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戦国異伝

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第七十三話 近江掌握その七


「あの者は一体何者じゃ」
「只の忍の者ではないというのですか」
「そんな気がするのじゃ」
「忍の者の中には妖術を使う者もいますが」
「妖術となるとじゃ」
 この術からだ。信長はだ。
 不吉なものを感じ取った。そして言うのだった。
「あれじゃ。津々木じゃな」
「あの者ですか」
「あれは妖術ではなかったか」
 信長は真剣な顔で信行に問うた。かつて彼の術に陥った彼にだ。
「御主はどう見るか」
「確かに。あれは」
 その信行もだ。真剣な顔で応える。
「そうやも知れませぬな」
「やはりそう思うか」
「今以て腑に落ちませぬ」
 信行は眉を顰めさせていた。
 そしてそのうえでだ。信長に述べるのだった。
「あの者と目が合ったというか見られ。そうしてでした」
「目から放つ術であったのだろうな」
「やはり妖術だったかと」
「そうじゃな。わしはあまり妖術、仙術でもそうじゃが」
 所謂邪法の他に正道の術も話に出すのだった。
「そうした類のものはずっと信じなかったがじゃ」
「それがしのことからですか」
「やはりあるのであろう」 
 妖術や仙術の類がだというのだ。
「飛騨者のそれも妖に近いものがあるしのう」
「左様ですな。それでは」
「百地三太夫、やはり気になる」
「では伊賀を手に入れた時には」
「伊賀者も加えていこう。そしてじゃ」
 そのだ。百地もだというのだ。
「あの者もまたじゃ」
「家臣とされますか。それとも」
「素直に織田家の家臣になればよいのじゃがな」
「その辺りはわかりませぬか」
「家臣にならず敵になればその時は戦になるしかない」」
 こうしたことを話すのだった。そうしてだった。
 六角の降伏を受け入れてそのうえでだ。彼に観音寺城を明け渡させてそうしてだった。
 六角とその家臣達が城を去ってからだ。信長は本丸に入った。そしてその本丸においてだ。
 居並ぶ家臣達にだ。こう告げたのである。
「ではこの観音寺城を足掛かりにしてじゃ」
「はい、それではですな」
「いよいよ都にですか」
「上洛ですか」
「うむ、目指すは都じゃ」
 まさにそこだというのだ。当面の攻略目標である近江、とりわけこの観音寺城を手に入れたからにはだ。
 このことを告げてだ。信長はあらためて言うのだった。
「では六角の兵達もそのまま織田の中に組み入れる。今すぐでなくともよいから具足や旗は青くする」
 織田家の青、彼等もその中に入れるというのだ。
「ただ青くするのは急がぬ」
「それよりもまずはですか」
「あの者達を軍勢に加えることが先ですか」
「そうじゃ。まずはそうしてじゃ」
 彼等を自身の軍勢に組み入れてだ。そのうえでだというのだ。
「都に向かうぞ。近江には五千の兵を置く」
 そしてだった。
「都には六万五千の兵で向かう」
「組み入れた六角の兵は一万ですが」
「そのうちの半分を置きますか」
「そうなるな」
 実際にその規模になるとだ。信長も認めた。
「ではそれでよい」
「さて、では今日はこの城で休まれますか」
 ここで信長に問うたのは林だった。
「そうされますか」
「本音を言うとすぐにでも都に行きたいのじゃがな」
 本音を出す信長だった。
「しかし兵達も疲れておる」
「ですから暫しの間は」
「そうじゃな。三好の者達は既に都に来ておるが」
 このことも頭に入れて林に述べる。 
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