戦国異伝
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第八十話 大和糾合その十
「だからこそです」
「あの様な男のところにいてか」
「そのうえで草を務めるか」
「楽しみながら」
「そうしております」
笑顔で答える。しかしその笑顔は妙にだ。何かを隠しているものだった。
そして闇の中にいる者達もそれを見抜いてだ。こう言ったのだった。
「何か隠しておるな」
「実際には何を考えておるのじゃ」
「御主、あえてあの男に近付くのは」
「それは魂胆があるのではないのか」
「いやいや、そうした感情はありませぬ」
隠したまま返す松永だった。
「全くです」
「どうかのう。御主は腹の底を見せぬ」
「そして別のことを考えて動く」
「そうした男じゃからな」
「その言葉は信じられぬわ」
「いやいや、このことは真でございます」
口ではこう言うのだった。これまで通り。
「それがしは草になっております」
「草か」
「我等の草か」
「それだというのじゃな」
「左様でございます。草でございます」
笑みだけは浮かべている。しかしだ。
その笑みの裏にあるものは見せずにだ。彼はそのうえで言うのだった。
「闇の草でございます」
「しかし既に青の服は着ておるな」
「織田家の青い服は」
「織田家ならば誰でもですから」
ここでは素っ気無く返す松永だった。
「だからです」
「仕方なくというのか」
「その青い服を着ておるのは」
「そうだというのじゃな」
「おわかりになられませんか」
口ではこう返す松永だった。だがやはり本心は隠している。そしてこのことをだ。
回りも冊子ながらだ。こう言うのだった。
「どうだかな。御主は我等の中でも風変わりじゃ」
「この十二人の中でもな」
「そもそも松永家は昔からおかしな者が度々出ておる」
こんな言葉もだ。闇の中から出て来た。
「それでそうおいそれと信じることはできぬ」
「特に当代の松永家の御主はじゃ」
「風変わりに過ぎるわ」
「おやおや、信用できませぬか」
「無論だ」
一人が闇の中から言う。
「まことに何を考えておるのじゃ」
「まあ先から申し上げていますので」
「草と。あくまで言うのじゃな」
「左様です。私は草になりましょう」
「そして織田家をか」
「内からじゃな」
「お任せ下さい」
言葉の真意、行間にあるものを悟られない様にしてだった。松永は言っていく。
「この松永に」
「ふん。それではじゃ」
「今は任せる」
「ただし。おかしなことをすればじゃ」
「わかっておるな」
「無論でございます」
闇の中でも言われるがそれでもだった。平然としたままの松永だった。
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