久遠の神話
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第三十六話 中田との戦いその十
中田はバイクから降りてあらためて上城のところに来て言った。
「闘うか、今から」
「中田さんとですか」
「ああ。そうするかい?」
気さくな笑みは目も同じだった。だが。
その身体からは闘気を出していた。そのうえで上城に言ってきたのだ。
「これからな。どうだい」
「戦いを止める為には」
「俺は俺の願いの為に戦ってるんだよ」
その願いについては言わずともだ。そうだというのだ。
「だからな。君が戦いを止めたいんならな」
「中田さんともですか」
「このことはもうわかってると思うがね」
「はい、それは」
その通りだとだ。上城も確かな顔で頷いて答える。
「必然ですね」
「悪く思わないでくれよ」
戦う人間の言葉だった。明らかに。
「君も倒さないとな。俺の願いが適わないんだよ」
「一人になるまで、ですか」
「剣士は最後の一人になったら願いを適えられるっていうしな」
「そうですね。そうした話ですね」
「だからな。俺は君と闘う」
そしてだった。
「君を倒すか戦線離脱させる」
「僕を」
「殺すつもりはないがまあ下手をすればそうなるよな」
戦いと死は隣り合わせだ。特に剣士の戦いは。
「それでも悪く思わないでくれよ」
「わかっています。そのことは」
「まあそれは俺にも言えるしな」
上城に言えることはだ。中田自身も同じだとだ。彼はここでも明るく気さくな感じで言ってだ。そのうえで上城と少し間合いを離した正面に立って言った。
「死合いだな」
「それですね」
「ああ、試合じゃなくてな」
いささか言葉遊びだった。だがその通りだった。
「そうなるよな」
「じゃあ命を賭けて」
「命も賭けるよな」
「それもです」
決意、そして覚悟しているというのだ。
「わかっていますから」
「本当に覚悟したんだな」
「僕もそのつもりです」
「ならいいさ。それじゃあな」
「はい、今から」
上城から剣を出した。青い水の日本刀を。
それを見て中田もだった。左右それぞれの手に大小の赤い日本刀を出した。そしてそのうえで構えを取って上城に対して言ったのだった。
「はじめるか。君の剣道は」
「僕の剣道は一体」
「はじめての手合わせだな。これまで戦ってきてるよな」
「怪物達とは何度も」
「じゃあそれなりの力はあるってことだ」
中田は上城の闘気も見ていた。それは。
中々の高さだった。勢いもある。彼の力の色である青いそれが全身から出ていた。
それを見てだ。彼は言うのだった。
「いい感じだね。楽しめるな」
「行きます」
「ああ、はじめようか」
二人で言ってだ。そのうえでだった。
互いに構えを取って対峙する。二人の闘いがはじまろうとしていた。
第三十六話 完
2012・6・7
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