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スーパーロボット大戦パーフェクト 第三次篇

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第十二話 龍を喰らうもの

               第十二話 龍を喰らうもの
中国蚩尤塚。ここはかつて黄帝が伝説の魔神である蚩尤を破りその亡骸を葬った場所として知られている。蚩尤は異形の姿をした神であり中国においては悲運の英雄であり反逆者であり戦の神として知られている。かなり複雑な立場の神であると言える。
その塚に今一人の男がいた。そうして何者かと語り合っていた。
「お断りしますよ」
男は言う。見れば白いスーツにボルサリーノといった格好だ。顔は白人のそれである。
「身体を失った今の貴女に忠誠を誓う義理はありませんから」
そう言っていた。誰かに。
「今更何を言っても無駄ですよ。所詮僕と貴女の関係は力による服従と同じなのですから」
「・・・・・・・・・」
一方は何も聞こえない。思念で語り掛けているようである。だが次第にその声が聞こえてきた。
「バラルの園も失われた今貴女が僕と彼に命令を下す権利などない筈です」
「権利・・・・・・」
「そうです」
思念に応えた。
「好きにやらせてもらいますよ。元々この星の本来の守護者は僕達だったんですから」
「それは」
「それは?」
「させない・・・・・・」
少女の声だった。不意に男を何かが襲った。
「やれやれ」
だが男はそれを受けても平気な顔をしていた。笑ってさえいた。
「無駄ですよ」
そのうえでこう言うのだった。
「確かに貴女の念は協力ですが僕にも龍がついています」
「あの龍が」
「そうです、龍はね」
また笑みを浮かべて言うのだった。
「若し」
そして言葉を続ける。
「貴女が僕達を世界に守護する剣にしたいのならば力尽くでどうぞ。あの時の様に」
「あの時の」
「そうです。忘れたとは言わせませんよ」
また言葉を告げた。
「それが出来ないのならこれ以上僕達にちょっかいを出さないことですね」
「うう・・・・・・」
「わかりましたね。さもなければ」
「さもなければ」
「幾ら貴女だろうと倒しますよ」
男の顔に凄みが走る。これが本当の顔なのだろうか。
「では」
ここまで言ったうえで背を向けるのだった。
「僕は行きますよ。丁度待ち人も近くまで来ているようですしね」
「!!」
「今日は彼にとって数万年ぶりに自由を得た日ですからね」
男は楽しげにまた言う。
「その記念にゲームを楽しませてもらいますよ」
「ゲーム・・・・・・」
「そうです。貴女のお気に入りの剣の現持ち主。彼らを倒すというゲームをね」
「それは・・・・・・」
「おや、違うのですか?」
凄みのある笑みになっていた。
「それを果たしてはじめて僕と彼は貴女の呪縛から逃れることができる」
「・・・・・・・・・」
声は応えない。だが男はそれでも言う。
「そうでしょう?イルイ=ガンエデン」
「・・・・・・・・・」
その声の主イルイ=ガンエデンは応えられなかった。男はもう何処かへと去ってしまっていた。
ロンド=ベルは仙台での戦いを終え呉のドックに入っていた。そこで突貫で修理や整備を受け束の間の休息を楽しんでいた。そこには当然クスハもいた。
「じゃあレーツェルさん」
クスハが何か得体の知れないものをレーツェルに薦めていた。
「前回のセイヨウサンザシ、ホンオニク、ローヤルゼリー、ナルコユリ、グレープフルーツの果汁、ドクダミ、ショウガ、ウナギの粉末、マグロの目玉、梅干し、セロリ、マソタの粉末、ムカデ、イモリとマムシの黒焼きのブレンドに加えてアガリクスと冬虫夏草も足してみたんです」
「・・・・・・・・・」
レーツェルは何も語らず表情も変えない。後ろにいる面々は別であったが。
「あと知り合いに分けてもらった紅茶キノコとスッポンとオットセイのエキスも入っています」
「・・・・・・・・・」
「大丈夫ですよ。飲みやすさを考慮してローヤルゼリーの量は二倍にしましたから」
「・・・・・・・・・」
やはりレーツェルは語らない。沈黙したままである。
「勿論皆さんの分もありますから」
「来たよ」
甲児がそれを聞いて顔を青くさせる。
「おい甲児」
彼に豹馬が囁く。
「御前高校の時からの知り合いだったよな」
「ああ」
「何とかしろよ」
「冗談ポイだぜ」
「おい待たんかい!」
十三が彼に突っ込みを入れる。
「何やその言い方は!」
「無茶言うなってんだ」
そう十三に言い返す。
「あんなに喜んで用意してるんだぞ」
「そんなこと関係ないわよ」
ちずるもかなり薄情である。理由はわかるが。
「このままじゃ私達全滅よ!」
「それはわかってるよ」
「僕の分析ですが」
小介は蒼白になりながら冷静に述べる。
「あれを飲んでも平気なのはサイボーグの宙さんとバサラさん、そしてオルガさん達三人、合計五人だけですね」
「凄いでごわすな」
大作はあらためて唸る。
「まさに戦略兵器でごわす」
「そら見ろ」
豹馬が小介の言葉を受けてここぞとばかりに言う。
「そんなの飲んだらどうなるんだよ」
「うるせえ、俺に言うな」
甲児も大概な態度だ。
「死ぬ時は一緒だぜ」
「折角だが」
ここでレーツェルが言う。
「クスハ君のドリンクを待っているのは私達ではない」
「えっ!?」
「そ、そうよ!」
さやかは無慈悲にも生贄を差し出してきた。
「折角の新作なんだからまずはブリットに飲ませてあげないと!」
「さやかさん、あんまりじゃねえの?」
甲児はそれを聞いて呟く。
「幾ら何でも」
「いいのよ。事情が事情だから」
「そう言えばブリット君は?」
クスハはブリットの姿が見えないことに気付いた。
「彼ならゼンガーと出ている」
レーツェルが答える。
「偵察ですか?」
「強いて言うなら男を磨くためかな」
「!?」
クスハがレーツェルの言葉に首を捻る。彼女にはわからないことであった。
「男を、ですか」
「それがわかるようになれば大きい」
レーツェルは笑ってまた述べた。
「クスハ君にとってな」
「そうなんですか」
「さて、ところでジュースだな」
何とここで話をジュースに戻してきた。
「どうするかだが」8
「あの、レーツェルさんさ」
ボスが彼に言う。
「あまり言うのはどうかと思うだわさ。けれど」
「そうでやんすよ」
「喉渇いていないですよね、今」
ヌケとムチャもさりげなく彼を止めようとする。
「だから今は」
「止めた方が」
「いや、折角だ」
だがそれでも彼は飲もうとする。
「試してみよう。さて」
「うわっ!レーツェルさんが!」
「死んだ!」
だが彼は生きていた。しかし普通の人間ならば気絶は確実であった。それを耐えてレーツェルは何とか生き残りそのまま格納庫に向かうのだった。
レーツェルが超人的なタフネスを見せ付けていたその頃。ブリットとゼンガーは修業に明け暮れていた。レーツェルの言う通り。
「さあ来いブルックリン!」
ゼンガーが彼に声をかける。二人はもうそれぞれのマシンに乗っていた。
「はいっ!」
ブリットはそれに応えゼンガーへ突き進む。だが。
その足元を剣で薙ぎ払われた。
「うわっ!」
「踏み込みが甘い!」
足に攻撃を受け後ろに退く。ゼンガーはその彼に対してまた言う。
「いいか、訓練だと思うな!」
「はい!」
「これが実戦だったならば御前はそれで終わりだ!」
「は、はい!」
「だが。筋はいい」
ゼンガーはこうも言うのだった。
「それは認めよう」
「有り難うございます」
「そして今日は既にかなりの修練を積んだ」
そしてまた述べた。
「そろそろ仕上げに入るぞ」
「仕上げですか」
「そうだ、この俺から一本取ってみろ」
「えっ!?」
この言葉にはブリットも絶句した。
「ゼンガーさんから。俺が」
「そうだ!」
ゼンガーはまたブリットに対して言う。
「この俺からだ!いいな!」
「一本を」
「どうした!」
ブリットの声が小さくなったのを見てまた叫ぶ。
「聞こえんぞブルックリン!」
「わかりました!」
「わかったならば来い!」
ゼンガーはまた叫ぶ。
「いいな!」
「はい!じゃあ!」
ブリットは気合を溜める。そうして気力を充実させるのだった。
「はあああああ・・・・・・」
「そうだ、その調子だ」
気合を溜めるブリットに対して言う。
「そこまではいい。だが」
「行きます!」
「基礎も気迫も申し分ない」
ブリットの動きを見ての言葉だった。ゼンガーはあくまで冷静である。
「しかしだ!」
「むっ!」
突き進んできたブリットに対して一撃を浴びせてきた。
「これならばどうする!」
「それでも!」
何とゼンガーの太刀を己の太刀で受け止めた。
「そしてっ!」
そのまま一撃を浴びせる。袈裟に切った。
「やった!」
勝利を確信して喜びの声をあげた。
「笑止!!」
「なっ!」
ゼンガーはまだ立っていた。そして。
「チェストーーーーーーーーッ!」
「うわあああーーーーーーーっ!」
ゼンガーの一撃を受けて吹き飛ぶ。勝利が一瞬にして敗北になってしまったのだtt。
「まさか・・・・・・こんな」
「安心しろ、峰打ちだ」
ゼンガーはマシンごと倒れ伏すブリットに対して告げた。
「み、峰打ちって。そんな」
「武人は常在戦場」
そうブリットに告げる。
「最後の一瞬まで気を抜くな」
「最後の一瞬までですか」
「そうだ」
またブリットに告げる。
「御前に足りないのはそれだ」
「俺に・・・・・・」
「最後に勝ったと思ったな」
「は、はい」
その言葉に頷く。
「その通りです」
「そこに隙が出来たのだ」
「隙が、ですか」
「勝利を確信した瞬間にな」
また告げる。
「御前の心に隙が出来たのだ。それが身体にも現われた」
「そうだったんですか」
「勝って兜の緒を締めろだ」
こうも告げる。
「わかったな」
「は、はい」
あらためて頷く。痛いが強い教訓であった。
「これで一通りの修行は終わりだ」
「わかりました。けれど」
「どうした?」
ブリットの様子を見てまた声をかける。
「何かあるのか?」
「はい、いつも稽古をつけてもらっていますよね」
「うむ」
それは認めて頷く。
「その通りだ」
「俺、強くなったんでしょうか」
「それはわからん」
ゼンガーはそこは突き放した。
「わからない、ですか」
「俺が教えたのは剣の型」
そうブリットに告げる。
「強さの入り口に過ぎん」
「そうだったんですか」
「そうだ、真の強さを身に付けられるかは御前自身の心にかかっている」
「俺自身のですか。それじゃあ」
ここでブリットはふと気付いた。
「それは禅のようなものですか?」
「難しく考える必要はない」
だがゼンガーはそうではないとも言うのだった。
「これまでの多くの戦いで御前の身体は自然に動いたのではなかったか?」
「えっ!?」
「そうではないのか?だからこそ」
「俺の身体が。自然に」
「身体は正直だ」
これこそがゼンガーの言いたいことであろうか。
「不思議と自然に出るものなのだ」
「はあ」
「そして心もな」
「そうなんですか」
「それはより多くの修業と戦いで身に着けていく」
またしても突き放す形となった。
「自分でな」
「わかりました。じゃあこれからも」
「精進しろ」
そうブリットに告げた。
「いいな」
「はいっ」
ブリットはゼンガーの言葉に頷く。その瞬間にレーツェルのヒュッケバインがやって来た。
「あれは・・・・・・トロンベ」
「ブリット君」
「クスハ、君も来たのか」
「ええ」
クスハはそうブリットに答えた。
「だって虎龍王ブリット君が持って行ったから」
「あっ、そうか」
言われてふと思い出した。
「そうだったな。何かあったら」
「それだけ気をつけて」
優しいがしっかりとした注意であった。
「御願いね」
「ああ、ごめん」
「それで男は磨けた?」
クスハは今度はこう尋ねてきた。
「そっちはどうなの?」
「えっ!?」
ブリットはこの言葉に目を丸くさせた。
「それは一体どういう意味なんだ!?」
「レーツェルさんがそういう風に言ってたから」
「どうやら一通りのことは終わったらしい」
ここでレーツェルが言う。
「丁度よかったな、クスハ」
「ええ。それでね」
またブリットに顔を向ける。
「特製の健康ドリンクを持ってきたわ」
「なっ!?」
今の言葉がブリットにとっては最も衝撃的なことであった。
「ここに・・・・・・」
「何を怯える」
ゼンガーは平気な様子でそうブリットに問う。
「武人が少々のことで動じるな」
「少々のことじゃないんですよこれが」
「そうなのか」
「そうなのかってゼンガーさん」
言おうとした時だった。不意に何かを感じた。
「!?」
「何だこの念は」
「荒々しく強大な念」
クスハとブリットの顔が一変する。
「俺達はこれに似た念を何処かで知っている」
「ええ、これは」
次に落雷が起こった。そして現われたのは。
「ふふふ、久し振りだね」
「貴方は!」
クスハは思わず声をあげた。
「どうしてここに!」
「おやおや、つれない言葉だね」
男の声がクスハに応えた。
「折角久し振りに会えたというのに」
「貴方が今どうしてここに」
「死んだとでも思っていたのかな」
男の声はそうクスハに問うた。
「僕が。この」
姿を現わした。巨大な龍と共に。
「孫光龍が」
「孫光龍!どうしてここに」
「ちょっと君達に用があってね」
孫は真龍王機の上から笑顔で二人に対して言うのであった。
「些細な用件だけれどね」
「些細なこと!?」
「そうだよ」
また笑って述べてきた。
「本当に些細なことだけれどね」
「それはどうかな」
レーツェルは孫のその思わせぶりな言葉に反論してきた。
「あまりそうは聞こえないニュアンスだが」
「おや、僕を疑うのかい」
「少なくとも信用はできない」
レーツェルは声に懐疑的なものを含ませてきた。
「あまりな」
「そもそもです」
クスハも言う。
「貴方は私達の敵でした。それが」
「あの時急に消えて。それからどうして」
「それはね。契約を破棄していたんだ」
「契約を!?」
「そう」
こうブリットに答えるのだった。
「あの造られた神とね」
「イルイ=ガンエデンと」
「そう、わかってるじゃないか」
クスハの言葉に笑顔で応える。
「その通りだよ、僕はもう自由なんだ」
「自由・・・・・・」
「その通り。何をしてもいいんだ」
また明るい声で述べるのだった。
「実はね。超機人には幾つかのランクがあるんだ」
今度は超機人について言及してきた。
「ランク!?」
「そうなんだ。まず君達の龍王機と虎王機、そして過去に失われた雀王機、武王機で『四神』の超機人」
「そうだったの」
「俺達の乗る龍王機と虎王機の他にもあったのか」
クスハとブリットにとっては衝撃の事実だった。
「四霊獣だな。五行で言う」
「うむ」
レーツェルとブリットもその言葉にうなずく。
「成程な」
「そういうことか」
「そう。そして」
孫は二人の言葉を受けてさらに話を続ける。
「他にも『四凶』や『四罪』なんてのもある。中でも最上位に君臨するのが」
「君臨するのが」
「この応龍をはじめとする『四霊』の超機人なのさ」
「最上位の超機人」
ブリットはそれを聞いて声をあげる。
「応龍が」
「そう。これは前にも言ったかな」
楽しげに笑ってクスハ達にまた述べた。
「僕の龍王機こそが真の龍神、つまり真龍王機というわけだ」
「超機人に選ばれし者」
「そういうことさ」
またクスハに答える。
「では、あなたも私達の仲間なのですね」
「さて」
だが孫はクスハのその言葉には答えないのだった。そこに何かがあるように。
「えっ、違うんですか?」
既に彼女はトロンベのコクピットから出ていた。そこから孫に近寄ろうとするが。
ゼンガーが突如として叫んだ。
「迂闊に近寄るな!」
「えっ!?」
その時だった。クスハの周りに落雷が何本も落ちる。
「きゃあっ!」
「何をする!?」
ブリットが慌ててクスハを虎龍機の中に守って孫に問うた。
「見てわからないかい?」
孫はそんな彼に対して軽い調子で言い返すのだった。
「攻撃しているのさ」
「そんな!」
「超機人は正義の心を宿している筈」
クスハとブリットはそれぞれ言う。
「それが俺達を攻撃するなんて」
「貴方はどうしてその龍王機を操っているの!?」
「やれやれ」
孫は二人の言葉を聞いて肩をすくめるのだった。
「どうにも四神の龍王機と虎王機の選びし者は愚か者が多いねぇ」
「何だと!?」
「僕は真龍王機の正統な主であり正義に従って行動しているのさ」
こうブリットに答える。
「つまり君達こそが悪というわけだよ」
「何っ!?」
「それって」
ブリットもクスハも今の孫の言葉にハッとした。
「ガンエデンの言っていたことと同じ」
「ああ」
ブリットはクスハのその言葉に頷く。
「そうだ。全く同じだ」
「まあそうかもね」
孫の方もそれは認める。
「ひょっとしたら。そういえば」
「そういえば!?」
「君達の龍王機と虎王機は遥か過去にガンエデンから離反していたね」
それについて言及してきた。
「けれど心配は要らないよ」
「それはどうしてですか!?」
「もうガンエデンはいないからさ」
クスハへの答えはこうであった。
「君達がその手で倒してくれたからね」
「イルイちゃんはまだ」
「力はなくなったってことさ」
冷静にクスハに述べる。
「それで充分だろう?」
「うう・・・・・・」
「あの人造神はいなくなったけれど僕と真龍王機は本来の正義を遂行させてもらうよ」
「その正義とは?」
今度はレーツェルが孫に問うた。
「何なのだ?」
「さてね」
その質問にも答えない。楽しんでいるように。
「ただ」
「ただ?」
「真龍王機は龍王機と虎王機にちょっとした恨みがあってね。少し暴れさせてもらうよ」
「まさか」
「危ないクスハ!」
虎龍機の周りを雷が襲う。
「きゃあっ!」
「早くコクピットの中に!」
「え、ええ!」
クスハは慌ててコクピットの中に入る。間一髪であった。
「おやおや」
孫はクスハが何とか逃げ延びたのを見てまた楽しそうに声をあげるのだった。
「運がいいって言うべきかね。これはまた」
「貴様っ!」
ブリットはそんな彼を見据えて叫ぶ。
「武器を持たない相手を!」
「それがどうかしたのかな」
ブリットの言葉に平然とうそぶく。
「何っ!?」
「敵は機会を見て倒す」
平然とした口ぶりだった。
「それが僕の流儀でね。この落雷だって」
「くっ、また!」
「ブリット君!」
クスハが叫ぶ。
「このままだと」
「わかってる。けれど」
落雷はかわすしかない。苦い決断をしようとしたその時だった。
「喝っ!」
ゼンガーが気を放った。それで。
「嘘・・・・・・」
「落雷が止んだ」
これには驚きを隠せない二人だった。
「気迫だけでそんなことができるなんて」
「流石はゼンガーさん」
「へえ、感服感服」
だが孫の調子は相変わらずであった。
「念者でもないのに気合で真龍王機を圧倒するとはね」
「大したことではない」
ゼンガーは孫を見据えて答える。
「この程度はな」
「おや。へえ」
孫はまたおかしそうな声をあげてきた。
「真龍王機が言っているよ」
「何とだ?」
「君に良く似た男を知っているってね」
「そうか」
「それに」
今度はレーツェルを見て言う。
「君もね。もっともそちらの場合は女性みたいだけれど」
「思い出話がしたいなら自室のリビングでしていてもらおう」
レーツェルは感情を押し殺して孫に告げた。
「一人でな」
「貴様の言う正義が何を意味するかは知らぬ」
ゼンガーがまた言う。
「だが過去の恨みから他人を傷つける様、それは邪悪以外の何物でもない!」
「邪悪かい、僕が」
「そうだ!」
毅然とした言葉だった。
「私怨を入れるのが何よりの証拠!邪悪とはこのことだ!」
「じゃあその邪悪をどうするんだい?」
「決まっている!」
ゼンガーはまた言う。
「断つ!」
「そしてあれかい?」
孫の声がシニカルなものになった。その顔もまた。
「この星を襲う侵略者と戦うのかな」
「そうよ!」
今度はクスハが答えた。
「それが私達の正義ですから!」
「正義、ねえ」
孫はその言葉を聞いてまたシニカルに笑うのだった。
「まずは立派だね」
「それだけか?」
「いいや」
余裕を見せてレーツェルに返す。
「その盲目的なまでに狭い了見でも正義感」
こう評してきたのが何よりの証拠だった。
「君達は確かにあの超機人の選びし者だ」
「黙れ!」
ブリットはその言葉を頭から否定した。
「貴様の正義が何であろうと俺達は俺達の正義を貫く!」
「そういうのは無意味なんだよ」
しかしそれでも孫の馬鹿にしきった態度は変わらない。
「僕にはね」
「貴方には」
「そうさ」
またクスハに答える。
「古の記憶に触れた僕にはね」
「古の記憶!?」
「何のことだ!?」
クスハとブリットはその言葉に首を傾げる。だが孫はそんな二人に対して言い捨てるのだった。
「話はここまでだ。まずは手合わせていこうか」
「どうやらこれ以上の話し合いは無駄なようだな」
「そうだね」
孫もレーツェルに対して言葉を返す。
「僕ももう話すつもりはないよ」
「では・・・・・・参る!」
ゼンガ^が構えを取ってきた。
「今ここで!」
「でははじめよう」
孫はそれを受けて楽しそうに声をあげた。
「新たなショーを」
「ショーだと!?」
「そうじゃないのかい?」
楽しそうな声のままブリットにまた告げてみせた。
「戦いだよ。君達の完全な敗北が待っている」
「また随分と余裕だな」
レーツェルはそんな孫を見据えて言葉を返す。
「実力があるというのか」
「勿論」
やはりレーツェルに対しても余裕を見せる。
「四神の実力を見せてあげるよ」
「果たしてそう行くか」
ゼンガーは構えを取りながら孫に言うのだった。
「我等を前にして」
「じゃあ来てみればわかるよ」
孫は相変わらずの調子でそう言葉を返すのだった。
「さあ。是非来てくれ」
「では・・・・・・参る!」
最初に動いたのはゼンガーであった。
「まずはこの太刀で!」
「へえ、凄い動きだぜ」
ダイゼンガーの動きを見ながらの言葉である。
「速いだけじゃなくて切れもあるねえ」
「ならばどうする!」
ゼンガーはその彼に対してまた言う。
「避けるか?それとも」
「この場合は避けさせてもらうよ」
「なっ!?」
クスハはその言葉に思わず声をあげた。
「そんなに大きいのに」
「いやあ、それは関係ないんだよ」
笑ってクスハに述べる。
「大きさはね。この真龍王機には」
「大きさは関係ない!?」
「その通り」
今度はブリットに答える。
「さあ、じゃあ避けてみせよう」
「チェストーーーーーーーーーッ!」
そこにダイゼンガーの袈裟斬りが来る。しかし孫はそれを見事に横にかわしてしまったのだった。彼自身の言葉通りに。
「ほらね」
「何っ!!」
「本当にかわすなんて・・・・・・」
ブリットとクスハはそれを見て声を失った。その巨大な姿からは想像もできない素早さであった。
「これでわかってもらえたかな」
「あんなに早く・・・・・・」
「しかもゼンガーさんの攻撃を」
「確かに凄い攻撃だね」
それは認めてみせた。優越感をもとに。
「けれど。それじゃあ僕は倒せないよ」
「言うだけはあるということか」
攻撃をかわされたゼンガーはそれでも冷静なままであった。その冷静さで以って孫に言う。
「俺の攻撃をかわせる者はそうはいない」
「いやいや、僕だって紙一重さ」
その言葉にも余裕と優越感が見られた。
「もっともその紙一重が重要なんだけれどね」
「その凄みのある笑みだな」
レーツェルは今の孫の顔を見逃さなかった。
「どうやら貴殿の本性はかなりのもののようだな」
「さて、それはどうかな」
またとぼけてみせてきた。
「ただわかっているのは君達がここで僕に敗れることだけだけれどね」
「まだそんなことを!」
ブリットはその挑発に乗ってしまった。
「言っているのか!」
「駄目よブリット君」
クスハは激昂を見せたパートナーを制止した。
「ここで挑発に乗ったら」
「くっ・・・・・・」
「その通りだ」
ここで誰かの声がした。
「今は挑発に乗るな。この男は明らかに手強い」
「その声は!?」
ゲシュペンストが姿を現わした。しかも二機。
「リンさん、それに」
「へへへ、俺もね」
イルムもいた。二人が戦場に姿を現わしたのだった。
「あまりにも帰りが遅いので来てみれば」
「案の定厄介な敵がいたってわけか」
リンとブリットはそれぞれの言葉で述べてきた。
「孫光龍だな」
リンは孫と彼の乗る真龍王機に顔を向けて問うた。
「覚えている。ガンエデンとの戦いの時だったな」
「ご名答」
またおどけての軽い言葉だった。
「その通り。覚えていてくれるなんてね」
「あの戦いの後姿を消したが」
リンは孫の言葉に応えずにこう言葉を続けてきた。
「今姿を現わしてきたか」
「僕にも色々とすることがあってね」
うそぶく言葉であった。
「それで暫くはね。静かにしていたんだ」
「だがこれからは違うというのだな」
リンはようやくここで孫に問い返した。
「何の魂胆かはわからないが」
「まあ大したことはないよ」
またうそぶく孫であった。
「ただ」
「ただ?」
「君達の敵だっていうだけでね。それじゃあやらせてもらうよ」
鱗を飛ばす。それはすぐに異形の機械になった。
「さあ、まずは小手調べさ」
「魚!?」
「いえ、違うわ」
クスハはブリットに答えた。
「もっと。これは」
「これは!?」
「よけて、ブリット君!」
慌ててブリットに言う。
「そうでなければ切って!」
「わかった!」
クスハの言葉に従い切り払う。それで何とか助かったのだった。
「危なかったな」
「ええ」
ブリットに対して言葉を返す。
「けれど今のは」
「やっぱりいい腕をしてるね」
笑いながらブリットに言う。
「けれど。これならどうかな」
また攻撃を仕掛けてくる。今度も切り払うブリットだった。
「これも!」
「やっぱりね。それじゃあ僕も本気になろうかな」
「待て!」
そこにリンとイルムが向かう。
「貴様の相手は!」
「俺達だってそうなんだぜ!」
ビームを放つ。だがそれは真龍王機に完全に弾かれた。
「何っ!?」
「ビームを」
「念動力フィールドだよ」
そう二人に説明する。
「この真龍王機は特別でね。とびきりいいのを備えているのさ」
「守りも完璧だということか」
「そういうこと」
こうリンに返した。
「少なくともモビルスーツを一撃で倒す程度じゃ貫くことすらできないよ」
「くっ!」
「そして」
またクスハとブリットに顔を向けてきた。
「攻撃もね。さて、どうしようか」
「どうしようもこうしようもない!」
「そうよ!」
二人も孫に言い返す。
「俺達は何があっても!」
「逃げたりはしません!」
「背は向けないってことか」
孫は二人の言葉を聞いてこう述べた。
「それはまた。けなげだねえ」
「だったらどうするんですか!?」
「どうせ俺達の敵であることには変わりないんだろう!」
「まあそうだけれどね」
それは隠しもしない。
「けれど。楽しみがいがあるよ」
「私達との戦いが」
「そういうことさ。じゃあまた」
攻撃に入る。
「ショーを見せてもらうよ」
再び鱗を放つ。しかしそれは弓矢で全て弾かれた。
「おや、弓かい」
「クスハさん!ブリットさん!」
ここで洪の声がした。
「すいません、遅れました!」
「洪君!」
「来てくれたか!」
「はい!」
今度姿を現わしたのはライディーンであった。そして彼だけではなかった。
「大丈夫か!」
竜馬も。そして皆も。
「心配になって来てみれば」
「まさか懐かしい奴に出会えるとはな」
隼人も言う。
「孫光龍だったか、確か」
「その通り」
余裕の笑みで隼人に答える。
「覚えておいてくれたらいいよ」
「それでどうしてクスハ達を攻撃しているんだ!」
「おいら達の敵だっていうのか!」
「その通りだよ」
弁慶と武蔵に答える。
「そういうことだから。覚えておいてくれ給え」
「くっ!」
「何かいけ好かねえ野郎だぜ!」
「それにしてもな」
「はい」
麗は神宮寺の言葉に頷く。
「半端じゃない気みたいだな」
「気をつけて下さい」
麗は神宮寺だけでなく他の皆にも言う。
「彼は。かなり手強いです」
「それにしてもまた見たけれど」
マリの顔が曇っていた。
「何て大きさ」
「洸さん」
猿丸は洸に問うた。
「あれですね」
「ああ」
彼も頷く。
「あれが俺の感じた巨大な念の正体だ。間違いない」
「洸君もあの超機人の念を感じたのね」
「やはりあれは超機人なんですね」
クスハに言う。
「ええ、そうよ」
「奴は四霊の龍王機」
ブリットがそう説明する。
「自らを真龍王機と名乗っている。」
「真の」
「そしてわかっているのは俺達の敵ということだけだ!」
「ではやっぱり」
「そうだよ」
孫はロンド=ベルの面々に対して告げる。
「本来はこの真龍王機こそがガンエデンの剣だったんだよ」
「本来は!?」
「そうさ」
また言う。
「けれどガンエデンは真龍王機を起こさずに君達という新たな剣を選んだ」
「だからか」
「それで」
彼等にも事情はわかった。孫はさらに言う。
「僕と真龍王機にとってこの事実は結構な屈辱でねえ」
「最後になって出て来たのか」
「以前から起きてはいたけれどね」
そう一同に告げた。
「一応はね」
「そしてあの時に」
「そういうこと」
クスハに告げる。
「戦いにも参加したんだよ。これでわかってもらえたかな」
「一応はな」
鉄也が答える。
「だが。信用できないな」
「まあ信用してもらうつもりもないし」
これは本音だった。
「しかし。これだけの数になるとあれだね」
「何が言いたい」
「いや、簡単なことさ」
囲まれてはいたが余裕は変わらない。その余裕のもとに言葉を続ける。
「これで退散させてもらうよ」
「手前逃げるのかよ!」
「そうさ」
甲児に笑って言い返す。
「気が変わったんでね。それじゃあ」
そのまま姿を消した。後には何も残さなかった。
「何だ、あいつ」
甲児は姿を消した孫について言った。
「訳わかんねえ奴だな」
「全くだぜ」
それに忍が頷く。
「いけ好かねえな、どうにも」
「けれど。あれですね」
ツグミは警戒を露わにさせていた。
「かなりの力を持っています」
「そうだな」
それはスレイも感じていた。
「少なくとも甘く見れる相手ではない」
「ここでまた変なのが出て来るなんて」
アイビスはこう言うのだった。
「さらに厄介になってきたわね」
「それがロンド=ベルとはいえな」
マイヨも難しい顔をしていた。
「あの男はその中でもとりわけ問題になりそうだ」
「孫光龍」
ブリットはその名を呟く。
「一体何者なんだ」
「一応は言っているけれど」
クスハがブリットの言葉に応える。
「本当なのかしら、全部」
「少なくともだ」
レーツェルがここで言う。
「彼の本名は違うだろう」
「違う!?」
「じゃあ中国人ではない」
「あの姿を見るのだ」
レーツェルは孫の姿を指摘してきた。
「あれは中国人のものか?」
「そういえば」
「確かに」
髪や目の色もその顔立ちもどれも中国人、アジア系のものではなかった。それははっきりわかる。混血していたとしてもあまりにも違っていた。
「あれはむしろ」
「白人!?」
「それもかなりルーツの古い顔だ」
こう言うのだった。
「混血が見られない」
「じゃあ一体あいつは」
「何者なんだ」
「それもやがてわかるだおる。だが」
レーツェルはまた言う。
「それがわかる時は戦いは今とは比較にならない程激しくなっているだろう」
「そうですか。やっぱり」
「では帰るか」
レーツェルは全てを話し終えると撤収を促した。
「彼もいなくなったことだしな」
「わかりました」
「それじゃあ」
皆もそれに頷いた。
「帰りましょう」
「呉に」
「さて、それでは」
レーツェルはここでブリットを見るのだった。
「ジュースを飲むとするか、帰ったら」
「えっ」
今のレーツェルの言葉に息を飲むブリットであった。
「ジュースってまさか」
「そのまさかだよ」
にこりと笑ってブリットに告げる。
「折角クスハ君が作ってくれたのだしな」
「いや、俺はその」
ブリットは青い顔でレーツェルに言う。
「あまり喉は」
「それは気にしないで、ブリット君」
ここでクスハが話に加わってきた。
「どうしてだい、クスハ」
「だってスタミナ回復用だから」
にこりと笑ってブリットに述べた。闇のない笑みだった。
「喉が渇いていなくてもね」
「そ、そうなんだ」
ブリットはそれを聴いて引き攣った笑いを浮かべた。
「それは何より」
「うん。じゃあ早く帰りましょう」
クスハは何もわからずに言う。
「ジュース一リットルもあるから」
「一リットル・・・・・・」
ブリットの顔がさらに強張る。
「そんなに」
「うん。それ食べて体力つけて」
「わかったよ」
ブリットはそこまで聞くと肩をがっくりと落として呉まで帰るのだった。ナタルはその後姿をラーディッシュから見て言うのであった。
「気の毒だが。どうしようもないな」
「どうしようもないのかね」
「はい」
きっぱりとヘンケンに答える。
「こればかりは。やはり」
「戦争とは違ってか」
「はい。私も傍観するしかありません」
「それはまたどうしてなんだい?」
「それはですね」
少し間を置いてから述べてきた。
「恋路になるからです。そこに入るのは」
「憚れるか」
「そうしたことに入る趣味はありません」
ナタルはこうしたところでも生真面目であった。
「協力を仰がれれば別ですが」
「今回もか」
「それでも今回は遠慮願います」
いつもとは違い薄情なナタルであった。
「何故かね、少佐」
「私も命が惜しいからです」
きっぱりと言い切った。
「あんなものを飲んでは。それこそ」
「死ぬというのか」
「その通りです」
見ればナタルの顔も強張っていた。
「あれはまさに戦略兵器です」
「戦略兵器か」
「どうにも。ロンド=ベルには戦略兵器の開発者が多いのが問題ですが」
「ううむ、確かにな」
これにはヘンケンも頷く。その通りだった。
「彼女といいミナキ君といい」
「ラミアス艦長もラクス嬢も。どうにも」
「ミスマル艦長もだったな」
「残念なことに」
何故かユリカについては残念と評するナタルであった。
「どうにもこうにもです」
「あれもまた才能か」
「才能です」
それもまたはっきりと言う。
「兵器を作るのもまた」
「少佐はどうかね?」
「私ですか」
「料理上手だそうじゃないか」
「自分ではそのつもりはありません」
謙遜して言うのだった。
「私はただ普通に本を見ながら」
「そうか。意外と家庭的なのだな」
「いえ、それは」
急にしおらしくなるナタルであった。
「別に。私は」
「そうか。私もな」
何故か笑みを浮かべるヘンケンであった。
「エマ君の料理は好きだが」
「いいのでは?それで」
ナタルはよくわかってはいなかった。
「シーン大尉も料理の腕は」
「それがあまり食べられなくてだ」
ナタルがわかっていないのをいいことに罠にかけていく。
「そういえばキース君も」
「キース!?」
見事に引っ掛かった。
「エマ君の料理を褒めていたな」
「それは本当ですか!?」
血相を変えてヘンケンに問う。
「キースが他の人の料理を」
「らしいな」
「嘘です、それは」
ナタルはムキになってそれを否定する。
「キースは私の手料理しか食べないんですから、それは」
「嘘だというのかね」
「そうです、昨日だって」
罠にかかったまま言う。
「あんなに美味しそうに食べていましたし」
「そうか。ならいい」
ヘンケンはそこまで聞いて満足そうに笑うのだった。
「皆にそれは伝わったからな」
「えっ!?」
ここでナタルはふと立ち止まった。
「皆といいますと」
「だから皆にだ」
ヘンケンは楽しそうに笑いながらまた言うのだった。
「放送が入っているからな」
「な・・・・・・」
ようやく事情がわかった。顔が次第に赤くなる。
「そうだったんですか、それじゃあ」
「今の話は皆聞いているぞ」
「皆、それじゃあ」
「あの少佐」
そのキースから通信が入ってきた。
「キ、キース」
「何でまたそんな見え見えの誘導に引っ掛かるわけ?」
困り果てた顔でナタルに言う。
「折角内緒にしていたことがまたばれたし」
「ご、御免なさい」
顔を真っ赤にして俯いて応えるナタルであった。
「つい。どうにもこうにも」
「まあいいか」
諦めた声をあげる。
「今更ってやつだしさ」
「うう・・・・・・」
「まあそれはいいから」
もうそれは強引にいいことにするキースであった。
「今から帰るから。宜しくね」
「今日は何がいいの?」
ナタルはここでまたミスを犯してしまった。
「貴方が好きなものを作ってあげるから」
「あの、少佐」
流石に今の言葉にはヘンケンも呆れていた。
「今の言葉は流石にだね」
「えっ、何か」
しかも本人はここではまだ気付いていない。
「あるのでしょうか」
「大尉はこれから帰投するんだが」
そこを言う。
「だからこの場合は」
「あっ・・・・・・」
言われてまた気付く。そうしてまたしても顔を真っ赤にさせる。
「そうでした、すいません」
「いや、私はいいが」
もうこうなっては処置なしであった。
「大尉がねえ」
「御免なさい、キース・・・・・・じゃなかった」
慌てて言葉を訂正する。
「気にするな、大尉」
「わかりました」
「わかったな」
「わかったも何も」
「今のは幾ら何でもあれじゃないのか?」
オデロとトマーシュは何と言っていいかわからない感じになっていた。
「なあ、絶対に」
「そうだな。モロバレだ」
「五月蝿いっ」8
ナタルはそんな彼等に顔を真っ赤にして言う。
「もう終わったことだ。あれこれ言うなっ」
「はいはい」
「わかったよ、それじゃあ」
「とにかくだ」
二人を強引に退けた後でキースにまた言う。相変わらず顔は真っ赤なままだ。
「大尉、早く戻ってきてくれ」
「了解っ」
こうしてキースは無事戻ってきた。しかしどうにもナタルは顔を真っ赤にさせたままでそれからも周りにあれこれとからかわれたのであった。
「それにしてもだ」
呉に戻った一同はあらためて話に入った。その対象は言うまでもなかった。
「孫光龍ですね」
「はい」
クスハはイーグルの問いに答えた。
「一応は知っているつもりですがまた僕達の前に現れるとは」
「あの時は何でもない感じだったけれどな」
「そうだね」
ザズはジェオの言葉に頷く。
「ただあのガンエデンの部下か何かだった感じで」
「そうだったな」
「しかしじゃ」
アスカがここで言うのだった。
「あの力は半端なものではなかったのう」
「ガンエデンの時で既に」
シャンアンはそこを指摘してきた。
「かなりのものでしたな」
「それが今は」
続いてサンユンが言う。
「もっと強くなっていますよ」
「そうですね」
タロラは彼のその指摘に頷いた。
「それもかなり」
「あの強さはあれだ」
タータは真顔で述べる。
「ガンエデンにも匹敵するな」
「ガンエデンにも」
クスハはそこまで聞いて顔を暗くさせた。
「そこまでの力が」
「あるな、間違いなく」
レーツェルはいつものクールさで述べた。
「それもかなりだ」
「そうですか」
「しかもだ」
レーツェルは言葉を付け加える。
「間違いなく我々の敵に回っている」
「彼の正義で、でしょうか」
ブリットはそこでレーツェルに問うた。
「あの時俺達に言ったように」
「どうかな、それは」
レーツェルはそれには首を捻ってみせるのだった。
「違うのですか?」
「考えが読めない」
そう述べて首を捻るのだった。
「どうにも。あえてそうさせているな」
「そもそも何者なんだ?」
ヒューゴは話の核心をついてきた。
「それすらもわからないが」
「やっぱりどう見てもアジア系ではないし」
アクアも言う。
「あの顔はむしろ」
「むしろ?」
「ユダヤ系の顔なのよ」
そう皆に告げるのだった。
「ユダヤ系!?」
「ええ、そんな感じよ」
こう言うのだった。しかも。
「それも古代ユダヤ系」
「古代の!?」
「何でそんな顔に」
「そこまではわからないけれど」
アクアでもわかるのはそこまでであった。
「ただ。そこにも何かあるのかも」
「古代ユダヤ系。そういえば」
今度気付いたのはリツコであった。
「バルマー帝国の名前は」
「バルマー!?」
「奴等も」
皆バルマーと聞いて顔色を一変させる。言うまでもなく彼等の不倶戴天の敵だからだ。
「彼等のそれぞれの名前があるわね」
「ああ」
「ラオデキアとかユーゼスとかですよね」
「どれも。古代ヘブライ語よ」
リツコは言う。
「使徒達と同じで」
「使徒達と!?」
「まさか」
「いえ、リツコの言う通りよ」
今度はミサトが真顔で言うのだった。
「私も調べたけれど。どれも」
「ヘブライか」
サコンはそれを聞いて顔を顰めさせるのだった。
「孫光龍にバルマー帝国に使徒。その三つがヘブライと何かしらの関係にある」
「そこに大きな謎が」
「まだ確信ではないけれどね」
ミサトはブリットに告げる。
「けれど。何かあるのは間違いないわ」
「そうですか」
「けれどまだそれを断定するには」
「あまりにも。何もわかっていないわ」
リツコは歯噛みする顔で述べた。
「何もかもがね」
「そうですよね」
「結局は」
「今はまだ敵を追うしかできない」
大文字が無念そうに言うのだった。
「残念だがな」
「わかりました」
「それじゃあ今は」
「今度は宇宙に出る」
大文字は告げた。
「宇宙にですか」
「そうだ。今は連邦軍の再編成で宇宙の戦力を地球に編入する」
そうした流れになっていたのだ。地底の勢力をとりあえずは止めた今それを徹底させる為にさらなる戦力を投入するということだった。
「だからその間我々は」
「宇宙の守りを固めると」
「そういうことだ。いいな」
「了解」
「わかりました」
皆大文字のその言葉に頷いた。
「それではすぐに」
「宇宙に」
「整備が終わり次第台湾に向かう」
大文字はそう指示を出した。
「そして宇宙に出る。いいな、諸君」
「はいっ!」
皆その言葉に頷く。こうしてまず彼等は宇宙に出ることになった。これがまた新たな星達の巡り合いとなるのはまだ誰も知らなかった。

第十二話完

2007・9・29  
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