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とある星の力を使いし者

作者:wawa
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第36話

麻生の問いかけに海原は何も答えない。
次の瞬間にはパン!!、という音が聞こえた。
海原の拳を麻生が掌で受け止めた音だ。
麻生は後ろを向いたまま海原の拳を受け止めたので、海原は驚いた表情を浮かべている。
麻生は聖人と多少なりとも戦えるほどの身体能力を持っている。
美琴にタックルしたとき避けれなかったのは完璧不意打ちだっただけで、今度は何かしらのアクションを起こすと準備していたので受け止める事が出来たのだ。
麻生は視線を後ろに向けると、海原は空いている手を後ろに回す所を見えたので麻生は海原と距離を開ける。
「海原光貴」の手には黒い石でできた刃物が持たれていた。
それはあまりにも武器らしくないので周りの人々は騒がない。

「全くあなたは一番警戒しなければならない人物だと聞いていましたが、ここまで頭が良いとは予想外でした。
 しかし、本物が逃げ出すとは予想外でした。
 やはり監禁ではなく徹底して殺すべきでしたか。
 ちなみに自分の能力は肉体変化(メタモルフォーゼ)という科学の能力ではありません。
 それ以外の方法でも似たような事は出来るんです。」

「海原光貴」は黒い石の刃物を切りかからずに天にかざす。
麻生はその一連の動作を見て背筋がゾク!!、と感じ横に大きく飛び出す。
麻生のいた所に見えない何かが通過する。
刃物の刃から見えないレーザーのようなものが、麻生の背後にある違法駐車の自動車に直撃するとゴンギン!!、という轟音と共に車のあらゆる部品が分解される。
まるで、完成したプラモデルを組み立て前のパーツに戻すような。

「お前、魔術師か。」

「ええ、その通りですよ。」

すると、海原は再び刃物を天にかざそうとする。
麻生は場所が悪いと考えてすぐさま近くの路地裏に入る。
あのまま戦えば周りの人々に危険が及び最悪あの見えない何かを受ければ死人が出る可能性がある。
さすがにそれは目覚めが悪いので麻生は路地裏に逃げる事にする。
誰もいないところまで逃げて勝負をつける為に。
後ろを確認しなくても足音が聞こえるので追跡されている事はすぐにわかった。
というより、ついて来てもらわないと麻生も困っていたところだった。
もし「海原」が周りの人を人質に取られたらそれこそ厄介な事この上ないからだ。
さて、と麻生は逃げながら考える。
「海原」は見えない攻撃を仕掛けてくるが精度が悪いのか麻生ではなく周りの物に当たっている。
そのおかげで麻生も逃げながら考える事が出来る。

(まずは相手の特徴を思い出せ。
 変装、黒い刃物、見えない攻撃、分解・・・・)

麻生はインデックスのように一〇万三〇〇〇冊を記憶している訳でないので、すぐに相手の魔術を逆算する事は出来ない。
だが、麻生の頭にはあらゆる事柄や法則や起源などを記憶している。
インデックスのように一瞬で逆算することも出来ないし、実際にその魔術の特徴を目で見ないと判断する事は出来ない。
逆に目で見る事が出来れば時間はかかれど逆算する事は可能である。
これは麻生が星と繋がった時に全てを教えられた。
もちろん望んだわけではなく無理矢理に教えられた。
なぜ麻生の頭が莫大な情報量を与えられてもパンクしないのは、星が麻生の情報処理速度をバックアップしているからだ。
当然、全てを記憶しているのも星の力によるものだ。
星を嫌っているのに星の力に頼らなければ戦えないというのもなんと皮肉な事だろうか。

(あの黒い刃物は黒曜石だとすれば全て合点がいく。
 槍の名前はトラウィスカルパンテクトリの槍。
 あれは金星の光を反射する事でその光を浴びたモノは全て殺すと言われた槍だがあれはそのレプリカ。
 海原に変装していたのは本物の海原から皮膚を剥いで変装していたのだろう。)

自身の中で次々と答えを箇条書きのように出していく。
相手の魔術が分かった麻生はそこで疑問に思った。
相手が魔術師ならどうして美琴を狙ったのだ?
もし上条を狙っているのならその側にいるインデックスを狙うのが、目的だと考えるがあの魔術師は上条ではなく美琴を狙っていた。
それはなぜか?

(今はそれを考えていも答えは出ないな。
 直接聞いてみる事にするか。)

麻生は裏路地の角を勢いよく曲がるとその先はビルの工事中で通行止めになっていた。
麻生はそれを気にせず工事現場へと走っていく。
ある程度進んでから足を止めて振り返る。
曲がり角から「海原光貴」が飛び出し黒曜石の刃物を振り上げる。
だが、それよりも早くに麻生は左足のつま先で軽く地面を蹴る。
すると砂埃が一気に舞い上がる。
天上が全てが砂埃で塗り潰されるが「海原」は構わず「槍」を振うが発動しない。
なぜなら「金星」と黒曜石の側面部分である金星の光を反射するための「鏡」を繋ぐ空間そのものが砂埃で遮られたからだ。
麻生は一気に海原に近づき胸ぐらを掴んで背負い投げをして「海原」を地面に叩きつける。
麻生はこれで終わりかと思ったが意外にも「海原」は打たれ強かったのか、それとも麻生の投げが甘かったのかどちらにしても海原はすぐに立ち上がり距離を開ける。
その瞬間、ビュウ、と突風が裏路地を吹き抜けて周囲を覆い尽くしてた砂埃のカーテンがまとめて取り払われる。
麻生と「海原」の距離は数メートルくらいだがそれくらいあれば「海原」は麻生よりも早く「槍」を発動する事が出来る。

「ハッ、覚悟してください!!」

「海原」は槍を発動しようとしたが何も変化はない。
な、と「海原」は思わず声を出すがそこで気づいた。
黒曜石のナイフの表面に砂埃がびっしりとこびりついていた。
「鏡」が曇ってしまっては「金星」の光を反射する事が出来ない。
そして気づいた時には「海原」の目の前まで麻生が接近していた。
麻生は左手を握りしめてそこ拳が「海原」の顔面に突き刺さり、殴り飛ばされた海原の手から黒曜石がすっぽ抜けた。
麻生の拳の衝撃で殴られた「海原」の顔の表面が粉々に砕け散った。
その魔術師の顔は海原よりも幼く見え、肌も浅黒くかった。

「さて、どうして「海原光貴」に変装したのか教えて貰おうか。」

「どうやらあなたはまだ自分がどれほど危険な存在か分かっていないようですね。」

「なに?」

「あなたはあの上条当麻という私達、魔術師にとってはまさにジョーカーのような存在を仲間にしている。
 それにその近くにいる「禁書目録(インデックス)」、イギリス清教の魔術師、常盤台の超能力者(レベル5)、吸血鬼に対する切り札など多種多様な人材を仲間に引き入れているらしいじゃないですか。」

魔術師の答えに麻生は何も答えない。
魔術師は自嘲するように答える。

「あなたの周りでは魔術世界の科学世界の両方に精通している人物が揃っています。
 それはもはや一つの勢力と考えてもいい。
 だから自分が送り込まれた。
 あなたの勢力を観察してパワーバランスに影響のない存在だと分かれば問題ナシと報告するだけで済む話でした。
 しかし、あなたはこの夏休みだけでいくつかの「組織」を壊滅したという情報を聞きました。
 なにより自分が危険だと思ったのはその勢力ではなくあなた自身だ!!
 あなた自身は金や圧力で操作・制御・交渉できるような類ではない。
 さらに自分の魔術を看破しそれに対する迅速な対処、自分を偽物だと見破った知力、何よりあなたの強大な能力。
 これだけ強大な力をもった人物を「上」の連中が危険視しないと思いますか!?
 できうる限りあなたは最後に回したかったのですが、致し方ありません。
 今度はあなたの「顔」をいただくとしましょうか、ね!!」

魔術師は地面に落ちていた黒曜石の刃物に飛びつく。
麻生ならそれを防ぐ事は出来たがあえてしなかった。
「鏡面」についた汚れを拭うと路地に倒れ込んだまま身体をひねるように「槍」を振う。
しかし、無理な体勢で放たれた「槍」は見当違いの方向へ飛んでしまう。
魔術師は舌打ちをして立ち上がり黒曜石のナイフを構え直そうとするが、麻生が一瞬で魔術師との距離を縮める。

「なっ!?」

海原はさっきほどとは段違いの速さで接近されたことに驚いている。
麻生は左手で黒曜石を殴り、粉々に砕き、右手で魔術師の顔面を掴みそのまま地面に叩きつける。
強い衝撃が魔術師の全身に走るがそれでも魔術師は気絶しなかった。

「残念だ、お前が美琴の事を話している時のあの覚悟もニセモノってことか。
 ああ、非常に残念だ。」

その言葉に空気が静止する。
すると魔術師は口の中で何かを呟いた。

「ニセモノじゃダメなんですか?
 ニセモノは、平和を望んじゃいけないんですか。
 ニセモノには、御坂さんを守りたいと思う事さえ許されないんですか?」

「・・・・・」

「でもね結果が出てしまったから、麻生恭介は危険だと「上」が判断してしまったから。
 分かりますか?
 自分がどんな気持ちで「海原」と入れ替わったのか。
 自分はただ御坂さんとその世界を守りたかった。
 でも、もう守れませんよ。
 自分はあなた達の敵になってしまいました。
 なりたくなかったのに、なってしまった。
 自分はあなたじゃないんですから、あなたのようなヒーローにはなれないんだから。」

再び二人の間に沈黙が走る。
その時だった。
海原は仰向けに倒れているので分かってしまった。
さっきの「槍」の能力が鉄骨にぶつかり鉄骨の構成をバラバラに分解したため、ネジやボルトの外れた太い鉄骨が今まさに麻生の頭上へ降り注ごうとしていた。
魔術師は咄嗟に麻生の身体を突き飛ばそうとしたが麻生の言葉を聞いてその魔術師の行動が停止する。

「お前はニセモノか本物かっていうくだらない事で悩んでいたんだな。」

え?、と魔術師は呟く。
麻生は左手を握りしめ頭上を見上げる。
そこには麻生の身体を貫こうとしている鉄骨が落ちてきていた。
そして降り注ぐ鉄骨をさっき魔術師の顔面を殴るように鉄骨も殴りつける。
殴られた鉄骨はミシミシと音をあげて最後には粉々に砕け散ってしまう。
その後に何本もの鉄骨が降り注ぐが麻生は右手を突きだすと、鉄骨同士がくっつき合い巨大な鉄の塊へと変化する。
そして鉄の塊の周りを取り囲むように透明な何かが覆う。
麻生の手と手の間にも大きさは違えど丸い球体があり、それを両手で圧迫していくとそれに反応するかのように鉄の塊を覆っている球体も徐々に小さくなっていき、鉄の塊もそれに圧迫されて小さくなっていく。
最後に麻生が持っている球体がパン!、と音を立ててなくなると鉄の塊を覆っていた球体は鉄の塊と一緒に消えてなくなっていた。
これは鉄骨を磁力で一つに纏め、空間圧縮を使う事で鉄骨を消滅させたのだ。
魔術師はその光景をただ唖然と見ているだけだった。
そして同時に思った。
この男には勝てないと。

「お前はニセモノが平和を望んじゃいけないですかと聞いたな。
 俺は望んでいもいいと思うぞ。」

「何を言って・・・」

「平和を望む気持ちにニセモノも本物もない。
 ただ自分が本気で望めばその気持ちにニセモノとか本物とかそういったものさしは必要ないからな。」

麻生の言葉に魔術師はただ黙って聞いている。

「それともう一つ、俺はヒーローでも何でもない。
 俺はただの通りすがりの一般人Aだ。」

麻生はそう言って魔術師に背を向けて歩き出す。
魔術師は麻生を背後から襲う気はなかった。
襲っても勝てる相手ではないし、何より魔術師は麻生に負けたのだと思ってしまったからだ。
だからこそ、魔術師は麻生に言った。

「きっと攻撃は今回限りではありません。
 自分みたいな下っ端が一回失敗した所で「上」が退くとは思えない。
 むしろ、余計に危険視する可能性すらあります。
 あなたや御坂さんの元には自分以外の者が向かうと思いますし、最悪、自分にもう一度命令が下るかもしれません。」

「だからどうした。
 そいつらが俺に喧嘩を売るのならいつでも買ってやるし、俺の守る者に手を出したらその時はその組織を完膚なきまでに潰すだけだ。」

「その守る者に御坂さんは入っているのですか?」

魔術師は問いかけたが麻生は答えなかった。
魔術師はそうですか、と呟いて言った。

「守ってもらえますか、彼女を。
 いつでも、どこでも、誰からも、何度でも。
 このような事になるたびに、まるで都合の良いヒーローのように駆けつけて彼女を守ってくれると、約束してくれますか?」

それが彼が願いつつも決して叶えられない望み。
魔術師の望みを聞いた麻生は振り返らなかったがその言葉を聞いて立ちどまった。

「俺はヒーローじゃないからそんな約束はできない。」

ただ、と麻生は続ける。

「あいつが、美琴が俺の力を必要として俺の助けが必要になった時は俺は全力であいつを救う。」

これは麻生が心に誓った事。
美琴だけじゃなく麻生の力を必要とするのなら誰であろうと助けると彼は心に誓った。
その言葉を聞いた魔術師は苦笑いを浮かべて最悪な答えだと呟いた。
工事現場から出た麻生は土御門に連絡してあの魔術師を対処を任せようとして携帯を開けた時今の時刻を見て麻生の表情は凍りついた。
午後一時ジャスト。
愛穂との約束の時刻は十二時。
携帯には何度か愛穂からの着信がきていたが、さっきまでどたばたしていたので気づく訳がない。
麻生は愛穂が怒っているだろうな~、とため息を吐きながらそれでも最初に土御門に連絡する。
その土御門に事情を説明している間に麻生はどうやって怒りを鎮めるか必死に考えていた。 
 

 
後書き
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