戦国異伝
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第七十五話 都に入りその二
「乱暴狼藉は断じて許さぬ」
「それは、ですな」
「そうじゃ。何があろうともじゃ」
こう村井にも述べるのだった。
「前にも申したが糸の端でも銭の一銭でもじゃ」
「奪うな」
「そうせよというのですな」
「そしておなごにも手を出すな」
それも戒めるのだった。
「例え笠の顔を覗いても切れ」
「それはまた厳しいですな」
「わしは木曾義仲ではない」
源平の戦の折に都で失態を犯しただ。彼とは違うというのだ。このことを村井に述べてだ。
そしてだ。さらに言うのだった。
「だからこそじゃ。織田の兵は弱いが乱暴狼藉はせぬ兵じゃ」
「さすればそれを徹底し」
「そのうえ」
「都に入るぞ」
こう告げたのである。そのうえでだった。
信長は兵を整えさせてだ。そうしてだった。
兵を都に向けた。川を渡りそのうえでだ。
都に入った。するとその途端にだ。
都の者達が集まりだ。大路を進む信長とその軍勢を見て口々に言うのだった。
「これはまた多いのう」
「どれだけいるのじゃ、一体」
「しかも具足も旗も真っ青じゃ」
「青過ぎて目がおかしくなるわ」
数だけでなくだ。その色も都の者達の肝を抜いた。
そしてその中でだ。こんな声もあった。
「しかし。大丈夫かのう」
「そうじゃな。延暦寺の僧兵みたいに暴れぬか」
「火なぞ点けねばよいがのう」
「全くじゃ」
こうだ。彼等は心から恐れる顔で話していた。
「兵なぞ何をするかわからんからな」
「うむ、いざとなれば逃げる用意をな」
「それを進めておこうぞ」
こんなことを話す彼等だった。そしてだ。
信長はこのことを聞いてだ。こう島田に述べたのだった。
「聞こえておるな」
「はい、都の者達はやはり」
「わしの言った通りであろう」
「我等に怯えていますな」
「ここで我等がおかしなことをする」
具体的には略奪や暴行だ。そういうことをすればだというのだ。
その場合はどうなるか。信長はこのことをよくわかったうえで言ったのである。
「我等は天下どころではなくなるわ」
「天下を治めるに値しないとみなされますな」
「何故天下を治めるか」
信長はさらに言う。
「それはわかるな」
「はい、天下に平安をもたらす為です」
「それでよりによって都で乱暴狼藉なぞして何になる」
「その大義名分が失われてしまいますな」
「だからじゃ」
それ故にだというのだ。
「それはしてはならぬ」
「決して」
「何としてもじゃ」
とにかくだ。絶対という口調だった。
その話をしてからだった。信長は今度は都自体を見回した。見れば都は彼が前に来たその時よりも荒れた感じだった。家も店もだ。焼けたものもあれば数も減っている。
使っている木も悪くなっている。そうしたものを見て言うのだった。
「これはのう」
「前に来たよりもこれは」
「うむ、酷くなっておる」
「先の公方様と三好、松永の戦のせいでしょうか」
「それだけではあるまい」
信長はそのことだけにだ。原因を求めなかった。
それでだ。こう言うのだった。
「延暦寺の僧兵達じゃ」
「あの者達ですか」
「今も都に出て来ては暴れておるそうじゃな」
「それは平安の頃からでして」
つまり僧兵というものができてからだ。延暦寺の僧兵達は何かあると都に出て来て強訴等をしているのだ。それは相手が法皇であっても同じであったのだ。
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