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八条学園怪異譚

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第十七話 舞と音楽その十一

「今の生活でいたいならね」
「そうなるわね、やっぱり」
「ええ。とにかく今回もね」
「そうね。井戸でもなかったわ」
 泉ではなかった、今回もだった。
 愛実も聖花もこのことは残念に思った、だがないのならだ。
 仕方がない、こう判断して二人は日下部と狐狸達に言った。
「じゃあ今日はこれで」
「帰ります」
「帰り道気をつけてね」
 狐狸達はそれぞれ後ろ足で立ち前足を振って言ってきた。
「あともう犬連れて来ないでね」
「小さい犬でもね」
「本当に犬嫌いなのね」
 愛実は彼等の言葉からこのことをあらためて知った。
「そうなのね」
「そうだよ、同じイヌ科だけれどね」
「それでも怖いから」
「柴犬だって元々は狩りの為の犬だし」
「僕達には怖い相手なんだよ」
 嫌いというよりそちらだった。
「まあ秋田犬とか土佐犬よりは怖くないけれどね」
「ドイツのドーベルマンとかよりはね」
「ドーベルマンって」
 愛実もこの犬については眉を顰めさせて言った。
「あれ軍用犬じゃない」
「あの犬滅茶苦茶怖いんだけれどさ」
「どうにかならないの?」
「だから軍用犬だから」
 愛実が言う根拠はここにあった。
「怖いのも当然だから」
「ううん、ドイツって怖い犬いるよね」
「あの犬はじめて見た時僕この町から岡山まで逃げたから」
「僕もだよ」
「僕もね」
 狐狸達にとってドーベルマンという犬はそこまで恐ろしい相手だったのだ。そうした話をしているうちにだった。
 狐の中の一匹が仲間達にこんなことを言った。
「花子さんもドーベルマン嫌いだしね」
「そうそう、トイレの花子さんもね」
「あの人も嫌いだからね」
「花子さんってあの?」
「みたいね」
 二人もこの妖怪のことは聞いて知っていた。学生の間ではあまりにも有名だからだ。
「口裂け女と並ぶあの」
「都市伝説の妖怪よね」
「そうだよ、この学園のトイレを自由に行き来してるよ」
「何処でも会えるよ」
「そうなの。トイレだったら何処でもなの」
「会えるのね」
 二人はこの学園にも花子さんがいることを知った。そしてだった。
 愛実が聖花にこう提案した。
「じゃあ今度はね」
「そうね。おトイレ行こう」
 聖花も愛実のその言葉に頷いた。
「じゃあ今日はこれで」
「お家に帰りましょう」
 二人は日下部達に別れの挨拶を告げてその場を後にした。そしてチロを待たせていた場所に行ってみると。
 チロは丸くなって寝ていた。愛実はその自分の愛犬を見て微笑んで聖花に言った。
「そうだったわ、もうこの時間になるとね」
「チロ寝るのね」
「早寝早起きの犬なのよ」
 それでもう、というのだ。
「チロはね」
「そうよね、この子は」
「いい子よ」
 愛実は微笑んで述べた。
「本当にね」
「それでどうするの?」
 聖花はあらためてその愛実に問うた。
「チロ寝てるけれど」
「ううん、起こすのも可哀想よね」
「そっと持ってね」
「そうして籠に入れてよね」
「そうして連れて帰る?」 
 これが聖花の提案だった。
「それでどうかしら」
「そうね。そっと持ってね」
「これしかないわよね」
「ええ、確かに」
「二人で持とう」
 聖花は自分の考えを受け入れてくれた愛実にこうも提案した。
「そうして行こう」
「じゃあ二人で」  
 こう話してだった、二人で丸くなって寝ているチロを愛実の自転車の籠にそっと入れてから起こさない様に自転車を慎重に運転して家に帰った。この日も泉は見付からなかったが二人にとっては楽しい一日だった。


第十七話   完


                           2012・11・27 
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