戦国異伝

　その彼等のことをだ。信長は言うのだった。
「何度か都を焼いておるしのう」
「それもありますな」
「許せぬな」
　信長の眉がここで顰められた。
「これはな」
「ではこれからは」
「誰であろうがどの場所であろうがじゃ」
　都に限らないというのだった。
「無闇に荒らさせる訳にはいかん」
「ではこれからは」
「延暦寺の者であろうとも来れば追い返す」
　そうするというのだ。
「都を荒らさせはせぬ」
「しかしそれでは延暦寺が怒りましょう」
　島田はこのことについてすぐに言った。
「あそこ敵に回すとかなり厄介ですぞ」
「強いというか」
「僧兵達は確かに強いです」
　力が強く武具もいい。その強さは本物だった。
　だがそれでに留まらないとだ。島田は指摘するのだった。
「ですがそれ以上にです」
「仏門の権威か」
「仮にも僧です。ましてや延暦寺は多くの富と荘園を持っております」
　金もある。それも供えているのだ。
　しかもそれに留まらない。延暦寺の力は他にもあった。
「尚且つ。伝教大師が開かれて以来の」
「権威じゃな」
「それはかなりのものですから」
「手出しは出来ぬか」
「誰も出来ませんでした」
　それこそ鎌倉幕府でもだ。出来なかったことだ。
　それでだ。島田も今は歯切れ悪く言うのである。
「ですから揉めるのは」
「いや、それでもじゃ」
　しかしだった。信長はだ。
　その強い声でだ。こう答えるのだった。
「避けては通れぬ」
「寺社であってもですか」
「僧兵達を放ってはおけぬ」
「ううむ、そう言われますか」
「それでじゃ」　
　さらに言う信長だった。
「民を安じさせるとしよう」
「寺社を抑えてでしょうか」
「いや、抑えるのはない
　ではどうかというのだ。
「むしろわからせるのじゃ」
「わからせるとは」
「言ったまでじゃ。その頭でわからせるのじゃ」
　そうするというのだ。
「それ以上に心でのう」
「ううむ。兄上はそこまでお考えとは」
　傍らで聞いていた信広がだ。
　大きく頷きだ。そして言うのだった。
「いや、成程」
「学んだ様じゃな」
「はい、確かに」
「それではじゃ」
　どうかと話す信長だった。
「それを活かすことじゃ」
「活かさねばなりませんな」
「学んだからにはのう」
　これが信長の言いたいことだった。その話をしてだ。
　信長はここでこうも言うのだった。
「しかしじゃ。わしは延暦寺と戦をするかというとじゃ」
「それは決してですか」
「戦にならずに済めばそれに越したことはない」
　これが信長の考えだった。
「話し合いで済むのならな」
「はい、延暦寺と戦になれば」
　どうなるかと。また島田が言ってきた。