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戦国異伝

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第七十二話 六角との戦その六


「何ものでもなかろう」
「しかしまずは母上で」
「ふむ。それもまたいつもじゃな」
 このことにはだ。真面目な顔になりだ。
 羽柴にだ。こう言ったのである。
「しかしそれは頭が下がる」
「このことはですか」
「御主達兄弟はまずご母堂を立てる」
 羽柴だけでなく秀長も見ての言葉だった。彼もそこにいるのだ。
「それは中々できるものではない」
「だからだと仰るのですか」
「久助殿は」
「そう思う。そういえば明智殿もじゃったな」
 秀長の言葉も受けながらだ。滝川は彼の話もした。
「御母堂を大事にされているそうじゃな」
「あの御仁もですか」
 彼の名を聞いてだ。羽柴はというと。
 まずは何かふかくかんがえるかおになった。そのうえでだ。
 こうだ。今彼の周りにいるその滝川に丹羽、秀長に話したのである。
「それがしとは全く違って気品のある方ですが」
「母親は誰にでもいるものじゃ」
 滝川はこのことから羽柴に言った。
「人ならばじゃ」
「それはそうですが」
「そして孝行も身分に寄らぬわ」
「武家の方でもそれがしの様な者でも」
 つまりだ。百姓でもだというのだ。
「そうなりますか」
「そうじゃ。人としての美徳じゃしな」
「いえ、それ以前にそれがしは」
「そう言えること自体が美徳じゃ」
 儒学により外から学ぶのではなくだ。自然に内面にありそれを出せるかどうかだというのだ。
「それは御主も明智殿もじゃ」
「そうなりますか。しかしあの明智殿は」
 滝川の言葉を受けてからだ。そのうえでだ。
 考える顔になりだ。彼もまた明智のことを言うのだった。
「若しやかなりの方なのでは」
「傑物だというのか」
「若しかしたらですが」
 そうではないかというのだ。明智はだ。
「織田家に加われば柱になられる様な」
 言いながらだ。羽柴はちらりとだ。丹羽と滝川を見る。織田家の中で今大きく頭角を現している二人を見たのだ。だがそれは一瞬で終わらせてまた言うのだった。
「そうした方やも知れませぬな」
「そこまでの御仁か」
「そう思いますが」
「そうであれば是非我が家に加わって欲しいものじゃ」
 滝川は織田家が栄えるという視点から今の言葉を出した。
「今は幕府におられるがのう」
「じゃが碌を与えることはできる」
 丹羽が言うのはこのことだった。
「さすればじゃ」
「確かに。それならば」
「幕府におっても織田家の家臣にもなれるぞ」
「できるな、確かに」
「そういうこともできるから諦めることもない」
 丹羽はこう滝川に話す。
 そしてだ。あらためて羽柴を見て言ったのである。
「御主ともう一人、よき者が加わるやもな」
「それがしは一介の猿ですがよき者ですか」
「そう思うが違うか」
「亥や、ではそうなってみせましょうぞ」
 俄然奮い立ちだ。羽柴は言った。そうしてだった。
 ここで秀長がだ。面々に言ってきた。それはというと。
「ではこれよりです」
「うむ、戦に勝った祝いのじゃな」
「あれじゃな」
「はい、祝いの酒の用意ができました」
 楽しげな笑みでだ。丹羽と滝川に応えたのだ。
 そして兄である彼もだ。こんなことを言ったのである。
「では飲むか。祝いにのう」
「はい、では兄上も」
「して酒は何処じゃ」
「今樽を持って来ております」
 また告げる秀長だった。
「では。すぐに」
「心ゆくまで飲もうぞ」
 その勝利の美酒をだと言う羽柴だった。こうして箕作城も陥ちたのであった。 
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