戦国異伝
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第七十八話 播磨糾合その十
「その後の政がかなりのものになりますが」
「しかしその勢力はか」
「天下第一。その三分の一近くを手に入れることになります」
「あの山名殿が六分の一だった」
室町の頃のことだ。戦国の今ではどうということはない家になってしまっているがかつての山名家はそれだけ強大な家となっていたのである。
その山名のことを話に出してだ。それで言う信行だった。
「しかしそれを越えるか」
「遥かに」
「信じられぬな。この前まで尾張一国も統一できなかったというのにな」
それが信じられなかった。今の信行は。
「それが今はか」
「はい、間も無くそれだけの力を持ちます」
「ではこの三好との戦」
それ自体がだった。まさにだ。
「まさに織田家の命運がかかっておるな」
「その通りです。緒戦で勝ち都を手に入れ」
そしてだというのだ。
「摂津、河内、和泉でまた戦いますが」
「三好は四国の兵も合わせて六万はおった」
織田家が上洛前はだ。それだけの勢力があったのだ。
「しかしそこで山城、大和を失いじゃな」
「今出せる兵は四万程度です」
「四国の兵と合わせてじゃな」
「その四国の兵は既に和泉から来ておりますが」
「では四万か」
「そこに波多野や六角がおりましたが」
そうした家にもだ。信長は軍勢を向けていた。言うならば織田家と三好家、それに与する家の激突だった。上洛からの戦はそうしたものだった。
そしてその中で信長は上洛を果たした。第一の目的は達したのだ。
しかしまだだった。信長がやるべきことはあったのだ。それが今だった。
「その六角、そして波多野とも戦い」
「そして三好ともじゃな」
「合わせて六万か。多いのう」
「それに対する織田家は七万でした」
既に言葉は過去形だった。この数は。
「そしてそれに加えて大和や若狭、丹後にです」
「この播磨もじゃな」
「多くの勢力が一斉に我等につきました」
「大きいな」
「はい、実に」
「その七万に加えてです」
さらにだった。兵が加わってだというのだ。
「十一万は越えています」
「兵の数でかなり優位に立ったな」
「はい、そのうえで攻めていきます」
そうするというのだ。それが今の織田家だった。
「摂津、河内、和泉と伊賀、丹波をです」
「これだけ大きな戦になるとはのう」
「確かにかなりの規模の戦です。しかし」
「必ず勝てるな」
「ですから。胸を張って行きましょう」
「油断せずにな」
このことを頭に入れておくのを忘れない信行だった。彼は常に織田家の手綱を引き締める役でもあるのだ。真面目な彼のうってつけの仕事である。
その信行がだ。また言うのだった。
「摂津に向かおう」
「兄上の果たされることを楽しみにしながら」
「ははは、では一休みしたならば前祝といきましょう」
蜂須賀が口を大きく開いて言った。
「盛大に飲みましょうぞ」
「わしは確かに飲めるが」
この辺り信長と違う信行だった。兄と違い彼は酒はいける。
だがそれでもだ。真面目故にこう言うのだった。
「しかし小六の飲み方はのう」
「なりませんか」
「大酒に過ぎるのではないのか」
このことを指摘するのだった。
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