スーパーロボット大戦パーフェクト 第三次篇
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第八十四話 修羅の掟
第八十四話 修羅の掟
「アリオン殿」
メイシスがアリオンに声をかけていた。
「あれはどういったことか」
「どういったこととは?」
「とぼけてもらっては困ります」
メイシスの声がきついものになった。
「何故前線に出なかったのか。戦場におられながら」
「あれが俺の今回の作戦さ」6
「作戦!?」
「ああ。御前さんとアルティスが前線に出ていただろ」
「確かに」
「だからさ。俺は全体の指揮にあたったってわけだ」
「指揮官を務められたと仰るのか」
「そうさ。だから上手く行っただろ」
悪びれた様子もなくまた言ってきた。
「撤退はな」
「確かにそうですが」
「だったら結果オーライだな」
メイシスにこれ以上言わせないかのような言葉だった。
「上手くいったんだからな。そうだろ」
「くっ・・・・・・」
「それよりだ、メイシス」
彼は軽く笑いながらメイシスに言葉を返してきた。
「将軍に伝えておくんだな」
「一体何を」
「今度の作戦のことさ」
彼が言うのはこのことだった。
「今度の作戦はな、軍師殿も出られる」
「軍師殿!?まさか」
「そうさ。激震のミザル」
新たな名前が出て来た。
「それにアルコもな。フェルナンドとマグナスも呼ばれてるぜ」
「主立った修羅達が集結しているというのか」
「そうさ。これがどういったことかわかるよな」
「はい」
アリオンの言葉に対して頷く。
「我が修羅の総力を結集して」
「そういうことさ。わかったらすぐに将軍に伝えな」
「了解しました」
「俺も準備に取り掛かるからな」
「総力戦のですね」
「風が呼んでるんだよ」
彼はここで風という言葉を口にした。
「俺をな。戦いにな」
「それではこれから」
「そうさ。俺も出る」
楽しみながらも意を決した言葉だった。
「今度もな。じゃあまたな」
「はい。それではまた」
「行くぜ。いいな」
「わかりました」
アリオンの言葉に頷きセメイシスはこの場を後にした。アリオンは一人になると彼方を見て顔を上に上げた。そこであるものを感じていた。
「風か」
彼はまたこれを感じているのだった。
「風が呼んでるな。この俺を」
楽しげに笑いつつ述べる。彼は今風の行く先を読んでいるのだった。
ロンド=ベルは緒戦に勝利を収めた。しかし今はそれに喜ぶことなくフォルカから修羅達について詳しい話を聞いていた。皆そこに集まっている。
「まず聞きたいのはね」
「フォルカの兄弟のことだけれど」
クリスとバーニィが最初にフォルカに対して問う。
「お兄さんと弟さんがおられるってわかったけれど」
「兄弟がいたの?」
「義兄弟だ」
フォルカは静かにこう答えた。
「あの二人とはな」
「義兄弟なの」
「そうだったんだ」
「そうだ。血はつながっていない」
このことを言う。
「血はな。しかしだ」
「しかし?」
「絆はあった」
このことははっきりと言うのだった。
「だから俺はあいつを殺さなかった」
「弟さんを」
「そうだ。しかしそれは修羅の掟に反していた」
このことをまた皆に語る。
「あいつはそれを憎んでいるのだ。情をかけられたと思ってな」
「また随分と複雑な問題だな」
「ええ、そうね」
シローとアイナがここまで聞いて述べる。
「俺達の世界でもそういうことはあるからな」
「それが戦いに生きる修羅の世界なら」
「そうだ。修羅の世界では戦いが全て」
彼はこのことも語った。
「戦いの中で死ぬのは当然のことなのだ」
「それでも怨みに持たれるなんて」
「後味が悪いわね」
「だが修羅の世界ではそうだ」
フォルカはこのことは肯定する。
「それが普通だ。殺すか殺されるか」
「殺伐としてるね、またそれは」
万丈はそれを聞いて述べた。
「まあ世界が違えばそれがルールになるんだろうね」
「しかし俺は疑問に思った」
話は先に話した通りだった。
「そして俺はここに入った。修羅の世界の生き方に疑問を持ってな」
「あんただけかな、それは」
凱はそれを聞いて述べた。
「それは。あんただけか?」
「どういう意味だ、それは」
「だからだ。あんたは修羅の世界に疑問を持ってたんだな」
「そうだ」
「あんたの他にもまだいるかもな」
こう言う凱だった。
「あんたの他にもな。いるかも知れないな」
「俺の他にもか」
「ひょっとしたらだけれどな。それに」
「それに?」
「義理のお兄さんと弟さんだけれど」
今度は命がフォルカに問う。
「どう思っておられるんですか?」
「どうか」
「はい。怨んでは」
「いない」
はっきりと答えた。
「絆は忘れたことはない。一瞬たりとな」
「そうですか。じゃあ」
「倒したくはない」
フォルカの偽らざる言葉だった。
「何があっても。殺したくはない」
「そうですか。やっぱり」
「できればだが」
「いや、その心が強ければ適う」
凱は力強い声で言い切った。
「その想いが強ければな。絶対にな」
「そうなのか」
「少なくともだ。あんたのその心は届いているぜ」
「俺の心はか」
「誰かにな。その誰かまではわからないがな」
しかしそれでも凱は言うのだった。
「だからだ。行こうぜ」
「戦いにだな」
「そこに答えはある」
凱は言い切った。
「そこにな。戦いに」
「その通りだ」
大河は凱の言葉に大きく頷いた。
「凱隊長の言う通りだ。答えはそこにあるのだ」
「その通りだ。じゃあ行くぜ」
火麻も言う。
「戦いにな」
「よし!全軍に告ぐ!」
大河がここで大きく宣言する。
「すぐに進撃開始だ。進む先はだ」
「東に行くといい」
フォルカがここで言う。
「東に修羅王の宮殿がある」
「修羅王の」
「おそらく修羅達はそこに防衛ラインを敷いている」
「ではそれを突破し修羅王を倒せば」
「ここでの戦いは終わる」
「しかしだ」
だがここでフォルカはまた言うのだった。
「修羅王は手強いぞ」
「そんなになのデスか?」
「修羅を力で統べる覇者だ」
こうスワンに語る。
「その力はこの修羅界を圧する程だ」
「オウ、そんなニ・・・・・・」
「しかしだ。答えはもう出ている」
また大河が言う。
「全軍で進み修羅王を倒す。そして答えを出す」
「修羅の答えを」
「戦いに勝たなければならない。しかし戦いが全てではない」
大河がまた言い切る。
「それを見つける為に今!」
「はい!オペレーションスタート!」
「作戦発動!」
命に続いてまた叫ぶ。
「修羅との戦い、名付けて月光作戦!」
「了解!」
作戦名まで名付けられた。こうしてロンド=ベルは東に向かい修羅との決戦に入るのだった。
東に向かっているとやがて。前方にレーダー反応があった。
「レーダーに反応デス」
「来やがったな」
スワンの言葉に火麻が応える。
「修羅達だ」
「よし、それではだ」
大河がここで前を見据える。
「全軍出撃用意」
「了解デス」
「よし、いよいよだ」
フォルカは既にヤルダバオトにいた。
「アルティス、フェルナンド」
二人の名を呼ぶ。
「俺は。御前達と」
「敵が来ました!」
ここで命の報告が響く。
「前方に二千です!」
「よし!」
これを受けて全軍出撃する。前方にいたのはアルティスとメイシス、そしてマグナスがいた。マグナスはアルティスに対して恭しく声をかける。
「将軍、それでは」
「うむ」
「まずは私にお任せを」
こう彼に言うのだった。
「奴等を全て倒して御覧に入れましょう」
「いや、私も行く」
しかし彼はこうマグナスに返すのだった。
「ここはな。私もだ」
「しかしそれは」
「マグナス殿」
ここでメイシスが彼に対して言う。
「将軍の御言葉ですよ」
「くっ・・・・・・」
「おわかりですね。それでは」
「はい、それでは」
「無理は禁物だ」
アルティスは冷静に述べた。
「誰か一人で太刀打ちできる軍勢ではない」
「それではですか」
「そうだ。全軍に告ぐ」
アルティスが指示を出した。
「まずは前に出る」
「前にですね」
「そうだ」
部下達に対しても毅然として答える。
「右からフェルナンド、左からアリオンの軍も来ている」
「あの方々もですか」
「ではやはりここで」
「そうだ、総力戦だ」
このことをはっきりと告げた。
「だからだ。我等もまた」
「はっ、それでは」
「いざ」
「わかったな、マグナスよ」
彼等に指示を出したうえでまたマグナスに対して声をかける。
「ここで。決戦だ」
「わかりました」
いささか不満が残っているようだがそれでも頷くマグナスだった。
「そのように」
「よし、二分後に左右の軍が戦場に到着する」
アルティスはこのことも把握していた。
「それと共に総攻撃に移る。よいな」
「了解!」
「ならば!」
こうして修羅達は前進をはじめた。まずはお互いに前進するだけだった。そして二分後。戦場にフェルナンドとアリオンの軍が到着したのだった。
「来たな」
「来たのかよ!」
両軍はそれぞれ彼等を見て声をあげた。
「くっ、数は圧倒的に向こうが上だぜ」
「そうね」
美和が宙の言葉に応える。
「五倍、いえ七倍!?」
「どっちにしろ尋常な数じゃねえぜ」
「艦長」
クローディアがグローバルに対して問う。
「ここはどうされますか?」
「さらに敵が接近中です」
未沙も報告する。
「今度は前方からです」
「敵の予備戦力だな」
「おそらくは」
こう述べる。
「どうされますか、それも」
「ここは。あまりにも危険ですが」
「円陣を組む」
グローバルが下した決断はこれだった。
「半円だ」
「半円ですか」
「そうだ。それで三方からの敵に備える」
こう判断を述べた。
「最前列に防御力の高い機体を、次いで遠距離兵器を持つ機体をだ」
「わかりました」
「まずは守りに徹する」
ここはそれを採用するのだった。
「そのうえで敵の消耗を待つ。いいな」
「了解です」
「それならば」
「まずは敵の数を減らす」
グローバルはこう考えていた。
「まずはそれだ。いいな」
「はい」
こうしてロンド=ベルは守りに徹することになった。それは成功し三方から攻撃を仕掛ける修羅達はその堅固な守りに阻まれいたずらに数を減らすだけだった。それを見て痺れを切らしたマグナスが動いた。
「ええい、これではラチがあかん!」
「待て、マグナス」
しかしその彼をメイシスが制止する。
「今動いては」
「構わん!」
だが彼は彼女の制止を振り切った。
「このままでは戦力を消耗するだけだ。ならば!」
「いや、待て」
ここでまた彼を制止する声が聞こえてきた。
「マグナスよ、今はその時ではない」
「!?その声はまさか」
「そうだ、私だ」
声は堂々としたものだった。
「私の言うことが聞けぬのか?マグナスよ」
「い、いえ」
この声を聞いて急に大人しくなるマグナスだった。
「滅相もありません、軍師殿」
「ならばよい。それならばな」
戦場に新たなマシンと軍勢が現われた。それに乗るのは赤紫の、鎌髭の男であった。
「ふむ、あれがロンド=ベルだな」
「はい」
隣にいるスキンヘッドの、骸骨を思わせる顔の男が応える。
「その通りです」
「そうか。あれがロンド=ベルか」
「軍師殿」
アルティスが彼に声をかけてきた。
「ようこそこちらに」
「将軍よ、まずは御苦労」
彼は最初にアルティスに対して労いの言葉をかけた。
「どうやら今まで戦線を保っておいてくれたようだな」
「有り難き御言葉」
「それではだ」
彼はそれを受けて次の言葉を述べた。
「後は私に任せてもらおう」
「指揮を軍師殿がですか」
「そうだ」
メイシスに対しても答える。
「このミザル=トゥバルがな。不服か?」
「いえ」
異論は消すメイシスだった。
「滅相もありません」
「ならばよい。それではアルコ」
「はっ」
スキンヘッドの男が彼に応えた。
「このまま押し潰す。よいな」
「わかりました。それでは」
「軍師殿、それは」
しかしここでメイシスが彼に対して言うのであった。
「どうかと思いますが」
「案ずることはない」
ミザルは悠然としてメイシスに言葉を返した。
「我等は今も彼等の十倍以上の戦力を持っている」
「それはそうですが」
「このまま囲めばよいのだ」
これが彼の作戦であった。
「圧倒的なこの戦力でな。それではだ」
「そうですか。それでは」
「全軍包囲せよ」
あらためて指示を出した。
「アリオンの軍勢は敵の後方に回れ」
「了解ってね」
(しかし)
ここでアリオンは思うのだった。
(これであっさりとやられる連中じゃないだろうな)
「アルティスの軍は左翼だ」
「わかりました」
「私はこのまま主力と共に正面を受け持つ。そのうえで同時攻撃を仕掛ける」
「よし」
それを聞いて目に炎を宿らせたのはフェルナンドだった。
「フォルカ、今度こそだ」
「ならばメイシス」
「はい」
メイシスはアルティスの言葉に応えた。
「すぐにだ。行くぞ」
「わかりました。それでは」
「よし、我等も前進開始だ」
「わかりました」
ミザルの言葉にアルコが応える。
「このまま敵を押し潰すぞ」
「了解です」
こうして彼等は勝利を確信し動きだした。彼等はそれぞれ動きだす。だがその動きはロンド=ベルも察知しているところであった。
「今だな」
「今ですか」
「そうだ」
グローバルが未沙に述べていた。
「今こそ好機だ。動く」
「ではどうされますか」
「まずは後方に回ろうとしている敵の左翼を叩く」
ポイントを指し示しつつ述べる。
「まずはそれだ」
「わかりました。それではすぐに」
「全軍動くぞ」
グローバル自身も指示を出す。
「全軍でだ。いいな」
「よし、行くぞ輝」
フォッカーがそれを受けて輝に声をかける。
「まずはバルキリーで突っ込む」
「バルキリーでですね」
「そうだ。先陣を切るのは俺達だ」
彼は最初からそう決めていた。
「一気に行くぞ。いいな」
「わかりました」
「よし!派手に行くぜ!」
バサラもここで叫ぶ。
「どいつもこいつも!俺の歌を聴きやがれ!」
「ちょっと、あんたも突っ込むっていうの!?」
「当たり前だ!」
こうミレーヌに返す。
「ここで突っ込まなくて何処で突っ込むってんだよ!」
「何馬鹿言ってるのよ!」
ミレーヌにとってはとんでもない話だった。
「あれだけの敵のど真ん中で歌ったら死ぬに決まってるじゃない!」
「安心しろ!」
しかしバサラはいつもの調子だった。
「俺は敵の攻撃に当たったりしねえからよ!」
「それで当たっても知らないわよ!」
「とにかくやるぜ」
もう完全にミレーヌの話を聞いていなかった。
「修羅共!俺の歌を聴きやがれ!」
こう叫んで突っ込んだ。こうなるともう誰にも止められないのだった。
「あの馬鹿・・・・・・」
「ミレーヌ、俺達も行くぞ」
ここでレイがミレーヌに声をかける。
「ビヒーダも同じ考えだ」
「・・・・・・・・・」
「本気なの!?レイ」
「本気だ」
ミレーヌに対して毅然として答えてきた。
「だからこそだ」
「そうなの。それじゃあ」
「バサラに追いつくぞ」
「わかったわ」
ここでミレーヌもバルキリーを飛ばした。
「それならね。やってやるわよ!」
「よし!派手なパーティーのはじまりだ!」
バサラは早速ギターを奏ではじめた。
「どいつもこいつも聴きやがれ!俺の歌をな!」
彼にとってのパーティーのはじまりだった。敵の攻撃を踊るようにかわしながら音楽を奏でる。そしてそれは修羅達からも確認された。
「な、何だあれは!?」
「あれは一体」
「敵か!?しかし」
今のバサラの行動は彼等の行動の常識の範疇外のことだった。
「歌っている。何故だ」
「こんな場所で」
「ほお」
それを見て笑うのはアリオンだった。
「面白い奴だな。こんな場所で歌うのか」
「聴きやがれ!」
バサラは相変わらずギターを奏で続けている。
「この俺の歌をな!」
「ロンド=ベルはどうやら思ったより面白い部隊みたいだな」
「んっ!?あんた」
バサラもアリオンに気付いた。
「俺の歌を聴きたいっていうのか?」
「ああ。まあな」
笑ってバサラに応える。
「いい歌だな。もっと聴きたくなったぜ」
「そうかい、それはいいな」
「それにだ。フォルカ」
「むっ!?」
「あんたにも聞きたいことがある」
こうフォルカに対して言うのだった。
「あんたにな。いいかい?」
「何をだ」
「あんたがそこにいる理由だよ」
フォルカに対してこのことを話していた。
「そこにな。そしてこいつの歌も聴きたくなった」
「何時でも聴かせてやるぜ」
「よし、わかった」
アリオンはここで笑顔で頷いた。
「これで決まりだ。俺は一旦修羅を抜ける」
「何っ!?」
今のアリオンの言葉に驚きの声をあげたのはミザルだけではなかった。
「アリオン殿、何を考えておられるのですか」
「何って。言ったままさ」
「本気か?」
「風が呼んでるからな。俺は本気さ」
「馬鹿な、何故」
「この連中に興味が出て来た」
これまでは軽い笑みだったが今は真剣な顔になっている。
「だからさ。俺はロンド=ベルにつくぜ」
「くっ、またしても裏切りか」
「裏切り?違うな」
アリオンはそれは否定する。
「俺は風に従ってるだけさ。それだけなんだよ」
「風にと言われるか」
「そうさ。ロンド=ベルに何があるか」
彼は語る。
「それを見届けてやるのさ」
「アリオン、貴様!」
今度はフェルナンドが怒りの声をあげる。
「どういうつもりだ、貴様もまた!」
「フェルナンドか」
「貴様もまた死にたいというのか」
すぐにアリオンの側まで来た。そうして構えに入る。
「それならば容赦はせんぞ」
「おっと、相手になるっていうのかよ」
「そうだ」
拳を握り締めアリオンと対峙する。
「行くぞ。いいな」
「ああ。来い」
殺意をみなぎらせるフェルナンドに対してアリオンは余裕に満ちたものだった。
「ここで貴様を・・・・・・倒す!」
「待て」
だがここでフォルカが出て来た。
「アリオン」
「フォルカか。何だ?」
「この男の相手は俺がする」
そしてこう言うのだった。
「ここで出会ったことこそ運命だ。それならばな」
「そうか。じゃあ俺は他の奴の相手をさせてもらうか」
「済まん」
「謝る必要はないさ」
それはよしとするのだった。
「御前さんと因縁ある相手だしな」
「そうか。それならばだ」
「フェルナンド」
フォルカはフェルナンドに対して顔を向けた。
「それでいいな」
「無論だ」
フェルナンドはフォルカと対峙するとアリオンに対してものよりさらに激しいさっきを見せた。
「あの時の屈辱、忘れたことはない」
「そうか」
「何故情をかけた」
怒りに満ちた目でフォルカに問う。
「俺に情を。どういうつもりだ」
「殺したくはなかった」
フォルカは彼にこう返した。
「だからだ。御前を」
「ふざけるな!」
その言葉を聞いてさらに怒りを高めるフェルナンドだった。
「互いに殺し殺され合う!修羅の生き様を知っている筈だ!」
「無論だ」
「それならば何故だ!」
フェルナンドの怒りがさらに高まる。
「俺に情をかけた!恥を抱いて死ねというのか!」
「違う」
だがフォルカはそれを否定する。
「さっきも言った筈だ。殺したくはなかった」
「まだ言うのか」
「そうだ」
静かにフェルナンドに答える。
「何度でも言おう。御前を殺したくはなかった」
「くっ・・・・・・」
「修羅であっても。殺さなくてもいい筈だ」
これは修羅にとっては考えられないことだった。
「そうではないのか。あの時勝負はついていた」
「だから俺を殺さなかったというのか」
「そうだ。だからだ」
「戯言を」
やはり修羅である彼にはわからないことだった。
「ならば。今もだというのか」
「その通りだ」
「貴様がそう言うのならいい」
怒りに満ちた声を漏らした。
「しかし!俺は違う!」
「むっ!?」
「受けろ、このフェルナンドの拳」
全身に激しい闘気をみなぎらせる。
「機神轟撃拳!」
「なっ、あの拳は!」
「危ないぞ!」
ロンド=ベルの面々はフェルナンドの拳を見て驚きの声をあげる。
「フォルカ、逃げろ!」
「死ぬぞ!」
「いや」
だがそれを前にしてもフォルカは冷静な態度を崩さない。
「大丈夫だ。これなら」
「これなら!?」
「何だって!?」
「見切っている」
こう言うとすっと前に出た。そして。
「受けろ、フェルナンド」
「むっ!?」
「機神猛撃拳!」
技の名前を叫び激しい拳を繰り出す。それでフェルナンドの攻撃を弾き飛ばしそれと共にフェルナンド自身をも吹き飛ばすのであった。
「何だと・・・・・・!」
「あの時と同じだ」
フェルナンドを吹き飛ばしたフォルカは言う。
「貴様の動きは既に見切っている。それだけだ」
「くそっ・・・・・・!」
「去れ」
大地に叩き付けられるフェルナンドに対して告げる。
「闘いは終わった。貴様の負けだ」
「また俺に恥をかかせるというのか」
「違う」
このことははっきりと否定するフォルカだった。
「御前は俺の弟だ。だからこそ」
「ふざけるな!」
敗れてもまだフェルナンドはその激しい闘気をなくしてはいない。
「弟なぞ!肉親の情なぞ修羅には不要だ!」
「いや、違う」
フォルカが否定するのはこのことだった。
「それは違う修羅はただ戦うだけではない」
「修羅を否定するというのか」
「力と技だけではない」
彼は言う。
「それだけでは。だからこそ」
「・・・・・・この恨みは忘れん」
フェルナンドはまだその身体に怒りをみなぎらせている。
「決してな。覚えておけ」
こう言い残して戦場を離脱する。指揮官が二人抜けた修羅の軍勢はこれで大きく遅れを取った。そして今マグナスのアンドラスもまた。
「行くぜ!」
「アリオン、貴様!」
マグナスは憤怒の顔でアリオンを見据えていた。
「フォルカと同じく修羅を裏切るか!」
「裏切ったんじゃねえんだよ」
彼の言葉は変わらなかった。
「一旦抜けるだけだ」
「詭弁を!」
「詭弁じゃねえって言ってるだろ」
しかしここでもアリオンの言葉は変わらない。
「俺も多分フォルカと同じさ。修羅は闘いだけじゃないんだよ」
「それ以外に何がある?」
「あるさ」
こう返す。
「そしてそれを見つける為にだ。行くぜ!」
「くっ、貴様!」
「百烈拳!!」
両手で激しく無数の拳を繰り出す。
「幾ら貴様でもこれは防げないよな!」
「ぐ、ぐおおおおおおおおっ!」
「そらよっ!」
最後の一撃を繰り出す。マグナスのアンドラスもまたこれで吹き飛ばされた。
「終わりだ、命は助けてやるぜ!」
「貴様もまた、俺に情を・・・・・・」
「よく考えるんだな」
怒りの声をあげるマグナスに対して告げる。
「どうして俺もフォルカも御前等の命を取らないのかをな」
「考えろというのか」
「そうさ。アルティス、メイシス」
二人に対しても言う。
「御前等もだ。考えるんだな」
「馬鹿なことを」
アルティスにかわってメイシスが彼の言葉を否定する。
「修羅にとっては闘うことが全て。それを否定するとは」
「だから考えろって言ってるだろ」
既にその戦力を大きく失っている二人に対して言う。
「手前等でよくな」
「・・・・・・まだ言うか。ならば」
「よせ」
アルティスは前に出ようとするメイシスを制止した。
「今は止めておくのだ」
「しかしアルティス様」
「軍師殿」
メイシスに応えずにミザルに声をかけた。
「既に戦力は大きく失いました」
「確かにな」
少し忌々しげな感情を見せての言葉だった。
「このまま戦闘を続けたとしても勝機は薄いな」
「だからこそ。ここは撤退すべきかと」
「わかった」
アルティスの言葉に対して頷く。
「それではな。撤退だ」
「はっ」
「兄者」
フォルカは今度はアルティスに対して声をかけた。
「俺は」
「また会おう」
こう言ってフォルカに背を向ける。
「しかし次は」
「拳を交えるというのだな」
「修羅の掟は知っている筈だ」
背を向けたままフォルカに告げてきた。
「例え弟であろうともな」
「兄であろうともか」
「我等は修羅」6
アルティスはフォルカに応えて言う。
「闘いならば兄弟であろうと殺す。わかっている筈だがな」
「だが俺は」
「また会おう」
しかしこれ以上は言わせなかった。
「それではな」
「・・・・・・アルティス」
修羅の軍勢は撤退を開始した。これでまた一つ戦いが終わった。まずはロンド=ベルの勝利であった。しかし釈然としないものもあった。
「それでだ」
「ああ」
「あんたが入るなんてね」
「どういうつもりだ?」
ジェリド、カクリコン、ライラ、ヤザンがアリオンに対し問う。
「気紛れってやつじゃねえよな」
「そこんところはどうなんだよ」
「まあそんなところかな」
アリオンは軽い調子でジェリドとヤザンに返した。
「何となくだけれどな。疑問には思っていたんだよ」
「疑問!?」
「そうさ」
今度はマウアーに対して応える。
「その辺りはフォルカと同じだな」
「同じ!?」
「それでは」
「そうさ。俺も修羅には疑問に思っていたんだよ」
こうダンケルとラムサスにも返す。
「修羅は闘いだけでいいのかってな」
「それは」
「違うだろ」
サラに対しても言う。
「闘いだけじゃねえだろ?だからだよ」
「それだけには思えないんだけれどね」
ライラは冷静にアリオンに言葉を返す。
「入った経緯を見ればね」
「ああ、あれか」
何でもないといった様子でライラに応えてきた。
「あれはな。ちょっとな」
「あれは?」
「そうさ。熱気バサラっていったな」
「ああ、俺か」
「あんたの歌を聴きたくなったんだよ」
笑いながらバサラにも言う。
「いい歌だからな。これからもいいか?」
「そんなの何時でもいいぜ」
バサラがそれを断る筈もなかった。
「俺の歌はどいつにもこいつにも聴かせる為にあるんだからな」
「そうかい、じゃあ話は決まりだな」
「ああ、そうだな」
「しかしよ」
バサラがここでアリオンに対して言ってきた。
「あんた、修羅のことには詳しいんだな」
「それなりにはな」
一応はといった感じで返してきた。
「知ってることは知ってるぜ」
「そうなのかよ」
「これでも将軍だったからな」
「将軍ねえ」
「それにだ」
アリオンはさらに言ってきた。
「わかってると思うが修羅は本気だぜ」
「やはりな」
金竜がそれを聞いて頷く。
「あの戦力を見ればな」
「戦力だけじゃねえぜ」
アリオンはこうも言ってきた。
「あんた達はあれだろ?数だけを見てるよな」
「ええ、まあ」
フィジカが彼に答える。
「それは否定しませんけれど」
「それは駄目なんだよ」
そこを駄目出しするアリオンだった。
「わかってるだろ?戦争は指揮官も大事なんだよ」
「というと」
ドッカーはその言葉を聞いて顔を顰めさせた。
「あれか?今の修羅の指揮官連中は」
「そうさ、将軍が三人」
アリオンは言う。
「アルティス、メイシス、マグナスな」
「マグナスというのはわかります」
ガムリンが述べる。
「あの太った大男ですね」
「そうさ。ああ見えても強いぜ」
「確かに」
「オルガ達三人と互角に渡り合った」
このことからもかなりの戦力であることは容易に察しがついた。
「かなりの強さなのは間違いないな」
「そしてあの男もですね」
柿崎とマックスも言う。
「ああ、あの銀髪のだよな」
「はい。確か」
「アルティスっていうんだよ、あいつはな」
アリオンは彼のことも話す。
「あいつも強いぜ。それもかなりな」
「かなり?」
「ああ、そうさ」
こう語るのだった。
「そこは覚悟しておけよ。将軍の中でも一番手強いぜ」
「一番・・・・・・」
「この俺よりも上だ」
こうまで言う。
「だからだ。用心しろよ」
「それ程までに」
「あの男は」
「それにだ」
最後に問うたのはヒビキだった。
「あの女は?最後の一人は」
「メイシスだな」
「そうだ、あいつは」
「あいつは簡単に言うとアルティスの副官だな」
「副官ね」
「そういえばそんな感じだな」
シルビーとネックスはそれを聞いて言った。
「じゃあ将軍はその三人」
「それがメインってわけか」
「そうさ。ただな」
彼はまた言う。
「あの連中もいるからな」
「あの連中!?」
ミリアがその言葉に顔を動かした。
「あの二人なのか?」
「やっぱり気付いていたか。そうさ」
涼しい笑みでミリアの言葉に返す。
「ミザルだよ。あいつだ」
「そうか、やっぱりな」
カムジンがその返答に頷いた。
「で、あのチビの禿もだな」
「あいつはアルコっていうんだよ」
こう話すアリオンだった。
「あいつは大したことはねえ」
「戦闘力は?」
「そうさ。ただしな」
レトラーデに答えつつその目を光らせる。
「誰にでも化けられる。注意しな」
「そういうことですか」
「あとだ。一番注意するのはミザルなんだよ」
「見たところ全軍の指揮官かしら」
「ああ、確かにそんな感じだよな」
ミスティの言葉に桐生が頷く。
「彼が来てから何か急に変わったし」
「それを見る限りは」
「あいつは修羅の軍師なんだよ」
「軍師・・・・・・」
「やっぱり」
「マグナスはあいつの片腕みたいなもんだ」
このことも同時に告げる。
「修羅のな。だから強いんだよ」
「そうか、やっぱりな」
輝がそれを聞いて頷く。
「伊達に軍師をやっているというわけじゃないんですね」
「頭も切れるが腕も立つ」
そうは言いながらもアリオンの顔は曇っている。
「あまり奇麗な奴じゃねえがな」
「奇麗な奴じゃない、か」
「わかったみたいだな」
「わかりたくはなかったがな」
フォッカーがアリオンに対して言葉を返す。
「汚い策でも何でも使うってころだな」
「少なくとも俺は好きじゃない」
このことも話すアリオンだった。
「そこんところは注意しておけよ。一番な」
「わかりました。それじゃあ」
「その辺りも」
「それでだ」
アリオンはまた言葉を続ける。
「これから東に行くんだよな、あんた達は」
「ええ、まあ」
「そのつもりですけれど」
「どんどん来るぜ」
警告するように言ってきた。
「奴等にとって正面からの防衛ラインだからな」
「しかしその先に修羅王がいる」
フォルカがここで言った。
「そらならばだ」
「言っておくが他に道はないぜ」
アリオンはこのことも忠告してきた。
「正面突破しかない。それでもいいんだな」
「っていうかそれしかないんだったらな」
「なあ」
一同の答えはもう決まっていた。
「やるしかないでしょ」
「そういうこと」
「割り切ってるな。けれどそこがまた気に入ったぜ」
アリオンは笑いながらまた言った。
「よし、こうなったら最後まで行くぜ」
「最後までか」
「ああ。このまま行くぜ」
笑って一同に告げる。
「最後の最後まであんた達とな」
こうしてアリオンはロンド=ベルに入った。しかし修羅との戦いはこれからが正念場であった。ミザルがその毒牙を磨いていたのである。
第八十三話完
2008・10・7
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