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戦国異伝

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第七十四話 都の東でその七


 その敵陣を見ながらだ。そのうえでの言葉は。
「今はまだ動かぬ」
「今はですか」
「そうじゃ。動かぬ」
 こう言うのであった。
「あの者達が陣を整えるまでじゃ」
「何と、敵が陣を整えてからですか」
「そのうえで動かれるのですか」
「そうじゃ。その方がよい」
 こう言ってだ。実際に動かないのだった。
 蒲生は三好の軍勢の動きを見ていた。見ればだ。
 その三好三人衆がだ。織田の陣と三好の陣を見比べてだ。慌しく指示を出していた。
「よし、それでよい」
「まずは陣を整えよ」
「そしてそれからじゃ。時間があればじゃ」
 どうするかというのだ。時間があればだ。
「何でもよいから腹に入れよ」
「敵は川の向こうじゃ。渡るまで時間がある」
「だからじゃ。何とかじゃ」
「何か食うのじゃ」
 こう兵達に命じるのだった。そしてだ。
 彼等の右側、しかもかなり離れた場所に布陣した松永の軍勢を怪しむ目で見つつだ。また言う彼等だった。
「しかしのう。松永め」
「戦には加わらぬつもりか?」
「だとすれば何故ここまで来た」
 彼等は次第に松永の考えが読めなくなってきていた。
 それでだ。こうも話す彼等だった。
「織田に寝返る訳でもなさそうじゃしな」
「では何を考えておるのじゃ」
「また腹の底の読めぬ奴じゃ」
 こう話すのだった。松永についてだ。
 そしてそのうえでだ。彼等はだ。
 松永を警戒しつつだ。そのうえでだ。
 あらためて織田の軍勢を見てだ。そしてだった。
「ではまず陣を整えようぞ」
「うむ、まずはそれじゃな」
「そこからじゃ」
 彼等は慌しく来た軍勢を何とかだ。陣として整えにかかった。兵の数が違うので守りをかなり固めようとしている。しかしその時にだった。
 蒲生はその三好の動きを見てだ。そのうえでだった。
 兵達にだ。こう告げたのである。
「では今からじゃ」
「はい、今よりですね」
「いよいよ川を渡り」
「そのうえで」
「うむ、三好の軍勢に突き進む」
 その二万の兵を見ながらの言葉だった。
「そしてそのうえでじゃ」
「敵を挑発してですか」
「軍師殿の策通りに」
「そうして進める」
 また応えてだ。そのうえでだ。
 蒲生は兵を進めて川の浅瀬のところを通ってだ。三好の軍の左側に出てそうしてだ。彼等に対して突き進みだ。そのうえで攻めんとする動きを見せたのだ。
 その動きを見てだ。三人衆はというと。
 忽ちのうちにまた狼狽してだ。こんなことを言った。
「まずいぞ。ここで攻められれば」
「うむ、総崩れになるぞ」
「こは弁当どころではない」
「敗れてしまうではないか」
 確かに腹が減っては戦ができぬであるがだ。それも生きていればこそだ。
 彼等は命の危険を察してだ。それでだった。
 己の兵達にだ。こう告げたのである。
「では。今からじゃ」
「あの軍勢を蹴散らしそのうえで我等の憂いを断つそ」
「何としてもじゃ」 
 本陣で話で話す彼等だった。そうしてだった。
 ようやく整いだした陣を動かす。向かう先は決まっていた。
 その蒲生が率いる織田の軍勢だ。その彼等に向かってだ。
 そうしてだ。三人衆はここでも必死に指示を出した。
「よいか、攻められる前にじゃ!」
「その前に敵を倒せ!」
「褒美は思いのままじゃ!」 
 こう言ってだ。兵達にハッパをかけつつだ。 
彼等もそれこぞれ弓矢中で構おうとする。しかしだ、
 織田の軍勢は何故か一戦してだった。 
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