戦国異伝
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第七十四話 都の東でその九
「三好殿の軍は二万、それに対してじゃ」
「織田殿は今では六万五千です」
「圧倒的な差がありますな」
「これでは野戦を挑む方がどうかしておる」
三倍以上の兵に向かうものではない、兵法の基礎だった。
だからだ。ここはどうすべきだったかと述べる松永だった。
「川岸で守りに徹するべきだったのじゃ」
「しかしああして攻められています」
「やはりそれは」
「あれは陽動じゃ」
蒲生の動きを見ての言葉だった。
「ああしてじゃ。あえて誘い込んだのじゃ」
「川の東側にいるですか」
「織田殿の軍に」
「そうされたのですか」
「普段の三好殿達ではあそこまであからさまな挑発には乗らなかった」
彼等とてそこまで愚かではないというのだ。伊達に三好家で権勢を握っている訳ではない。それなり以上に頭や読みも供えているということだ。
だが、だった。今の彼等はというのだ。
「しかしじゃ。焦ってここまで来た」
「三好殿達のおられる摂津からここまで」
「急いで、ですな」
「それで慌しくここまで来た」
都までだ。そこまでだというのだ。
「飯も食わずにな」
「身なりも碌に整えず」
次にはこのこともあった。
「それによってですな」
「三好殿達の軍勢は」
「只でさえ焦っておる。しかも状況はじゃ」
三好の置かれている状況もだ。どうかというのだ。
「後がない。ここで織田殿に敗れれば都を完全に失う」
「さすれば三好殿は逆賊となる」
「先の公方様のこともあり」
「それもあってですか」
「負けられぬ。だからこそ余計に焦られてじゃ」
それでだ。周りが見えずにというのだ。
「織田殿のあのあからさまな挑発に乗られたのじゃ」
「しかしその挑発に乗ることをですか」
「織田殿は見抜いて仕掛けられた」
「そういうことなのですか」
「人は焦り周りが見えておらぬとじゃ」
どうなるかというのだ。それでだ。
「策を仕掛けやすい」
「余裕がなければ付け込まれますな」
松永の家臣の一人が言った。彼等は普通の具足を身に着けている。
しかし主と同じく何か不穏なものを帯びさせてだ。そのうえで話をするのだった。
「今の三好殿もそうなのですか」
「そうじゃ。三好殿の軍は今川を渡っておる」
このことも言う松永だった。
「これもじゃ」
「身体が冷えますな」
また家臣の一人が言った。
「ではそれで動きが悪くなりますな」
「腹も減っておりますし」
「それに対してじゃ」
三好だけでなく織田の軍勢も見る。その青い軍勢はだった。
見るだけで意気が高いことがわかる。それにだ。
「糸の一本に至るまで抜かりはないのう」
「確かに。整然としておりますな」
「それに飯もしっかりと食している様です」
「それでは織田殿は満足に戦えますな」
「如何に強い兵でもじゃ」
どうかとだ。今度はこう話す松永だった。
「飯を食わねば動けぬわ」
「準備万端の多くの兵がですな」
「碌に準備の整えていない少なき兵に向かう」
「それでは」
「負ける筈がない」
織田がだ。そうだというのだ。
「この戦、織田殿の勝ちじゃ」
「我等が三好殿に加わっていればどうだったでしょうか」
また家臣の一人が問うてきた。
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