ちょっと違うZEROの使い魔の世界で貴族?生活します
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本編
第16話 刀を打つべし!!え?それどころじゃない?
こんにちは。ギルバートです。馬鹿貴族共の処分が終わり、これで枕を高くして眠れると思っていました。しかし現実は甘く無かったのです。高等法院長の座に、あのリッシュモンが就きました。
頼りになる仲間だったクールーズ家が倒れ、こちら側の戦力は大幅にダウンしています。加えてドリュアス家は、混乱したクールーズ領を押し付けられて動きを封じられてしまいました。父上も王都から外され、領に帰って来ています。魔の森調査任務は名誉な事ですが、体良く中央から追い出されたと言うのが実情です。
何より痛いのが、ヴァリエール公爵引退の噂です。“所詮は噂だから”と言いたい所ですが、実際に後任候補の選出と育成を始めています。トリステイン王国の膿を取り除き終わったと思ったのでしょうか? 公爵の年齢で引退を考えるには早いと思いますが、候補者達が潰し合いをする事を考えれば妥当なのかもしれません。
実際に公爵の後釜に座ろうとする者達が、裏で醜い争いを始めています。この様子では、最低でも4~5年程先になるでしょう。
加えて高等法院内では、リッシュモンの一人勝ち状態です。これなら賄賂だろうが裏金だろうが、なんでもありでしょう。
暫くは権力の掌握に集中するハズなので、動かないとは思いますが、油断をしていると後ろからザックリやられかねません。
念の為父上と母上には“ダングルテールは疫病では無く新教徒狩りの可能性が高い”と、話しておきました。
……注意せねば。
クールーズ領を併合して、1年の時間が経ちました。母上は当然ですが父上も魔の森の調査を放置して、領内の安定化に勤めていました。いくら大変だからと言って、私の事を領内の仕事に引きずり込まないで欲しかったです。本来なら、この時間を有意義に使いたかったのですが、領内の仕事に忙しく殆ど何も出来ませんでした。
それほど忙しいなら私達の訓練を取り止め、母上には領内の仕事に集中して欲しかったです。母上には、毎回ボコボコにされる私達の身にもなって欲しいです。まあ、仕事のストレス解消を兼ねているんでしょうが、アルノーさんの一件があってから文句を言えません。
そしてようやく、領内も落ち着いて来ました。まだ父上と母上は手が離せない状況ですが、私の手伝いが必要無くなって来ました。これを機に、色々と始めたいと思います。
そう言えば、1年前の9月あたりから、ヴァリエール公爵夫人(カリーヌ様)からの手紙が届くようになりました。内容を見せてもらいましたが、ルイズが魔法練習を始めたのが原因です。
手紙の内容は、端々にマギを差し出せと遠回しに書いてありました。(うん。それ無理)手紙が来る度に、内容が少しずつストレートに変化していたので心配です。《烈風》のカリンが、ドリュアス家に攻めて来るのだけは勘弁して欲しいです。
母上が毎回失礼の無い様に、手紙の返答をしていました。しかし数がかさむと、流石にウンザリする様です。手紙が来る度に「また返事書くの!!」と、言っていました。父上と母上は手紙よりも、やらなければならない事がたくさんあるのです。
当然この状況は、母上のストレスになります。そして当然のごとく、捌け口は私になります。見かねた父上が、返事を書く作業を母上と交代してくれなければ、私に身は如何なていたでしょう?
(……考えるだけで恐ろしいです。本当に助かりました。父上は命の恩人です)
領では未だ旧クールーズ領の対応で忙しいですが、手が開いてきた私にはやりたい事があります。何と言っても、ラインメイジになったのです。《錬金》を試してみましたが、№50・錫まで《錬金》出来るようになりました。そして、分離精製と合成が可能になったのです。(元素周期表№1~50まで限定)
そして何より、鉄の《錬金》が可能になった事。これは大きいです!!(力説)
他にも、ニッケル・銅・銀・錫が《錬金》出来る様になりました。ですが、何が無くとも鉄です!!
これで気兼ねなく、刀を作る事が出来るのです!!
私は、この1年を書類仕事で潰してしまった鬱憤を晴らすべく、刀の本格的製造に着手する事にしました。しかし設備が無ければ、何もする事は出来ません。何と言っても《錬金》で作った武器は、良い物でも鋳造品と同等の性能しか出せなかったからです。
……その程度の出来では、断じて刀と呼ぶ事は出来ません。
と言う訳で父上にお願いして、鍛冶場を作る事にしました。最初は難色を示していましたが、私の熱意に押し切られた様です。最後には頷いてくれました。
父上と相談しながら、細かい事を決めて行きます。設置場所・レイアウト・炉と配管・道具類の作成。それらを父上と綿密に話し合い、決めて行きます。始まってしまえば、父上も漢です。夢中になってくれました。もう、のりのりです。
しかしこの時、私は気付くべきでした。父上の仕事の効率が落ちた分を、誰が肩代わりしているのか……。
父上と2人で図面を引き、炉を4日かけて作成。(《錬金》は偉大です)熱効率もマギの知識で上がり、ハルケギニアでもトップクラスの高性能炉になりました。続いて鞴の作成です。これは意外に苦労しました。弁の作成が困難だったからです。その他の道具は、《錬金》で簡単に作る事が出来ました。
そして、ようやく鍛冶場の完成です。立案から完成まで、1週間もかかってしまいました。
私と父上は、完成を喜び合いながら館に戻ります。そこには、忙しそうに働く母上の姿が在りました。気炎の様なものが見えるのは、気のせいでしょうか? 私は不安になり父上の方を見ると……
「……不味い。夢中になり過ぎて、シルフィアに仕事を押し付けていた」
「なっ!! ……そう言えば私も最近、書類仕事を手伝っていません」
その時私達に気付いた母上が、こちらに近づいて来ました。
「アズロック ギルバート。小屋作りは終わったのかしら?」
(やばい。洒落にならない位怒ってる)
私と父上はアイコンタクトで、未完成と答える事にしました。(完成したと言ったら、鍛冶場が比喩無しで吹き飛ぶ)
「もう少しで完成なんだ」
「うん。もう少しです」
2人一緒にその場から逃げ出そうとしましたが、父上は捕まってしまいました。
「アズロックは仕事があるから残ってね」
母上は口元だけは笑顔で言いますが、目が笑っていませんでした。
(父上。仕事が終わったら、鍛冶場に来てください。母上の機嫌を直す方法を検討しましょう)byギルバート
(分かった。仕事を片づけたらすぐに行く)by父
私は走って鍛冶場に戻ると、母上の機嫌を直す手を考え始めました。ただ機嫌を直すだけでは、鍛冶場の安全を確保出来るとは思えません。ならば、鍛冶場で製造出来る武器ならば如何でしょうか? いえ、とても間に合うとは思えません。
鍛冶場設立最初にして最大の試練です。
兎に角、母上に鍛冶場が有用であると思わせなくてはなりません。ならばやはり、武器のプレゼントが一番効果的です。今の現状では出し惜しみは出来ません。
私は一度自室に戻り、以前実験で作ったチタンのインゴットを鍛冶場に全て運び込みます。
(母上の機嫌を直すには、実用性を確り持たせた上にデザイン性も追求しなければ)
必死にアイディアをひねり出した所で、父上がようやく来ました。
「どうだ?何か良い案は浮かんだか?」
「鍛冶場の存続にかかわるので、やはり武器をプレゼントするのが一番と思います」
「しかしシルフィアは、あれで武器には拘るぞ」
「はい。だからこれを使います」
私はチタンのインゴットを父上に渡しました。
「軽いな」
「チタンです。重さは鉄の半分以下で、強度は鋼鉄以上です。しかしそれは硬いと言う訳ではないので、これを合金にする事で硬さを補い更に強度を高めます」
私はそう言いながら、他の材料を《錬金》で混ぜチタンを合金化して行きます。
「……なんと」
完成したチタン合金に、父上がディテクト・マジック《探知》をかけると感嘆の声をもらします。
「後はこのチタン合金で、レイピアとマインゴーシュを作ってプレゼントすれば……」
父上は暫く考えてから頷いてくれました。
「……確かに、それが一番可能性が高そうだ」
「レイピアは実践的な物でありながら、デザイン性も持たせたいです。マインゴーシュは、使いやすさと母上の性格を考えて、ソードブレイカーの機能を付加しようと思います。イメージはこんな感じです。《錬金》」
私が《錬金》を唱えると薪の形が変わり、翼の様なガードが付いたレイピアと刀身とガードの間に溝が付いたマインゴーシュになりました。
「デザインが良いな。……しかも実戦向きな形状だ。これならシルフィアも満足するだろう」
「では、父上がレイピアを担当してください。私がマインゴーシュを担当します。完成しても《固定化》は待ってください。とっておきの仕上げがありますので」
父上の了承を確認すると、チタン合金を《錬金》で武器の形にする作業に入りました。
「ギルバート。こっちは出来たぞ」
「待ってください。こっちも終わります。…………出来ました!!」
私は完成したマインゴーシュを見て、思わずガッツポーズをとってしまいました。かなり良い出来です。しかし父上が作ったレイピアは、もっと凄いです。私が作った見本より、数段実践的で美しいのです。デザインは一緒なのに、なんでここまで差が出来るのでしょうか?
「……凄い」
「まだまだ子供には負けられんよ。……で、とっておきの仕上げとは何だ?」
「こうするんです。《錬金》」
私は刀身に向けて、杖を振り下ろしました。
私の《錬金》が発動すると、刀身が七色に輝き始めました。私がやったのは、刀身の表面に薄く酸化被膜を《錬金》しただけです。チタンの特性を利用しただけですが、酸化被膜が厚過ぎても薄過ぎても駄目です。以前していた練習の賜物ですね。
「これは。……素晴らしい」
父上が感嘆の声を上げています。
「これで母上も納得してくれるでしょうか?」
「十分だ」
「では父上。仕上げの《固定化》と《硬化》を、お願いします」
「任せろ」
父上が《固定化》と《硬化》を、重ねがけして完成しました。早速母上の所へ持って行きます。
「シルフィア」「母上」
父上と2人で寝室に突入します。入った瞬間、殺気で死ぬかと思いましたが、ここで引き下がれば鍛冶場が死にます。
「シルフィア。私とギルバートからのプレゼントだ。受け取ってくれ」
父上が母上の殺気を押しのけて、レイピアとマインゴーシュを差し出しました。母上がそれを見ると、殺気が一瞬で吹き飛びました。
「これは? ……綺麗」
母上がレイピアを手に取ると、その軽さに再び驚きます。
「軽過ぎない? 強度は大丈夫かしら?」
レイピアの美しさと軽さに、芯を抜いてある装飾剣の疑いを持った様です。眉間に皺が寄りました。
「新しい金属で作った合金を使用しています。重さは鉄の半分で、強度は鋼鉄製の物より上ですよ。その上で父上の《固定化》と《硬化》を、重ねがけしてあります」
「えっ!? 本当に!?」
私の言葉に母上が驚きの声を上げます。
「シルフィア。明日になったら、ためし突きをしてみないか?」
「ええ。是非そうするわ」
母上のご機嫌は、完璧に治ったみたいです。
「シルフィア。その……すまなかった。シルフィアが喜んでくれると思って、鍛冶場に夢中になり過ぎた。その所為で負担をかけてしまっては、全く意味が無いのに……。本当にすまない」
「ごめんなさい」
父上が頭を下げたのに合わせて、私も謝りました。
「もう気にしてないわ」
父上と母上が、見つめあいラブラブ空間を作成しました。
(これ以上夫婦の寝室に、邪魔者が居る事は無いですね)
「父上。母上。おやすみなさい」
私は寝室から逃げだしました。
朝食の時に母上が「朝食後に、新しい剣の試し突きをする」と、宣言しました。そして新しい剣の美しさと軽さを、熱く語ります。当然それが父上と私のプレゼントである事も……。
その時何故か、ディーネとアナスタシアの視線が痛かったです。
朝食も終わり、家族全員で中庭に移動しました。早速母上がレイピアを抜きます。日の光の下で見るレイピアの刀身は、照明で見た時より何倍も美しく見えました。ディーネとアナスタシアは、その刀身に心奪われている様です。
父上が試し突き用の泥人形を、《錬金》で3体作り出しました。
母上は泥人形に向かって、一体につき軌道の異なる突きを5~6回放ちます。
戻ってきた母上はご満悦でした。どうやら満足の行く使い心地だった様です。
続いて母上は、マインゴーシュを取り出しました。レイピアと同じように七色の光を放ているそれは、相手が居なければ使えません。
「アズロック。相手をして」
「分かった」
父上が返事すると、2人は準備運動を始めました。
「母上。そのマインゴーシュは相手の剣を受けた時、接触部を滑らせて溝で受けてください。その後はソードブレイカーの要領で、相手の剣を折るなり落とすなりしてください」
「なるほど。この溝はそう言う意図があったのね」
母上が嬉しそうに頷いていましたが、良く考えたら父上と母上の模擬戦を見るのは初めてです。
私達は期待しましたが、どうやら父上と母上は本気は出さない様です。何合かレイピアを合わせると、母上が父上の杖剣をマインゴーシュで受けました。マインゴーシュを巧みに操り、ソードブレイカーの溝で父上の杖剣を受けます。
父上は自分の杖剣の強度に自信が有るのか、全く引こうとしませんでした。しかしその時「ぺキン」と言う悲しい音と共に、父上の杖剣の刀身が地面に落ちたのです。
「……馬鹿な」
父上の口から、そんな声が漏れます。父上の杖剣は、当然《固定化》と《硬化》を重ねがけしてありました。絶対に折れない自信が有ったのでしょう。私もこんなに簡単に折れるとは思いませんでした。長年愛用していたみたいですし、金属疲労を起こしていたのでしょうか?
その一方で母上は、まるで玩具を買ってもらった子供の様に目を輝かせています。
(相当嬉しいのでしょうね。崩れ落ちた父上が全く目に入っていません)
「……父上。私が責任を持って、父上の新しい杖剣を作りますから」
私は父上を慰めました。そんな私に、ディーネとアナスタシアが詰め寄って来ました。
「「私の分は?」」
「父上の分が先です。杖が無ければ、仕事に支障が出ますから」
ディーネとアナスタシアが不満の声を上げます。
「ギルバート。どれ位で出来そうなのだ?」
「母上の剣で材料を使い果たしてしまいました。材料を一から《錬金》するとなると、付きっきりで1週間と言った所です」
「……そうか」
ああ、父上の落ち込みオーラが倍増してしまいた。ソードブレイカー機能なんか、付けなきゃ良かったです。しかも隠し通す心算だったのに、家族内のみとは言えチタンを解禁してしまいました。
私は少しでも早く父上の杖剣を仕上げる為、《錬金》でチタンを作る作業をしていました。
そこに来客の知らせが有りました。
私はこの時期に、客が来るのが信じられませんでした。山場は過ぎたとは言え、未だにドリュアス家はクールーズ領を安定させるのに大変なのです。客を歓迎している余裕は残念ながら有りません。となると、余程大切な要件が有ると見て良いでしょう。
客間に入るとそこに居たのは、公爵夫人でした。となると、要件は決まっています。
「ギルバート。マギの行先を聞いてないか?」
父上が聞いて来ます。事前の打ち合わせの通りです。
「私達が帰って来たら、すぐに旅に出たじゃないですか。それに『2~3年は帰って来ない』と言っていました」
私の言葉に、カリーヌ様の顔が歪みました。
「それは知っている。私が聞いているのは、マギの旅の目的地だ」
「……いえ。特に聞いていません。……あっ。ガリアとゲルマニアに行くみたいな事を言っていました。後は、ツェルプストーに行くかどうか迷っていると……。私が知っているのはそれ位ですね」
「爆発魔法について何か聞いていませんか?」
カリーヌ様が会話に割り込んで来ました。我慢出来なくなったのでしょう。
「去年も申しあげましたが、爆発魔法はマギの秘伝なので、勝手にお話しする事は出来ません」
ルイズには悪いけど、ここは知らない振り。知らない振り。……怖い。子供に殺気をぶつけないでください。
「違います。コモン・マジック系統魔法に関わらず、全ての魔法が爆発すると言った方です」
「ありえません。カリーヌ様は、その様な冗談を言うた……」
「あったのです!! 手紙にも何度も書いたでしょう!!」
父上や母上が手紙の返信をする時は、あえてその事に触れない様にしていました。その所為か、カリーヌ様は相当焦っているみたいです。終いには私の両肩を掴み、がくがく揺らし始めました。
「やめ……止め……て……」
思いっきりシェイクされ息も絶え絶えな私から、父上と母上がカリーヌ様を引き離します。
「とにかくマギと言う人と連絡を取りなさい」
「ですから無理です。居場所さえ分からないのに」
「爆発魔法の真相と解決法を聞き出しなさい」
「だから、居場所も分からないのに無理です。公爵家は爆発魔法の真相を知るのを、一度正式に拒否しているじゃないですか。今更、前言を撤回されても困ります。それに、マギはカリーヌ様を恐れています。《烈風》のカリンの正体は、カリーヌ様とマギに聞きました。絵の処分と口封じの為に、爆発魔法等と言っている様にしか聞こえません」
(……ヤバイ!! カリーヌ様の迫力に押されて言い過ぎました)
「なら、貴方が証人になりなさい!!」
(……うわぁ。地雷踏んだ!!)
カリーヌ様は私の襟首をつかむと、引きずって行こうとしました。
「待ってください。ギルバートは当家の跡取り息子です。猫ではないのですから、そんな簡単に連れて行かれては困ります!!」
(父上。まさかこの状況で、カリーヌ様に反論してくれるとは)
(杖剣作ってから行け)by父
失望のアイコンタクトでした。
「分かりました行きます」
(あれ? 杖剣は?)by父
(知りません。暫くそのワンドで我慢してください)byギルバート
「ようやく観念しましたか」
カリーヌ様。そのセリフは、私が犯罪者みたいだから止めてください。
結局私は、ヴァリエール公爵領に行く事になってしまいました。
後書き
ご意見ご感想お待ちしております。
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