| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

とある星の力を使いし者

作者:wawa
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

第41話

学園都市には窓のないビルがある。
ドアも窓も廊下も階段もない、建物として機能しないビル。
大能力(レベル4)の一つである空間移動(テレポート)を使わない限りは出入りできない密室の中心に、巨大なガラスの円筒器は鎮座していた。
直径四メートル、全長一〇メートルを超す強化ガラスの円筒の中に赤い液体が満たされている。
広大な部屋の四方の壁は全て機械類で埋め尽くされ、そこから伸びる数十万ものコードやチューブが床を這い、中央の円筒に接続されていた。
赤い液体に満たされた円筒の中には、緑色の手術衣を着た人間が逆さで浮かんでいた。
学園都市統括理事長、「人間」アレイスター。
それは男にも見え女にも見え、大人にも子供にも見え、聖人にも囚人にも見える。
その「人間」は自分の生命活動を全て機械に預ける事で、計算上ではおよそ一七〇〇年もの寿命を手に入れていた。

(さて、そろそろか。)

アレイスターがそう思った瞬間、タイミングを合わせたように円筒の正面に、唐突に二つの人影が現れた。
一人は小柄な空間移動(テレポート)能力者の少女、そしてもう一人は彼女にエスコートされるように手を繋いだ大男だ。
空間移動能力者は一言も言葉を発しないまま会釈をして虚空へと消える。
連れてこられた大男は短い金髪をツンツンに尖らせ、青いサングラスで目線を隠した少年だった。
アロハシャツにハーフパンツという、こんな場所にそぐわない格好している。
土御門元春、イギリス清教の情報をリークする学園都市の手駒だ。

「警備が甘すぎるぞ、遊んでいるのか。」

スパイである土御門は雇い主であるアレイスターに向かって苛立った口調で言った。
スパイであるものの、土御門はアレイスターの従属的な部下ではない。
自分の不満を隠そうとしない土御門に、アレイスターは淡く淡く笑った。

「構わぬよ、侵入者の所在はこちらでも追跡している。
 これを使わぬ手はない。
 若干ルートを変更するだけで、プラン二〇八二から二三七七までを短縮もでき・・・・」

「言っておくが。」

土御門は遮るようにバン、と手の中のレポートをガラスの円筒に押し付ける。
クリップで留められた隠し撮りの写真には侵入者の女の姿が写っている。
歳は二〇代も後半で金色の髪と別の国の血を引いた褐色の肌が特徴的な女だ。
髪の手入れを怠っているのか安っぽい演劇用のカツラのようにあちこちの毛が荒れて飛び跳ねている。
服装は漆黒のドレスの端々に白いレースをあしらった、ゴシックロリータ。
ただしドレスの生地は擦り切れ、レースもほつれてくすんだ色を見せている。

「シェリー=クロムウェル。
 こいつは流れの魔術師ではなく、イギリス清教「必要悪の教会(ネセサリウス)」の人間だ。
 アウレオルスの時のようにいかないぞ。」

土御門は苛立った様子で言葉を続ける。

「お前とウチのお姫様と結んだ「協定」を疑問視する者もいる、どこまで役に立つ分からん。
 オレも教会に潜ればある程度の人心を操作する事もできる。
 だがな、それにも限度ってものがあるんだ。
 派閥や勢力が異なる所までは手を伸ばせない。
 伸ばしたとしてもどこかでこちらの意図的に操作した情報は歪曲してしまう。
 それにアウレオルスの時でさえ散々あちこちに手を回した。
 魔術師は同じ魔術師で裁かなければならない。
 これはオレよりもお前の方が分かっている筈だ。」

上条当麻と麻生恭介はこの一ヶ月で何人かの魔術師と戦った。
しかし、これらの戦いには事前のやり取りがあった。
アウレオルスなどは教会に所属しない流れの魔術師なのでそれほど波風は立たなかった。
だが、今回は意味の重さが違う。
今回侵入してきた「イギリス清教独自の術式」を抱えた魔術師で取り引きもない。
シェリー一人の独断かは判断できないがこれを勝手に倒すのはまずい。
下手をすればイギリス清教と学園都市の間に亀裂が走り、最悪の場合は科学世界と魔術世界の戦争となるかもしれない。

「今回の件でもよほど間抜けな選択をしない限り、火種が燃え上がる事はないだろうが万が一のことがある。
 オレはシェリーを討つぞ。
 魔術師の手で魔術師を討てば少しは波も小さくなる。
 それからスパイはこれで廃業だ。
 ここまで派手に動けば必ず目をつけられるからな。
 全く、心理的な死角に潜ってこそのスパイだというのに、四六時中監視されて仕事が・・・」

「君は手を出さなくて良い。」

遮るようにアレイスターの一言に、土御門は一瞬凍りついた。
何を言っているのか、理解できなかった。

「本気で言っているのか?
 可能性は決してゼロではないんだぞ。
 手を間違えれば戦争が起こってしまうかもしれないというのに!」

確かによほどの事が起こらなければ全面戦争にはならない。
しかし、逆を言えばよほどの事があれば戦争が起きてしまうのだ。
国家と国家の戦争ではなく「科学」と「教会」、二つの世界の大戦だ。
どちらの間に圧倒的な戦力差はない。
つまり戦争が起きれば泥沼のように長引いてしまう。

「アレイスター、お前は何を考えている?
 上条当麻に魔術師をぶつけるのがそんなに魅力的か。
 あの右手は確かに魔術に対するジョーカーだが、それでもアレだけで教会全体の破壊などできるはずないだろう!」

「プラン二〇八二から二三七七まで短縮できる、理由はそれだけだが。」

それを土御門に言ったアレイスターは少し、ほんの少しだけ笑みを浮かべてこう告げた。

「それに侵入してきた魔術師にぶつけるのは幻想殺し(イマジンブレイカー)だけではない。」

土御門はそれを聞いて言葉を失ってしまう。
アレイスターは上条当麻だけを魔術師にぶつけないと言った、そして土御門はすぐに気付いた。
アレイスターはあの麻生恭介も利用しようとしている事を。
土御門はさっきよりも苛立った口調でガラス容器を強く叩きつけて言った。

「お前はあの麻生恭介がどれだけイレギュラーな存在であるか分かっている筈だ!
 あいつの持っている能力は魔術でも超能力でもない、どちらでも該当しない未知の力だ!
 その力は本人にも分かっていない力だぞ。
 イギリス清教、いや魔術側の人間は麻生の能力を危険視している。
 麻生とシェリーと戦えばどういう結果が起こるかオレにも想像できない!!」

「確かに麻生恭介という存在はイレギュラーのようなものだ。
 この私ですら彼の存在を解明するのに時間がかかった。」

「お前はあいつの事について何か知っているのか。」

「全てではないが君よりは知っている。
 彼は星の守護者、ただそれだけだ。」

「星の守護者だと・・・・」

土御門はその単語の意味を考える。
星の守護者という事は文字通り星を守護する者という事なのだろうか?
だが、麻生の異質な力が星の力を使っているというのなら多少なりとも納得できる。
それでも星というあまりにも人間が扱う領域を超えた力をなぜ麻生が扱えているのか、疑問点を出せばキリがない。
もしかするとアレイスターはその事について知っているのかと土御門は考えた時だった。

「言った筈だ、全てではないと。」

土御門の考えを読んだかのようにアレイスターが答える。
麻生についてはまだ分からない点が多いがこれだけは分かる。
目の前の男は未知の力を持つ麻生恭介すらも利用するつもりなのだと。
そしてその利用し行きつく先、それは。

「虚数学区・五行機関の制御法。
 そこまでして自分のモノにしたいのか、貴様は。」

虚数学区・五行機関。
学園都市最初の研究機関と言われている。
現在の技術でも再現できない数多くの「架空技術」を有しており、学園都市の運営を影から掌握しているとも噂される。
「外」の教会や魔術師はこのビルを指していると思っているようだが違う。
その存在は誰も制御できず何の為にあるのかも分からないまま潜んでいる。
学園都市を治めるアレイスターはあらゆるものを利用してでも五行機関の御し方を掴まなければならない。
いや、すでにアレイスターはおそらく御し方自体は既に掴んでいる。
ただし、それを実行するための材料が、キーが足りないのだ。
そして、そのキーが上条当麻だろう。
麻生恭介は膨大な「手順」を短縮する為のいわば引き立て役のようなモノだろう。
土御門はあの麻生恭介を引き立て役にするこの男に恐怖感を覚える。
できればアレイスターの命令を無視して独断でシェリーを討ちたい所だが、それも叶わない。
彼一人ではこのビルから出る事もできない。
出口もないし、ドアも窓も廊下も階段もない、生活に必要な大気すら施設内で生成しているため通気口もない。
それでいてこのビルは、火力だけなら核ミサイルの爆風を受けても倒れないほどの強度を誇る。

「外と連絡がつくはずもない、か。
 おいアレイスター、お前の有線で外の空間移動(テレポート)能力者を呼び出せ。
 さもないとそこらに伸びているコードを片っ端から引き抜くぞ。」

「構わんよ、ストレスを解消したいのならば好きなだけやるといい。」

土御門は苦虫を噛み潰したような顔をした。
薄々勘付いていたが、この部屋にあるチューブやコード、機械類はダミーなのだろう。
土御門は舌打ちをしてアレイスターの浮かぶ円筒器に背を預けて聞いた。

「お前、本当に戦争を未然に回避する自信があるのだろうな?」

「その自身は君が持つべきだろう。
 舞台裏を飛び回るのは君の役割だ。
 なに、君の努力次第では水面下の工作戦にしても死者を出さずに済むかもしれんぞ。」

ちくしょうが、と土御門は吐き捨てる。
詰まる所、彼はいつもそんな仕事ばかりしていた。 
 

 
後書き
感想や意見、主人公の技の募集や敵の技の募集など随時募集しています。 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧