戦国異伝

「徳川殿は百万石の方です」
「いやあ、それはとてつもなく大きいのでは」
「若しかすると天下を手に入れられるだけの方かも知れません」
「それもまた買い被りですぞ」
「いえ、それで天下を望まれぬのならです」
「百万石ですか」
「はい、百万石です」
　家康はそれだけの価値のある者だというのだ。
「義兄上もそう思われているでしょう」
「そうであればいいのですが」
　そんな話をしてだ。そのうえでだった。
　長政と家康はだ。それぞれ同時に言ったのだった。
「では今は」
「はい、二人で信長殿と共に」
「天下に泰平をもたらしましょう」
「是非共」
　こう話をしてだった。彼等は信長と共に上洛していくのだった。こうして三色の軍勢が都に向かっていく。このことは天下に伝わっていた。当然大和にもだ。
　その大和でだ。松永はだ。居城である信貴山城において彼と同じ闇の衣の者達にだ。こう話していた。
「さて、わしはこれよりじゃ」
「はい、三人衆の方々から文が来ています」
「都で織田軍を迎え撃つと」
「それに参戦してもらいたいとのことです」
「昨日までは争っておったのだがな」
　松永はふとだ。こんなことを言った。
「しかしじゃな」
「これも戦国ですな」
「戦国の世の習いです」
「うむ、その通りじゃ」
　まさにそうだとだ。松永も言う。しかしだった。
　彼はだ。その闇の衣の者達にだ。こう問うたのである。
「して長老様はどう言っておられる」
「あの方ですか」
「あの方がこのことについてですか」
「左様。どう仰っている」
　こう問うたのである。
「今は」
「はい、あの方はです」
　一人の男が答えてきた。
「三好殿にお味方せよとのことです」
「ふむ。三人衆にか」
「そのうえで織田を止めよと」
「そうじゃろうな。織田信長は陽の気が強い」
　信長をだ。陰陽から話すのだった。
「それもかなりじゃ」
「はい、闇である我等にとって害になるからとのことです」
「まあそうであろうな」
　松永もだ。それはわかっている、既に承知しているといった返事だった。
　しかしだ。彼はこう返したのだった。
「じゃがわしは三好殿についても兵は動かさないでおこうと思う」
「それはまた何故でしょうか」
「考えあってのことじゃ」
　それ故にだというのだ。