IS インフィニット・ストラトス~転生者の想いは復讐とともに…………~
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
number-8 ture thougth
前書き
本当の思い。
この場合は、鳳鈴音。
放課後。
鳳鈴音――――鈴は一夏の部屋へと向かっていた。
先ほど、更衣室でファースト幼馴染とかいう奴と一緒に暮らしているのが気に食わなかったからである。ボストンバックを片手に向かう。
一学年の寮と言ってもその人数が多いため当然、部屋数も多くなる。鈴の部屋番号は1638号室であった。ルームメイトはアメリカ人のティナ・ハルミトン。
――――ふーん、ここが……
1025室。ここがあの鈍感野郎がいる部屋。
鈍感というのは中学生の頃どれだけアプローチしても気づかなかったからそう鈴が名づけた。
鈴はドアノブに手をかける――――
◯
麗矢はたまたま一夏がいる部屋、1025号室の前を歩いていた。
だが、その部屋がどれだけ騒がしかろうと我関せずを貫き通す。それ故にそのまま通り過ぎようとしていた。なのに――――
後ろからドアがバアン!と荒く締められる音がして、音のして方に顔だけ向ける。その途端、背中に衝撃が来る。
予想していなかった衝撃に麗矢はふらつくも何とか倒れずに済み、体勢を立て直し、振り返る。
そこには今朝、一組の教室で宣戦布告のようなものをやっていた少女がしりもちをついていた。
しょうがないから麗矢は手を差し出すも、自分で立ち上がり、そのまま去っていく。
擦れ違いざまに「…………ごめんなさい」と言っていたから、まあいいかと自分の部屋に戻ろうと――――
「……ん?」
何か見つけた。いや見つけてしまった。
麗矢が拾い上げたものは、生徒手帳であった。おそらく先ほどの少女の。
『鳳鈴音』
それがあの少女の名前なのだろうか。
どうやら日本人とばかり思っていたが、中国人のようだ。
「……ちっ。」
思わず舌打ちをしてしまったが、麗矢は動く。落とし主のもとへ。
一階、エントランスロビー。
寮の正面玄関のところであり、普段であれば絶えず人がいるのだが、今の時間は外出時間を過ぎている。誰もいなかった。
そんな人気がない所に鳳鈴音はいた。
そんなに探し回らなくてよかったと安堵しながら、麗矢は鈴のもとへ行く。
「……お前が鳳鈴音か?」
「…………ええ、そうよ。」
分かってはいたが、一応確認しなければならない。
そして、本人と確認した麗矢は手に持っていた鈴の生徒手帳を鈴の膝元へと放り投げる。
「…………あっ。」
「落し物だ。じゃあ、俺はこれで。」
そしてそのまま踵を返して、その場から去ろうと――――「……待って。」
「……少し、話さない?」
◯
鈴に呼び止められ、去ることは叶わずに鈴と話すことにした麗矢。
今の時間は巡回の先生と寮長である千冬に会わなければ大丈夫なはずである。
軽い自己紹介から始まって、鈴はずっと一夏のことを麗矢に聞く。
麗矢はそれに辟易としながら答えていくが……時折見せる無理して笑っている鈴の表情がつらく儚く見えた。
麗矢は隣に座っている鈴の顔を見ることはせずに一旦鈴の話を切り、聞いた。
「……お前は…………鈴は、本当にあいつのことが好きなのか?」
途端、鈴の肩が跳ねるように動くも、何とか自分で落ち着かせて麗矢を見ることなく、鈴は答える。
「……それは……それは…………分からなくなっちゃった。」
一年会わなかっただけで、あんなに人は変わってしまうのか。
鈴は言う。
「あたしが好きだった一夏じゃなかった。もう違っていた。もう、全然違う一夏に……」
力なく笑うが、その眼には涙が溜まっていた。
人とは変わるものである。人とはそういうものだ。
隣で肩を震わせ、静かに泣く。
顔をぐしゃぐしゃにして、目元を赤くはらして泣く。
麗矢はポケットからハンカチを出した。
「……ほら。これ使え。」
ハンカチを受け取り、涙を拭きながら泣き続ける。
麗矢は鈴の顔を見ることはせずに、立ち去る。
鈴に気付かれないようにしたが――――鈴は気付いていた。
「……どうして、あんな態度取るのよ。」
一夏のことしか聞かないあたしにうんざりしつつも、顔に出すことなく静かに聞いてくれた。
その癖に、人の核心をついてきて……そのせいで本音を打ち明けることに。
一夏みたいな優しさは感じなかったけど、守ってくれる安心感があった。
紳士みたいな態度を取って……
「……男って――――」
――――本当バカよね。
鈴は笑っていた。心の憑き物が取れたような清々しさで。
◯
「いつからいた?」
「ほとんど最初からだ。まったく、意外だった。」
「それはそれは趣味の悪いことで。」
階段の踊り場で千冬が先ほどの会話を聞いていた。
出てこようとせず、そのまま聞いているなんて。
いざとなったら出ていこうとしていたさ、と言っているが、どうにも信用できなかった。
「……すまなかったな。」
「そう思うんなら、あいつをどうにかしてくれ。」
それは無理な話だと言いつつ、二人は笑う。
あいつの鈍感さは筋金入りである。もはやどうしようにもできない。
それが分かっているから二人は笑う。
これを知ったら、あいつは拗ねてしまいそうだが。
「では、さっさと戻れよ、今日だけはお前も其処で泣いている奴も許してやる。……弟が迷惑かけたな。」
「ええ、では。」
そう言って麗矢と千冬は別れた。
今日だけは千冬に免じて許してくれるそうだ。
良かったと心で思いつつ、自分の部屋で戻る。
時間を確認したら、もう食堂は締まっていた。夕食を済ませていない同居人が、部屋で心待ちにしているだろうと。
小走りで部屋へと戻った。
後書き
もう、ダメ……
ページ上へ戻る