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戦国異伝

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第七十九話 人たらしの才その四


 毒も使っている。元就の謀略はまさに変幻自在だがその中には毒もあるのだ。荒木はこのことを踏まえてそのうえで羽柴に対して問うたのである。
「あの御仁も毒を好むぞ」
「あの御仁はまた特別じゃな」
「確かにあの御仁は別格じゃが今は毒は普通じゃ」
「それならばか」
「そうじゃ。わしが毒を使っても不思議ではない」
 羽柴の目を見てだ。荒木は言う。そして荒木も羽柴の目を見ている。お互いに笑いながらそのうえでだ。互いの目を見合っているのである。
「そうではないのか?」
「毒を使うなら他の場所で使うじゃろ」
 羽柴はその荒木に述べた。
「そうじゃな。違うか」
「この茶室ではなくか」
「毒なぞ何処でも使える」
 羽柴はその毒について話す。
「それこそ便所の尻拭きに滲み込ませるなり草履の裏なりじゃ。忍の者に吹き矢を使わせたりな」
「詳しいのう」
「ざっと言っただけじゃ。色々とあるわ」
 羽柴は笑って荒木に言っていく。
「この茶室でやるだけではない」
「だからか」
「それに御主は茶人じゃ」
 今度は荒木のそのことから言うのだった。
「茶人が茶室で仕掛けるか」
「ふむ。茶室では茶を飲むものじゃ」
「では毒を飲む場所ではあるまい」
「わしは茶室では茶を飲み菓子を食う」
 やはり羽柴の目を見ながらだ。語る荒木だった。
「しかしそれ以外のものは口にせぬ」
「では客人にはどうじゃ」
「茶人は茶室では茶と菓子を出すものじゃ」
 荒木はそのまま返した。己の考えをだ。
「他はないわ」
「そうじゃな。それではじゃ」
「言うのう。そこまで読んでおるか」
「確かにわしも毒は考えておった」
 荒木が仕掛ける可能性はだ。やはり考えていたのだ。
 だが、だとだ。また言うのだった。
「しかし御主が茶室にわしを呼んだその時に確信したわ」
「左様か。だからか」
「そうじゃ。わしは御主は決して毒は出さぬと確信しておるわ」
 また確信しているとだ。言う羽柴だった。
「絶対にのう」
「見事じゃ。確かにわしは茶にも菓子にも毒は入れておらぬ」
 ここでそのことをだ。荒木は破顔して言った。
「ありのままじゃ。美味い茶に菓子じゃぞ」
「そうじゃな。では有り難く頂こう」
「ではな」
 こうしてだった。二人で茶と菓子に手をつける。羽柴のその茶を飲み菓子を食う作法を見てだ。荒木は言った。
「御世辞にもいいものではないな」
「無作法か」
「うむ、どうも荒い」
 そうだというのだ。羽柴の作法はだ。
「しかしそれでもじゃ」
「よいというのか?」
「妙に人懐っこさがあるわ」
 そうだというのだ。羽柴の作法にはだ。
「親しみがあるわ」
「そうか。わしの茶の作法は」
「御主は百姓の出だったな」
「その通りじゃ。元はな」
「しかし今では織田家の重臣じゃな」
「そうなるな」
「織田殿はよく見ておるわ」
 羽柴の茶の飲み方からだ。言うのだった。
「実にのう。ではじゃ」
「織田家に入るのじゃな」
「いやいや、まだじゃ」
 ここでだった。荒木は再び楽しげな笑みになった。そのうえでだ。 
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