戦国異伝
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第七十九話 人たらしの才その六
「これ程の茶を淹れるとはのう」
「葉も選んだからのう」
「茶の葉もか」
「うむ、それも選んだ」
そうしたというのだ。葉も選んだというのだ。
「山城のな。あの国の茶じゃ」
「ほう、都の近くのか」
「そうじゃ。そこの茶じゃ」
茶の葉はそれだというのだ。
「他には駿河の葉もよいぞ」
「葉まで見ておるのか」
「今気付いたか、そのことに」
「茶にも美味いまずいがあるのはわかっておった」
それはだというのだ。
「しかし国によってか」
「茶の葉の味にも優劣があるのじゃ」
「成程のう。淹れ方もよいとは思っておるが」
「わしより茶の淹れ方がよいのは堺の千殿だけじゃ」
「千?誰じゃそれは」
「都に行けばわかる。それはな」
あくまでその時にだというのだ。わかるのはだ。
「そこでまことの茶を飲むとよい」
「ふむ。堺のか」
「御主堺に行ったことはあるか?」
「あるにはあるが」
しかしそれでもだとだ。難しい顔で言う羽柴だった。
「じゃが。あの時はそうした御仁などじゃ」
「とてもではないしてもか」
「うむ、それでもじゃ」
「見聞きする余裕もなかったか」
「町を見回るだけで必死じゃった」
見聞、それだけでだというのだ。
「だから誰が堺におるかということはではのう」
「左様か。話はわかった」
「わかってくれたか」
「ではわしから言うことはじゃ」
何かとだ。また強い目で言う荒木だった。
「御主達もまた天下を望むな」
「まあそうなるのう。天下泰平を見たいものじゃ」
「ではその為にもまずは都に行くのじゃ」
このことを厳しく言う荒木だった。
「よいな。それはじゃ」
「堺か」
「そうじゃ。そこに行くのじゃな」
これが今の荒木の羽柴への勧めだった。
「よいな。では茶道を真剣に学ぶがよい」
「わかった。ではそうさせてもらうぞ」
「是非共。ではこれからはじゃ」
「そうじゃ。共に生きようぞ」
「天下泰平に備えてのう」
こうして荒木は織田家にだ。家臣達と共に入ったのだった。このことは即座に播磨の軍勢を聞いてだ。信行が確かな顔でこう言ったのである。
「やってくれたな、猿は」
「ですな。そしてこれで、です」
「我等は摂津に無事入ることができます
秀長と蜂須賀もだ。信行に応えて言う。
「既に新五郎殿達も摂津の国人達をかなり説得されているそうですし」
「これはかなり楽になりますな」
「うむ、戦をせずに済むのならそれに越したことはない」
何はともあれだ。信行はこのことを第一として考えていた。
そしてそのうえでだ。二人に言うのだった。
「勢力も兵の数もかなりになっておるしのう」
「この兵の数で三好を横から衝けばです」
どうなるかと。秀長が信行に述べる。
「三好は信長様の軍の相手どころではありませぬ」
「そうじゃな。しかもじゃな」
「久助殿の軍勢も大和から河内に入られます」
山城、播磨からだけではない。大和からも攻めて三好を追い詰める、信長の大掛かりな三好攻めがだ。秀長の頭の中でも描かれていた。そのうえで信行に話すのだった。
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