久遠の神話
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第三十七話 人との闘いその三
「凄いものだな、君も」
「雨を降らせることがですか」
「しかもそれは唯の雨じゃない場合もあるだろ」
「はい」
その通りだとだ。上城自身も答える。今の彼は。
まだ降っている雨によって頭からつま先まで濡れている。それは中田も同じだった。
そしてその雨の中でだ。彼は答えたのである。
「酸性雨の場合もあります」
「えげつないね。水といっても」
「色々です」
そうしただ。酸性雨もまた然りだというのだ。
「出せますので」
「成程な。水は強いからな」
「水は火を消します」
「いや、それだけじゃないからな」
その酸性雨の例を出してもだというのだ。中田が今言うのはこのことだった。
「色々なやり方があるんだよ」
「攻防一体という訳ですね」
「そうさ。けれどな」
「はい、実は」
上城は難しい顔になった。己が降らせた雨の中で。
濡れながらだ。彼は言ったのである。
「もう力は」
「今の戦いじゃ使えないな」
「そうなりました」
力を使えるだけの余力はないというのだ。彼の水の力を。
「残念です。これでは」
「ああ、俺もだよ」
「中田さんもとは」
「俺もさっきの攻撃で力を使い果たしたさ」
この場での戦いではだ。そうだというのだ。
「だからな」
「お互いにですか」
「引き分けだな、今回は」
中田は屈託のないいつもの笑みで述べた。
「また今度闘うか」
「今度ですか」
「ああ、今度な」
そうしようというのだ。これが今の中田の言葉だった。
「その時に決まればいいな」
「僕は絶対に」
「俺も止めるってんだな」
「そうします」
強い決意と共にだ。上城は述べた。
「中田さんもまた」
「強くなったね。いや」
「いや?」
「元から強かったのを出したっていうのかな」
上城を見てだ。そのうえでの言葉だった。
「そういうのかな」
「僕は元から。そんな」
「身体能力のことじゃないさ」
強さといっても色々だ。確かに身体的な強さ、最もはっきり出るのは腕力だ。そうしたものの強さもあるが中田が今言う強さはこれであった。
「あれだよ。心だよ」
「心ですか」
「ああ、心の強さだよ」
それがだというのだ。
「それがあるんだろうな」
「僕の心は強いですか」
「少なくとも弱くないさ」
それは全くだというのだ。
「だからそれを出してきたんだろうな」
「僕のそれを」
「そう思うけれどな、俺は」
こう上城に言うのだった。
「まあ俺の見立てだけれどな」
「だといいんですけれど」
「君は強いさ」
またこう言う中田だった。
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