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Fate/magic girl-錬鉄の弓兵と魔法少女-

作者:セリカ
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A's編
  第六十七話 魔術師の覚悟

 戦場から戻ってきた俺とクロノに、なのは、フェイト、アルフ、ユーノ。
 そしてリンディさんとエイミィさんと仕事から戻ってきたプレシアが揃う。

 クロノとリンディさん達と先ほどの戦いのデータを確認し、なのはとフェイトはエイミィさんからカートリッジシステムの注意事項を聞いている。

 それにしても本体の破損の危険があっても、主を守るために、主の信頼に応えるがために新たな力を望むか。

 なのはとレイジングハート、フェイトとバルディッシュ、互いに信頼し、大切に思っている事がよくわかる。

 そんな中でリンディさん達は難しい顔をしている。

「問題は彼らの目的よね」
「ええ、自分の意思で闇の書の完成を目指していると感じますし」
「え? それって何かおかしいの?
 闇の書っていうのもジュエルシードみたくすっごい力が欲しい人が集めるモノなんでしょう?
 だったらその力が欲しい人のためにあの子たちが頑張るというのもおかしくないと思うんだけど」

 アルフが頭を悩ませていた二人の言葉が理解できないようで首を傾げている。
 だがアルフの疑問ももっともだとは思う。

「第一にジュエルシードみたいに自由の制御が効くモノじゃないんだ」
「完成前も完成後も純粋な破壊にしか使えない。
 それ以外に使われたという記録はないわ」
「それがおかしいんだよな」
「どういう事だ?」

 俺の言葉に全員が俺に視線を向ける。
 なのは達もエイミィさんとの話が終わったのかこちらにくる。

「破壊にしか使えない力。
 そして、完成してもしなくても主を含め破滅を迎えて次の主に渡る闇の書。
 なら闇の書の到達するところはどこだ?」

 俺の言葉に首を傾げる面々。
 プレシアだけは前に話しているので頷いている。

「666頁を埋めたら完成するというが、これじゃただのリセットであり完成じゃない。
 永遠に破壊を繰り返し続けてどうする?
 最後に行きつくのはなんだ?」
「確かにそうね」

 俺の言葉にリンディさん達管理局組とユーノが納得したように悩み始める。

「前から思っている事だが全体的におかしいんだよ」
「おかしい?」
「士郎君、どういうこと?」

 フェイトとなのはの言葉に順を追って説明をする。

「一つ、守護騎士達は今まで人も襲っているが命を奪ってはいない。
 完成すれば多くの人が死ぬかもしれない闇の書の完成を目指しているのにだ。
 一つ、666頁という蒐集する容量を持っているのに完成すると暴走する闇の書。
 納める容量がないとかではなく、666頁分の容量を確保し、完成するのに暴走する。
 そして、闇の書の主が得るモノがない。
 闇の書の道具としての役割はなんだ?」

 俺は問いかけのような闇の書のおかしなところを上げていく。

「確かにおかしい話ね」
「それに闇の書の守護騎士達は疑似人格、プログラムだ」
「過去に意思疎通ができたっていう情報はあるんだけど感情は確認出来なかったってあるんだけど」
「そうなんですか?
 ヴィータちゃんは怒ったりしてたけど」
「シグナムからも人格は感じ取れました」

 なのはとフェイトは不思議そうにしているが、それは

「疑似とはいえ人格があるんなら感情があってもおかしくはない。
 闇の書の主が守護騎士の感情を認めているのか、認めず駒としか考えていないかの違いだろう」

 俺のそんな意見が意外だったのか

「士郎達魔術師にも似た技術があるのか?」
「資料としては知っている。
 疑似人格とは違うが主と従者の関係という意味では似ているのかもしれない。
 だがどちらにしろ情報不足だ」

 ため息をつきながらの俺の言葉にリンディさんもクロノも頷く。

 その時、クロノの視線がなのはの肩に向けられる。

 そこにいるのはユーノ

「明日から頼みたい事があるんだが」
「ん? いいけど」

 クロノからユーノの頼みとはなんだ?

「まあ、期待していてくれ。
 もしかしたら情報不足が少しは解消するかもしれない」

 首を傾げながらも今日はそれで解散となった。




side グレアム

 やはりとんでもないな。

 部屋のソファでガーゼを当ててロッテに包帯を巻いていくアリア。

 武装局員が闇の書の守護騎士を補足したという情報を得たのですぐにロッテとアリアを送ったのだが、こんな事になるとは思わなかった。

 地球から戻ってきたロッテとアリアだったが、アリアに肩を借りてロッテは脇腹から血を流していた。

 なんでもアリアの治癒魔法でも傷が治らず、塞がる気配すらない。
 そして致命的なのが少量ながら血が止まらないというところだ。

 ともかく傷口を消毒し、包帯などで出来る限り出血を抑え、点滴をするぐらいしか手がなかった。

「ごめん、父様、アリア」
「謝らないで、ロッテ。
 私が傍にいたのに」
「私こそ無茶をさせてすまない。
 今はゆっくり休むといい」

 ロッテを休ませて、アリアが記録していた映像を確認する。

 衛宮士郎の相手という事もありロッテが表に立ち、アリアが陰から援護する形でバインドなどの魔法を行っていた。

 だが援護のために不用意に魔法を使えばこちらが二人以上という事がばれる。
 それを防ぐために、アリアはロッテが手を向けるなどのモーションをしなければ魔法を発動させていない。
 それによりアリアの存在がバレる事はなかったが。ロッテの傷は大きな痛手だ。

 しかし、こうして映像を見るとクロノとの模擬戦で手加減していたのがよくわかる。
 赤と黄の二本槍を縦横無尽に振るいロッテを圧倒する衛宮士郎。
 戦い慣れている。

 隙の見せ方や誘い、本命かと思えば、それすらも誘い。

 こうしてアリアが記録した映像を何度も再生し見ているから冷静に評価しているが、実際に戦えばどれが誘いか、本命か判断は困難だろう。

 一番の問題であるロッテの脇腹の傷は……黄色の槍の傷か。
 そして赤の槍は魔力を無効化にする槍。

 この槍は一体何だ……待て、私は知っている?

 そう、幼少の頃に読んだ神話に登場した二本の剣と二本の槍を持つ騎士。

 その騎士が持ちし魔法を打ち破る長槍、不治の傷を与える短槍

「ゲイ・ジャルクと、ゲイ・ボウだというのか!?」
「知っているのですか!? 父さま」
「私の故郷、地球に伝わる神話の武器だ」

 まさか、本物という事は無いだろう。

 神話時代の武器が本当に存在したとして、未だに現存している事は考えにくい。
 だが本物と同じような能力を持つレプリカなら可能性がないとは言い切れない。
 魔導師には作る事は不可能だろう。
 だが魔術師がどこまで出来るのか、可能なのか本当に理解している者はいない。

 そして、衛宮士郎はエクスカリバーやフルンディングという銘の武器も使っている。

 話を聞いた時は同じ世界の出身者だから銘を付けているだけかと思ったが、違うとしたら。
 もしアレがこの二本の槍のように神話のような能力を持っているとしたら。

「どう対処すればよいというのだ」

 味方なら心強い。
 それにエクスカリバーの本物に近い剣だとすればイギリス人の私からいえばぜひ、見せて貰いたい。

 だがこれが敵になると神話時代の武器などどのような能力があるのかわかったモノではない。
 どれだけの数、どんな能力がある武器を有しているのか見当もつかない。

 それに槍の正体がわかったとはいえ、不治の呪いの槍の傷をどう治せというのか。

 もしかしたら魔術師ならば可能かもしれないが魔導師には呪いなどオカルトのようなモノはお門違いだ。

 ロッテの傷を治すためには衛宮士郎に治し方を直接聞くしかない。

 だが、私の目的のためにもそれは出来ないのだ。




side 士郎

 解散となってリンディさんの傍を通る時小声で

「少々血生臭い話があります。部屋の窓を開けておいてください」

 と呟く。

 リンディさんは一瞬驚いたようにようだがすぐに頷いてくれた。
 それを確認して

「プレシア、今日は泊まったらどうだ?」

 そんな提案をする。

 今夜、戦った仮面。
 あの女も傷が治らずゲイ・ボウの効果にはもう気がついているはずだ。
 そして、あの手応えだ。
 出血も完全には止まりはしないだろう。
 となれば今夜また俺の所に来る可能性がある。

 少量とはいえ出血が止まらないとなれば、時間が経てば経つほど身体の衰弱は避けられない。
 となれば最悪、俺の家は戦いの場に変わる事も考えられる。

 それに最近忙しそうにしているのでいい機会だろう。

 俺がなにか考えている事を察してか

「そうね。どうかしら?」

 リンディさんに視線を向けるプレシア。

「私達はいつでも歓迎しますよ」
「ならあまえさせてもらうわね」
「士郎も泊まる?」

 フェイトがどこか期待した目で俺を見るけど

「アレの処理が必要だから、今日は遠慮するよ」

 と俺が指差すのはマルティーンの聖骸布に包まれた二本の槍。

「何か特別な事が必要なのか?」

 投影品にもかかわらず消さない事にクロノもずっと疑問を感じていたようだ。
 特にアルフは狼としての本能か先ほどから警戒している。
 対してエイミィさんは消さない投影品の事が気になってしょうがないらしい。

 万が一でも触れて傷が出来でもしたら大変なので

「その槍の銘は秘密ですけど、いわゆる呪いの魔槍というやつでして、投影品とはいえただ消すわけにはいかないんですよ」

 嘘と本当の事を交えて槍の事を教えるとどうやら効果はあったようで全員が槍から距離をとった。

「そんなに警戒しなくても刃に触れなければ大丈夫ですよ」
「まあ、僕達の家に持って来たんだから心配はしてないんだが、それでもな……」

 クロノの言葉に全員が頷く。
 刃に触れなければ害はないとはいえ呪いの魔槍というモノに戸惑っているらしい。
 無理はないとは思うが。

「では、また何かあればいつでも連絡をください」
「ええ、お願いね」

 それぞれ挨拶を交して、なのはとユーノと共にリンディさんの家を後にする。

 そして、マンションの一階からなのはを抱えて跳躍してなのはの家を目指す。
 最初は普通に送るだけのつもりだったのだが、俺が聖骸布で包んでいるとはいえ槍を持っているために人目につかないこの方法をとる事にした。

 家のすぐ前でなのはを降ろし、なのはが家に入るのを見届けてから跳躍し、自宅を目指す。

 自宅に着いてから、ゲイ・ジャルクは霧散させ、ゲイ・ボウは地下の魔法陣が描かれた部屋に置く。

 とりあえずここに置いておけば、俺がいない間に攻められても屋敷の結界でどうにかなるだろう。

 そして、跳躍してリンディさんの部屋を目指す。

 跳躍してマンションのベランダに入り、部屋の位置を頭の中で確認する。
 部屋には明かりがついており、気配が一人である事を確認し、リンディさんの部屋の窓をノックする。

 するとすぐにカーテンが開き、リンディさんが顔をのぞかせる。
 俺を確認すると開けられる窓。

「すみません。こんな形で来訪して」
「いいのよ。なのはさんやフェイトには聞かせにくい事なんでしょう?
 さ、入って」

 俺の内心を察してくれて部屋に招き入れてくれるリンディさん。

「そこに座って」

 もっとも俺が訪ねた部屋がリンディさんの寝室という事もあり、部屋にあるのはベットと机と椅子が一組。
 俺が椅子に腰かけ、リンディさんがベットに腰掛ける。

「話というのはあの仮面の姿をしていた者たちの事でいいのかしら?」
「ええ、映像で見ていたなら知っているとは思いますが、アレは変身魔法で姿を変えた女です。
 そして、あの女の脇腹には今も傷がそのままあります」
「なぜそう言い切れるの?」
「あの女を切り裂いた短槍の銘は『必滅の黄薔薇(ゲイ・ボウ)』。
 あの槍で受けた傷は槍を破壊するか、所有者である私を殺さない限り治癒する事はありません」

 槍の効果を聞き、驚きに目を丸くする。

「なんでそんな武器を?
 士郎君の中には他にも武器はあるのでしょう?」
「ありますが、あの者は慎重だ。
 あの場で仕留められずに逃げられる可能性があった。
 それならば今後も足枷となる武器の方が理想でしたから」
「確かに否定できないわ。
 でもそれは」
「なのは達には血生臭すぎる」

 戦い方としては先を考えて間違っていない。
 だが捕まえるためではなく、どちらかといえば仕留めるための手段だ。

 そして、なのは達のように真正面からぶつかり合い、真っ直ぐ前に進もうとする彼女達にはまだ早いともいえる。
 だが魔導師とはいえ彼女達もいつかは命のやり取りをすることはあるだろう。
 それまでは血は俺が浴びればいい。
 彼女達がそれを受け入れる事が出来るまでは

「なのはさん達もそうですけど、士郎君もよ。
 手を血に染めるような事は」
「ありがとうございます」

 リンディさんの言葉はうれしい。
 だけど受け入れる事はできない。

「リンディさんの言葉も気持ちもうれしく思います。
 ですが俺は大丈夫です」

 管理局も一枚岩ではない。
 だが組織全体としては魔術協会や聖堂教会に比べればよっぽどまっとうなのだ。
 その中でリンディさんにはよくしてもらっているのだから、これ以上守られ、俺が足枷になるわけにはいかない。

 俺の大丈夫という言葉に何か言いたそうなリンディさん。
 そんなふうに心配される事にどこかくすぐったいような感じがする。
 母親というのはこういうものだろうか?
 だからだろうか

「魔術師は殺し殺される覚悟を持っています。
 そして、隠蔽しない事を嫌いますが、隠蔽し、魔術の痕跡さえ残さなければ何をしても咎めない。
 犯罪者と同等、いやそれより性質が悪い者たちです。
 それを覚えておいてください」

 世界に魔術基盤があり、絶対にいないという保証もない。
 それでも教えなくてもいい情報。
 魔術師というモノに対する警告をしたのは

「……それは」
「俺はそろそろ戻ります。
 傷に関しては犯人特定に使えるかもしれませんから、必要ならクロノ達には教えても構いません。
 お邪魔しました」

 リンディさんの言葉を拒むように椅子から立ち上がり、窓からベランダに出て街に跳躍する。

 プレシアは俺を対等な関係のように扱うからあまり感じる事はないが、リンディさんは俺を見た目の年齢、子供のように見る事があるせいか二人だけで話していると余計な事を話しそうになる。
 いや、今日に限っては本当に余計な話だ。

 あれではなにか管理する組織があるようではないか。

「はあ、気をつけないと」

 余計な事を漏らさないようにしないとそんな事を改めて考えながら夜の街を駆けていく。





side リンディ

「……それは」
「俺はそろそろ戻ります。
 傷に関しては犯人特定に使えるかもしれませんから、必要ならクロノ達には教えても構いません。
 お邪魔しました」

 私の言葉を阻むように部屋を後にする士郎君。

 やっぱり士郎君は私達に言っていない事がまだ多くある。
 特に先ほどの言葉
 「魔術師は殺し殺される覚悟を持っています。
 そして、隠蔽しない事を嫌いますが、隠蔽し、魔術の痕跡させ残さなければ何をしても咎めない。
 犯罪者と同等、いやそれより性質が悪い者たちです。
 それを覚えておいてください」

 士郎君は咎めると言った。
 それはすなわち咎めるナニカがあるということ。

 なによりも殺し殺される覚悟があると言った。

「重いわね」

 命を奪うという覚悟、そして自身の命が奪われるという覚悟。
 魔導師は基本的に非殺傷設定をつけた状態での戦いであり、逮捕しようとする者から命を奪われる危険を覚悟していても相手の命を奪うという事はあまりない。

 覚悟を持つ者というのはそれだけでも強い。

 なにより士郎君を見ているともしかしたら見た目通りの年齢ではないのかもしれない。
 私達の知らない魔術という技術。
 見た目の年齢がかえられる可能性も0ではない。

 それでもあの子の事が気になるというのは普段は隠して見せない瞳の闇。
 初めて見たのはアースラに泊まった時
 なのはさんの頭を撫でている時に向けられた赤い瞳の奥に潜む闇。
 ふとした時に見せるあの瞳が忘れられないからだろう。

「はあ、難しいわね」

 もっとも士郎君の事をまだ全て知らない私に何が出来るかはわからないけど。

 士郎君が消えた夜の街を見下ろしていた。 
 

 
後書き
今週も無事更新。

そしてまたリンディさんがヒロインのようになっていたり・・・

さてまたまた貫咲賢希さんから追加挿絵を頂いたので追加、修正と第五十九話の小説案を頂いたので加筆修正しました。

挿絵を追加または差替修正したのは第二十四話、第二十九話、第五十二話、第六十五話になります。

それではまた来週。

ではでは 
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