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戦国異伝

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第七十七話 播磨入りその四


「中はともかく外ではじゃ」
「ですな。ですからあの御仁をまず警戒し」
「上杉です」
「あの者には絶対に勝てぬ」
 謙信のその軍略にはだった。
 氏康は純粋に脅威を感じてだ。こう言ったのだった。
「わしでもじゃ。勝てるものではない」
「一万数先の我等を三十騎もない中で突っ切りましたな」
「そして他の戦場でも」
「とかくあの御仁の強さは尋常ではありませぬ」
「まさに軍神です」
「その通りじゃ。それ故にじゃ」
 氏康はこと戦のことだけに限ればだった。信玄より謙信を恐れていた。
 そのうえでだ。こうも話すのだった。
「あの者とぶつかっても倒されるだけじゃ」
「こちらが」
「間違い無くそうなりますな」
「ただでさえ上杉の兵は強い」
 ここでも兵の強弱が話される。
「そしてそこに加えてじゃ」
「あの謙信が入りましたな」
「まさにそれはです」
「鬼に金棒でししょうか」
「そうじゃな。まさにどうにもならぬ」72
 だからこそだった。氏康は謙信との戦はある意味において信玄以上に避けることにしていた。例え謙信に野心がなくともだ。敗れない為にだった。
「この小田原に篭もり出ないことじゃ」
「前の様に」
「そうあるべきですな」
「左様じゃ。ではじゃ」
 ここまで話してだ。氏康は。
 あらためて家臣達にだ。こう告げたのだった。
「全ての城の堀を深く広くし石垣と壁を高くせよ」
「そのうえで全ての城を」
「つなぎますか」
「小田原から全ての城をつなぐのじゃ」
 氏康はここでも己の頭の中に関東の地図を描いていた。
 その関東を見つつだ。彼は話していく。
「そしてじゃ。田畑に町もじゃ」
「そのどちらもですな」
「これ以上に」
「堤に道も造れ」
 その二つもだというのだった。
「政は忘れてはならんからじゃ」
「はい、それでは」
「そちらもまた」
 家臣達も応えてだ。そしてだった。
 氏康も動いていた。ただしそれはまだ水面下で動いており誰にも見せる者ではなかった。だがそれでも確かに動いていた。眠れる獅子が爪と牙を研いでいたのだ。
 相模も信長に注目していた頃だ。丹波ではだ。
 華やかに出陣した織田の青い軍勢をだ。遠くから見ていたのだ。
 そしてどの中でだ。ふとからくりが言った。
「じゃあ信行様、今からな」
「うむ、道案内と護衛を頼むぞ」
 信行もその彼等を見つつだ。からくりに答えた。
「姫路までのな」
「ああ、任せておきな」 
 煉獄がその信行に述べる。
「信行様も羽柴さんも絶対に播磨まで案内するからな」
「頼む。ではな」
「それじゃあ行くか」
「播磨はじゃ」
 ここで言ってきたのは羽柴だった。
「まずは丹波のこの山を越えねばならんがな」
「あっ、それはわかってるよ」
 大蛇がその羽柴に明るく返す。飛騨者は皆信行、そして羽柴と共にいるのだ。
「そうしないと播磨にはだよね」
「幸いこの辺りはあれだな」
 蜂須賀は彼等が今いる山の中を見回しながら述べる。
「波多野やそれに組する奴のいる場所じゃないな」
「いえ、それがです」
「何じゃ、いるのか」
「そうした者はいませんが危険な者は大勢いるやも知れませぬ」
 秀長はこうその蜂須賀に言うのだった。 
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