スーパーロボット大戦パーフェクト 第二次篇
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第百五十八話 儚き末路
第百五十八話 儚き末路
セフィーロから戻り木星へと異空間を使って向かうロンド=ベル。しかし彼等はその中においても決して遊んでいるわけではなかった。
「時間は全くロスはしていない」
クレフは彼等にそう告げる。
「セフィーロの時間は地上とは全く違うからな」
「そうなんですか」
「そうだ。私達が戻った場合も同じだ」
クレフはこうミサトに述べる。
「だから安心していい」
「よかったぜ。これでとっくに木星がやばいことになってるかもって不安だったからな」
ディアッカはそれを聞いてまずは胸を撫で下ろす。
「まずは一安心だな」
「どうでしょうか、それは」
しかしそれにシホが突っ込みを入れる。
「違うっていうのか?」
「木星は今誰もいませんでしたよね」
「ああ」
ディアッカはシホに答える。
「木星の戦力は全部ゼダンに集結させていたからな。メール=シュトロームの時に」
「それで空になった木星に原種が」
「随分縁起じゃねえ話だな、おい」
ディアッカはその言葉に顔を顰めさせる。
「木星全部あんなのがゴロゴロってなるとよ」
「けれどその可能性は本当にあるのよ」
命が言ってきた。
「原種ってしぶといから」
「それはわかってるけれどよ。またここでか」
「どちらにしろ激しい戦いになる」
凱は言う。
「また決戦だ。いいな」
「わかってるさ。それはな」
ディアッカは真剣な顔で凱に応える。
「じゃあ木星に着いたらドンパチだな」
「そうですね」
シホが頷く。
「じゃあ整備もしっかりしておいて」
「最初からクライマックスなことになりそうだな」
「ディアッカさんが言う言葉じゃないのでは?それは?」
「これはレイの言葉か」
ここでレイに顔を向ける。
「けれど御前剣はあまり使わないよな」
「そうだな」
レイもそれに頷く。
「それはニコルか。一番多いのは」
「まあ僕でしょうね」
ニコルもそれは認める。
「ブリッツは隠密、接近戦用ですから」
「デスティニーはどっちかっていうと拳だしな」
「最近俺も銃を持っている方が似合うって言われるんだよな」
ここでシンは困った顔を見せる。
「そりゃディアッカかキラだろうにな」
「いいんじゃないの?別に」
キラがそれに突っ込みを入れる。
「答えは聞いてないって返して」
「ああ、その言葉悪い気はしないな」
案外好きな言葉のようだ。
「使ってみてもな」
「どうせその言葉で可愛い女の子釣ろうとしてるんでしょ」
ルナマリアが横から言う。
「青いメッシュ髪に入れたりカラーコンタクトしたりして」
「それは俺じゃないつってんだろ」
何故か不機嫌に言葉を返す。見ればレイはもっと不機嫌そうであった。
「言っておくが黄色いのとも別だからな」
「黄色いのねえ」
「何か時空を超えそうな話になってきたわよね」
メイリンも言う。
「どっちにしろあれだよ」
シンは不機嫌な顔のまま述べてきた。
「俺はデスティニーが一番合ってるさ。フリーダムは多分性に合わない」
「そうだろうね」
その言葉にそのフリーダムのキラが頷く。
「シンはフリーダムで前線に出るのが一番いいと思うよ、やっぱり」
「御前が後ろでな」
「うん」
キラはにこりと笑ってそれに応える。
「そうだね、僕もそう思うよ」
「そのかわりな」
アスランはここで困った顔を見せてきた。
「シンは向こう見ずだからな。見ていて驚くこともあるんだよな」
「何だよ、心配性だな」
シンは平気な顔でアスランに言う。
「そんなのだから額が広くなっていくんだぞ」
「それは気のせいだよ」
一応はそう返す。気にはしているがこれで怒らないのがアスランだ。
「俺は子供の頃からそうだったんだ」
「どっかの嫌味なエリート刑事みたいに昔からか」
「それ誰のことですか?」
「何かシン君最近妙に仮面がどうとか言いますよね」
フィリスとエルフィもそれを指摘する。
「アスランさんも拳法がどうとか」
「何となくだよ」
アスランは困った顔で二人に返す。
「最近ゾンビの腹の中にいる感じがして変な気持ちなのは本当だけれどな」
「はあ」
「話が読めなくなってきたよな」
「ああ」
ジャックの言葉にミゲルが頷く。
「何の話なのかな」
「とにかく俺はシンがもう少し慎重に戦って欲しい」
アスランはあらためてそれを言う。
「カガリについてはもういい」
「いいのかよ」
「止めても喧嘩するだろう?」
そうシンに言い返す。
「もうわかっているからな、それは」
「何だよ、見捨てたみたいによ」
「諦めた」
見捨てたのではなく諦めたのだと。こう述べてきた。
「御前とカガリはな。鬼と亀だ」
「また変な例えだな」
イザークがその言葉に突っ込みを入れる。
「何なんだ、それは」
「イマジンとかいうのかしら」
命がそれに問う。
「ひょっとして」
「そうかもな。時空を超える敵が本当にいたら厄介だ」
凱は少し真剣にそれを心配していた。
「今でも大変なのにな」
「そうね。木星だってどうなっているか」
「いきなりとんでもねえことになってのは確実だ」
火麻が楽しそうに述べる。
「腕が鳴るってな」
「宇宙での戦いね」
海はそれに少し不安を感じていた。
「大丈夫かしら」
「宇宙ははじめてですしね」
風もそれに合わせて言う。
「どうなるでしょうか」
「大丈夫だよ海ちゃん、風ちゃん」
そんな二人に光が声をかける。
「皆もいるし力を合わせれば」
「そうね」
「そうですわね」
二人は光の言葉に励まされ笑顔になる。
「それじゃあ安心して」
「木星に行きますわ」
「うん」
二人の笑顔も見て光も満面の笑顔になる。屈託のない明るい笑顔だった。
おこでクスハが来た。得体の知れないものかと皆身構える。
「うっ」
「まさかそれは」
「どうしたんだ、皆」
光は急に身構える仲間を見て問う。
「急に身構えて」
「ああ、光は知らないんだったな」
シンが彼女に言う。
「クスハのは」
「クスハさんのは!?」
「ちょっとな。まあ特別で」
「心配しないでいいわよ」
クスハは困った顔で皆に言う。
「これは普通のコーヒーだから」
「何だ、そうかよ」
「驚かせるわね。また何かと思ったわよ」
皆胸を撫で下ろす。そのうえでコーヒーを飲みはじめる。
「じゃあカップを配るわね」
「うん」
「御願い、命さん」
「光達も飲めばいい」
ここで凱が三人に声をかける。
「命が淹れるコーヒーはGGGでも評判なんだぜ」
「じゃあ貰っていいかしら」
「ああ、どうぞ」
あらためて海に言う。
「幾らでもあるしな」
「それじゃあ私も」
「私も」
光と風もそれに続く。こうして三人は命のコーヒーを飲みはじめた。
「美味しいっ」
最初に声をあげたのは光であった。
「こんなに美味しいコーヒーはじめてだよ」
「そうね」
それに海が頷く。
「こんなに美味しいなんて」
「命さん、素晴らしいですわ」
「何かそんなに褒めてもらえるとね」
命も悪い気はしない。そんな顔だった。
「こっちも有り難いわ」
「コーヒーは大人の味なのよね」
アスカはここで誇らしげに言う。
「だから私には相応しいのよ。わかるかしら、シン」
「御前頭の中お子様じゃねえか」
しかしシンはすぐにアスカに返す。
「何言ってんだよ」
「言うわね」
アスカはその言葉にむっとした顔を見せてきた。
「また」
「何度でも言うぜ。お子様だってな」
シンも負けてはいない。また言い返す。
「コーヒーよりミルクでも飲んでろよ。カルシウムもあるしよ」
「あんたには言われたくないわよっ」
アスカはすぐに反撃を浴びせる。
「あんたこそお子様じゃない。頭の中がね」
「それは御前のことだ!」
シンはムキになってそれを弾き返す。
「胸だってねえしよ。何だよそのまな板!」
「胸は関係ないでしょうが!」
言われたくないことを言われたアスカはそれだけで本気になった。
「胸が大きいのも小さいのもあんたに関係ないでしょ!」
「胸が大きくなってから大人と言え!」
シンもかなり無茶なことを言う。無茶は承知していない。
「大体な、御前はそもそも」
「あんたこそね、今度こそ決着つけてやるわよ!」
二人は同時に立ち上がり言い合いをヒートアップさせてきた。
「上等だ!今日こそは!」
「覚悟しなさい!」
二人は喧嘩に入った。皆はそれを見てやれやれといった様子だったが不思議と光はそんな二人を見て楽しそうに笑っていた。
「仲いいんだな、あの二人」
「えっ!?」
「何処が!?」
ルナマリアとメイリンはその言葉に目を丸くさせる。
「あの二人いつもああだけれど」
「何処が仲いいのよ」
「喧嘩する程っていうじゃないか」
光は二人の問いに笑顔で返す。
「だからだよ。シンもアスカも本当は仲がいいんだよ」
「そうかしら」
「本気で喧嘩してるようにしか見えないけれど」
二人は首を傾げる。しかし光は相変わらずにこにことしていたのであった。
その時だった。命が急にカップを落とした。カップは床に落ちて割れる音と共に砕け散ってしまった。
「命!!」
「大丈夫ですか!?」
「う、うん」
命は凱とクスハにそう返す。少し笑みを作って。
「ちょっと手がすべっただけだから」
「何だよ、脅かすなよ」
凱は命の笑みにまずはほっと胸を撫で下ろした。
「何事かと思ったぞ」
「御免なさい」
「セフィーロでの戦いは激戦だったものね」
海が言ってきた。
「疲れが残ってるんじゃないですか?」
「うん、そうかも
「でしたら少し休まれた方が」
風が声をかける。
「命さん、無理は禁物ですよ」
「そうだな」
それに凱が頷く。
「命、部屋まで送るぜ」
「心配しないで」
しかし命はにこりと笑ってこう返す。
「凱程じゃないけど私だってそれなりに体力はあるんだから」
「そうか。でも気をつけてくれよ」
それでも彼は命に対して言う。
「俺とガオガイガーには命の力が必要なんだからな」
「うん」
命はその言葉にこくりと頷く。とりあえずこの場は大丈夫であった。
大空魔竜の格納庫。ここでブリットは大次郎と手合わせをしていた。
「せいっ!!」
「チェストォォォォ!!」
派手に棒での突きを喰らう。急所はかわしはしたがそれでもかなりのダメージだった。
「くっ・・・・・・」
「一本!」
審判をしていた京四郎がそれを見て言う。
「そこまで!」
「大丈夫でごわすか、ブリット?」
「ああ」
ブリットはそれに応えて言う。
「手がしびれてるけどな」
「ブリット、剣を道具として使うな」
京四郎は起き上がったブリットに対して言う。
「自分の腕の延長だと思うんだ」
「手の延長・・・・・・」
「そうだ」
京四郎はまた言う。
「それが掴めれば戦闘にも役立つはずだ」
「今のままではか」
「装置等に頼るとかえって駄目になっちまう場合もある」
京四郎はこうも忠告する。
「それはわかっておけ」
「そうだな」
ブリットもそれに頷く。
「だから余計に」
「ブリット、もう一丁どげんね?」
「ああ」
ブリットはその言葉に頷く。
「頼む、大次郎」
「大次郎は棒術の分だけリーチがある」
京四郎はそれを指摘する。
「それを見切った時に一撃必殺の太刀が生まれる。いいな」
「一撃必殺の太刀」
「その間合いを肌で感じろ」
それをブリットに告げる。
「わかったな」
「わかった」
ブリットもそれに頷く。
「行くぞ、大次郎!」
「おう!!」
二人はまた稽古に入る。それを見た隼人が言う。
「ブリットの奴随分と気合いが入ってるじゃねえか」
「いよいよだからな」
竜馬がそれに応える。
「木星での戦いは」
「そうだな。俺達も無意識のうちにピリピリしているしな」
神宮寺が言ってきた。
「あいつも何かを掴みたいんだろうな」
「何かですか」
麗はそれに応えて言う。
「そうだ。原種を倒しても戦いは終わりじゃない」
神宮寺は麗にも言う。
「バルマーもいるしな。宇宙怪獣もまだいるだろうな」
「宇宙怪獣ですか」
猿丸はそれを聞いて弱った顔になった。
「彼等も随分といるんでしたね」
「猿丸さんには彼等と満足に戦えるように整備を御願いね」
「はあ」
マリに言われても元気がない。
「一応は頑張りますです」
「大先生のおかげでブルーガーも満足に戦えてるんだ」
神宮寺がフォローを入れてきた。
「これからも頼むぞ」
「一応はわかりました」
「しかし・・・・・・何か妙な感じですね」
「どうしたんだ、洸」
弁慶が不意に声を出してきた洸に問う。
「またいきなり」
「いえ。もうすぐ木星なのに誰かが来ているような」
「誰か!?」
「はい、これは・・・・・・まさか」
その顔が急に警戒するものになる。
「いけない・・・・・・来ます!」
「何っ!?」
「一体何が」
「これは・・・・・・間違いない!」
「異常事態発生!異常事態発生!」
ミドリの声が艦内に響く。
「前方に敵です!」
「何っ!」
「誰だ一体!」
隼人と竜馬はそれを聞いて声をあげた。
「メディウス=ロクス!艦隊の前にいます!」
「あいつは死んだんじゃなかったのかよ!」
弁慶もそれを聞いて驚きを隠せない。
「それがどうして」
「チッ、どうやらあれこれ考えている余裕はなさそうだな」
京四郎は舌打ちしてそう言う。
「出撃だ。木星との決戦の前だが仕方がない」
「そうだな」
一矢がそれに頷く。
「皆出よう。どちらにしろ戦いは避けられない!」
「よし!」
皆それを受けて次々に出撃する。異空間において今メディウスが再び姿を現わしていたのだった。
「来たわね、ロンド=ベル!」
そこにはミッテだけがいた。狂気を思わせる顔でそこにいた。
「ようやく追いついたわ、ここで」
「先生、どうしてここに」
「いや、あれは違う」
クレフがアクアに言う。彼はミッテから唯ならぬ邪悪なものを感じ取っていたのだ。
「あれは最早そなたの師匠ではない」
「どういうことですか!?それは」
「セフィーロでデボネアの闇に取り込まれていたのだ」
そうアクアに告げる。
「最早人ではない。闇そのものだ」
「そんな・・・・・・それじゃあ」
「覚悟はいい?アクア」
ミッテはその狂気じみた顔をアクアにも向けてきた。
「今ここで貴女も」
「くっ・・・・・・」
「もう振り切った筈だな」
横からヒューゴが声をかけてきた。
「そうだな、アクア」
「ええ」
今のアクアの返事には迷いはなかった。既に一度振り切っていたからだ。
「ないわ、もう」
「よし、じゃあやるぞ」
「ええ、いいわ」
アクアはその言葉に頷く。そうして戦いに向かう。
メディウスの周りには既に無数のマシンが展開している。メディウスの最初のものまである。
「随分と雑多だな」
ショウガそれを見て言う。
「あれは全部メディウスの出したものだったな」
「ええ、そうよ」
チャムがそれに応えて言う。
「子供みたいなものね」
「子供か」
ショウは何故かここで表情を暗くさせた。
「子供を可愛がる親もいるけれどそれにしても」
「何か変なの?」
「ああ。あれは妄執だよ」
そうチャムに告げる。
「あのミッテという女のそれは」
「その通りです」
シーラがそれに応えてきた。
「エルデ=ミッテのそれはまさに妄執です。だからこそ危険なのです」
「妄執・・・・・・確かに」
ショウはあらためてその言葉に頷く。
「あの女から感じられるものはそれしかない」
「はい。ですから」
シーラはさらに言う。
「ここはそれを断ち切らなければなりません」
「何か俺達の戦いってのはそういうのばかりだな」
トッドがシーラの言葉に応える形で軽口を言う。
「憎しみとか妄執とかな。因果なものだな」
「だってそれが聖戦士じゃない」
チャムにこう言い返される。
「そうじゃないの?トッド」
「まあ言われてみればそうだ」
トッドもこれには反論できない。
「俺も昔はかなり因果とかがあったしな」
「そうそう」
「けれどよ、あのおばさんはまた凄えな」
そのうえでミッテを指し示して言う。
「ありゃまた。滅茶苦茶じゃねえか」
「滅茶苦茶でもやるしかない!」
光がここで言う。
「皆の為にも!」
「御前さんまた熱いねえ」
トッドは今の光の言葉にそう返した。
「けれどその熱さ、いいぜ」
「そうか?」
「ああ、少なくとも悪いものじゃない」
笑ってこう述べる。
「だからよ。行くか」
「うん!」
そのまま全軍で総攻撃に入る。ミッテとロンド=ベルの最後の戦いがはじまった。
ロンド=ベルは正面からミッテに向かう。前にいる敵を次々と倒していく。
「そのままメディウスを目指せ!」
ブライトはラー=カイラムから指示を出す。
「いいな!そのままだ!」
「了解!」
「じゃあ行くぜ!」
皆それに頷く。ダイモスが果敢に前に出る。
「この程度の敵で」
一矢は拳を構えて言う。
「俺達を止められるものか!」
三竜昆で敵を次々と屠っていく。そうしてミッテまでの道を開ける。
そこにアクア達が雪崩れ込む。周りの敵はキョウスケとエクセレンが引き受けていた。
「何かまたまた同じ役割だけれど」
「それならそれでいい!」
エクセレンもキョウスケもそう言って周りの敵を倒す。既に脚は止まらなくなっていた。
「わかってるわね、アクア」
エクセレンはその中でアクアに声をかける。
「今度がラストよ」
「はい」
「何なら俺が決める」
「いえ」
アクアはヒューゴの言葉に首を横に振った。
「やれるわ、私一人で」
「そうか。任せるぞ」
「ええ。もう照準は合わせたわ」
ケルベロス=ファングの発射準備に入る。それは寸分違わずメディクスに照準を合わせていた。
「これで・・・・・・先生、貴女も!」
ケルベロス=ファングを放った。青い光が一直線に飛びそのまま貫いたのであった。
「うっ!」
「やった!?」
「これで終わりか」
アクアとヒューゴはメディクスの動きが止まったのを見て声をあげた。
「先生、もうこれで」
「エルデ=ミッテ!貴様はもうこれで!」
「認めない・・・・・・」
しかしミッテは言う。
「私は認めないわ。私の見たかったのはこんな結末じゃない」
「愚かな」
一人呟くミッテの姿を見てマイヨが言う。
「まだわかっていないのか」
「あれが妄執ってやつだよな」
「怖いなんてものじゃないな」
「迷惑ってやつだな」
ケーン、ライト、タップもいつもの小気味よさはない。真剣な顔でミッテの断末魔を見ていた。
「こんなことで!私のAI1は!」
「!?」
「一体何が」
ヒューゴとアクアの目の前で異変が起こった。メディクスの姿が急に変貌しだしたのである。
「さあ目覚めなさい!」
いきなり叫びだす。
「あのセフィーロの暗黒の力で今!」
「セフィーロの!?いかん!」
それを聞いたクレフの顔が青くなる。
「このままでは恐ろしいことになるぞ!」
「導師クレフ、それは一体」
「感じないか、アルシオーネ」
傍らにいたアルシオーネにそう問い返す。
「この禍々しい力を。これは」
「まさか・・・・・・デボネアのものと同じ」
「そうだ!今あの女はそれを使おうとしている!」
「いかん、止めろ!」
ヘンケンが変貌するメディクスを見て叫ぶ。
「このままだと恐ろしいことになるぞ!」
「くっ、ですが!」
ナタルがそれに対して言う。
「間に合いません!このままでは!」
「馬鹿な!このままでは!」
「さあ今度こそ本当の姿を見せるのよAI1!」
ミッテの高笑いと共に今不気味で巨大なアメーバのようなものが姿を現わした。その中に狂気に笑うミッテの姿が見えていた。
「あははははっ!」
ミッテの狂気の笑いが聞こえる。
「そうよ、これが私の求めたいたAI1。いえ、それ以上だわ!!」
「何だ、あれは」
ジェオもそれを見て言葉がない。
「生物兵器か!?」
「いえ、あれはそんなものではないです」
サンユンも呆然としていた。
「あれは」
「禍々しい。邪悪そのものです」
タトラは普段の温厚な顔を消してその整った眉を顰めさせていた。
「あのデボネア以上の」
「さあ」
またミッテの声が聞こえてきた。
「AI1の本当の意味を教えてあげるわ」
「本当の意味!?」
アクアがその言葉に眉を顰めさせる。
「それは一体」
「オール=イン=ワン」
ミッテは言った。
「そうよ!全てはAI1と一つになるのよ!」
「何っ!?つまりデビルガンダムと同じものか!」
ドモンはそれを聞いて言った。
「エルデ=ミッテ、貴様ァ!!」
「いえ、ドモン」
だがここでレインが彼に言ってきた。
「違うわ。デビルガンダムよりも遥かに邪悪なものよ」
「邪悪な・・・・・・」
「人類補完計画・・・・・・違うわね」
レイがぽつりと呟いた。
「これは」
「違う」
マサトがレイのその言葉に首を横に振る。
「これは・・・・・・単なるエゴでしかない」
「エゴでしかないって」
「じゃああれは」
シンジもトウジも言葉を失う。その顔が青くなっていくのが自分達でもわかってきていた。
「私を認めなかった世界」
ミッテはまた言う。
「その世界をこのAI1で作り変えてあげるわ!」
「違う!」
アクアがミッテに対して叫ぶ。
「先生、貴女を認めなかった人なぞいません!」
「そうだ!」
ヒューゴも言う。
「あんたは認められなかったのじゃない!裏切ったんだ!」
「それがどうかしたの!?」
最早人の言葉ではなかった。
「私は何をしても許される存在。世界の全てを一つにするAI1の造物主なのだから」
「何て女だ」
流石に今の言葉には甲児も唖然とした。
「今まで色々と戦ってきたがこいつもまた」
「そうだ、同じだ」
鉄也が甲児の今の言葉に頷く。
「何かに捉われ心を失った存在だ」
「エルデ=ミッテ博士」
今度は万丈が言った。
「貴女はわかっていない。AI1も何もかも」
「戯言を」
「戯言じゃない。AI1が出した答えも認めていない。貴女は自分だけしか見ていないだけだ!」
「そうだ!」
大介がその言葉に頷く。
「御前は御前だけしか見てはいない!AI1のことも!」
「そんな肉饅頭などが世界を変えることが出来ないことを教えてやる!」
「その饅頭を俺達が打ち砕いてなぁ!!」
鉄也と甲児も続く。そこにあのネオ=グランゾンが姿を現わしたのだった。
「ネオ=グランゾン!?シュウ=シラカワ博士」
「終わりですね、ミッテ博士」
シュウはミッテに対してこう告げてきた。
「貴女は誤ったのです。それは最早どうにもならない」
「貴方も所詮はその程度なのね」
ミッテはそのシュウの言葉をせせら笑って否定した。
「このAI1の素晴らしさが何もわかってはいないわ」
「確かにAI1は素晴らしいものでした」
あえて過去形を使ってきた。
「ですが貴女はそれを育てられなかった。それだけです」
「馬鹿な、これは私自身。どうして」
「貴女自身ではないのですよ」
シュウはこうも述べてきた。
「それがわからないこそ貴女は」
「それでどうするというの?」
シュウの言葉を打ち切ってきた。
「私を倒すというの?そのネオ=グランゾンの力で」
「いえ」
しかしシュウはそれには首を横に振ってきた。
「それには及びません。私が動くまでもないことです」
「どういうことかしら」
「アクアさんですね」
「は、はい」
アクアはシュウの言葉に頷く。
「貴女とヒューゴさんならば問題はありません。勝負は貴女達の手で」
「私達の手で」
「つけるのです。私はそれを見届ける為に来ただけです」
「今のところは、だな」
マサキがこう言ってきた。
「また何か。あるんだな」
「さて」
マサキのその言葉にはとぼけてみせた。
「それはどうでしょうか」
「へっ、相変わらず食えねえ野郎だぜ」
そうは言いながらも敵対心はなかった。
「まあいい。今はじっくりと見届けるんだな」
「はい。それでは」
二人とミッテの戦いがはじまる。まずはミッテは無数のメディクスを出してきた。
「何て数・・・・・・」
「戸惑うな、アクア」
そのアクアにヒューゴが声をかけてきた。
「敵は一人だ!ミッテだけだ!」
「先生だけ」
「そうだ!渾身の力をぶつけるぞ!」
無数のメディクスの攻撃を前にしてアクアに言う。
「いいな!俺達の力を!」
「私達の力を」
「サーベラスとガルムレイドの力ならば問題はない!」
ヒューゴはこうも言ってきた。
「だからだ!やるぞ!」
「ええ、それじゃあ」
二人は横に並ぶ。そうして動きを合わせる。
「多少の無茶は承知のうえだ」
ガルムレイドの全身を紅蓮の炎が包み込む。
「だがこれなら!」
そのまま突撃を仕掛ける。一気に無数のメディクス達を蹴散らして。
それを見てアクアも動く。ターゲットをロックオンする。
「バレル、ライト=レフト=トップ、展開!」
サーベラスに翼が宿った。そのように見えた。
「ターゲット、ファイナルロック!ケルベレイド=バスター発射!」
サーベラスは射撃を放った。ヒューゴのガルムレイドを追うようにしてメディクス達を薙ぎ払いながらミッテに迫る。
それがミッテのAI1を貫きヒューゴの炎がさらに直撃した。メディクスの大群すら薙ぎ払うその二つの攻撃を受けてAI1も動きを止めてしまった。
「これくらいのダメージ」
しかしミッテは余裕であった。悠然と笑ってこう言っていた。
「すぐに再生して・・・・・・!?」
だがここで彼女にとって思わぬことが起こった。そのことに顔を強張らせる。
「何故!?何故再生しないの!?」
「学んだってことだ」
その彼女にヒューゴが言った。
「今の自分の存在意義を、滅ぼすことの無意味さを」
「そ、そんなこと」
ミッテは強張らせた顔のまま言う。
「私は、私は認めないわ!!
「それが事実なんです!」
アクアもミッテに言う。
「先生、貴女は」
「認めない、認めない、認めない、みとめぇぇぇぇっ!!」
爆発の中に消えた。エルデ=ミッテも今完全にその存在を消したのだった。
「終わりだな」
「ああ」
ロンド=ベルの者達はそれを見て言う。
「あの人、結局最後までわからなかったんだ」
ヒメは少し悲しげな声で言うのだった。
「子供でも。自分の思い通りにはならないって」
「そうだな」
勇はその言葉に頷く。
「それがわからずにわかった気になって」
「それで破滅したのよ」
「嫌なものだな」
ジョナサンは二人のその言葉を聞いて顔を顰めさせた。
「俺は・・・・・・母さんの確かな愛を感じられた。それだけいいか」
「いいと思うよ」
ヒメはジョナサンにも言った。
「ジョナサンもわかったよね。艦長の心が」
「ああ」
ヒメのその言葉に頷く。
「よくな。色々あったが」
「親か」
勇はまた呟く。
「なくてはならない存在だ。けれど歪みやすい存在でもある」
「親だけじゃない」
クインシィが勇に言ってきた。
「姉さん」
「家族自体がそうだ。かつての私もそうだったしな」
「姉さん、それは」
「けれどなおせるよ」
ヒメはここでこう述べる。
「間違いに気付けば。だって皆人間だから」
「人間だからか」
「うん、御免なさいしてね」
「そうだな。誰だってな」
シラーがヒメのその言葉に頷いてきた。
「やりなおせる。だから」
「家族っていいものなんだ」
「今の俺にはロンド=ベルがそうか」
ジョナサンは周りを見回してそう呟いた。
「母さんもいなくなったけれどな。それでも」
「そうだよ。ジョナサンもよくなったじゃない」
「色々あったからな」
少し苦笑いになる。
「それも当然だな」
「皆さん」
ここでカントが彼等に声をかけてきた。
「戻りましょう。異空間を出て」
「ああ、そうか」
勇がそれに気付く。
「木星だったな、いよいよ」
「そうだね。そしてそこで」
「原種との戦いを終わらせるぞ、いいな」
ナッキィが威勢よく声をかける。彼等もそれに頷く。
「わかった。じゃあ」
「ああ」
彼等は母艦に戻る。そうして今異空間を抜けようとしていた。
「いよいよだな」
凱が言う。
「原種との最後の戦いだ。やるぞ!」
「ええ、わかってるわ凱」
命がそれに頷く。
「これで最後ね」
「やってやる。そして地球を、皆を守る!」
遂に地球圏で最後の戦いがはじまろうとしていた。そしてそれは新たな戦いの序曲でもある。しかしそれを知る者はまだいはしなかったのだった。
第百五十八話完
2007・4・20
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