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ソードアート・オンライン 夢の軌跡

作者:Neight
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常に全力勝負




「ふー。いいお湯だった」
 伯父さんと伯母さんが戻ってきたようだ……と!
「隙あり!」
「あ! 翔夜それは(ずる)いぞ!」
「気を逸らした玲音が悪いんだよ……っと。はい、終わり」
 玲音の一瞬の隙をついて勝つことができた。これでぎりぎり僕の勝ち越しだ。
「はあ。仕方がない。だけど次は俺が勝ち越させてもらうぞ。それとお風呂長かったな。親父、お袋」
「ああ、まあな。ところで何をやっていたんだ?」
「スピードだよ、伯父さん。あと玲音、受けてたつけど今度は違う種目でやらない?」
「それもいいな。じゃあ次は……ポーカーフェイスを鍛えるために、ポーカーでもやるか」
「うん。面白そうだね。……そういえば、父さんと母さんは?」
 父さんと母さんが来る気配がないから、訊ねてみた。
「悠人君と美香ちゃんは、もう少しだけ入っているって」
「そうですか」
 二人ともお風呂が好きだからなあ、なんて考えていると、伯父さんが一つの提案をした。
「ただ待っているだけだとあれだから、先に布団を()いておくか」
「そうね。玲音、そこの押入れから敷布団を出して」
「わかった」
「じゃあ僕はシーツを出すよ」
「そうだな。それと枕も出してくれ」
「はい」
 こうして皆で手早く横並びにして布団を敷いた。こういう作業も複数人でやると楽しく感じられるから、不思議だ。
 それから十分以上が経って、ようやく父さんと母さんが戻ってきた。
「ごめん。少し遅くなっちゃった」
「ゆっくりと浸かりすぎましたね」
「お帰り。父さん、母さん。布団は皆で敷いておいたよ」
「そうなんだ。なんだか押しつけちゃったみたいで悪いね」
「別にいいわよ。それよりも卓球がしたいから、行かない?」
 その提案に一番に乗ったのは、意外なことに玲音だった。
「卓球か。いいな。翔夜もやるよな」
「えっ、ああ、うん。だけどどうして?」
「スピードのリベンジだ。このまま勝ち逃げさせないからな」
 予想外な切り返しに、とても驚いた。
「リベンジって、本気?」
「本気に決まっているだろう。ほら、早く行くぞ」
 玲音はその台詞を言い切る前に、僕を引っ張って歩き始めた。
 僕が助けを求めるように父さんと母さんの方に向くと、僕たちのことを微笑ましそうに見ていた。これでは助けてもらえそうにない。
「まあー、玲音ったら張り切っちゃって。これは負けてられないわね。健太、行くわよ」
「いや、俺はいい……って手を引っ張るな。おい、聞こえてるだろ。無視をするな。…………わかった。行く。行くから。だからその手を放してくれ」
 伯母さんは伯父さんの声もどこ吹く風とずんずん進んでいく。
 僕は伯父さんに目をやると、微笑んで頷いた。すると伯父さんも仕方がないといったように微笑みを返してくれた。伝えたいことは伝わったみたいだ。
「悠人さん。そろそろ私たちも行きましょう」
「そうだね。行こうか」
 先程まで僕たちを見ていた父さんと母さんは、そんな伯父さんを見ても全く気にせずに会話をしていた。二人のやり取りは見慣れているのだろう。
 ……なんだか伯父さんが可哀想に思えてきた。
 そんな風に僕と伯父さんは半分引きずられながら、卓球場に連れていかれた。
 卓球場に着くと、軽く柔軟をしてボールを打ち始めた。因みに、グリップは僕も玲音もシェークハンドだ。
 僕は玲音との本気の勝負で、伯父さんは気合十分な伯母さんに付き合わされている。平和そうな父さんと母さんが羨ましいなあ。
「はっ!」
 なんて羨んでいる暇もなく、玲音がボールを投げ上げた。今は試合に集中しないと。
 玲音のフォアサービス……っ!? 僕のフォア側に下回転でのショートボール! しかもかなり短くて、攻めにいけない。
 仕方がないのでこちらもツッツキで下回転をかけて短く返した。が、玲音は素早くフリックでバックに返してきた。このボールには反応できたので、スピードドライブでバックに打ち込んだ。
 しかし息つく暇もなく、玲音は回り込んで更に厳しいコースにスマッシュを打ってきた。僕はなんとかカウンター気味のブロックでストレートに返した。
 けれども玲音は追い付いて、更にクロスにスマッシュ。僕もフォアハンドで飛び付いて返したが浮いてしまい、冷静にスマッシュを決められた。
「おおーっ!」
 玲音の叫び声が上がる。
 先取点は玲音に取られてしまったものの、今の一連の動きでわかったことがある。それは今回玲音が全く手加減する気がないということだ。これは中々厳しい試合になりそうだが、だからといって敗けを認める気はない。僕だって敗けるのは嫌なのだ。
 そこからはルールを破らなければなんでもありに近い状態で、怒濤(どとう)の勢いの打ち合いになった。
 下がってカットを打ち続けたり、オールスマッシュを試みたり、強烈な回転の掛かったロビングで返したりなどだ。
 因みにルールは十一点先取の五ゲーム制で、もちろん僕と玲音は毎ゲームデュースになるような一進一退の攻防を続けて、試合は五ゲーム目までもつれ込んだ。
 ……からなのか、試合の途中から観客が現れ、五ゲーム目が始まる頃にはちょっとした人だかりができてしまった。そんなに注目してまで見るような試合じゃあない、と思うんだけどなあ。
 そんなことを頭の片隅(かたすみ)で一瞬だけ考えたが、別のことを考えながら勝てる相手ではないので、すぐに思考を切り替えた。
 そして五ゲーム目は今までに増してどちらも(ゆず)らず、デュースを迎えてから十分以上打ち続けても決着がつかなかった。
 この頃になると、どちらかが得点する度に観客が感嘆の声を上げるようになった。
 それでも打ち続けて、お互いの体力の限界を越えたそのあとに、玲音の最後の気力を振り(しぼ)ったスマッシュが決まった。
 ようやくついた決着に、玲音は力一杯のガッツポーズと雄叫(おたけ)びを上げた。
 なお、その瞬間に観客からの拍手喝采(かっさい)を浴びて、どうやってこの場を収めようか、と困惑しつつも本気で考えた僕と玲音がいたことを記しておく。
 まあ結果としては、従業員の方や父さんたちになんとかしてもらったのだが。
 そうして騒ぎが収まったあとに、滝のような汗をかいた僕たちが強制的に温泉に入らされたことは、言うまでもないことだ。
 こうして本日二度目の温泉を、運動後の程よい倦怠(けんたい)感と共に堪能(たんのう)した僕たちが部屋に戻ると、伯母さんが迎えてくれた。
「あら、早かったわね。あれだけ運動したあとだったから、もう少しゆっくりしてくると思ってたのに」
「ああ。もうすっきりしたからな」
「それにしても、玲音と翔夜君が本気を出すと、俺たちは全然ついていけないな」
「私たちも途中から打つのを止めて、ずっと見ちゃいました」
「うん。ボールは早いしラリーは長いし、ついつい目で追っちゃうんだよね」
 なんだか誉められているようで、背中がむず(がゆ)い。
「別にそこまで凄いということではないだろ」
「そうだよ」
 そこで、全員がやれやれといった感じで苦笑した。
「これはなんというか……」
「わかってないのは本人だけね」
「でも、僕は翔夜と玲音君らしいと思いますよ」
「そうですね」
 そんな姿を見ても全く意味がわからず、僕と玲音は頭に疑問符を浮かべていた。
 そんな僕と玲音を見て、父さんたちは更に吹き出した。
「あーもう、本当に面白いわねえ」
「だから何がそんなに面白いんだよ」
「全部だ」
「答えになってないだろ」
 このまま放っておいても終わりそうになかったから、玲音を落ち着かせるために声を掛けた。
「玲音、もう止めたら? どうせ答えてもらえないんだから」
「だ、だが……」
 玲音が反論しようとしたが、伯母さんの大きな笑い声によって(さえぎ)られてしまった。
「ほら、玲音。これじゃあどっちが年上だか、わからないわよ」
「ぐっ」
 伯母さんの発言が的を射ていると感じたのか、言葉につまった。
 それを見て、母さんが優しく声を掛けた。
「義姉さん。あまり玲音君を苛めすぎない方がいいんじゃないですか?」
「あはは、それもそうね。じゃあ、明日も早い時間に起きてまた温泉に行くんだから、そろそろ寝るわよ」
「シェラは本当にお風呂が好きだな」
 お風呂が嫌いな人は中々いないと思う。無論僕も好きだ。
「私もお風呂は好きですよ。兄さんだってそうでしょう?」
「それはまあ、嫌いではないが……」
 その時、僕は急に睡魔に襲われて、思わずあくびをしてしまった。
「もう眠いよ」
「俺もそろそろ寝たいな」
「ほら、子供たちもこう言ってるんだから、もう寝るわよ」
「わかった。寝るから」
「健太さんもシェラさんには全然(かな)いませんね」
「それはいいだろう……。寝るんだろ? 電気消すぞ」
 伯父さんは皆が布団に入ったことを確認してから、電気を消した。
『おやすみなさい』
 おやすみの挨拶もそこそこに、僕はすぐに眠りに落ちた。 
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