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IS〈インフィニット・ストラトス〉駆け抜ける者

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第4話

ブザーの音が、遠く聞こえる。

最後の攻防、銀色の閃光に向かって行って、最後に拳が当たった感触はあったが、決定打になったか分からない。

大歓声が響く中、先に立ち上がっていた、宮間さんと視線を一瞬交わらせ、互いに背を向け、ピットへと歩きだす。

今は言葉はいらない。後で必要になった時に話せば良いのだ。

結果はどうあれ、出来る限りを尽くした。胸を張って戻ろう。

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

「トモ!」
「…ただいま、一夏」
「不満な点が幾つかあるが、頑張ったな、丹下」

ピットでは、一夏が出迎えてくれ、労いの言葉を織斑先生がくれた。

「そうだ、結果は?勝敗は、勝者は!?」

ブザーの音の後がよく聞こえなかった為、勝ったのか負けたのか、まだ分からないのだ。

「喜べ丹下、お前の勝ちだ。最後のが届いて、な」
「特大エネルギー波を貫いて、一発でシールドエネルギーを空にさせたんだ。やったなトモ!」
「勝った…?俺が…?…っ!」

もたらされた歓喜に、全身が震え、両腕が天を突く。

「一夏、丹下がこんなに喜ぶ訳が、分かるか?」
「ISで勝利したから、じゃないのか、千冬姉?」
「それもある、だがな…、一番は、今の風潮を引っくり返したからだろう」
「…どういう事なんだ?」

俺が勝利を喜んでいる背後で、織斑先生が理由を語る。

「ISは女性しか使えない、だから、今は極端な女尊男卑な社会になっている、ここまではいいな?」
「先生、そこからは俺が。一夏、お前も俺も、そしてあのゼロも、その前提を覆す男のIS使いだ。当然、世界中から奇異の目で見られる」

先生から説明を引き継ぎ、一夏に語る。

「もし、無様に負ければ、やはり男などその程度だと笑われ、受け取られてしまう」

女だけだった世界で、見下されず舐められず、対等に向き合うには、打ち勝っていくしかない。

「今日、世界で初めて…、『男がISで女に勝った』。ちっぽけだけど、大きな一歩だ」

この世界は元のISの世界とは違う。いつか、男のISが普通になる日が、くるかもしれない。

「だから、勝てて嬉しいんだ。男もやるものだと、証明することが出来たから」
「先に一夏は戦闘を経験しているが、自滅しているからな。丹下の気持ちは分かる」
「う…、それを言われると辛い…」

面白そうに一夏を見る先生と視線を逸らす一夏。今は姉と弟に戻っている。

「一度ミスしたからって、気にするな。これから勝てばいいし、ゼロも居る。変わっていくさ」
「そう、か。そうだよな!よし!善は急げ、俺も腕を磨かないとな!トモ、特訓に付き合って…痛っ!?」
「戦闘で疲弊している者を付き合わせるな、馬鹿者」
「でも千冬姉…っ、」

スパンッ!

「織斑先生と呼べ、織斑」
「はい…、織斑先生…」

先生が叱り、生徒と教師と言う関係を失念した一夏が食ってかかり、頭をしばかれる。

いい加減学習しようや、一夏君。

「訓練は明日からにしろ、丹下、今日の勝利に浮かれるな、過信と慢心がお前を弱くする。鍛錬を怠るな」
「ご指摘感謝します、織斑先生!努々忘れないようにします!」
「よろしい。今日はもうお終いだ。ゆっくり休むといい」

厳しさの中にも、思い遣りを感じる。一夏ももっとしっかりすれば先生も厳しくならなくていいのではないか?…逆か。しっかりしてほしいから、厳しくするんだな。

「行こう、一夏。先生、お先に失礼します」
「織斑を頼むぞ、丹下。問題ばかり起こしてくれるからな」

…訂正、したくなくても、しなくちゃいけないんだな。

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

一夏と並んで寮へ歩いていると、戦っていた相手…、宮間さんとゼロが立っていた。

「ワンサマー、丹下を借りたいんだが、構わないな?」
「そんな言い方…!「一夏!」…分かったよ、トモ」
ゼロの口振りにムッとなった一夏を制し、ゼロと向き合う。

「俺に何の用だ?」
「話がしたい、いいか?」
「…分かった。一夏、先に戻っててくれ。後で反省会がしたい」
「ああ、待ってるぜ、トモ」

先に一夏を帰し、ゼロの話を聞く。

「まずは謝らせてくれ。俺達の我が儘で、迷惑かけた事を」

ゼロが頭を下げた。別に気にはしていないのだが、こう改めて謝罪されると申し訳ない気持ちになる。

「そして感謝している。お陰でのぞみが殻を破ることが出来た。丹下のお陰だ」

のぞみって、それだけ聞くと新幹線みたいだな、とどうでもいい事を考えていたら、手を差し出してきた。握手しろってか。

「別に特別な事はしていないし、謝るのはこっちだ。方法が無かったとは言え、罵ったことは間違いないからな」

拒否する理由も無いのでゼロの手を握り、正直な心境を吐露する。

「俺も感謝している。沢山の事を彼女さんに教えてもらった。機会があったら、また胸を借りたい位だ」
「私からもお願いします、もっと、ゼロに近付きたいから」

そう言って宮間さんは左手を出してきた。武器も左手で使っていたから、彼女は左利きか?

とりあえず左手で応じ、二人を交互に見る。

「話は終わり?なら、俺は行くけど?」
「いや、本題はここからだ。丹下、俺と友達になってくれるか?」
「友達ぃ?」
「此処は男が少なくて話が合わない。いや、のぞみ達が悪い訳じゃない。けどなんか物足りなくてな」

まあ、女ばっかりの場所に放り込まれれば、そうなるよな。

「ワンサマーは馬が合わない上不愉快だからな。その点、丹下とは仲良く出来そうな予感がするんだ」
「…予感、ね。ま、色々迷惑かけるだろうけど、よろしく、ゼロ」
「…!ああ!!よし、早速だが、ハルって呼んでいいか?」
「何でハル?一夏と同じトモでよくない?」
「あんな奴と同じ呼び方なんて死んでも嫌だ!」

嫌いすぎだろ。一夏がゼロに何をした。

「ゼーロー、あ、タンタンやっほー」

ゼロに呆れていると、寮の方からのんびりした速度で女子生徒が走って?来た。

名前何だっけ?確か…、その…、そう、多分のほほんさんだ!

しかし、何故一夏がおりむーで、俺がタンタンで、ゼロだけ普通なのか。

…さっぱり理解できん。

「どうした?」
「そろそろ晩御飯だからー、呼びに来た~」
「そうか、ありがとな」
ゼロの笑顔に頬を赤めるのほほんさん、悔しそうな宮間さん。

…もしかしなくても、俺お邪魔虫?

このまま居ても無粋だろうから、立ち去る事にする。

「じゃあ、俺は行くよ。ゼロ、また明日」
「ん?ああ!またな、ハル!」

嬉しそうなゼロを背に部屋へと向かう。

何か釈然としないが。

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

夕食時と言うことで、部屋に戻って早々に食堂へ一夏と向かう羽目に。

まずい、全然休めてないぞ。

「なあ、トモ?ゼロと何を話してたんだ?」
「端的に言えば、お友達になりましょうってさ」

空いていた席に腰掛け、一夏の問いに答える。

夕食は俺が豚の生姜焼き定食を、一夏が焼き魚定食を選んでいた。

「ゼロが?そうなのか、俺は嫌われてるからなぁ…」

食事をしながらも、どこか遠い目をしている一夏。ゼロと一夏にどんな確執があるというのか。

「よく分からないんだが…、何故一夏とゼロは仲悪いんだ?」

別に一夏が何かしたわけでも無さそうなのに、蛇蝎の如く嫌うのは、どうも腑に落ちない。

「俺もイマイチ分かって無いんだが…、俺が箒達と仲良くしてるのが気に障るらしい」
「篠ノ之達と?」
「お前の全部が気に入らないって言われた。正直、何をどうすれば嫌われないか分からない」

聞いてみて、何とも言えない気分になった。

一夏は天性の女誑しだ。しかも天然の。これは生まれた時から持っていた資質なのだからどうこうしようが無い。

ゼロの言いたい事は十分理解は出来るが、さりとて彼自身も見た限り宮間さんとのほほんさん、少なくとも二人の美少女から好意を持たれている。

己の現状を棚上げにして一夏を一方的に嫌うのは流石に無理があるとは思うが、そこは人の心。道理が通じはしないのである。

「合う合わないは、人次第って事だな。そう気に病むなよ、愚痴とかあったら俺が聞いてやるから」
「トモ…。俺、トモが居てくれて、本当に良かった」
「それは何より」

顔を合わせて拳をコツンとぶつけ、笑いあう。

とてもいい気分だ。望んだ転生とは違ったが、こんな気持ちになれるならば、良かったと思える。

「食べ終えたら反省会とするか」
「今日は凄かったな!」

食事を終えて部屋に戻り、一夏と二人で眠るまで何時までも、今日の戦いを語り合うのだった。 
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