ソードアートオンライン VIRUS
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休日1
前書き
最近、仕事がなれて時間をだいぶとらなくなってきた
ユイが消滅して、ユキとゲツガは、キリトとアスナのうちによく入り浸るようになっていた。
ユイの消滅後は、しばらく、アスナとユキは元気がなかったがキリトによってプログラム的に切り離されたユイの心を見て、少しづつユキとアスナは元気を取り戻していった。
そしてゲツガとキリトは絶賛フィッシング中。
「おい、キリト。まだ釣れねえのか?」
「うるせえ。じゃあお前が釣れ」
「残念。俺は釣りのスキル入れてないから釣り竿持ったってただの竿でしかなくなる。って言うか、SAOってローマ字読みしたら竿になんじゃん」
「どーでもいいからなんかしろ!!」
キリトはそう言って自分の釣竿に集中する。ゲツガは投剣を持って、何かが来るのを待つかのように湖を見ていた。
「しっかし、釣れねえな」
ゲツガがそういうと、キリトも同じことを言う。そして、ちょうど水面から一匹の魚が飛び出てくる。その魚に向けてゲツガは投剣を素早く投げつける。見事に当たりポリゴン片へと変える。
「うっし」
「お見事」
後ろから声が聞こえる。振り返ると、重装備の厚着に耳覆いの帽子、そしてキリトと同じく釣り竿を携えたおじさんがいた。
「どうも。おじさんも釣り?」
「ええ、しかしすごいですね。あんな数秒しかないのに一回で、しかも一発で仕留めるなんて」
「そうか?あれぐらいならあと二発は投げれたような気もするけど」
「おい、ゲツガ」
話しているとキリトが後ろから後ろから呼びかけてくる。
「ゲツガ、お前の知り合い?」
「いや、さっき会ったばっかだけど?」
「すみません。このバカ、変なこといいませんでした?」
「誰がバカだ。少なくとも二年前の中学の頃はお前と違って成績はトップだったぞ」
「うるせぇ!そういう事じゃねえんだよ!!」
キリトが耳元で叫ぶので耳を塞いで知らん振りをする。その状況を見ていたおじさんは笑っていた。
「いやー二人とも息が合ってますね。兄弟ですか」
「違います。こいつとは腐れ縁です」
キリトがそう言うとおじさんはまた笑った。
「はっはっは、まあそうでしょうね。あまり似てませんし。ああ、すみません。申し遅れましたが私、ニシダと申します。ここでは釣り師、日本では東都高速線という会社の保安部長をしとりました。名刺がなくてすみません」
またわははと笑う。
「俺はゲツガ。さっき少し話しにも出たとおり、旧中学生、現高校生だ」
「俺はキリト。こいつと同じ。で、最上層から引っ越してきました。……ニシダさんは、やはり……SAO回線保守の……?」
「一応責任者ということになっとりました」
このおじさんは業務の上で事件に巻き込まれたということだ。
「いやあ、何もログインまでせんでいいと上には言われてたんですがな、自分の仕事はこの目で見ないと収まらん性分でして、年寄りの冷や水がとんだことになりました」
笑いながら、キリトの横に行き、すい、と竿を振る。その動作は見事なものだ。ゲツガも近づいて腰を降ろす。座った瞬間、ニシダは再び話し始めた。
「私の他にも、何だかんだでここにきてしまったいい歳の親父が二、三十人ほどいるようですな。大抵は最初の街でおとなしくしとるようですが、私はコレが三度の飯より好きでしてね」
手に持つ竿をくいっとしゃくって見せる。
「いい川やら湖など探してとうとうこんな所まで登ってきてしまいましてね」
「な、なるほど……。この層はモンスターも出ませんしね」
ニシダは、キリトの言葉ににやりと笑うだけで答えず、
「どうです、上のほうにはいいポイントはありますかな?」と訊ねてきた。
「六十一層に全面湖?いや、海?まあ、結構いいポイントで相当大物が連れると思うぜ」
ゲツガが答える。
「ほうほう!それは一度行ってみませんとな」
その時、ニシダの竿から垂れていた糸の先にある浮きが勢いよく沈んだ。それと同時にニシダの腕も動く。腕の動きもさることながらスキルも相当なものだろう。
「うおっ、で、でかい!」
「確かにでかいな」
ニシダは竿を操り水面から青き輝く大きな巨体が一気に抜き出だした。魚はニシダの手元に落ちてきてに少し跳ねたあと、自動的にアイテムウインドウに収納された。
「「お見事……!」」
ニシダは照れたように笑うと、
「いやぁ、ここでの釣りはスキルの数値次第ですから」と頭をかきながら答える。
「ただ、釣るのはいいんですが料理のほうがどうもねぇ……。煮付けや刺身が食べたいもんですが醤油無しじゃどうにもならない」
「おい、ゲツガ」
キリトが耳打ちしてくる。
「何だ?」
「お前持ってたよな?醤油」
「ああ、けど今はキリトたちの家に置いてるぞ」
「そうか。ちょっと分けてあげるか。……でも、この人、言いふらさないだろうか」
「そんなの興味なさそうだからいいだろ」
そう言ってキリトがニシダのほうを向き直り言った。
「醤油にごく似ている物に心当たりがありますが……」
「なんですと!!」
ニシダはメガネの奥で目を輝かせ、身を乗り出してきた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
キリトとゲツガはニシダを伴ってキリトの自宅に帰宅した。出迎えたユキとアスナは少し驚いたように目を丸くしたがすぐに笑顔で出迎えてくれた。
「おかえり、ゲツガ君、キリト君」
「おかえりなさい、お客さん?」
「ただいま、ユキ、アスナ」
「ただいま。こちらは釣り師のニシダさん、で」
キリトがどう紹介するか迷ったのか口ごもる。しかしアスナとユキは老齢の釣り師に微笑んで言った。
「キリトの妻のアスナです。ようこそいらっしゃいませ」
「私はゲツガの妻のユキです」
二人とも元気よく頭を下げた。
なんか改めてユキが自分の名前を呼び、妻と宣言したところを聞くと妙に恥ずかしく感じる。ニシダのほうはぽかんと口を開けて、アスナとユキに見入っていた。二人ともエプロン姿で、料理もしくは準備してたのだろう。
ようやく我に返ったニシダは笑いながら言う。
「い、いや、これは失礼、すっかり見とれてしまった。ニシダと申します、厚かましくお招きにあずかりまして……」
そして今日の収穫品のニシダの釣った大きな魚とニシダのよりも一回り小さいが申し分ない大きさのゲツガが獲った魚を調理し始める。
「ゲツガ君と私が煮物作るから、アスナは刺身をお願い」
「分かった、けどユキ、ゲツガ君の言うことはちゃんと聞いてよ。ユキはまだそこまで料理スキルが高くないんだから」
「分かってるよ」
そして、俺とユキは煮付け、アスナが刺し身を作り、その料理を美味しく堪能した。ニシダの釣った魚は鰤のように脂の乗った味で、ゲツガの獲った魚は、マグロのような味がした。
「……いや、堪能しました。ご馳走様です。しかし、この世界に醤油があったとは……」
「ああ、これ、自家製なんです。よかったらお持ち下さい」
そう言って、アスナはキッチンから小さな小瓶を持ってきてニシダに渡した。恐縮するニシダに向かって、こちらこそ美味しいお魚を分けていただきましたから、と笑う。続けて、
「キリト君、ろくに釣ってきたためしがないんですよ」
「そうだね。いつもゲツガ君が獲った魚か私たちが買い物に行って買ったものだしね」
「おいおい、キリトをいじめるなって。結構スキルが高いはずなのに、ほとんど釣ったことがないのは確かだけど。スキルが高いはずなのに」
「いや、普通にお前が言ってることが一番ひどいからな。いや、ここの湖のランクが高すぎるんだよ」
「いや、そうでもありませんよ。難易度が高いのはキリトさんが釣っておられるたあの大きな湖だけです」
「な……」
ニシダの言葉にキリトは絶句し、アスナとユキとゲツガは腹を抱えて笑う。
「キリト君、そういうことは調べてからにしようよ」
ユキがくすくすと笑いながら言った。
そしてキリトは、呟くように言う。
「なんでそんな設定になってるんだ……」
「実は、あの湖にはですね……」
ニシダは声をひそめるように言った。ゲツガたちは身を乗り出してニシダの声を聞く。
「どうやら、主がおるんですわ」
「ヌシ?」
異口同音に皆が聞き返すと、ニシダがメガネをくいっと押し上げ言葉を続ける。
「村の道具屋に一つだけヤケに値の張る釣り餌がありましてな。ものは試しとつかってみたことがあるんです」
固唾を呑んで話の続きに耳を傾ける。
「ところが、これがさっぱりつれない。散々あちこちで試したあと、ようやくあそこ、唯一難易度の高い湖で使うんだろうと思い当たりまして」
「釣れたのか?」
ゲツガが代表して聞く。
「ゲツガ君、目上の者に対しては少し丁寧な言葉遣いにしたほうがいいよ」
ユキがそういう。
「う~ん、そうだな。そうするか」
「おい、それよりも話を止めるな」
「すまんすまん、続けて……ください」
そう言ってニシダのほうを向く。
「ええーと、何処からだったかな……ああそうだ、あの湖でようやくヒットしたんです。でも、私の力では取り込めなかった。竿ごととられてしましましたよ。最後にちらりと影を見たんですが大きいなんてものじゃありません。ありゃ怪物、そこらにいるのとは違う意味でモンスターですな」
ニシダが両腕をいっぱい広げて言った。
「わあ、見てみたいな!」
「うん!」
目を輝かせてアスナとユキが答えた。
「そこで相談なんですがキリトさん、ゲツガさんどちらか筋力パラメーターに自信がありますか……」
そう言うとニシダ以外の視線が全てゲツガに集まった。
「……俺?」
「一番高いのゲツガ君だもん」
「そうだよ。多分、私の知る中ではゲツガ君しかいないもん」
「俺もそう思う」
そう言ってキリトはゲツガを指を指してニシダに言う。
「こいつが、一番高いんで」
「そうですか!じゃあ一緒にやりましょう!」
目を輝かせて、ニシダはゲツガを見る。
「でも、俺、釣りのスキル入れてないぞ」
「大丈夫です!魚が食いつくまでは私がやるんで、そのあとの引く作業だけで構いませんから!」
「釣り竿でスイッチか……なんか新しい発想だな」
「ねえ、面白そうだからやってみてよ」
アスナが挑戦するように促す。
「一回ぐらいやってみようよ」
ユキも促してくる。
「うーん、じゃあ、ニシダさん。手伝わせていただきます」
そう言うと、ニシダは満面の笑みを浮かべてそうこなくちゃと、笑った。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
日も暮れて、ゲツガたちは自分たちの家に戻ってきていた。
「今度が楽しみだね」
ユキが布団のなかに寝転んで言う。
「そうだな。どんな奴か見てみたいな」
「かなり大きいらしいから、ゲツガ君でも持てるかわからないよ?」
「何言ってんだ。この世界で俺がもてないものなんて固定オブジェクトか、この城くらいだぞ」
ゲツガは笑いながら言った。
「あっ、でも、今度はなんかかぶるか、顔が隠れるようにスカーフとか着けておけよ」
「何で?」
ユキが分からないって言うように、隣のゲツガの方を見て首をかしげる。
「なんでって、俺ら結婚知ってる奴なんて、教会の関係者と名の知れない斧使い、それと血盟騎士団の幹部に少数の俺たちの知り合いだけだぜ。もし、ニシダさん以外が来て、知られるといろいろ面倒だろ」
「そっか。でも、この際だからもうみんなに知ってもらえばいいんじゃない?」
「うーん、それもいいけど、もう少しだけ隠そうぜ」
「分かった」
そう言って、ユキはゲツガに抱きつく。
「ユキ、最近思うんだが、何故寝る時俺に抱きつく?別にいいけど」
「……ユイちゃんが消えてから、まだなんか嫌な感じがするの……ゲツガ君が、近いうちに消えてしまう……そんな気がして」
「大丈夫だって。前にも何度も言っただろ?お前をおいて、何処にも行ったりしないって」
「……そうだよね。ゲツガ君、優しいもん」
「まあ、優しいかは微妙だけどな。さてと、今日はもう寝るぞ。どうせ、明日もユイに会いに行くんだろ」
「うん。おやすみ、ゲツガ君」
「ああ、おやすみ」
そして二人は眠りに着いた。そして、ニシダからのメッセージが届いたのは三日後のことだった。
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