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久遠の神話

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第三十五話 止める為の戦いその五


「自衛官は確実性を第一とする」
「勝つ為にか」
「自衛官の仕事は国民を守ることだ」
 これが第一だ。これを忘れて自衛官もひいては自衛隊もない。自衛隊に入り第一にこのことを叩き込まれることは言うまでもない。それが自衛隊なのだ。
「それ故にだ。国民を守る為にだ」
「戦いに勝つというのか」
「戦いには必ず勝つ」
 それは絶対だというのだ。
「何があろうともだ。そして確実に勝てることをする」
「それ故にか」
「俺は戦う」
 そうするというのだ。
「わかったな。それではだ」
「貴様はその力を使うか」
「俺の力は土だ」
「そして俺の力は雷だ」
 高橋もだった。その力を使っていた。
 工藤は無数の岩を流星雨を横にしたが如く放つ。高橋は雷の帯を。
 その二つの力で加藤の魔の波を突き破ろうとする。その二人の攻撃を前にして。
 加藤はまだ波の上で悠然としている。そして言うのだった。
「俺の魔は今の貴様等では防げない」
「一人では無理かも知れない」
「だが二人ならどうかな」
 二人は不敵な笑みで加藤のその言葉に返した。そのうえで力を放ち続けている。
 三人の力が正面からぶつかろうとしている。その彼等を見てだった。
 樹里は上城の後ろで呟いた。その言葉は。
「工藤さんも高橋さんもね」
「必死だね」
「ええ。力を尽くしているわ」
 それぞれの力、それをだというのだ。
「懸命にね。負けるかも知れないけれど」
「それでもだよね」
「ああして正面から向かっているわ」
「逃げていないね」
 それは上城にもわかった。痛いまでに。
 そのうえで今の自分自身について考えた。戦いを止めようとしながらも戦いを嫌いそして逃げることもしたくないという。その矛盾している自分自身に対して。
 だが今果敢に、戦いを止める為に戦う工藤と高橋を見てだ。そのうえでだった。
 悩んでいた。だがその悩み以上にだった。
 身体が動いた。自然に。
 その手に持っている青い刀、水の力の剣が動いた。そのうえで。
 その刀身から水の矢が無数に放たれた。それでだった。
 加藤の魔の波を撃った。そうしてだった。
 工藤、高橋と共に魔とぶつかる。三人の攻撃を受けると。
 魔の波の動きが止まった。そして次第に。
 押されていっていた。それを見て波の上の加藤が言った。
「二人では無理でもか」
「上城君、しかし君は」
「剣士同士の戦いは」
「・・・・・・・・・」
 上城は今は答えない。だが。
 その剣から彼の力を放っていた。そしてだった。
 魔を押していた。魔はゆっくりと押され遂に。
 消えようとしていた。だがその消える波の上で加藤は言った。
「そうか。三人では流石にか」
「二人では互角でもだ」
「三人だと優勢になる様だな」
 工藤と高橋がその加藤に返す。
「さて、それではだ」
「このまま押させてもらおうかな」
「生憎だが俺は今ここで倒されるつもりはない」
「それではか」
「今はか」
「不本意だが下がらせてもらう」
 こう言うのだった。己の力の上で。
「今はな」
「逃げるならそうするといい」
 工藤がその加藤に返した。 
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