久遠の神話
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第三十四話 戦闘狂その十
だからこそだ。上城は男から樹里を庇いながら彼女に言うのだった。
「まずは村山さんが逃げて」
「それからなのね」
「僕もどうするか決めるから」
こう告げたのである。今は。
「そうしてくれるかな」
「死なないわよね」
「絶対にね」
切実な顔の樹里に上城は答えた。
「それはないから」
「わかったわ。それじゃあね」
樹里は上城の言葉に頷きそのうえでだった。その場から去ろうとする。
しかしここで、だった。その場に二人の男が来た。彼等はというと。
高橋に工藤だった。二人はすぐに上城達の前に駆けつけてきた。そのうえでだった。
「ここは俺達に任せてくれるか」
「そうしてくれるかな」
「えっ、どうしてここに」
「傷害犯加藤将互、ここにいたか」
警官である高橋がだ。その男を見据えて言った。
「ここで会ったがってやつなんだ」
「加藤将互?確か」
「ああ、連続傷害犯だよ」
それが彼、目の前にいるその男だというのだ。
「何度か警察の厄介になってる奴さ」
「名前は聞いたことがあります」
上城はあまり指名手配犯の写真等をチェックしない。だが、だった。
この名前は聞いたことがある。それで言うのだった。
「何か。何人もの人をでしたよね」
「喧嘩とかでね。傷つけてきたんだよ」
「その人がまさか」
「剣士だな。おそらくな」
そうであるとだ。今度は工藤が言った。
「こいつもな」
「犯罪者が剣士ですか」
「その可能性はゼロではなかった」
工藤はその男、加藤を見据えながら上城に話す。
「そしてこの男がそれだった」
「そういうことなんですか」
「君達は逃げろ」
工藤はまだ剣を出していない。だが。
既に身構えそのうえでだ。こう二人に告げた。
「今のうちにな」
「俺達はこいつを逮捕するか」
高橋も言う。
「若しくはね」
「倒す、ですか」
「そう。剣を捨てさせるに越したことはないけれど」
「相手が相手だ。こいつは獣だ」
工藤はまた言った。
「あの男はな」
「人の世界には生きていない奴なんだ」
それが加藤、目の前にいる彼だというのだ。
「そういう奴だからね」
「俺達は最悪の場合こいつを倒さないといけない」
「あの、ですが」
上城は二人が剣士でいる目的を知っていた。それは。
「それは」
「そう、俺達は戦いを止める」
「その為の剣士だ」
「倒しても。戦いを」
この言葉がだ。上城の心に入った。
そしてそのうえでだ。こう言うのだった。
「そうするんですか」
「そうだ。俺達はな」
「そうするよ」
「けれど僕は」
人間と、剣士とは戦いたくなかった。今も。
しかしだ。それはだと自分で考えていくことになった。
「何か。違いますよね」
「剣士とは戦いたくないということかな」
「はい」
そうだとだ。工藤の問いに小さく頷いて答えた。
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