戦国異伝
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第七十八話 播磨糾合その十一
「少しな」
「そうでありましょうか」
「大柄故に飲むのはわかるが」
「それでもですか」
「うむ。飲み過ぎもまたよくない」
だから深酒はしない、信行はこの辺りも真面目だった。
「そこは気をつけねばならんぞ」
「酒は百薬の長でありますからなあ」
「薬も過ぎると毒になる」
このこともよくわかっている信行だった。
「だからじゃ。あまり飲むことはじゃ」
「なりませんか」
「少し量を控えた方がよかろう。別に兄上の様に全く飲まないようにせよとは言わぬからな」
そこまでは言わないというのだ。
「だからじゃ。少しはじゃ」
「控えるべきでございますか」
「うむ。そうした方がよいぞ」
蜂須賀を見て言う信行だった。
「さもなければいざという時何もできんわ」
「そうでござるな。わしも子がおりますし」
実は嫁がおり子もしっかりといる蜂須賀だった。
「ではそれでは」
「子がおるなら余計にしっかりとせねばな」
酒もだ。そのしっかりの中に入るのだった。
「まあ酒は夜に飲みじゃ」
「では昼は」
「水じゃ」
それだというのだ。
「茶も高いしのう」
「水でござるか」
「そうじゃ。あとは瓜でも食するがいい」
それもあるというのだ。
「若しくは饅頭じゃな」
「ううむ、甘いものでございますか」
「それもよかろう」
昼はそちらを勧める信行だった。
「御主は甘いものもいけるな」
「はい、どちらも」
蜂須賀は確かに酒好きだ。しかしだ。彼はそれと共に甘いものもいけるのだ。とにかく何でも食べるのが彼の長所である。しかも大食漢でもあるのだ。
その彼にだ。信行は言うのだった。
「では昼はそれにしますか」
「そうせよ。酒は夜だけにしておけ」
「ですな。夜襲があるにしても」
「昼に堂々と飲んでは兵達にもしめしがつかんわ」
「それもありますか」
「御主も今では織田家の将の一人、しかとするのじゃ」
「畏まりました。しかし」
それでもだとだ。蜂須賀は信行のその横顔を見てだ。
そのうえでだ。こう言うのだった。
「やはり勘十郎様ですな」
「わしというのか」
「はい、生真面目です」
「生真面目であるからわしだというのか」
「左様です。やはり勘十郎様です」
信行の横顔を見ながら。蜂須賀は話す。
「その生真面目さがやはり織田家には欠かせませんな」
「確かにわしは真面目だが口煩くはないと思うが」
実際にそうしたことはない信行だ。今も蜂須賀に言っていてもそれでもだ。特に口煩くはない。織田家で口煩いといえばやはりこの二人だった。
「平手の爺や権六よりはな」
「確かにあのお二方は」
「そうじゃな。怒るのはあの二人がおるしのう」
それもあってだというのだ。
「わしは言うことはせぬ」
「真面目であるだけですか」
「真面目なことが役に立つのならそれでよいか」
蜂須賀との話からだ。この考えに至ってだった。
そうしてだった。信行は納得した顔になってだった。そのうえで。
秀長と蜂須賀、それに周りの飛騨者達にだ。こう言ったのである。
「では摂津に入ろうぞ」
「はい、そのうえで」
「この戦勝ちましょうぞ」
秀長と蜂須賀が応えてだ。飛騨者の面々もだ。
陽気な顔で笑みを浮かべてだ。こう言うのだった。
「さて、いざ摂津へ」
「そこで鬼が出るか蛇が出るか」
「戦になればまた存分に暴れるか」
「腕が鳴るよ」
彼等は戦に期待していた。そしてその彼等と共にだ。信行は播磨勢の大軍を率いてだ。摂津に向かうのだった。
第七十八話 完
2012・2・6
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