフォルカはあるものを見た。
「これは」
「お、おい!あれを見ろ!」
「ああ!」
ロンド=ベルの他の面々も今のフェルナンドを見て思わず声をあげる。
「ビレフォールが変わった!?」
「いや、おかしいぜ」
表現がここで変わった。
「あれは。何だ?」
「化け物か!?」
「いや、違う」
ここでフォルカが仲間達に言う。
「これは神化だ」
「神化!?」
「そうだ、神化だ」
そのフェルナンドを見据えつつ述べる。
「これは。修羅の力を全て解放して手に入れるものだ」
「修羅の力を」
「これがかよ」
「その力は圧倒的だ。まさに全てを破壊し尽くす程だ」
「そうだろうな」
マサキがそれを聞いて頷く。
「この気。尋常じゃねえぜ」
「だが」
「だが!?」
ここでまたフォルカは言った。
「それを身に着けることができるのは限られた修羅だけだ」
「限られた!?」
「そうだ。そこに至るまでには相当以上の闘気がいるのだ」
こう皆に述べた。
「フェルナンド、御前はそこまで」
「フォルカ!俺は闘神の力を手に入れた!」
叫びつつ両手をゆるりと逆時計回りに動かしだした。
「神化の力!今こそ見せてやる!」
「くっ!」
「喰らえっ!」
技に入った。
「真覇機神轟撃拳!」
「なっ、何!」
「龍が!」
皆その技を見て思わず叫んだ。
フェルナンドがその両手から二匹の青い龍を放ったのだ。それはただの龍ではない。気の龍だ。それを放ちフォルカに襲い掛かったのである。
「うおおおおおおおおおっ!」
「来たか!」
「死ねええええええええええええええええーーーーーーーーーーーーーっ!」
「ぬううっ!」
龍を浴びせてからもなおも突き進む。
「さあ絶望しろ!」
「むうう!」
「もう逃げ場はない!」
荒れ狂い咆哮する龍の中跳び。暗闇の中青白い光を放ちフォルカのヤルダバオトを乱れ撃っていく。
「うおおおおおーーーーーーーーーっ!!」
最後にその拳を渾身の力で叩き付けた。無論そこにはその激しい闘気もあった。青白い、禍々しい闘気だ。
「フォルカ!」
「フォルカさん!」
ロンド=ベルの者達は吹き飛ばされるそのフォルカを見て叫ぶ。
「大丈夫かよ!」
「無事ですか!?」
「安心しろ」
ここでそのフォルカの声がした。
「俺はこの程度で死ぬことはない」
「おのれ・・・・・・」
ヤルダバオトはまだ立っている。フェルナンドはそれを見て歯噛みした。
「まだ立っているというのか、フォルカ」
「確かに激しい攻撃だった」
彼もそれは認める。見ればヤルダバオトも満身創痍である。
「しかしだ。俺はまだ立っている」
「ならば・・・・・・!」
「また来るというのだな」
「倒す!」
これがフェルナンドの返答だった。
「貴様を!何があっても!」
「ならば来い!」
フォルカもまた構えを取った。
「俺もまた。貴様を倒す!」
「ちょっと待って下さい!」
その彼にショウコが叫ぶ。
「フォルカさん、倒したら駄目です!」
「何でだよショウコ!」
コウタが妹に対して問う。
「何で倒したら駄目なんだよ!」
「だってあれよ、お兄ちゃん!」
ショウコは今度は兄に対して言う。
「フォルカさんは。フェルナンドさんを殺したくないのよ」
「あっ・・・・・・」
「だから。修羅を抜けたのに」
「そうか、そうだったな」
言われてそのことを思い出すコウタだった。
「じゃあフォルカさんは何があっても」
「そうよ。だから修羅を抜けたのに」
その事情までよくわかっていた。
「それでフェルナンドを殺したらそれで」
「けれどよ、どうすればいいんだよ」
妹に対して問う。
「ここで倒さないとよ、フォルカさんの方が」
「それは・・・・・・」
『安心しろ』
しかしここでロアが二人に言った。
「えっ!?」
「ロアさん、大丈夫って」
『ここはフォルカを信用しろ』
また言うロアだった。
『あいつは必ずやってくれる』
「必ずかよ」
『私もそう思うわ』
今度言ったのはエミィだった。
『あの人はわかっているわ。だから』
「任せろっていうのね」
『そうだ』
『その通りよ、ショウコ』
二人でショウコに答えた。
『あいつは。必ずやる』
『私達が何かしなくても』
「よし、わかった」
コウタは二人の言葉に頷いた。
「それなら俺は動かない」
「私も」
ショウコもそれに続いた。
「フォルカさんを信じるぜ」
「あの人なら」
こうして二人は動かなかった。その間にフェルナンドは全力で突き進む。そして再びあの技を出そうとする。
「覇ああああああああああああああああああああああああーーーーーーーーーっ!!」
「また来るか」
フォルカはそれを受けようとする。しかしここで。異変が起こった。
「!?」
「何だと!?」
フェルナンドのビレフォールは突如として動きを止めたのだった。
「馬鹿な、何故だ」
「!?何だありゃ」
「ビレフォールが」
ロンド=ベルの面々もここでビレフォールの異変に気付いた。
「外見が元に戻ったよな」
「何でだ!?」
「馬鹿な、神化したのではなかったのか」
そのフェルナンドも驚きの声をあげる。己のビレフォールを見つつ。
「それが。どうしてだ」
「はぁっ、はっはっはっはっはっは!」
「マグナス!?」
「そんなわけがなかろう!」
「何だとっ!?」
「貴様に神化ができるわけがない!」
フェルナンドを嘲笑うようにして言ってきていた。
「貴様程度がな!」
「俺を愚弄するのか!」
「愚弄ではないわ!」
大笑しつつそれは否定した。
「俺が言うのは事実だ!」
「貴様ァ!」
「貴様程度の腕で神になれる筈がなかろう!」
断言していた。
「将軍ですらない貴様がな!」
「将軍なぞ何時でもなれる」
「ちっ」
今のフェルナンドの言葉を聞いてアルコが舌打ちする。
「自信があって何よりだな」
「マグナス!貴様の上に立つのも間も無くと言った筈だ!」
「ほお!?」
「だからだ!ここで俺は!」
「己の兄を倒すといのか」
「そうだ!」
激しい闘気と共にまた叫ぶ。
「修羅に兄弟の情なぞ不要!違うか!」
「それはその通りなんだがなあ」
「だからだ!フォルカ=アルバーク!」
またフォルカを睨み据えてきた。
「今度こそ!覚悟しろ!」
「既に覚悟はできている」
満身創痍ながらもまたフォルカの目は死んではいなかった。
「その為に今俺はここにいるのだからな」
「そうか、死ぬつもりか」
「残念だがそれは違う」
だがそれはまた否定した。
「何度も言っているようにな」
「では何だというのだ?」
「倒す」
フェルナンドに対して告げた。
「フェルナンド、御前をここで」
「やっとその気になったか。ならば」
「行くぞ・・・・・・!」
「来い・・・・・・!」
「フォルカさん・・・・・・」
ショウコは対峙に入ったフォルカを見つつ呟く。
「私、貴方を信じます」
「ああ、俺もだ」
妹の言葉にコウタが頷く。
「ここはな。あいつを」
「手出しは無用だな」
セラーナがここで皆に告げた。
「あの二人に対してはな」
「ああ、わかってるさ」
「それはね」
皆それに従い今は動かない。フォルカの闘いをじっと見守っていた。
神化はならなかったフェルナンド。しかしそれでも彼は諦めてはいなかった。
「ならば!」
「どう来るつもりだ」
「どちらにしろ貴様に逃げ場はない!」
「逃げるつもりもない」
「そう言うとは思っていた」
フォルカはフェルナンドのその言葉を受けていう。
「しかしだ。それは俺もまた同じ!行くぞ!」
「力でしか力を止められるならば」
「!?フォルカの力が」
「な、何だ!?」
皆それを見て言うのだった。
「あがっている!?しかも」
「何だこのあがり方は」
「まさかな」
アリオンがここで何かを察して呟く。
「フォルカ、御前は」
「!?アリオンさん、まさか」
「フォルカさんが」
「ああ、ひょっとしたらだ」
彼は今のフォルカを見据えながら一同に話す。
「あいつこそ本当にな」
「まさか」
「ここで・・・・・・」
「俺はその力を今使おう」
「何っ!?フォルカ貴様」
「その逆の道で。俺は止めてみせる!」
ヤルダバオトの全身が輝きだした。
「今度は光かよ!」
「何だってのよ一体!」
「やはり・・・・・・」
またアリオンが言う。
「これか。この力だな」
「力・・・・・・」
「じゃあやっぱり・・・・・・」
「今俺が見つけようとしている何かを守る為に!」
今フォルカは叫んだ。
「俺はあえて阿修羅となろう。行くぞフェルナンド!」
「ま、まさか・・・・・・」
フェルナンドも輝くヤルダバオトを見て声をあげる。
「フォルカ、貴様・・・・・・」
「俺が求める力!ヤルダバオト!今こそ貴様の力を俺に!」
「ヤルダバオトが!」
「ええ!」
それまで赤だったヤルダバオトの身体が変わる。白銀の光を放っている。そして。
「争覇の先にあるものを今!」
「くううっ!」
「神化の力我が拳に!」
叫びつつ今技の名を叫ぶ。
「真覇極奥義!」
「まさかその技が!」
「そうだ!俺の最大の技!」
フェルナンドに対して叫ぶ。全身の力を放ち今二匹の龍を放った。
「行け!双覇龍!」
「あいつも龍を!」
「いや、違う!」
それは赤い龍だった。まるで紅蓮の炎の如く荒れ狂い今フェルナンドに襲い掛かるのだった。
龍達はそのままフェルナンドに喰らいつく。そして。
「でえりゃあああああああああああああああっ!!」
「ぬおおおおおっ!!」
フェルナンドを打ち据える。それにより吹き飛ばし構えを取り直し叫ぶ。
「真覇!!」
高らかに。
「猛撃烈波!!」
「うわああああああああっ!」
フェルナンドは吹き飛ばされ激しいダメージを受けた。彼もまた満身創痍となったのだった。
しかしそれでも彼は立った。意地があった。その意地により立っているのだった。
まさフォルカを見据え。そして言った。
「神化か。まさか貴様が」
「俺は何度でも闘う」
「俺とか」
「そうだ」
フェルナンドを見据え返しての言葉だった。
「何度でも来い。その度に貴様を倒してやる」
「また情をかけるというのか?」
「そう思うなら思えばいい」
否定も肯定もしないといった態度だった。
「だが。俺は決して貴様を手にかけることはない」
「それこそが情をかけることだと・・・・・・」
「修羅のこの忌まわしい争い」
彼は今それを抜けようとしているのだ。
「それを断ち切る。そして」
「何だ」
「御前は俺の弟だ」
まずはこのことを告げ。
「そして親友だ。友は殺さぬ」
「まだ、貴様は・・・・・・」
「また来ることだ」
やはり止めを刺そうとはしない。
「俺は何時でも受けて立つ」
「その言葉、忘れるな」
フォルカを睨みつつ言った言葉だった。
「決してな!」
「待て、フェルナンド!」
マグナスが彼を呼び止めようとする。
「ここで帰るつもりか。ならんぞ」
「黙れ!」
しかしフェルナンドはそのマグナスに対して怒鳴り返した。
「貴様に指図される謂われはない!」
「何だと!」
「俺は修羅王様直属だ!」
「くっ!」
実はそうなのだった。だからこそマグナス達に対しても臆してはいなかったのだ。
「その俺に貴様が命令できすのか!」
「そう言って逃げるつもりか!」
「逃げるだと。この俺が」
「そうではないのか?」
多分に強がりを入れた馬鹿にした笑みだった。
「だからこそ去ろうとしている。違うのか」
「そう思うのなら今ここで相手をしてやろうか」
「何だとっ!?」
「例え将軍であろうとも勝てると思っているのか」
満身創痍ながらもまだ立っているフェルナンドだった。
「この俺に。間違いなくどちらかが死ぬぞ」
「どちらかだと・・・・・・」
「そしてそれは貴様だ」
頭から血を流しぞっとする声で告げてきた。
「それならばいいがな」
「うう・・・・・・」
「マグナスよ」
しかしここでミザルが彼に声をかけてきた。
「もうよい」
「もうよいとは」
「あの男にこれ以上攻撃を加える必要はない。
こうマグナスに言うのである。フェルナンドのビレフォールを指差して。
「これ以上はな」
「左様ですか」
「フェルナンドよ」
今度はミザルが彼に声をかけてきた。
「今は行くがいい」
「いいのか?今度は貴様に牙を剥くことになるぞ」
狼の目でミザルを見ての言葉だった。
「俺を操った貴様に対してな」
「そうしたければするがいい」
しかしミザルはこう言われても動じない。
「その時はわしの拳で貴様を倒す」
「そういうことか」
「そうだ。しかしそれは今ではない」
このことは確かにフェルナンドに告げた。
「今ではな。傷を癒してまた来るのだ」
「言葉に甘えさせてもらおう」
「行け」
やはりフェルナンドに何もしようとはしない。
「何時か必ず決着をつけてやるがな」
「勝手にしろ」
こう言葉を交えさせて戦場を去るフェルナンドだった。彼が消えたのを見てミザルは今度はマグナス達自身の軍勢に命じたのであった。
「それでは我等もだ」
「撤退ですか」
「作戦失敗だ」
このことを冷静に受け止めていた。
「それならば致し方あるまい。去るぞ」
「わかりました。それでは」
「マグナス」
ここでまたマグナスに声をかける。
「後詰は貴様が務めよ」
「私がですか」
「そうだ。できるか」
「無論であります」
返答は迷ったものではなかった。
「是非共。お任せ下さい」
「うむ。それではな」
「はっ」
「ではフォルカ=アルバーク、そしてロンド=ベルよ」
最後にフォルカ達に声をかけてきた。
「また会おう」
修羅達が撤退し戦いは終わった。しかしロンド=ベルにとっては今回もまた非常に大きな戦いであった。
戦いが終わったロンド=ベルは。整備と補給を受けつつフォルカの周りに集まり。それぞれ問うのであった。
「それでフォルカさん」
「さっきの。ええと」
「神化だろ?」
「そうだよ、それそれ」
「そうそう」
彼の前でケーン、タップ、ライトが漫才をしていた。
「それなんだけれどさ」
「やっぱりあれだよな。力を解放して」
「そうだ」
フォルカはその三人に対して答えた。
「力を極限まで引き出したものだ」
「何か話を聞くだけだとあれか」
「格闘漫画だよな」
「そうそう、そんな感じだね」
「しかしその通りだ」
だがフォルカの真剣さは三人を前にしても変わらなかった。
「俺のこの神化はまさにそれだ」
「それがシュラの奥義ってわけか?」
今度はコウタが彼に問うてきた。
「神化が」
「何というかな」
「つまりだ。わかりやすく言うとな」
「ああ」
コウタは話に入って来たアリオンに対して応えた。
「あれだ。闘気をとことんまで高める」
「そして?」
「まずそれができるようになるまでに相当の強さが必要なんだよ」
「修羅としてか」
「そうさ。既にこいつは修羅の中でも相当の強さだった」
「そうだったんですか」
ショウコがアリオンの言葉に応えて言った。
「フォルカさんは既に」
「将軍になろうと思えばなれたさ」
アリオンはこうも言う。
「けれどな。フェルナンドに止めを刺さなかったことでな」
「それで将軍になれなかったのかよ」
「そうだったんですか」
「あの時にまず疑問に思った」
フォルカは彼等に応えて述べた。
「これが正しいのかどうかな」
「修羅としてか?」
「そうなんですか?」
「いや」
コウタとショウコの言葉をまずは否定してきた。
「修羅自体がだ。それが正しいのかどうかな」
「最初は俺もわからなかったさ」
またアリオンが言ってきた。
「どうして止めを刺さなかったのかな。しかし今じゃな」
「わかるか」
「まだぼんやりとだがな」
こうフォルカに返す。
「それでもわかってきたさ」
「修羅は闘いのみに生きている」
フォルカが疑問に思うのはこのことであった。
「果たしてそれは正しいのか。そして俺は」
「修羅を抜けて俺達と一緒にいる」
「詳しいことはそうだったんですか」
「その通りだ。そして」
また皆に対して話す。
「あいつを。フェルナンドを殺さなかった」
「今も」
「そしてこれからもですか」
「そうだ。またすぐにあいつとの勝負になる」
これはもうわかっていることであった。
「しかしだ」
「負けないんだな」
「決してな」
「そして殺さないんですね」
「何度でも倒す」
このことは断言する。
「しかし。俺はあいつを殺さない」
「弟、そして親友だからだ」
「ああ。俺は今感じている」
またアリオンに言葉を返す。
「あいつに対する友情をな」
「そんなもの修羅にはなかったんだがね」
アリオンの言葉はここでは冷めたものであった。
「俺も感じたことはなかったさ」
「今ではどうだ?」
「今か」
「そうだ。どう思っている?アリオン、貴様は」
「見てはみてえな」
これが今のアリオンの返答であった。
「そういうものもな。これじゃあ駄目かい?」
「いや」
アリオンのその言葉は否定しなかった。否定しない首を横に振る動作であった。
「それでいいと思う」
「御前はそれを見つけた」
フォルカに対して言う。
「俺が今見ているのは自由だけだな」
「自由か」
「まあそれもかなり凄いものだけれどな」
自分でもそれは自覚しているアリオンであった。
「他のものも見てみたくなったな」
「それでここに来たのか」
「風に呼ばれてな」
右目を瞑ってみせての言葉であった。
「そういうことさ」
「そうか」
「で、またすぐに進撃再開だぜ」
このことをフォルカに伝える。
「準備はいいな」
「何時でもな」
フォルカはクールに応えた。
「いける。俺は何時でも闘える」
「そうかい。まあ今はな」
「今は?」
「ゆっくりと休めばいいさ」
不意に話を変えるアリオンだった。
「まだ少し時間があるしな」
「そうなのか」
「どうだ?何か食うか?」
珍しく彼を食事に誘ってきた。
「丁度皆色々と食ってるぜ」
「料理か」
「修羅の世界は何しろ闘いばかりだ」
それこそが修羅の文明なのだ。
「美味いものなんてなかったからな」
「美味いか」
フォルカはこの言葉を己の中で反芻する。
「そういえばそうだったな」
「あれっ、それって」
ミサトがそれを聞いてフォルカに言ってきた。
「修羅の世界じゃ料理がないの?」
「一応はあるさ」
アリオンは流石にそれはあるという。
「けれどな、それでもな」
「それでも?」
「栄養を摂るだけなんだよ」
「栄養を摂るだけ」
「うわ、それって」
アスカがそれを聞いて顔を顰めさせる。
「じゃあザワークラフトとかソーセージとか黒ビールとかジャガイモとかザッハトルテの味も知らないの」
「アスカ、それ全部ドイツ料理よ」
「何か偏ってるなあ」
ヒカルとケンジがすぐに突っ込みを入れる。
「まあアスカらしいけれど」
「ドイツ育ちだしね」
「ドイツ料理は最高よ」
アスカもこれは自負しえいるようである。
「素朴だけれどそこに味わいがあるのよ」
「けれどアスカ」
「何よ」
シンジに対して顔を向けて応える。
「この前スパゲティ美味しそうに食べてたよね」
「ピザもね」
レイも言う。
「あとラザニアも」
「御前マカロニも好きやろ」
トウジも続く。
「それもめっちゃ」
「イタリア料理はね。友情の証よ」
急に訳のわからないことを言うアスカであった。
「ドイツ人にとってはイタリア料理っていうのはね。何ていうか」
「ドイツ忍者の人を思い出すとか?」
「変態に用はないわよ!」
今のシンジの言葉にはかなりムキになって返す。
「そうじゃなくてね。ドイツとイタリアはそれこそ昔から色々あって」
「神聖ローマ帝国ね」
流石にミサトは知っていた。
「ちょっち以上に古い話ね」
「まあそれよ。あの気候も風景もね。憧れてて仕方がなくて」
「それでセレーナさんの作ったパスタあんなに」
「お菓子まで」
「イタリアは何から何までドイツと同じ位最高よ」
かなりのイタリア好きなのは間違いない。
「また今度行ってみたいわよね」
「おい」
アスカの話が一段落したところでフォルカがまた口を開いてきた。
「話してもいいか」
「あっ、はい」
シンジが彼に応える。少しきょどっているが。
「どうぞです」
「それでね。フォルカ君」
ミサトもあらためて彼に問うてきた。
「修羅のお料理はそんなに酷いの」
「味はまるでない」
これが返答であった。
「栄養だけ摂れればいいからな」
「そうなの」
「じゃあお酒は?」
リツコはアルコールについて尋ねてきた。
「あと他の娯楽はないのかしら」
「酒はアルコールだけだ」
「アルコールだけなの」
「酔えばそれで終わりだ」
また随分と物凄い話だ。
「ただしだ」
「ただし?」
「油断をすればやられる」
ここが実に修羅らしかった。
「だから飲むのにも注意が必要だ」
「本当に殺伐としてるわね」
ミサトもそれを聞いてこう言うしかなかった。
「じゃあ娯楽は」
「身体を鍛えることだけだ」
「殆どスパルタね」
リツコはそれを聞いて言った。
「それだと。いえ」
「ええ、そうね」
ミサトはリツコの今の言葉に応えた。
「そうよ。互いに殺し合うから」
「スパルタどころじゃないわね」
「だから修羅なのね」
あらためてこの言葉の意味を認識するのだった。
「互いに闘い、殺し合うことこそが全てだから」
「そういうことね」
「確か仏教だったっけ」
シンジが言った。
「それって」
「左様」
キラルが彼の言葉に応える。
「互いに殺し合う。それこそまさに修羅道で申す」
「そうですよね。やっぱり仏教のそれですか」
「俺はそこに生まれ闘ってきた」
フォルカのこれまでの人生だ。
「そしてその中で最強の存在」
「最強の存在?」
「それこそ修羅王」
この存在のことも語られる。
「修羅界では修羅王が戒律だ」
「修羅王がですか」
「その修羅王を倒せば」
「ああ、わかったわ」
ミサトはここからはすぐに察した。
「それで支配者が代わるのね」
「そういうことだ」
「んっ!?ってことはや」
トウジがここで気付いた。
「あれやないか。フォルカさんが次の修羅王かいな」
「あっ、そうか」
シンジもここで気付いた。
「フォルカさんが修羅王を倒せばそうなるよね」
「それで変えるんやな、修羅界を」
「その通りだ。それが修羅だ」
フォルカはそれこそが修羅の歴史だと言う。しかし言うのはそれだけではなかった。
「しかしだ」
「しかし?」
「それは終わる」
「つまりあれね」
アスカは彼が何を言いたいのかはっきりとわかった。
「あんたが修羅王になってそういうのを終わらせたいのね」
「力を変えるのもまた力だ」
「そういうことよね。じゃあまずはね」
「料理よ。流石に戦い前だからビールは駄目だけれどね」
「ミサトさん、またビールなんですか」
シンジはミサトがここでまたビールを話に出してきたので少しうんざりとした顔を見せた。
「幾ら何でもそれって」
「だから今回は飲まないわよ」
「だったらいいですけれど」
「飲むのは戦いの後」
楽しそうに笑って言った。
「そういうことよ。これは鉄則よ」
「そうですか」
「フォルカもそれはいいわよね」
ここまで話したうえでフォルカにまた問うた。
「ビールの味。楽しみにしておいてね」
「わかった。それではな」
「そうよ。まあ今はお料理だけで我慢して頂戴」
「ああ」
こうして彼等の話は終わった。神かしたヤルダバオト、そしてフォルカの戦いは続く。修羅界の死闘はまだ続くのだった。その核心を見せないまま。

第八十五話完

2008・10・13


 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧