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戦国異伝

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第百十一話 青を見つつその八

「まさに」
「一人侍とな」
「そうです。我等十勇士を従え武田家に絶対の忠誠を示される方」
「それがわしか」
「智勇兼ね備えたまことの武士でございます」
「だからわしはその様な偉い者ではない」
 幸村自身はそう思っている。彼は己を決して大きな者とは思わない、自惚れは全く縁のないものなのだ。
「だからな」
「しかし実際に」
「そうです。我等はこうして幸村様に忠義を誓っております」
「こうして」
「それが何よりの証です」
「我等が幸村様に忠義を誓っていることこそが」
「御主達も妙な者達じゃ」
 幸村は十勇士の言葉に微笑んで言葉を返した。
「わしに従ってくれるのじゃからな」
「いやいや、それは幸村様が我等を認めて下さっているからです」
 笑ってこう返したのは猿飛だった。
「だからこそです」
「認めているからか」
「我等はこの様に癖が強いです」
「その癖がよいのではないか」
「いえ、そうはいかなく」
 普通はそうだというのだ。
「我等はいつも除け者でした」
「誰にも使われなかったか」
「左様です。わしなぞ猿だの何だのと言われて」
 名前からだけでなくその顔立ちや身のこなしからだ。彼は何かあると猿だと言われてきたのだ。
 そして仕官をしようにも雇ってくれなかった。そしてこのことは他の十勇士達にしても同じだったのである。
 霧隠もこう言う。
「わしも朝倉家で宗滴様に見出されるまでは」
「ずっとか」
「誰も雇ってはくれませんでした」
「それがわからぬがな」
 幸村にはだ。
「とてもな」
「霧を自在に使う術がどうもいかんと」
「何処がいかんのじゃ」
「あやかしの様だと」
「それでか」
「天下を巡りましたが宗滴殿以外は誰も用いてはくれませんでした」
 霧隠はその過去を思い出し無念そうな顔になっている。
「砂をかけて追い出されたこともあります」
「惨いことをする者もいるのう」
「ですが宗滴殿が用いて下さり」
 そしてだというのだ。
「わしに羽ばたけといったことを仰って頂き」
「ここにおるのか」
「我等は誰にも認められませんでした」
 十勇士全員がだというのだ。
「しかし殿はその我等を」
「御主達は実によき者達じゃ」
 幸村は優しい笑みで彼等に告げた。
「術だけではない。心もじゃ」
「そうです。我等の心も見て下さっています」
「術を認めて下さるだけでなく」
「我等のこの心も」
「それが嬉しいのです」
「だからわしに仕えておるか」
 彼等の全てを受け入れ認めてくれている幸村にだというのだ。
「左様か」
「そうです。我等この命殿に捧げております」
「真田十勇士、何があろうとも殿と常にいます」
「我等は確かに生まれた時は違います」
 それはだというのだ。
「しかしそれでもです」
「死ぬ時は同じです」
殿と共に生き殿と共に死にます」
「そうさせてもらいます」
「素晴らしい主にお仕えすることができ素晴らしき家臣達もこれだけいてくれる」 
 幸村の今度の言葉はしみじみとしたものだった。 
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