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ソロモン会戦記 

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思惑

宇宙要塞ソロモン。後に戦史に残る激戦の舞台となるこの要塞も元は資源採掘衛星であった。
資源に乏しいジオン公国は、戦前より幾つかの小惑星を、地球圏に曳航し、コロニーだけでは作りだす事の難しい鉱物資源の補充に充ててきた。
竣工は本年6月となり、既に戦いの中心は地上に移行した後になっていたが、ドズル・ザビ中将率いる宇宙攻撃軍の一大拠点として、戦略上重要な施設となっている。

八つの宇宙港を供える港湾施設には、宇宙攻撃軍に属する8個艦隊全てを収納してまだ余裕があり、要塞その物も三つの独立した施設が、互いを有機的に防御する事が可能であり、その結果360°の全周において死角はなく、施設の破壊ないし、占領その物を極めて困難にしている。

また、ドロス型宇宙空母ドロワが、ドズル直率として配備されており、防御時においても有機的な機動戦闘を行うのが可能の為、その柔軟性は極めて高い。
モビルスーツは、八個艦隊の艦載機体及び、要塞周辺の哨戒拠点各所、要塞直俺モビルスーツ隊、ドロワの艦載機の全てを総計すれば1000機は下らない。
内部には農業プラント、工業プラントを擁する為、経戦能力は極めて高い為、持久戦においても全く隙は無い。
その為、この要塞をUC79年現在、正面から陥落させる手段など存在しないのでは?と思われている。

事実、その厚い岩壁は核兵器の直撃にさえ耐え、戦艦のメガ粒子砲をもってしても、傷付けるのは容易な事ではない

要塞守兵は言う
「ジオンの要は我らにあり」

宇宙攻撃軍の全体の指揮を取る為、多忙なドズル中将を補佐するべくソロモン要塞には幾人かの総監がいる。

その内の一人、ソロモン要塞機動防御総監セロ大佐はこの年32歳、ソロモン要塞のモビルスーツ戦の全てを担う立場である。
古くからからのモビルスーツ乗りであり、開戦前にはダイクン派によるテロ活動を首都防衛師団の一員として阻止し、開戦してからも一週間戦争と、それに続くルウム会戦と常に最前線で闘ってきた歴戦の勇士だ。端正なマスクとその紳士然とした振る舞いから、特に女性将兵に極めて高い人気を誇っている。

第一次地球降下作戦時の、降下部隊護衛戦において、負傷し前線勤務を退いたが、なをモビルスーツの操縦技量はジオン屈指である。

ソロモン要塞所属のモビルスーツパイロット達の中でナンバーワンは誰かと訪ねられたら、ドズル中将護衛隊のシン・マツナガ大尉、302哨戒中隊のアナベル・ガトー大尉らと並んで名前が出る位その技量は抜きん出ている。
負傷さえなければ、かの赤い彗星シャア・アズナブル大佐にすら匹敵しただろうと人は言う。
最も本人は、そういった外部の評判にははなはだ無頓着であり、ただひたすらに要塞機動防御総監たる、自己の職務に邁進している。

剛胆なセロ大佐であるが、その彼ですら、今回のモビルスーツに依る機動防御計画を、過不足なく立案するのは困難であった。

ルナツー周辺を、監視している偵察部隊と、本国からの情報を示し合わすと、今作戦における連邦軍の戦力規模は、戦闘艦艇だけで250隻以上、モビルスーツにいたっては2500機ないし3000機程度と推測されている

「膨大な数だな・・・」
思わず嘆息してしまう。
比我の戦力比は3:1であり、ランチャスター法則を持ち出すも無く、そこにあるのは「壊滅」の二文字だけである。

「しかし防御総監、確かに恐るべき数ではありますが、練度や士気の面では我らが勝っておりましょう。昨日今日モビルスーツに乗り始めた輩など我らの敵ではありません!」

副官のザルツ小尉が言う

「勇ましいな小尉。確かに単純な練度では我らが勝っていよう。だがな小尉、奴らのモビルスーツは教育型のコンピュータを搭載しているらしい。これがどういう事か分かるか?」

「いえ・・・分かりかねます」

「まあ簡単に言えば、熟練パイロットが一緒に搭乗してくれてる様な物だな。例えパイロットが新兵だとしても相手の動きは、熟練のそれと同じと言う事だ。」

ザルツ小尉が息を飲むのが分かる。
ジオンのモビルスーツには、教育型のコンピューターなど搭載されていない。
戦闘補助プログラムは存在するが、それはあくまで補助であって、戦闘力その物はパイロットの技量に依存する。

例えどんな最新型の高性能機に乗せた所で、パイロットが新兵なら、その機体は満足な戦力にはならない。

翻って連邦はどうか?
答えは単純で明快だ
最低限の教育さえしていれば全てが熟練パイロットとなる

「しかもだ、その連邦の教育型コンピューターの基本プログラムは、あの白い奴のデーターらしい」

「ガンダムと言う奴ですか・・・」

ジオンのパイロットなら、等しく皆が恐れている連邦製のモビルスーツ、ザルツ小尉はその名を出したきり押し黙った。

RX78-2ガンダム。通称「連邦の白い悪魔」
潜入作戦中だった、当時少佐のシャア・アズナブル率いる部隊を翻弄し、地球降下以後は北米攻撃軍司令ガルマ・ザビ大佐を戦死に追いやり、青い巨星ランバ・ラル大尉、さらには突撃機動軍において、その名をはせた第7師団MS大隊付き特務小隊。通称 ー黒い三連星ー 等の名だたるパイロットを、戦死せしめたそのモビルスーツは、ジオン将兵にとって恐怖の的になっていた。

「厄介な事が分かったか?極端な話だが、我々は推定3000機前後の白い悪魔と闘わなければならんのだよ・・・まあ相手の力量その物は大した事ないし、モビルスーツによる戦闘行動にも慣れてはいまい、だがそれを考慮しても、よくて互角と言った所だろうな。」

「ならば我々はどうしたら良いのですか??」

若いザルツ小尉である。その声は悲鳴にも聞こえた。

「単純な話だ。こっちも数を揃える。力量が互角なら数が多い方が勝つ、簡単な計算問題だな。」

「本国に援軍を乞うのでありますか?」

「小尉。貴官の言いたい事は分かる。本国でのうのうとしてる宇宙モグラ共や、見た目が派手なだけのキシリア少将の、お飾り部隊の力を乞うなど、我らの誇りが許さないと言うのだろう。」

「はい・・・。我ら宇宙攻撃軍はジオン最強の集団であります。我らだけでもやれます。」

「我々がジオン最強の集団なのは間違いない。がしかし寡兵をもって大兵力を相手するのは愚かな事だよ。戦略の基本は、まず相手より強大な兵力を揃える事である。まあ今頃司令部でもそう言った話が出てるだろうな。」

ザルツ小尉もセロ大佐の言った戦略の基本は理解している
寡兵で大軍を破るのは、一見華麗ではある。だが相手より寡兵である時点で戦略的にはそもそも敗北なのである。
戦術的勝利よりも重要なのは戦略的勝利であり、戦術的な勝利が、必ずしも戦略的な勝利に、繋がるとは限らない事は軍人なら皆が理解しているし。過去の戦史を見ても明らだ。ただ此迄、常に最前線で闘ってきた己のプライドが許さないだけである。

だが、果たして本国はそれを理解しているのだろうか?
両者の一番の不安はそこにある

「まあとにかくだ、勝たなければ意味がない。その為に頭を下げるくらいなら安い物ではないか?」

そう勝たなければならない・・・スペースノイドの為とも言わない、祖国の為にとも言わな。、ただ軍人の職務として・・・。

援軍が必要。
そう考えたのは、無論セロ大佐だけでは無かった。
作戦指導を行うべき、司令部の高級士官、皆に共通した思いであった。

「閣下、それで本国からはなんと?」

ドズルの執務室で、問いかけたのは、宇宙軍参謀長のグリューネマン少将であった。

「参謀長それが・・・」
そう返事したのは、ドズルの高級副官を勤めるラコック大佐である。宇宙攻撃軍で、一番の頭脳の持ち主と言われ、公私において、ドズルの信頼が厚い、有能無二の男である。その男の顔色が芳しくない。

続く言葉は、グリューネマンの想像以上に、悪い知らせだった。
援軍は僅かにモビルアーマー1機。しかも先日完成したばかりの試作品。
新兵器と言えば聞こえはいい。だがその実体は、運用テストすら行っていない。

「本国は、我々を見捨てる気か・・・馬鹿な!」

「その様な言葉は、俺の勇壮なる参謀長には相応くあるまい。ただ戦うのみよ。」

ドズルは、この様な物言いを良くする。部下の使い方が、上手く、戦意の向上にも繋がる。
グリューネマンも、ドズルのこう言った所を、好ましく思っている。

軍人は、ただ戦うのみ。何かと理屈っぽい、突撃機動軍の連中には、理解しえぬ事であろう。

「はっ、失礼しました閣下。しかし、援軍が僅か一機では、我々には厳しい戦いになるかと・・・」

「分からんぞ? 俺がこのビグザムとか言うので、暴れ回れば一個艦隊位は、道連れに出来るかも知れんぞ。」

悪戯っぽい笑みを浮かべて、ドズルが言う。
ドズルの力量と、ビグザムの性能を、考慮すれば出来ない話ではあるまい。
だが、ドズルのこの発言は、当然ながら本心ではない。

これはゲームや、アニメとは違い戦争なのだ。
戦争に英雄は居ない。只の殺し合い。
それを一番分かってるのは、ドズル自身なのだ。
一個人の、英雄的活躍で、戦争が終わるのであれば、そもそも戦争など発生しない。中世の騎士よろしく決闘で、白黒つければ良いのだから。

「無論冗談だ、参謀長。一個艦隊沈めた所で、意味などないからな。俺が求めてるのは、圧倒的勝利だけだ。」

「本心からでは、無いと思ってましたが、安心しました。しかしどうするのですか?現状は極めて不利ですが」

「本国へ行く。行って、直接総帥に直談判をしてくる。最終防衛ラインなど知らん、ここが抜かれたら、ジオンは負ける。それを理解して貰わねばな。」

時間はある。
グリューネマン達参謀部の、見込みでは、予測される進行日時は、12月25日前後。
ソロモンから本国サイド3迄は、一日もあれば着く。
連邦の動きが、多少速まったとしても、十分対処可能であろう。ソロモンの士気、連度は極めて高く、防衛体制に隙は無い、ドズルが多少の間離れても問題は無い。

「分かりました。それで出発は?」

「今すぐだ。一秒たりとも無駄には出来ん。」

事が決まれば迅速に動く、ドズルの真骨頂だ。

「コンスコン少将に命じた、木馬の追跡は、撤回命令を出した。留守の間は、コンスコン少将と貴官に任す。」

「はっ!」

グリューネマンの返事を聞くや、ドズルはその巨体を翻らせて素早く扉に急いだ。
ラコック大佐は、副官である為当然同行する。その二人の背中を、見送りながらグリューネマンは思った。

ーこの司令官となら勝てるー



宇宙世紀0079年12月10日
宇宙攻撃軍司令官ドズル・ザビ中将は、本国サイド3に向けて、一路艦上の人となった。 
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