戦国異伝
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第八十話 大和糾合その九
「大和の国人衆も皆織田殿に心服しておりますがそれは」
「御主への反発、そして警戒があるぞ」
「不信もな」
「皆御主におかしな動きがあればじゃ」
まさにだ。その時にだというのだ。
「御主を後ろから撃って来るぞ」
「そうして御主を始末するつもりじゃ」
「そう考えておるぞ」
「それは承知しております」
松永は周囲、闇の中から聞こえてくる言葉に静かに返す。
「それがしの首を何時でも」
「だから気をつけよ」
「まことに織田家の中で生きるのならな」
「どういう魂胆かわからぬがな」
「しかしあれで中々楽しい場所でございます」
楽しく笑ってだ。こうも言う松永だった。
「織田家というのは」
「常に見られておるのにか」
「首を狙われておるのにか」
「それでもだというのか」
「ははは、それがさらによいのです」
命を狙われている、その状況がさらによいというのだ。
「常に危険と隣り合わせというのもまた」
「よいというのか」
「全く。そう言って織田家の中で何をやるのじゃ」
「何をするつもりなのじゃ」
「さしあたってはここにいてです」
闇の中、そこにもいてだというのだ。
「皆々様に織田家の内情を述べさせてもらいます」
「ふむ。では草か」
「草をする為に織田家に入っておるのか」
「そのつもりなのか」
「そう思って頂けるなら何よりです」
草と思われるのならそれでいいと返す松永だった。その顔は至って平気なものでだ。どう思われても全く構わないという様なだ。そうした顔での言葉だった。
そしてだ。彼はさらに言う。
「何はともあれです」
「織田家の中におってか」
「織田信長もか」
「あの御仁、かなり面白い方ですぞ」
「何処がじゃ」
松永の今の言葉はだ。すぐにだった。ある声が否定された。
そしてだ。その声は松永にさらに言ってきた。
「あの様な者のところにいて何処が面白いのじゃ」
「全くじゃ。あの男はまさに光」
「光そのものではないか」
「光なぞ我等にとっては忌むべきもの」
「日輪は闇を消すものじゃ」
まさにそうだというのだ。他の声達も言ってくる。
「我等にとっては月も忌まわしいものだというのに」
「日輪なぞさらにじゃ」
「我等にとって何もよいものはないわ」
「それなのに何故そこにおる」
「闇の者達でありながら」
どの声もだ。真綱がに忌々しげに言ってくる。しかしそれでもだ。松永は笑顔でいたままでだ。そのうえでその声達に対してまた言ってきたのだった。
「いやいや、闇にいてもです」
「光もいいというのか」
「光の傍にいるのが」
「そんなによいのか」
「光があるからこそではないですか」
松永はこうも述べる。
「闇もあるのではないですか」
「光と闇は表裏一体」
「それだと申すか?」
「だからよいというのか」
「そう言うのか」
「そんなところです」
こうも言うのだった。松永はだ。
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