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戦国異伝

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第百十一話 青を見つつその二

「民は潤い太平の中で楽しんでおるわ」
「これまであった戦を忘れ」
「そのうえで美味いものを食い楽しく働いておりますな」
「そうなっております」
「あの荒れ果てた都ですが」
 ここで家康に言うのは本多正信だった。彼は神妙な顔になっておりその顔で主である家康に対してその都のことを語るのだ。
「瞬く間に復興しております」
「荒れ果てた都もか」
「そうです。この前行って参りましたが」
 家康に言われ朝廷に赴いた時に都に入り見たのである。
「いや、全く以て」
「わしが上洛した時は平安の繁栄なぞ嘘の様じゃったが」
 源氏物語や枕草子の世界のことである。
「それがか」
「今の世の繁栄になっております」
「ではかなり派手じゃな」
「都には様々な建物が建ち」
 まずはそこからだった。
「その中には南蛮の教会もあります」
「ほう、南蛮のか」
「そして商人達が商いをし」
 道でそうしているというのだ。
「人の行き交いも賑やかになっております」
「あの都がのう」
「しかも赤や青、黄色に緑に紫にと」
 本多は今度は色を述べていく。
「そうした服を着た傾奇者達も出て来ております」
「では都は色も多いか」
「遊郭なぞは見事なものです」
 遊女やその傾奇者達が集まるその場所はとりわけだというのだ。
「それに道も増えております」
「都の道もか」
「どうやら織田殿は都に人がさらに入るのを見越して道を増やされました」
「都の道となると」
 都の道は他の町や村のそれと違い碁盤の様になっている。そこに区分けされた家々が並んでいるのだ。つまりそれが増えれば。
「家もまた増えるな」
「その通りです」
「左様か。では都は」
「あと数年もすれば平安の頃よりさらに栄えましょう」
「凄いことじゃな」
「それがしもそう思います」
 本多は静かに家康に述べた。
「無論都だけでなく他の国々もです」
「政が整い民がよりよく暮らせる様になっておるな」
「それでいて織田家は米も銭も潤っております」
 ただ民が幸せになっているだけではないというのだ。
「まさに天に昇られんばかりです」
「蛟が龍になったかの様にじゃな」
「そうですな。まさに」
「そうか。信長殿は雄飛されたか」
「その通りかと。では我が家は」
 本多はあらためて彼の主に言う。
「織田殿に倣い」
「うむ、政じゃな」
「楽市楽座をしましょう」
 三河、そして遠江でもだというのだ。
「無論道も整えます」
「それもか」
「はい、堤も築き田も広げていきます」
 ここまでは信長の政と同じだった。
 だが本多は家康にこうも言った。
「ですが関所は設けましょう」
『武田との境にはじゃな」
「はい、そして半蔵殿の忍達も使いましょう」
「そがし達もですな」
 ここでその服部が言う。彼もまたこの場に最初からいるが陰の様にその気配を隠していたのである。
「忍も使い」
「うむ、武田からは怪しい者は入れぬ」
「そうしますか」
「我等は武田に北と東を押さえられておる」
 西に織田の支えがあるにしてこれは非常に危ういことだ、徳川家は織田家から見てまさに武田の矢面と言っていい場所にいるのだ。 
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