戦国異伝
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
第七十一話 羽柴秀吉その十
「わしなりにな」
「といいますとここは」
「うむ、長老様にはわしが話す」
確かな顔で己の前にいる闇の衣の者達に話す。
「そうしてわかって頂く」
「では一体どうされるのでしょうか」
「ここで織田信長と戦わないとは」
「それは一体」
「どういったことでしょうか」
「少し見てみようかと思う」
こうも言う松永だった。
「織田信長という男をな」
「その織田信長をですか」
「見られるというのですか」
「暫くな。場合によってはじゃ」
どうするつもりなのか。松永は彼等にこうも述べたのである。
「織田信長の家臣になるか」
「いや、それは流石にです」
「無理です」
「松永殿は先の将軍を殺しています」
このこと故にだ。信長の家臣にはなれないというのだ。
「足利義昭殿はあの御仁の弟」
「その御仁を担ぐ織田信長がどうして松永殿を家臣に加えられるか」
「会えばその時点で首を刎ねられます」
「絶対に無理です」
「まあ普通はそうじゃ」
普通ならばだと。言葉が限定されたものになる。
しかしだった。松永は彼等にこう言うのだった。
「だが。わしはじゃ」
「会われますか」
「そうされますか」
「そう考えておる。そのうえでじゃ」
信長の家臣となるというのだ。これが松永の考えだった。
「まずは織田信長という男を見ておく」
「してそのうえで」
「どうされるのでしょうか」
「結論はまだ出さぬ」
それはまだだというのだ。
「ゆうるりとじゃ。あの御仁を見ようぞ」
「そうされますか」
「織田信長という男を」
「どうもかなり面白い御仁じゃ」
それでだというのだ。
「傍に見て楽しもうぞ」
「わかりました。では長老様には」
「そう伝えてくれるようにな」
こう話す彼等だった。こうしてだ。
松永の方針は決まった。彼は戦は見るだけにしてだ。そのうえで信長の下につくことにしたのである。それは闇の中で密かに決まったことであり殆どの者は知らぬことだった。
第七十一話 完
2011・12・17
ページ上へ戻る