戦国異伝
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第八十三話 明智の覚悟その七
「猿に似ておりますな」
「猿?あの羽柴殿でございますか」
「御存知ですか」
「織田家の中でも目立つ方だったので」
それ故に明智も彼のことは覚えていた。それで言うのだった。
「あの方もそういえば」
「御母堂がいまして」
「そして御母堂をですか」
「いつも大切にして。孝行を欠かしません」
そしてさらにだというのだ。
「出世や金を手に入れることも。御母堂を楽にする為だと」
「そう仰っているのですか」
「そして実際に励んでおります」
「成程。羽柴殿はそうした方ですか」
「そうです。明智殿もお母上を大事にされるからです」
「似ているというのですか」
「そう思います」
こう明智に対して述べるのだった。
「そしてよいことだと思います」
「己の為でなく母の為に何かをするというのはですか」
「孝行はできる親がいてようやくできます」
これはその通りだった。親がいなくてはそうしたこともできない。
「ですから。猿も明智殿もです」
「今度は幸せだと仰るのでしょうか」
「そう思います。殿もです」
明智にだ。信長自身のことを話した。
「御母上とはあまりです」
「仲良くはないのですか」
「残念ながら」
沈痛な顔になってだ。述べる広瀬だった。
「親子といっても。殿は苦労をされています」
「では信長様とお母上のことは」
「決して殿の御前では話されない様にお願いします」
「畏まりました。それでは」
「くれぐれもです」
丹羽は真剣に述べた。
「お願いしますぞ」
「分かっています」
今度はこう言う明智だった。
「それがし、口の堅さには自信があります」
「それ故にですな」
「そうです。では」
「はい、それでは」
明智が応えたのを受けてだ。丹羽は信長と土田御前のことを話した。信長は確かに御前が生んだ子である。だが、だ。その傾き者故にだというのだ。
そこまで聞いてだ。明智達は唸る顔になった。それ故の頷きだった。
そして聴き終わりだ。細川と和田だ。彼等がどうするかと。80
「では。これからはですな」
「そうです。これからはです」
「より慎重にならなければ」
彼等自身に危害を与えてしまう、そうなるというのだ。
「では。これからは慎重に生きましょうぞ」
「楽しい人生を過ごす為に」
「そうなりますな」
こう二人で話す。そして明智は。
唸る様な顔になっていた。そしてその顔でだ。こう丹羽達に述べたのである。
「難しいですな。どれだけのものを得られても」
「左様です。家族はどうかというとです」
「必ずしもそうはなりませんな」
幸せになろうとしても、それはどうかというのだ。
「ままあることですが」
「確かに」
こうした話もするのだった。そしてだ。
そうした話をしながら酒を飲みだ。その中でだ。
細川が酒を親しみつつだ。周囲にこんなことを言った。
「こうして我等は今濁った酒を飲んでいますが」
「それが何か?」
「何かおありで?」
「南蛮の酒はです」
それはだ、どうかというのだ。
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