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とある星の力を使いし者

作者:wawa
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第35話

結局、麻生と美琴はベンチに座って世間話をすることになった。

「結局「実験」の後に学園都市に残った妹達(シスターズ)って一〇人もいないのよね。
 ほとんどは学園都市の「外」の機関に頼ってるみたい。」

「ふ~ん・・・・」

適当に返事をしながらプリントの束を、一枚一枚めくっては問題を見て小さくため息を吐く。

「学園都市にも協力する機関が「外」に存在していているみたいね。
 まぁ、こんなでかい土地を学園都市単体で存続することも出来ないから、当たり前ちゃ当たり前よね。」

「ふ~ん・・・・」

問題を一通り見終わったのか先頭にあるプリントの問題を見て答えを書いていく。
だが、すぐに手を止めて呑気に欠伸をする。
ちなみにこの間、一度も美琴の顔を見て話をしていない。
それに気づいた美琴は適当に話しかけてみる。

「今日はいい天気ね。」

「ふ~ん・・・・」

「あんな所にツチノコが!?」

「ふ~ん・・・・」

「そういえば黒子があんたのこと好きだってさ。」

「ふ~ん・・・・」

「・・・・・・」

「・・・・・・」

全く会話になっていない事に気づいた美琴はプルプル、と肩を震わせてバンバン!!、とテーブルを強く叩く。
その音を聞いてようやく麻生は美琴の顔をちらりと視線を移す。

「アンタは主旨を理解している!?
 この会話を聞いてどこが恋人同士の会話に聞こえるっていうのよ!!
 てか、女を無視して勉強に没頭するなんて中世のヨーロッパの男尊女卑じゃない!!」

「一応、返事はしているつもりだが。」

「ふ~ん、のどこが返事なのよ!!」

「ああ~、ぎゃあぎゃあ騒がないでくれ。
 こっちは寝不足だから余計にうるさく聞こえるんだ。
 それとこれは夏休みの宿題だが俺のじゃない。」

「じゃあ誰のなのよ?」

「隣の部屋に住んでいる同じ学校の生徒が土下座してくるから一つだけやっているんだよ。」

「うわ~、土下座してまで頼むとか・・・・」

美琴は少しだけ引き気味だが、その隣の人物があの上条当麻だと分かればどういった反応するのだろうか。
美琴は麻生が手に持っている宿題に興味を持ったようだ。

「それで見た限りその問題の答えが分からないように見えるんだけど?」

「いや、こんな問題はすぐに解けるんだがいかせんこれは俺の宿題じゃないからいまいちやる気が湧かない。」

美琴はそれを聞いてプリントの束を覗き込む。
頬と頬がぶつかりそうになるが麻生はそんなことで狼狽える男ではなく、美琴の方も宿題に夢中なのかそこまで接近している事に気づいてない。
ふむふむ、と呟いて麻生の持っているシャーペンを引ったくるとほとんどしなだれかかるような体勢で、サラサラとプリントに答えを書き始める。
髪からトリートメントの淡く甘い匂いがしたが麻生はその程度ではドキドキ、と胸が高鳴る訳がなく逆に美琴が寄りかかっているのを少し邪魔感じに思っている。

「これ本当にただの復習でしかないのね。」

「気がすんだら少し離れてくれないか?」

「へ?」

ようやく自分の体勢に気づいたのか顔を真っ赤にしてすぐに麻生から離れていく。

「ちょ、な、ななななんでそんなに・・・・」

「言っておくが俺からではなく自分から近づいてきたんだぞ。」

その言葉を聞いてますます顔を真っ赤にする。
すると勢いよく立ち上がる。

「ちょっと飲み物を買ってくる!!!」

そう言ってダッシュでその場から離されていく。
麻生は頭をかきながら何一人で慌てているんだ?、と思いながら再びプリントの束に視線を落とす。
と、そんな麻生の目の前を小型犬が走り抜ける。
麻生はチラっとだけ犬を見て飼い主の手から逃げたのだろうと考えて再びプリントに視線を落とす。
プリントの問題を見ている麻生の前を誰かが走り抜ける。
麻生はどうせ飼い主だろ、と考えてゆっくりであるが問題を解いていく。
すると、その後に別の足音が聞こえて誰かが二言三言と話し声が聞こえるが、麻生はそんな事に興味はないので無視する。
と、足音がゆっくりであるがどんどん麻生の方に近づいてくる。

「初めまして、あなたは御坂さんとご一緒していた人ですよね?」

うん?、と麻生は声の方に視線を向ける。
そこには先ほど常盤台中学の前で見かけた男の顔、海原光貴がさわやかな笑顔を浮かべて立っていた。

「あなたの事は何と呼べばいいのですか?」

「麻生恭介。」

「自分は海原光貴と申します。
 あなたに聞きたい事があるのですが、あなたは御坂さんのお友達なんですか?」

「さぁな、どうしてそんな事を聞くんだ?」

「自分の好きな人の側にいる男性となれば当然だと思いますが。」

ふ~ん、と美琴との適当な返事ではなく少し興味が湧いてきたの意味がこもった返事だった。
さてどうする?、と麻生は考える。

(今は美琴の恋人役を演じているつもりだが、それをどうするかはこいつと話をしてから決めるか。)







「だからね、御坂さんはもっと人に対して「好き」と「嫌い」をはっきり言うべきだと思うんですよ。
 あ、そこの問題の答えは③です。」

「俺が思うにあいつは素直な性格だと思うぞ。」

「その「素直」にした所で、照れや演技が入っていると自分は思いますけどね。
 そこの問題の答えは④です。」

「いや、あいつはそんな器用な事は出来ない女だよ。」

「御坂さんの事をよく分かっているのですね。
 そこは①です。」

「単によく会うだけだ。
 俺があいつの事を知っている事と言えばそれくらいの事だけだ。」

「ですが、はっきりしないという所はやっぱり駄目ですね。
 そういうところをはっきりしないから自分みたいな人間がいつまでもずるずると追いかける羽目になります。
 こちらが本気でアタックしているのですから、あちらも本気で答えてほしいものですね。」

「恐くないのか?
 あいつの口から「否」という答えを聞くのが。」

「恐いに決まっているじゃありませんか。
 彼女の口から直接「否」と告げられたらこの心がどうなってしまうか、それは自分でも分からないぐらいですから。
 けどね、やっぱり無理ですよ。
 彼女が泣くと分かっていて、それでもなお彼女を奪おうと考えるだなんて。
 彼女が幸せにならなければきっと何の意味もないんですから。」

海原の言葉を聞いて麻生は小さくため息を吐いた。
海原は美琴が言うほどの人ではなかった、これなら美琴がはっきりと「否」という答えを出しても海原は苦しい思いをするかもしれないがちゃんと受け入れるだろう。
麻生がそう考えていると横合いから足音が聞こえた。
麻生がそちらを見るとジュースのペットボトルを二つ抱えた美琴が立っていた。
何か驚いたような顔でこちらを見ている。
そしてズガズガ、とベンチに近づいてきて、顎を動かして「立て」とジャスチャ―で示した。

「ちょっとこっち来なさい、アンタ。」

麻生の返事を聞かずに麻生の腕を掴んで無理矢理立ち上がらせる。
美琴は海原の顔を見て、言う。

「ごめんなさい。
 私、今日はこの人と外せない用事があるの。」

「あ、そうですか。」

「ええ、ごめんなさい。
 それじゃあ。」

美琴は笑みを浮かべてそう言ったが、彼女の事を多少知っている麻生からすれば不自然で他人行儀な仕草だった。
海原もそれに気づいているのか食い下がろうとする気配はない。
麻生は美琴に引っ張られながらも海原をチラリと見る。
海原は「行ってあげてください」と笑って言った。
しばらく無言で歩いて裏路地のような所まで着くと、美琴はようやく立ちどまった。
彼女は勢い良く振り返ると、心底呆れたように言った。

「アンタねぇ!
 私がアンタに演技なんか頼んだと思ってんのよ。
 アンタが海原と仲良くなっちゃ何の意味もないでしょうが!
 いい?アンタは今、私の・・・こ、「恋人役」なの。
 それは付きまとってくる海原光貴を諦めさせるためのものなの!
 それを「やめだ。」・・・え?」

「やめだ、と言ったんだ。
 もうすぐ十二時になる。
 これ以上付き合っていたら俺の知り合いの待ち合わせ時間に遅れてしまう。
 それに・・・・」

麻生はしっかりと美琴の顔を見て言う。

「アイツはお前の思ってる奴じゃない。
 自分が傷つくのを分かっていてお前を好きだと言っている。
 そんな奴のどこをお前は毛嫌いしているんだ?」

「・・・・・・」

美琴はものすごく何か言いたそうな顔で麻生の事を睨んでいた。

「アンタは・・・・そうよね、何でもないわ。」

何でもないように笑っていたがその顔は寂しそうな顔をしていた。
美琴は少しだけ自分が特別な存在だと思っていた。
その少年との距離も周りに比べて少しだけ縮まっているような、そんな風に思っていた。
けど、違った。
例え少年は千人の名簿がありそれを流し読みした時に「御坂」という名前を見つけても、それを気にも止めずに流すだろう。
たったそれだけの事なのに美琴の心は大きく揺らぐ。
この場から逃げ出したいのにこの少年の元からは背を向けて立ち去りたくない、そう思ってしまっていた。
そう思う原因も分からないまま。







麻生と美琴は裏路地から表通りへ歩きながら今後の事について話し合う事にした。
今後というのは海原についてだ。

「アンタはどうしたら良いと思う?」

「もう「恋人役」をすることも出来ないから素直に断ったらいいんじゃないのか?
 あいつは断っても逆切れする奴じゃあなさそうだし。」

「それはそうなんだけど、最近人が変わったみたいに積極的になってきたから怖い部分もあんのよね。」

麻生は何かあればいつも俺に電撃をぶつけるみたいにすればいい話だろ、と思ったがそれを口にすると確実に話が脱線するのでやめておく。

「それにしてアンタ、やけにアイツの方持つわね。
 なんかあったの?」

「俺が面倒くさいと思っていた宿題をやってもらってな。
 それの借りを返すなんて言葉は大げさだがまぁ援護くらいはしてやろうかなと。」

麻生はそう言ったが、美琴は古文のプリントの束を麻生から借りて海原に教えて貰った答えを見ていると、徐々に不審そうな顔になっていく。

「確かに合っているけどおかしいわね。
 アイツ、頭はそれほど良くないと思ってたのよ。」

「どうしてだ?」

「アイツの成績は主席クラスなんだけどそれは全部あいつの能力のおかげなのよ。
 大能力(レベル4)念動力(テレキネシス)
 この能力を使っていわばカンニングのような事をして点数を取っていたみたい。
 だからアイツの成績に頭の良さは関係ないって訳。」

「自分の能力がどこまで上がっているのか確かめる為にカンニングをしただけで、実際は頭がいいとかそういったモンじゃないのか?」

麻生はそう言ったが美琴はまだ何か納得していないようだった。
ぶらぶらと歩いているともうすぐ十二時なる時間だった。
さすがに急がないと愛穂に怒られてしまう麻生はそろそろ向かおうと思った時だった。

「んじゃ、恋人ごっこは終わりにしますか。
 お駄賃として最後に何か奢ってあげるわよ。」

「いや、それはもういいから俺はこれで・・・・」

「どうせアンタの事だから何でもいい、って言うだろうし注文は適当に決めてくるわよ。」

「おい、俺の話を・・・・行っちまいやがった。」

麻生は視線だけ美琴が走っていった所を追うと大勢で溢れているファーストフード店に入っていた。
麻生はファーストフードのような栄養バランスが悪い食べ物は好きではないのだが、それを伝えようとしたがあの大勢で溢れている所を行く気にはならない。
麻生はこのまま放って行こうかと思ったが、そうすると今度会った時に色々面倒な事になりそうなので離れる事が出来ない。
愛穂に連絡しようとした時、後ろから声をかけられる。

「あれ、こちらに来ていたんですか。
 お一人ですか?用というのは、もうお済みですか?」

「ああ、美琴と話をしたかったのなら一足遅かったな。
 アイツはあそこの店で格闘中だ。
 話をするなら今が一番いいと思うぞ。」

「大丈夫でしょうか?先ほど随分怒っていたようでしたけど。」

そこで二人の間に沈黙が流れる。
麻生はさっき美琴が言っていた言葉を思い出す。

(勉強が出来ないね・・・・)

自分がさっき海原は実は頭がいいのでは?、と言ったが今思い返してみるとそれはあまりにも不自然だった。
どうしてわざわざテスト中に能力を使うのか、ばれればいくら理事長の孫とはいえ色々面倒事が起こる筈だ。
普通に頭が良ければテストを普通にこなして能力を確かめるのは別の機械でも問題はない筈だ。
それなのに危険を冒してまでテスト中に能力を使ったのか。
麻生は海原にどうやって聞こうと考えた時、ふと美琴が入っていったファーストフード店を見る。
その大勢の中にもう一人の海原光貴がいた。
顔立ちも背格好も服装まで何もかも「海原」と同じだった。
麻生は眼を千里眼に変えてもう一人の海原を注意深く観察してふっと小さく笑った。
その麻生の笑みに気づいた海原は聞いてくる。

「何を見て笑っているのですか?」

さわやかな笑顔を浮かべて聞いてくる。
麻生は依然とファーストフードに視線を向けて海原の質問に答える。

「いやな、俺が見ているファーストフード店にお前に凄く似ている人を見かけてな。」

「は、はぁ、そうなんですか。
 きっと他人の空似では?」

海原は店と麻生の顔を交互に眺めている。

「お前は信じるかどうかは知らないが俺の能力を使えば自分の眼を千里眼のような眼に変える事が出来る。
 その眼でそのもう一人の「海原」を観察したら服装も背格好も顔立ちも全く同じだったんだ。
 いくら他人の空似といえど服装も背格好も顔立ちも全く同じなんておかしいと思わないか?」

肉体変化(メタモルフォーゼ)という能力者もいます。
 もしかしたらその能力者が自分に変装しているのかもしれません。」

ややイライラしたように言う海原。
逆に麻生はその声を聞いて少し楽しそうに聞く。

「そうだな、でももしかしたらお前が偽物だっていう可能性もある。
 美琴から聞いてなお前の能力は念動力(テレキネシス)だって聞いてな。
 それを今から見せてくれないか?」
 
 

 
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