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自由気ままにリリカル記

作者:黒部愁矢
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十四話~あれ? 縛っちゃうの?~ 3月26日修正

縁司を遠くまで引きずり倒した後に短剣の柄で後頭部を叩くことで気絶させ、リニスのもとに空間転移で戻ってきた。
多分感謝してくれるだろうな。そう思いながら戻ってきたのだが、警戒した様子の顔のリニスが見える。そして、俺を見て一瞬安堵したと思ったら、目を括目し、いきなりツッコミを入れられた。


何故だ。


一瞬わけが分からなくなり、俺の姿を忘れたのかと怒りたいと思ったものの、そういえば今の俺の姿は顔面を黒い覆面で覆い隠し、体は黒装束。更に相手の意表をつくため切り付ける度に用意しておいた動物の血が飛び散るように細工していたのを思い出した。


だから今俺の体は動物の返り血で真っ赤に染まっていると思う。
まるで、戦場から帰ってきた姿をしているのだろう。

実際に見てみると、右手の怪我を防ぐために巻き付けた黒い包帯は鶏の血で赤黒く変色し、獣臭い臭いが鼻腔を刺激する。
……あまりいい気はしないが……まあ、臭いで特定されないためには必要なことだから仕様がないと割り切ろう。
戦うことに無縁の俺だったならこの獣の血を嗅いだだけで、吐いてしまう程だったが、生きるために克服した。少なくともこれで動きが鈍ることはない。


それに、別にここまでする必要はなかったのだが、一応念のためにと血を用意した理由がある。
それは、もし縁が戦闘に慣れていて歴戦の猛者のような動きをして見せた場合のことだ。
縁を引きずり倒した後も更に抵抗してくるという可能性を考慮してのことだったのだが、果たして、予想通りとは言えなかったが中々の頑丈さを見せてきたので用意してきて正解だったのだろう。

顔面を地面に擦り付けながら高速で走り回ったのだが、それでも顔が抉れることは無かったのだから余程あの体、もしくはバリアジャケットは丈夫なのだと窺える。


それ程頑丈だったとしてもやはり、切り付けられた瞬間に自分から多量の血が飛び出てくる様子が目に飛び込んだら、ほぼ確実に敵に隙なり精神的なショックなりを与えることが出来るだろう。特に血塗れの戦闘に不慣れなほど相手が硬直する時間は長い。
もし奴が特典にものをいわせた魔力のゴリ押しや強力な特典により、怪我などをしたことがなく、死への恐怖を感じたことがなかったならば、この方法はかなり効果的だと言える。


平和ボケし、戦争の経験、ましてや殴り合いをまともにしたことも無い人もいる日本人だ。
死ぬかもしれないと勘違いさせてやれば、その恐怖に触れたことがない限り一瞬でも隙ができるはずだ。少なくとも自分の血かもしれないというものが顔を真っ赤に染め上げる程、ベットリと付けば、異世界に転生したばかりの俺ならまず硬直していただろう。だから他の転生者も同じことが言えるはずだ。


その隙をついて適当に気絶でもさせればすむか、とでも思っていたのだがその血を見た時点で奴は情けない悲鳴を上げて気絶してしまった。致死量だと思ったのだろうか。まあなんにせよ……情けないやつだ。



「そういうわけでこの血は人間のじゃなくて動物の血が付着しただけだよ。リニスも山猫を素体にしてるんだから鼻は良いはずでしょ?」

お前なら少し臭いを嗅げば分かるだろうに。

「ちょっと待って下さい……っは! 確かに、鶏の血の匂いがしますね」
リニスがすぐにこちらに寄ってきて、俺の腰を両手で押さえ腹に顔を寄せて血の匂いを嗅いで確認したところ、納得した。
……しかしリニスよ。もう大人と言っても過言ではない女子高生ぐらいの姿の女性が小学三年生の腰を両手で掴んで腹に顔を近づけて真剣な顔で匂いを嗅ぐのはどうかと思うぞ。なんていうか……変態に見える。


「……ということは、この血には奴のは混じってないということは奴はどうしたんですか? 一体今はあいつはどんな状況なんでしょうか」
「非殺傷で切り付けた時に鶏の血を飛び散らせて、奴自身の血が出たと勘違いさせたら気絶したよ。メンタル弱いね、あいつ」
「そうなんですか。……それはともかくマスター。あんなスピード出せたんですね。速すぎて停止した瞬間しか見えませんでしたよ」
「そりゃあ……俺だって本気を出せばそれなりの速度は出せるさ」

まあ、衝撃緩和の魔法があるからこのくらいのスピードをホイホイ出せるんだけどな。
……異世界にいた頃はこのスピードを五分維持するだけで体が崩壊しそうだったのに。
本当にこの世界の魔法は便利だな。己の肉体はそれ程鍛えなくても魔法の腕さえ良ければ簡単に強力な力を手にすることが出来る。

「てっきりマスターの戦い方は固定砲台がメインかと思ってましたよ。普段の模擬戦でも全く動かないんですから。……もしかして他にも実力隠してますか?」
「実力ってのは隠すものだろう?」
「……ちなみにどれくらい?」
「んー……大体8割くらいは隠してるかな? 俺の戦い方はあまり模擬戦には向いていないから使う機会がないんだよね」
「……はあ。今度本気で模擬戦して下さ「リニス! 大丈夫!?」フェイトですか」

「……あら?」
バリアジャケットを解除せずに血を拭いていると突如襲い掛かるバインド。
まだ、バインドの探知には慣れていないため回避に失敗し、捕まる。
リニスの困惑した視線が俺に刺さる。


油断してたというのもあるのだがリニスと使い魔契約しているイコール、フェイト・テスタロッサの警戒も解けないだろうか? と、無意識に思っていたのもあるだろう。
……考えてみれば俺とフェイト・テスタロッサは初対面なわけだから警戒が解かれる道理は無かったわけだ。阿呆か、俺は。もっと入念に客観的に物事を読み取れよ。
だから俺はいつまで経ってもこの程度の実力しかないんだ。

俺をバインドで縛ると、金髪幼女はすぐにリニスを庇うように俺へと鎌の形をしたデバイスを向ける。

「フェイト……?」
「安心して! 私がリニスを守るから!」
「こいつ……! なんて血の匂いだよ! 鼻が曲がっちまいそうだ!!」

あんたら少し落ち着けよ。
バインドから流れる心地よいビリビリを堪能しながら目の前で繰り広げられる会話に心の中でツッコミをする。
記憶を辿ってみれば、フェイト・テスタロッサは確か電気変換資質を兼ね備えていたはず。だから、魔法がビリビリとしているのも必然だと言えるだろう。
だが、俺にとっては電気なんぞ、体を活性化させるものでしかないわけだが。
誰にも気づかれないように溜め息を吐いて、フェイト・テスタロッサと狼の使い魔のアルフに囲まれているリニスに念話を送る。

(リニス。俺がリニスのマスターだって言っていいよ)
(……いいんですか?)
(どうせ、プレシアから使い魔契約を解かれたことはもう伝えているんだろう?)
(はい)
(なら問題無いさ)


リニスに念話で説得を頼む。ぶっちゃけ下手に正体を隠して怪しまれるよりも俺の素性くらいは話した方がいくらかは不審感が和らぐかもしれない。
……いや、まあ黒装束に覆面なんて不審者みたいな恰好をしている時点で安心なんて出来るわけがないわけなんだが。


外行き用のバリアジャケットで行けば良かっただろうか?


「フェイト! よく私の言葉を聞いてください!」
「何? 今は目の前の敵に集中するよ。バルディッシュ。いくよ」
『yes,sir』
「リニスをよくも襲ったね! 覚悟っ!!」
「その人は私の現在のマスターです!」


リニスが叫んだ瞬間、バルディッシュと呼ばれるデバイスが俺の胴体に当たる寸前で止まる。

……いや、ちょっと当たった。ピリっとしたから間違いない。

寸止めに失敗するとは……それほど俺を殺る気だったという気迫が伝わって来る。
俺どんだけ不審者に見えてたんだよ。少しへこむぞ。


「………え?」

リニスの方に唖然とした顔を向ける金髪少女。しかし鎌は俺の腹に少し当たったまま。
少し動いたことで俺の腹にチクリと少し深く刺さる。ビリビリにちょっとした痛みが追加される。

苦笑しながらも頷くリニス。

こちらに再度向く金髪少女。その顔は驚愕一色に彩られている。

事前に左腕のバインドは手袋を一旦魔力を流すことを止めて外し、続けて左腕を再構築。その状態でサムズアップする。

癪に触ったのか金髪少女は、むっと口をへの字に曲げて、俺の腹にデバイスを更に押し付けてくる。
ピリピリ感が腹部に響き渡り、更に腹部に何かが突き刺さるような違和感が体の中を駆け回る。この程度じゃ痺れんし、声は上げないさ。
俺の電撃よりはまだまだ弱いし、左腕を噛み千切られたり、右手首を握力で握り千切られた痛みを知っている俺からすればまだまだこの程度の痛みは、痛い内に入らない。





……だけど、



「デバイスを押し付けるのは止めてほしい……かな?」



精神的に少し傷つくこともあるのだよ。



一度だけそっと溜め息を吐いた。
 
 

 
後書き
加筆修正ってやっぱり難しいって思う今日この頃。 
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