久遠の神話
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
第三十三話 八人目の剣士その十二
「私は。私の願いの為に」
「どうしてもですか」
「神話の頃から。戦いを重ねていき」
そうしてだというのだ。
「ようやくここまで辿り着いたのです」
「間も無くだというのですか」
「はい、間も無くなのですから」
「彼の為に」
「貴女の望みはわかっています」
聡美は痛々しいまでにだ。声に訴える。
「ですが。何があろうとも」
「私をですか」
「止めます。今度こそは」
「貴女は。わかってくれていると思っていました」
「わかっているからです」
今にもだ。声にその手を掴まさせんとしていた。
それだけ切実にだ。聡美は声に訴えるのだった。
「私は貴女を。どうしても止めます」
「では今回も」
「そうします。絶対に」
「わかりました」
そのことがだと。声は何かを無理に断ち切って述べた。
「では私はです」
「どうしてもですね」
「私の願いを適えます」
そうすると返すのだった。声もまた。
「では」
「今日はこれで、ですか」
「また会いましょう」
別れは惜しんでいた。声も。
「姉と妹として」
「かつてのことは覚えておられますね」
「忘れる筈がありません」
声の響きも聡美のそれと同じだった。切実だった。
その切実な声での言葉だった。そうしてだった。
二人は別れた。そして聡美は。
声と別れた後で一人街に入った。その仲のバーの一つに入りカウンターで飲む。
ワインを飲みながらだ。こうカウンターの中にいるタキシードのベストのマスターに言った。
「このワインですか」
「モーゼルだよ」
「ドイツのワインですね」
白ワインだった。そのワインを飲みながらだ。聡美は言うのだった。
「いいワインですね」
「そうだろ。モーゼルはワインの中でもかなりいいものだよ」
「確かに。ですが」
「ですが?何だい?」
「モーゼルの後は他のワインを飲みたいのですが」
こう言うのだった。グラスの中の白ワインを飲みながら。
「宜しいでしょうか」
「モーゼル以外のかい」
「ギリシアのワインはありますか」
飲みながらだ。聡美は言っていく。
「それも赤は」
「ギリシアの赤かい」
「はい、それはあるでしょうか」
「あるよ。ただね」
「ただ?」
「また珍しいワインを欲しがるね」
マスターは実際に少し珍妙な感じで述べた。
「それなのかい」
「ありますか?」
「あるよ」
マスターは聡美にすぐにこう答えはした。
だがそれでもだ。こうも言ったのだった。
「けれどギリシアのワインは」
「あまり飲まれないですか。日本では」
「うん、飲まないね」
マスターは聡美に正直に答えた。
「実際のところね」
「そうですか」
「人気があるのはフランスにドイツ」
こうした国を挙げていく。
ページ上へ戻る