とある星の力を使いし者
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第45話
戦場だと上条は思った。
上条は地下街の通路を走っていてその角を曲がった瞬間、思わず口元を手で覆いそうなった。
目の前に広がる光景は人々が争うものでも、銃声や怒号が響くものでもない。
傷つき、折れ曲がり、引き裂かれた人間が柱や壁に寄りかかっていた。
ここは第一線ではなく、敗れた者達が一時的に後退し、傷の応急手当をするための野戦病院のような所だった。
警備員の数はおよそ二〇人弱。
その場にいる警備員の傷は尋常ではなく、絆創膏を張るとか包帯を巻くとかいう次元を超えている。
この場にインデックスと風斬はいない。
上条が此処に来る前に、偶然にも白井と美琴に出会った三人は白井の空間移動能力でインデックスと美琴を運んでもらった。
なぜインデックスと美琴なのかというと、まず上条の右手の力で空間移動する事は出来ない。
最初は風斬とインデックスを運んでもらおうとしたが、そうすると美琴と上条の二人が残ってしまうのでインデックスが文句を言い、それなら美琴と風斬を運んでもらおうとしたら今度は美琴に変な目で見られてしまい、最後に美琴とインデックスと提案すると白井は二人を連れてどこかへ飛んでいった。
風斬と二人で白井が帰ってくるのを待っているとガゴン!!、と地下街が大きく揺れた。
さっきよりも爆心地は近づいていると思った上条は、風斬にここで待っている様に言って今の状況に至る。
インデックスは魔術師相手なら自分が戦うと言っていたが、上条はインデックスを此処に連れてこなくて良かったと思った。
彼女にこんな戦場を見せたくなかった。
何よりこの戦場を見た上条は疑問に思った。
この場にいる警備員の誰一人とて逃げ出そうとしないのだ。
少しでも体の動く者は近くの店から椅子なり、テーブルなりを運び出しバリケードのようなものを作り出そうとしていた。
彼らには身体が動く動かないという、そんなことを問う段階はとっくの昔に終わっている。
死ぬ気でやっているのではなく死んでも成し遂げるという決意しか感じ取れない。
(どうして・・・・)
上条は絶句していた。
彼らはプロとして訓練を積んでいるものの、その正体は「教員」・・・つまりは学校の先生でしかない。
誰かに強制されている訳でも、給料が高い訳でもない、命を賭けて戦う理由などどこにもないのだ。
それなのに一人も逃げ出そうとしない。
上条が呆然と立っていると壁に寄りかかるように座り込んでいた警備員が見咎めた。
驚くべき事に女性で彼女は傷ついた仲間の腕に巻きついてた止血テープの動きを止めて言った。
「そこの少年!
一体ここで何をしてんじゃん!?」
その叫び声にその場にいた十数名もの警備員達が一斉に振り返った。
上条が答えられずにいると、大声を出した女性はいかにも苛立たしい調子の口調で舌打ちして言う。
「くそ、月詠先生んトコの悪ガキじゃん。
どうした、閉じ込められたの?
だから隔壁の閉鎖を早めるなって言ったじゃん!
少年、逃げるなら方向が逆!
A03ゲートまで行けば後続の風紀委員が詰めているから、出られないまでもそこへ退避!
メットも持っていけ、ないよりはマシじゃん!」
月詠、というのは小萌先生の名字だ。
となると、この警備員は小萌先生経由で上条の事を聞かせれていたかもしれない。
警備員の女性は怒鳴りながら自分の装備を外して上条へ乱暴に放り投げた。
上条は慌ててそれを両手で受け止める。
そしてもう一度周囲を見回す。
上条は何となく知った、彼らが退かない理由が。
上条はさらに奥へと歩を進める。
「どこへ行こうとしてんの、少年!
ええい、身体が動かないじゃん!
誰でも良いからそこの民間人を取り押さえて!!」
警備員が叫び手を伸ばすが上条には届かない。
他の警備員達も上条を止めようとするが傷ついた彼らにはそれすらもままならない。
何の訓練も積んでいないはずの高校生一人すら、取り押さえる力も残されていない。
それでも彼らは逃げ出さない。
どれだけ訓練を積もうが彼らの本質は「学校の先生」だ。
元々、警備員や風紀委員は推薦などの立候補によって成立する。
彼らは誰に頼まれるまでもなく、子供達を守りたいから志願してここに集まってきただけという話。
(くっそたれが・・・)
上条当麻は思わず舌打ちしていた。
上条は傷ついた警備員達の制止を振り切って前へ進む。
闇の先にはこんな馬鹿どもがまだたくさん取り残されている、それも現状を見る限り、極めて絶望的な状況で。
彼はその右手を握り締めてそして前を見据えてただ走る。
薄暗く、赤い証明に照らされた通路の先へ彼は走る。
「うふ、こんにちは。
うふふ、うふふうふ。」
その先には漆黒のドレスを着た、荒れた金髪にチョコレートみたいな肌の女が通路の中央に立っていた。
ドレスのスカートは長く、足首が見えないほどだった。
随分と長い間引きずれていたせいかスカートの端は汚れ、傷つき、ほころびが生まれている。
そして彼女の盾にとなるように石像が立っていた。
鉄パイプ、椅子、タイル、土、蛍光灯、その他あらゆる物を強引に押し潰し、練り混ぜ、形を整えたような、巨大な人形だ。
そしてその周囲にはバリケードらしきものの破片が四方八方へ散らばっていた。
その破片を浴びた、七、八人の警備員達が床に倒れている。
まだ息があるのか細かく震えるように手足が動いていた。
「くふ、存外、衝撃吸収率の高い装備で固めているのね。
まさかエリスの直撃を受けて生き延びるだなんて。
まぁ、おかげでこっちは存分に楽しめたけどよ。」
笑みの端が残虐な色を帯びる。
エリスの直撃、というフレーズの意味が分からなかったが周りの状況を見ればどんなことをしたか想像がつく。
「どうして・・・」
そんな事が出来るんだ、と上条は絶句した。
対して、金髪の女は特に感概も持たずに言う。
「おや、お前は幻想殺しか。
虚数学区の鍵は一緒ではないのね、あの・・・・何だったかしら?
かぜ、いや、かざ・・・何とかってヤツ。
くそ、ジャパニーズの名前は複雑すぎるぞ。」
女は面倒臭そうに金髪をいじりながら言葉を続ける。
「別に何でも良いのよ、何でも。
ぶち殺すのはあのガキである必要なんざねぇし。」
「何だと?」
その言葉に上条は思わず耳を疑った。
この女は自分や風斬を狙っているらしい事は何となく察しはついたが、この投げやりな調子は何なのだろうか。
女は上条が自分の言葉の意味を分かっていないのか笑みを浮かべながら言う。
「そのまんまの意味よ。
つ・ま・り、別にテメェを殺したって問題ねぇワケ、だっ!!」
女が思い切りオイルパステルを横一閃に振り回す。
その動きに連動するように、石像が大きく地を踏みしめるとガゴン!!、という強烈な震動が走り、上条が大きくよろめいた。
続けてもう一度石像が足を振ると、上条は耐え切れずに地面へ倒れ込んでしまう。
何らかのトリックでもあるのか、女だけは平然と立っていた。
「地は私の力。
そもそもエリスを前にしたら、誰も地に立つ事などできはしない。
ほらほら、無様に這いつくばれよ。
その状態で私に噛み付けるかぁ、負け犬?」
勝ち誇るように言う金髪の女を上条は倒れたまま睨みつける。
だが、確かにこれは一方的な攻撃を可能とする戦法だろう。
銃を持つ警備員達も大して攻撃も出来ないだろう。
こんな不安定な足場で銃を撃てば照準が狂い、同士討ちを引き起こした可能性がある。
起き上がろうとする上条を牽制するように、さらに女はオイルパステルを一閃する。
再び石像の足が振り下ろされ、地が揺れた。
上条の右手、幻想殺しが異能の力は破壊するだろうが、そもそも一歩も動けない。
「お、前・・・っ!」
「お前ではなくて、シェリー=クロムウェルよ。
覚えておきなさい・・・っと言っても無駄か。
あなたはここで死んでしまうんだし、イギリス清教を名乗っても意味がないわね。」
なに?、と上条は眉をひそめた。
イギリス清教と言えばインデックスと同じ組織の人間。
「戦争を起こすんだよ、その火種が欲しいの。
だからできるだけ多くの人間に、私がイギリス清教だって事を知ってもらわないと、ね?エリス。」
シェリーが手首のスナップを利かせてオイルパステルをくるりと回す。
彼女の動きに引かれるようにエリスと呼ばれる巨大な石像が地を踏みしめて、その大きすぎる拳を振り上げる。
上条は避けようとするが地面の震動が移動を許さない。
死に物狂いで右手を振り回そうとした時、横から誰かが飛んできて上条を横に飛ぶ。
上条のいた所に石像の拳が振り下ろされ大きな震動が響く。
「全くさっさと離れろって言ったじゃん!!」
上条を抱き留めるようにさっきの女の警備員がいた。
ほとんど肌が密着していて、これが普段の日常ならドギマギしているのだろうが、今はそんな事にうつつを抜かしている場合ではない。
「エリス。」
シェリーがもう一度オイルパステルを回すと、石像の巨大な拳が上条と女性の所に振り下ろされる。
「くっ!!」
避けられないと分かったのかその女性は自分の身を盾にするように上条に覆いかぶさる。
上条はその行動に驚き、何とか跳ね除けようとするががっちりと抱きしめられて動く事が出来ない。
(まずっ!!)
何とか右手だけでも突き出そうした時だった。
フォンフォン、と風を切る音が迫ってきてズバン!!、と何かが斬られる音が聞こえる。
同時にドゴン!!、と鈍い音が聞こえた。
視線だけを石像に向けると石像の巨大な腕が見事に切断されて地面に落ちていた。
(何がどうなって・・・・)
上条がそう思った時、聞き慣れた声が聞こえた。
「ぎりぎり間に合ったみたいだな。」
その声は上条がやってきた通路から聞こえた。
視線を石像からその声のする方に向ける、覆いかぶさっている女性も同じように見ていた。
そこにはブーメランのようなものを持った麻生恭介が立っていた。
麻生はブーメランのようなものを持ちながらこっちに走ってくる。
シェリーはオイルパステルを横一閃に振うと石像が地を踏みしめる。
周りに大きな震動が響くが麻生は少しもよろめくの事なく走ってくる。
切断した石像の腕は時間を巻き戻すかのように石像の腕に引っ付く。
麻生は走りながらブーメランを投げ、弧を描きながらシェリーに向かって飛んでいく。
シェリーはオイルパステルを横に振うと石像の腕がブーメランの側面部分を地面に打ち付けるように叩きつける。
その間に麻生は女性の警備員と上条を抱えてバリケードの所まで下がる。
「恭介!!どうしてあんたが此処にいるの!?」
女性の警備員は麻生に抱えながらも叫び声をあげながら麻生に言う。
「どうして、と言われても理由は簡単だ。
お前が心配になったからに決まっているだろう。」
麻生は真剣な表情のまま女性の警備員の顔を真っ直ぐに見つめて言った。
すると、女性の警備員は顔を真っ赤にしてうつむいてしまう。
麻生は女性の警備員と上条を地面に下ろす。
「どこの誰だか知らないけどエリスの腕を切断して、さらにあの震動の中で全くよろめく事無く走りきるなんて。
あなた、ただの学生じゃないでしょ。」
「ただの通りすがりの一般人Aだ。」
「うふふ、通りすがりの一般人・・・ね。
まぁ誰だろうと私のやる事は変わりないけど。
ねぇ、エリス。」
シェリーの呼びかけに答えるかのように石像がこっちに向かって歩きはじめる。
麻生は数歩だけ前に進むと拳を握り構えをとる。
「昨日は桔梗、そして今日は愛穂ときた。
どうしてこうも俺の守りたい人が事件に巻き込まれるかね。」
少しだけため息を吐いたがその眼は確かに怒りがこもっていた。
「まぁ愛穂に傷をつけたんだ。
一発殴るだけで済むと思うなよ。」
後書き
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