久遠の神話
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第三十五話 止める為の戦いその一
久遠の神話
第三十五話 止める為の戦い
上城と樹里が見守る中で。工藤と高橋もそれぞれの剣を構えていた。
そのうえで加藤を見る。見れば加藤はまだ剣を抜いていない。しかし。
二人は彼の凄まじいまでの殺気を前にしてだ。一切油断していなかった。そうしてだ。
その対峙の中でだ。高橋は工藤にこう囁いた。
「こいつはかなりですね」
「あの企業家の先生と同じくだな」
「ええ、かなりの実力ですね」
「しかもあの先生とは違いな」
権藤、彼とはまただというのだ。
「戦い自体を求めている」
「そんな感じですね」
「そうだな。この気はな」
「野獣ですね」
それのものだというのだ。
「その気ですね」
「そうだな。間違いなくそれだな」
「野獣ですか。今度は」
「人の世界に生きている奴じゃない」
それがだ。二人が今対峙している加藤だというのだ。
「恐ろしい奴だ。そしてだからこそ」
「あんな事件を起こしてきたんですね」
「その野獣をどう倒すかだが」
「一人じゃ無理ですか」
高橋は加藤のその気を見てすぐにこう判断した。
「こいつは」
「まずな。かなりの戦闘力だな」
「それだけ戦ってきたということですね」
「怪物を倒してきた」
とりあえず今はだ。戦って倒したのは怪物だというのだ。
だがそれでもだとだ。工藤は言い加えたのである。
「それがこれからは」
「剣士としてですね」
「戦うことになる」
そうなると言うのだった。
「まずは俺達だ」
「そして他の剣士達も倒してそのうえで」
「戦いを続けていくな」
「力を手に入れていってですね」
「この男は危険だ」
その加藤を見据えて。工藤は言い切った。
「他のどの剣士達よりもな」
「そもそも指名手配犯ですから」
やはり高橋は警官だった。そしてその視点から工藤に話したのである。
「捕まえないといけないですしね」
「こいつの願いはおそらく」
「ええ、逃げきることですね」
「指名手配からな」
「それに決まってますね」
「馬鹿なことを言う奴等だな」
だが、だった。こう話す二人に対して加藤から言ってきた言葉があった。
「俺が逃げ切る為に戦い生き残るか」
「そうじゃないのか?」
高橋はその加藤を見据えて問い返した。
「だから御前は剣士として戦うんじゃないのか?」
「逃げることなぞ簡単だ」
造作もない、そうした口調だった。
「俺にとって御前等警察はどうという相手じゃない」
「だから今までも逃げられたっていうんだな」
「そうだ。逃げてもいない」
そもそもだ。それもしていないというのだ。
「隠れてはいるがな」
「逃げるのと隠れるのは違うっていうんだな」
「ライオンが犬から逃げるか」
鬱陶しいので身を隠してその目をかわすことはあってもだというのだ。
「そんなことは絶対にない」
「それなら何を願うんだ」
「何をか」
「そうだ。剣士なら戦って生き残って願いを適える」
それは加藤も同じだった。剣士ならば。
そしてその彼の願いについてだ。高橋は問うたのである。
「なら御前にも願いはある筈だ」
「その通りだ。俺にも願いはある」
「じゃあその願いは何だ」
加藤を見据えたままだった。高橋はまた彼に問うた。
「御前のその願いは」
「戦うことだ」
それだというのだった。
「俺は戦うことが好きだ。そして暴れることもな」
「そういえばこいつは」
加藤の今の言葉からだ。工藤はあることを思い出した。
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