IS〈インフィニット・ストラトス〉駆け抜ける者
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第3話
アリーナ・ステージには既に宮間某さんが所在なさげに待っていた。
男が使う物珍しさか、アリーナは満員、今か今かと開始を待ちわびている。
件の相手は、
「…本屋って呼ばれたことありません?」
どこぞの内気な図書委員に瓜二つ。
まあ、専用ISを所持出来るのだから、その実力は高いだろう。
しかし、展開しているISは同型の筈だが所々違いがある。
まずカラーリングとISスーツ、これは当たり前だがこっちが変なのであって、向こうが普通なのだ。
機体色はピンクでスーツは淡い赤。実に乙女らしいとでも言っておこうか。
続けて、胸と腰の装甲がなく、腕に珠がない。これをみて推測すると、速度重視を軽減させて総合力を高めた、と見ていいだろう。
そうしてお互い語らず黙して見合っていると、
「…今日は、私なんかの為に、ありがとうございます」
今まで何か言いたそうにしていた宮間さんが意を決したように語り始めた。
「この子は凄い力が有るのに、私じゃ引き出してあげられなくて…、」
言葉の節々から自分の不甲斐なさへの嘆きとISへの申し訳なさを感じるのだが、ぶっちゃけ言いたい。
俺にどうしろと?
他人がどうこうしようが、最終的には自分でなんとかすべきなのに。
「だから…、教えて下さい、アナタの力」
宮間さんが左手にエネルギーを纏わせ、スラスターの出力が上がっていく。…ならば!
「…俺は誰かに教えられるほど凄くない…、」
同じ様に、此方も右手に纏わせ、出力を上げる。
「だから、全力で行く!」
試合開始の鐘の音と同時に地を蹴り、拳と拳が激突する。
戦いの幕が、切って落とされた。
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戦いが始まり、織斑姉弟は、ピットのリアルタイムモニターで智春の戦いを見ていた。
「そうだ、下手に小細工を弄するより遮二無二つっこんだ方が良い」
千冬が冷静に分析し、
「よし!そのまま押せ!」
一夏が応援する。
モニターでは、智春が攻勢を強めている。
「千…、じゃなかった、織斑先生、コレはトモが有利ですよね?」
「…いや、丹下も理解はしているだろうが、不利だ」
「そんな!?何で!?」
攻めに攻めている智春が劣勢だとは思えず、千冬に食い下がる。
「見ていれば分かる」
「トモ…」
会話を切り上げた時、試合が動いた。
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「駄目、か」
右腕の珠の収束弾が防がれたのを確認し、呟いた。
ファーストコンタクトから間髪入れずに攻撃し続けたが、有効打は一つもなし。
教えてもらう、の言葉通り、じっくりと攻撃を見られた。
「攻撃は見せて貰いました。次は…、防御を!」
左手にライフルを即座に展開させ、撃つ、撃つ撃つ撃つ撃つ撃つ。
スラスターを全開にしても回避しきれず、いくつか掠める。
予想が出来てはいた。
同型、類似性能で此処まで差を付けられる理由、
単純に技術と経験が足りないのだ。
つい先ほど初めてISを起動させた俺と、訓練機とは言え腕を磨いてきた相手…、差が付いて当然である。
「確かに速い…、でも、それだけならっ!」
軌道の先を読まれ、撃たれる。無意識に腕で顔面を庇う。
「…なるほど。そういう使い方も、あったんですね?」
妙に感心したような声。何か起きた!?
「左腕の拡散の応用…、これは少し、厄介な…」
「拡散の…、応用?」
腕が死角になって見えなかったが、腕を少し離せば、俺の前に薄い幕状のエネルギーが。
「バリア?いや…、左腕のエネルギーを薄く広く拡散して、攻撃を相殺しているのか!」
この能力は俺は知らない。つまり、あのふざけた神のサービスと言うことになる。
痛手を与えるはずだった一撃を防がれ、相手は戸惑っている、チャンスは今しかない!!
「せええぇ!!」
「…っううう!!」
スラスターを全開にし、肩をつかんで全力で押す。
虚を突かれ、反応すら出来ない宮間さんを外壁に叩き付ける。
下がりながら左腕でエネルギー弾を連射。
普通に撃って命中しないならば、命中する状況を作るまで!
しかし、向こうも素直に喰らってくれる訳がなく、ライフルを戻し、近接戦闘用のロングソードを展開し、エネルギー弾を弾きながら近付いてくる。
「左で出来たなら、右でも出来るはずだ!」
左腕を下げ、右腕にエネルギーを纏わせ、こちらも突撃。
「剣相手に拳なんて…!」
「だったら『拳』を『剣』にするだけだ!伸びろぉぉぉ!!」
俺の雄叫びに右腕のエネルギーが、細く、長く、鋭く姿を変える。
右腕の収束を応用すれば、エネルギーで刃だって作れる!
交差する機体と刃。
打ち勝ったのは、
「お見事…、ですっ!」
「このまま、一気に勝利まで突っ走らせてもらう!」
戦況が、大きく変わろうとしていた。
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「凄い…、凄いぜトモッ!」
モニター越しの戦いに興奮する一夏。
「…技量は宮間、気迫は丹下、機体性能はほぼ互角。よく流れを引き込めたものだ」
二人の戦闘に、微かに笑みを零す千冬。
「一夏、お前も専用IS所持者なら目に焼き付けておけ。お前に必要なものが幾つもある」
「…分かった、千冬姉」
モニターの戦闘を眺めながら、少しだけ姉弟に戻り言葉を交わす二人。
しかし、次の瞬間には息をのむ事になる。
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嫌な予感がする。
宮間さんの狼狽を突き、シールドエネルギーを削ったのは良いが、どうも攻めきれない。
「…来て。お願い…!」
加えて、奴サンもコレといった攻撃をするでもなく、何かを待っている。
その不気味さ、訳の分からなさが、膠着状態に持ち込ませた。
「…どうして?どうして応えてくれないの?」
悲しそうな、悔しそうな宮間さんの表情。
この態度…、まさか…、
「まさか…、ハイパーモード、か?」
「…流れを取り戻すには、それしかなかったのに…。駄目ですね、やっぱり、私なんか…」
…敵に塩は送りたくないけど、仕方ないか。
「そうさ、あんたじゃ駄目だ」
「…っ!」
「そんな風になんかとか言ってるから、愛想尽かされるのさ!」
挑発して怒らせ、自信のなさを吹き飛ばす。諸刃の剣だが、やるしかない!
「いつだって奇跡を起こせるのは起こそうとした奴だけ。あのゼロとか言う優男におんぶにだっこなあんたじゃ、出来る訳ないね」
「…私の事はなんと言われようと構わない、でも、ゼロの悪口は撤回して下さい!」
「嫌だね。もう一回言うよ、下らない男にお熱だから下らない結果しか出せないのさ!」
「…アナタはっ!!」
宮間さんの雰囲気が変わった。来るか、ハイパーモードが!
「アナタは…アナタだけは…許さない!」
宮間さんの機体が、爪先から色を『銀色』に変えていく。
機体も、スーツも、髪すらも銀色に変わった宮間さん。
冷や汗が一筋、顔から流れた。
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「…なにも知らないのにっ!」
先程とは比べ物にならない程の速度でライフルを連射。
防いだ左腕の拡散エネルギーを貫き、直撃する。
「上から物を言ってっ!」
反撃の右腕の刃を難なく回避し、胴に蹴りが入る。
あまりの威力に、地面に叩きつけられバウンドする。
「大事な人を罵ってっ!」
距離を取ろうとした俺の左腕の球に、展開したロングソードで罅が入れられる。
「何様のつもりですかっ!」
逃げる俺に容易く追いつきエネルギーを纏わせたハンマーナックルを叩き込む。
まさに圧倒的。これがハイパーモード起動の代償…、随分高くつくものだ。
「左腕は使用不可、脚部破損、シールドエネルギー僅か。お見事、さっきの言葉は撤回させていただきましょう」
俺が頼まれたのは、彼女の機体の性能を出させきること。目標は達成したが、痛めつけられた。
「…まさか…、私にハイパーモードを起動させるために…?」
「あのままじゃ楽しめそうになかったから、そうしただけ。それに、まだ勝負を捨てた訳じゃないんでね!」
目には目を、歯には歯を、ハイパーモードには、ハイパーモード!
機体の色が変わっていく。濃紺から、黄金へ。
頭の天辺まで金色に変わり、額の角が開く。
金と銀が対峙し、最後の攻防に動く。
「お終いにしましょう、私の渾身の一撃を持って!」
宮間さんの左腕が眩く輝く。膨大なエネルギーが集まっていく。
対してこちらは満身創痍、高速機動は一度が限界、無事なのは右腕のみ。
勝つにはたった一つ、全エネルギーを、右腕の乗せて叩き込むのみ!
全身から放出された黄金のエネルギーが、闘志の如く揺らめく。
動いたのは同時、解き放たれた銀色の閃光へと、黄金の弾丸が特効をかける!
「貫け、貫け、貫け!つぅらぁぬぅけぇぇぇ!!!」
絶叫しながら、弾丸は閃光の中を進む。
閃光と弾丸がぶつかった瞬間発生した光で観客の目が眩み、ブザーが鳴ったがどちらが勝者か分からない。
勝者の名前がコールされる。
『試合終了、勝者、丹下智春』
一瞬の空白の後、大歓声がアリーナを包んだ。
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