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サロメ

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第二幕その八


第二幕その八

「サロメか」
「はい」
 サロメはヴェールの向こうで妖しく笑っていた。
「宜しいですね」
「うむ」
 難しい顔をして答える。
「では踊るがいい。いいな」
「わかりました。それでは」
「音楽を奏でよ」
 王は躊躇いながらもそう周りの者に命じた。
「そして場を開けよ。よいな」
「はっ」
「わかりました」
 周りの者がそれに答える。そして今サロメの舞がはじまった。
 煽情的な曲の中でサロメは舞いはじめた。小柄で細い身体を舞わせている。
 踊りながら時として身体を寝かせ起き上がらせ。その中で一枚一枚ヴェールを脱いでいく。脱ぎながらその身体を露わにしていく。現われるその身体は華奢で柳のように細いが絹よりも細かった。その身体で舞っていく。
 また一枚、そして一枚。ヴェールを脱ぐ度にその身体が見えていく。そして最後の曲が終わった時には。その白い身体を全て見せていたのであった。
「ううむ」
 王はその姿を見て唸る。
「素晴らしい。見事な舞であったぞ」
 そうサロメに告げる。
「有り難き御言葉」
 サロメは周りの者に一枚のヴェールをかけられていた。それを羽織ながら王に応える。
「では褒美を取らそう」
 言ったところでサロメの目を見た。見れば何か恐ろしい欲望を抱いているように見えた。
 それに怯む。しかし王としての約束が彼を動かす。彼は問うたのであった。
「何じゃ?」
「まずは銀の大皿を」
「皿をか」
「はい」
 畏まって答えてきた。
「まずはそれを頂きとうございます」
「わかった。ではまずはそれじゃな」
「ええ」
「よし、皿じゃ」
 王はそれを受けて周りの者達に言い伝える。
「銀の大皿を。一つ持って参れ」
「わかりました」
 周りの者達はそれに応える。そして暫くして皿を持って来たのであった。
「これで御座いますね」
「これじゃな、サロメ」
「そうです」
 皿を見て何故かうっとりと笑う。王はそれも見たがやはり胸騒ぎが増すばかりで収まりはしない。
「それで御座います」
「わかった。では次は何じゃ」
 王はまたサロメに問うた。
「申してみよ。どんな馳走が欲しいのじゃ?」
「首を」
「首じゃと」
「左様でございます」
 サロメは述べる。
「それを頂きとうございます」
「わからぬな」
 王はその言葉に首を傾げる。何が何なのかわらないといった顔であった。
「首とは」
「ヨカナーンの首を」
「何っ」
 その言葉に思わず言葉を失った。
「今何と申した」
「ヨカナーンの首を」
 妖しく笑ってまた述べる。
「是非共」
「ならぬ」
 王は血相を変えて言う。
「それだけは」
「いえ、陛下」
 しかしそこで王妃が横から言うのであった。
「よいではありませんか。サロメ」
 にこやかな声で娘に対して述べる。
「よくぞ申した。何というよい娘じゃ」
「そなたがそそのかしたのか」
 王妃をきっと見据えて問う。
「そなたが」
「母上の御言葉ではありません」
 サロメは立ち上がってそう王に返す。その顔も身体も毅然としたものと妖しいものがある。その二つに魔性を漂わせていた。
「あくまで私の楽しみの為に」
「馬鹿な」
 王はその言葉を遮ろうとする。
「何故だ。何故ヨカナーンの首を」
「誓ったではありませんか」
「確かにそうじゃ」
 それは王も認める。
「しかしじゃ。それでも」
 王はそれを何とか否定しようとする。
「他のものでは」
「何故拒まれるのですか?」
 王妃は王のその言葉を阻もうとする。
「誓われたではありませんか」
「それでもじゃ」
 王はそれでも言う。
「それだけはならん。何があってもじゃ」
「また無粋な」
「違う」
 その顔には王としての威厳はなかった。ただひたすらそのことを拒もうとする、そうした顔であった。
 
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